夏目漱石のレビュー一覧
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最終盤で急に尾崎豊みたいなこと言い出す小説、と表現すれば読む興味も多少湧いてくるのではなかろうか。
文章は難しく、そして長い。頁をめくった時に目に見える範囲が丸々文字で埋まっていた時の絶望感。我慢して読むしかないが、正直内容はほとんど頭に残らない。
しかし、終章で様子が変わる。文章がスラスラと頭の中に入ってくる。そして現実へ引きずり出された余≒夏目漱石がどこか尾崎豊みたいな調子で汽車に詰め込まれた人間の個性について「あぶない、あぶない」と嘆き出す。
『草枕』と言えばその冒頭が有名だが、この最後の部分にこそ読者の心を動かすエッセンスに満ちていると思う。そして何よりラストの余韻。芸術の本質がほんの -
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かつて犯した罪を背負い世間に背を向けて暮らす宗助と御米、その背徳の行為を作品は具体的に語らない。その静かさに友の女を取った罪の深さを知る。作品としては「それから」の続きという位置づけだ。だが、新しいテーマとして宗教(禅)が提示される。
漱石は書く「彼(宗助)は門を通る人ではなかった。又、門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ち竦んで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。」無論「門」は宗教的あるいは禅的なものへの比喩であろうが、宗教をもってしても助けられない宗助は、何を糧に生きたらよいのか?
この作品、ほとんど50年振りの再読だが、その当時感じた御米の可愛らしいは今も変わ -
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ネタバレこちらも『標本作家』の参考文献で名前が挙がっていたので気になっていた一冊。久しぶりの漱石。あまり漱石は読んだことがなく、漱石の文章に対して感じている感覚が久しぶりに想起され、あー漱石っぽい…となってました笑
とはいえ小説のようなエッセイのような小品たちは面白かったです。
特に「思い出す事など」が良かった。漱石もある意味一人の人間なのだなというのが、そう思うだろうな~~という共感もあって親近感。
七の宇宙の大きさと自分を見つめるところ、一番共感してしまった。「限りなき星霜を経て固まり掛った地球の皮熱を得て溶解し、なお膨張して瓦斯に変容すると同時に、他の天体もまたこれに等しき革命を受けて、今日ま -
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ネタバレ漱石の凄まじい教養と文章力に圧倒される。難解な表現は多いものの、軽快な会話劇も同時に展開されていくので思っていたよりスラスラと読み進めることが出来た。
にしても大バッドエンドである。
登場人物がそれぞれに背負っていた業は最後に全て藤尾に押し付けられ、藤尾は死んだ。彼女だけが自己中心的?小野も井上親子も甲野も宗近も糸子も濃淡あれどそれぞれ自己中心的ではないか。優柔不断な上に姑息な手段で縁談を断ろうとした小野、小野の気持ちなんぞ確認もせず東京へ出てきて世話になる気満々の井上親子、分かったようなことばかり並べ立てる宗近(彼がわざわざ時計を壊したのは自分を軽んじた藤尾への憎しみからではないか)……。 -
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津田の入院中に起こる事件や疑念の数々は読んでいてどきどきした。変に浮世離れしたことでなかっただけに余計どきどきした。
それが温泉宿に行ってお延から離れてしまい、世界がガラッと変ると妙な物足りなさを感じ、それがまた未完で終ったために、清子の人となりも充分に読み取れないまま終了。致し方ないとは言え欲求不満に近いものが残った。
最後の大江健三郎の解説は正直なにが言いたいのかわからなかった。漱石の研究者でもなし、作品が未完である以上『明暗』の終結を知っているわけでもなし、説得力が元々乏しいところに来て、何かよくわからない分析のし方で、読んでいると小説の余韻が打ち壊される気がしてとばした。
また、註 -
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ネタバレ大学の時に初めて読んで、多分これで3回目かな。
すごく、ぼやーっとした淡い恋愛(青春?)小説。まるでピンボケしたレンズで主人公たちの感情をのぞいてるような…
でも次第に淡々としてられなくなって、溢れる思いを投げかける場面もあって、最後は、切ない!
100年前の小説だから、当時の人にしか通じない話題もあったり、ところどころよく分からない言い回しがあるのも事実だけど、そこはスルーしても十分物語として楽しめる作品でした。
これを機に他の夏目作品も読み進められたらと思う。(こころは高校の授業で読まされたけど、当時の自分には苦痛だったな笑)
p95
「風が女を包んだ。女は秋の中に立っている。」
この一 -
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過去により満足な地位につけず、淡々と日々を送る。夫婦仲は良好。過去の重荷は、時間がゆっくりと解決する、そう思うしかなくやり過ごしていく。あり得た未来の姿としての坂井、過去の自分の映しとしての弟。そのコントラスト。
しかし不意の再来によりその手法は解決でないと知る。悟るために禅寺に赴くが、修行に専心することもできず、かといって問題を放擲することもできない。立ちすくむしかない。
門がメタファーなのは間違いないが、それが禅寺でのエピソードのメタファーだけなのか。作品全体のそれなのか。いや。後者なのだろうがどのような意味で?
また、屏風の一件もとてもメタフォリックなのだが、解釈が難しい。 -
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「こころ」の次に読んだ漱石の小説。
とにかく、主人の「くしゃみ」を中心とした登場人物たちの会話が面白い。
長編小説としては、話の筋に一貫性がないが、これも一興というところか。
近代日本語?を操り、ち密に物語を構成していく文体は、日本語の美しさを大いに知れたし、各人物の滑稽話は笑いが絶えなかった。
それでいて、現代批判を婉曲的、比喩的に言い表し、滑稽話の中に自然と織り交ぜ、考えさせてくれる語り口は圧巻だった。
終盤は厭世主義的な考えが垣間見え、ダークなゾーンを感じた時もあって今の世の中に対しても自分なりに考えを深めるきっかけをくれた。
ぜひともまた読んで考察を深めたい。
個人的には、くしゃみ先 -
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夏目漱石の随筆集ですね。
12月9日は漱石の命日でした。
夏目漱石は文豪の中でも一番のお気に入りです。
岩波の漱石全集は三回くらい読みましたが、我が家が何回か引っ越す度に、何処かに紛れ込んで見つかりません。
誰かに貸した覚えもあり、三度買い換えたのが三度目もまた、何処かに行き方知れずのままです。
この本は、漱石の修善寺の大患後の生死感の移り変わりを綴ったものです。
鋭利な感受性と冷静な観察力で静かに語っています。
漱石は温故知新の人生を歩んだように思われます。古い芸術も愛し、自ら英語の教師として英文学を学び、学者の生活を捨てて文筆家の道を選んだ苦悶にも悩まされながらも、家族を支えるためも、「則