吉田修一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
思い当たる節しかない物語だった。
テレビ局に勤める俊平は、
公園で出会った聴覚にハンディキャップを持つ響子と恋に落ちる。
静かで穏やかな日々を重ねる二人だが、音によって隔てられた世界は
恋しさと戸惑いを同時に生み、やがてすれ違いが積み重なっていく。
自分はその相手のことをどれぐらい知っているのだろうか。
これはある意味、永遠の問いなのかもしれない。
言葉にしなければ伝わらない。だが、その言葉によって逆に伝わらない。
そんな矛と盾のような禅問答が頭の中で駆け巡る。
物語は全編通して俊平の目線でしか語られないので、
響子の思いはわからない。つまり読み手も俊平と同じ感覚を味わうしかない。
こちらも俊平でしかいられないのだ。
それはわかったつもりでいることと同じことなのだと、
読み進めるうちに俊平と同じようにハッキリとわかってくる。
これほど怖いことはないかもしれない。
小説を読んであまり味わうことのない類の恐怖を覚えた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ過去と現在2つの事件に関わる満洲と滋賀の2つの湖。
そのとても美しい情景と子供の残虐さが共通している。
そしてそれを知っている大人が口を噤んでしまうことも。
真実を語ることと沈黙を貫くこと、子供のためにどうすべきなのだろう?
また、誰でもいいからとにかく犯人を作り上げる、という警察の悪しき構造もとてもよく描かれていた。
他人の幸福や真実と自身の立場や利益に利益相反がある時、どちらを大切にするのだろう?
なぜ人間はそんな選択ができてしまうのだろう?
そして、主人公の増幅していく「誰かに従属したい」という仄暗い欲望。
これは程度の差こそあれ、誰しも持っているものなのかもしれない。
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Posted by ブクログ
フォローしている方のレビューに惹かれて読んでみたいと思った。
大学院生・岡田一心が既に引退している伝説の女優・和楽京子こと石田鈴の自宅で荷物整理のアルバイトをすることとなり、そこから交流を深めていく物語。
戦後のエンターテインメントの歴史を辿りながら、その時々に銀幕を彩った色々な女優さんを彷彿させる鈴さんの魅力と生き様がとても面白くスルスルと読めた。
加えて、これまで観てきた映画のエッセンスが詰め込まれたような、著名な映画監督たちとその代表作を思い出させる(架空の)作品が語られていくのも楽しい。
後半には鈴さんと一心の出身地である長崎に落とされた原爆の話が入ってくる。
私も長崎生まれで、小学1年生で県外に引っ越したためがっリした原爆教育を受けたことはないが、それでも父や母から幾度となく話を聞いたことがある。
これまた長崎で生まれ育った作者さんはこれこそを書きたかったとのことのようで、こうしたお話に原爆の話題を入れ込むのはなかなか骨の折れる作業だったと思われるが、前半のエピソードも活かしながら無理なく語られていたように感じた。
それらからすると一心の、桃ちゃんとの顛末や鈴さんに対する淡い慕情は、話の展開の上から必要だったようには思えるが、私にはあまり刺さらなかった。 -
Posted by ブクログ
前作「横道世之介」では、1987年、大学進学で東京に出てきた世之介の1年間が描かれた。
本作では、世之介が大学卒業後の1993年と、そこから27年後、(物語世界で)東京オリンピックに湧く2020年が描かれている。世之介は、大学を卒業したといっても、留年した挙げ句、就職できずにバイトとパチンコで日々を送っている。あまり見習いたくない人生だけど、悲壮感はない。ただ純朴でまっすぐな世之介と、彼に惹かれていく登場人物の姿がまぶしい。
といって、正直、なかなかご都合主義的な展開は前作同様。それでも世之介のことが気になってしまうのだから仕方ない。
(前作を読んでいる前提なのでネタバレではないと思うけど)世之介が事故で亡くなることはわかっているので、元気な姿を見るとうれしくもあり、切なくもある。
そしてなんといっても、世之介と同時代に生きてきた身としては、平成初期のころが懐かしい。レインボーブリッジができた頃とかさ。郷愁感が本作の評価を後押ししていると思う。
桜子は世之介の優しさに感謝しつつ、こう言う
「世之介ってね、たとえば人からこんな人いるんだよ、って聞くと、とっても良い人そうに見えるんだけどさ、実際そばにいたら、そうでもないからね。極端に頼りないし」
そうなんだろうなあ。
前作に登場した祥子ちゃんや倉持くん、加藤くんたちのその後がわからないのはちょっとさみしい。大学時代の元カノやクラスメイトとの関係ってそんなもんかもしれない。