【感想・ネタバレ】それから(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

長井代助は三十にもなって定職も持たず、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。破局を予想しながらもそれにむかわなければいられない愛を通して明治知識人の悲劇を描く、『三四郎』に続く三部作の第二作。(解説・柄谷行人)

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Posted by ブクログ

『三四郎』(夏目漱石)以上に、心理描写に引き込まれました。

主人公の長井代助、30才。裕福な家のお坊ちゃんで、親の脛をかじっている。働かないで暮らせる。インテリと頼りなさが同居した感じ。

読み始めからゾクゾクします。不倫の話。代助の不倫相手は友人、平岡常次郎の妻(三千代)。代助と三千代は、互いに好意を持っていました。しかし、代助は平岡と三千代の結婚をとり持ってしまう。自分の気持ちより、友人の思いを優先して。

三千代との再会で過去の恋が再燃すると、頼りなげな代助が、大人の男性になっていくように思いました。しかし2人のやりとりから、三千代の方が度胸が座っていると感じる面も。彼女は病気持ちで、自分の死を意識している感じがあります。

小説の中盤から代助という人物は、不倫はもちろん、結婚する段階でなく、悲しいけれどまだ恋愛の段階だと思ってしまいました。「僕の存在には貴方が必要だ。どうしても必要だ。」この言葉を学生時代に三千代さんに言っていたら......

終盤にいくにしたがい、代助の前途は真っ暗闇。しかし、代助がようやく地に足をつけて歩く決意をしたかのようにも感じました。

『三四郎』にも『それから』にも、ストーリーにお金の貸し借りが出てきます。他の作品はどうなんだろう?

きめ細かな心理描写、独特の間合いで読者を惹きつける文章は天下一品。代助と三千代の思い出に白百合の花があります。代助が三千代への思いを吐露する場面に、白百合の香りを持ってくるところ、にくい演出です。この密会での告白後、数日経って代助は三千代に会いにいきます。三千代が平然として言った言葉は「何故それからいらっしゃらなかったの」。ちょっとドキッとしました。タイトルの“それから”が入っていたので。漱石の仕掛けかな?やはり、三千代の方が肝が座っている感じ。男女の温度差、感じます。

小説のラストがこれまた秀逸で、思いも寄らない“色”で描写されていて、忘れられません。代助の前途は困難を極めている、そこにこの色を持ってきたか!という感じ。インパクト大です。

この小説を私の感覚で要約するなら....

不倫の話と簡単には言い切れない、恋愛未消化ゆえの悲劇。悲しみや辛さを正面から受けとめた代助の心の変遷と決断。ようやく一歩を踏み出すが、彼の今後は未知数。どうなるか分からない。だから、タイトルは『それから』.....

単純に読んで終わりではない、様々な登場人物の角度から読み取りができ、深い思索へと導かれる作品です。それゆえ、名作だと言えると思います。

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2025年12月12日

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随分前に『三四郎』を読んで、漱石ふつうにおもしろいなと思っていたのですが、前期三部作の2作目にあたるこちらを読むのにだいぶかかりました。
『三四郎』はラストが少し物悲しさもありますが、全体的に青春小説風ですがすがしさがありましたが、こちらは最初から全体的に詰んでいるというか、代助自体は最初は悠々自適としていますが、明らかにそう長くは続かないだろうという不安感が、読者の方にも共有していて、この不発弾、いつか爆発するんだろうという緊張感がただよっていて、読みごたえがありました。
また、『三四郎』や『こころ』にも表れていましたが、時代が物質的文化へシフトしていくときに、時代は変わるけど、さて人のこころもそう簡単に変えることができるのだろうかという疑問が、この作品にも表れていたように思います。

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2025年05月19日

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はたしてハッピーエンドだったのかそれともバッドエンドだったのか。
それはそれからの代助しかわからない。
代助の心理描写や思考が所狭しと出てきてとても面白い。
自分だったらどう選択するのか?そしてその選択の先は正解なのか?所々でこんな事をじっくり想像してしまって非常に良い読書体験だった。
言葉が古いから読むのに時間はかかるがそれでも色々考えさせられる良い物語である。
自分の人生は果たして正しい道を行っているのか?
そんな自分の人生を見直す良い機会になるだろう。

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2025年01月06日

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ネタバレ

「こころ」で先生がKに娘さん譲ってて大人になってから奪い返してたらこうなってたのかなとか思った。最後に平岡‪

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2024年11月08日

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定職を持たず父からの援助で暮らしている明治期の高等遊民である長井代助が主人公の小説。
代助が働かない理由を友人である平岡に語る場面でもあるように代助の言っていることは屁理屈にも感じるが、世の中をできるだけ公平に見て自由に論じるためには代助のような立場の人間の方が適している面もあるのかなと感じた。
岡と平岡の妻である三千代とのやりとりはもちろんだが、個人的にはかつては代助と同じように文学書を熱心に読んでいたのに生活に追われるようになり次第に読書の面白さがわからなくなった但馬にいる友人の描写が代助の生活との対比を上手く表現していると感じ印象に残っている。

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2024年09月16日

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「それから」を再読して、主人公や家族、女性達がいきいきと描写され、改めて漱石の素晴らしさを感じた。
高等遊民のような生活をしている長井代助は、友人の平岡の妻、三千代に横恋慕する。三千代とは過去深い心の交流があったのだ。しかし時代は明治、他人の妻をとることは許されない。代助は家族からも絶縁され、実社会の荒波の中を漕ぎ出す。

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2023年02月05日

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ネタバレ

 最後まで読み進めて本当に良かった。そう思えるほど、漱石の描くプラトニック・ラブが熱かった。
「それから」をどのように連想できるかが、その人の有する道徳心の表れであり、倫理観の限界なのではないだろうか。

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2023年09月25日

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ニートをここまで正当化するように描けられる夏目漱石はすごいと思った笑

この時代の姦通罪がどれほど大きいのかを知っておくとなお理解しやすいかも。

登場人物が代助の思考に上手く絡んでて、代助の考え方がはっきりわかりやすい。

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2022年10月25日

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1月の「夢十夜」の読書会で久しぶりに漱石の本に触れたら、非常に心地よい世界であることを再認識しました。三部作の「三四郎」は高校生の頃と数年前と2回読んだので、「それから」を購入。素直に「面白かった」というのが印象でした。

ストーリーの展開は静かです。父からの援助で30になっても毎日私ぶらぶら暮らしている長井代助が主人公。実生活に根を持たず、散歩、読書、書生や嫂、そして友人の平岡とのおしゃべりに時間を費やしています。平岡の妻、三千代は代助がかって愛しながらも、友情から平岡に譲った女性。この小説は三千代に再会した代助の内面を中心に描く心理小説です。
上記のように地味な物語ですが、読み終えるのがもったいないほど夢中になって読みました。その理由は
1)ストーリーの動きが地味な割に、代助の内面の激しい動きが刻々と描かれること。神経質で敏感な性格で、これからの行動を決めかね、過去の行動については後悔するという、けっこう第三者を苛立たせる性格です。
「なぜ働かないって、それは僕が悪いんじゃない。つまり世の中が悪いのだ。もっと大げさに言うと日本対西洋の関係がダメだから働かないのだ」
「高等遊民」として独自の醒めた考えを持つ代助の思考は、神経質であったり、三千代のことを突然想起したりとジェットコースターのように展開します。この小説を面白くしている大きな要因と思いました。
2)解説にある通り、「それから」は「姦通小説」です。この「姦通」という主題が登場人物の人間関係に緊張をもたらしています。したがい、展開が地味な割には、引き込まれるような小説になっています。

当然ながら明治の親子関係、風俗が描かれていて、なんとも言えない心地よさがあります。やはり、読むべき小説のひとつと思います。

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2022年04月23日

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ネタバレ

「ええ、まあ有難いわ」と三千代は低い声で真面目に云った。代助は、その時三千代を大変可愛く感じた。わかる、急に真面目な態度取るの可愛い。
代助の結婚や未来へのモラトリアムは甘えだけど気持ちはわかる、彼はただ彼の運命に対してのみ卑怯であった。何も選択せずその日暮らしだと確かに楽だよね。
真剣な話し合いの時には酒を飲まない方が誠実だという価値観、この頃もあるのね。
251ページから物語がやっと動き出す感じ、グンと面白くなる。「僕の存在には貴方が必要だ。どうしても必要だ。」ストレートな告白がいいねやっぱり。
夜明けを「世界の半面はもう赤い日に洗われていた。」って表現するのかっこいい。

最後は狂気に向かうと解説されていたが、世間体や家族、友情を捨ててまで愛を選んだ代助が幸せなその後を迎えることを願う。

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2025年12月11日

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今は亡き姦通罪に対し、あたかも正当化に向けさせるようなロジックに加え破滅した心理的描写で括られる
グロいね〜

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2025年12月03日

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夏目漱石の前期三部作(三四郎/それから/門)の真ん中の作品。
主人公の代助はスーパーニート。実家が豊かで、そこから送られるお金で思索にふける事こそが最上の生き方で、金の為にあくせく働く事は自分を無くす事だ、という信念がある。
すごい主人公設定だが、あとがきなどによると、この設定がどうにも共感を得難く、いまいち人気が出なかったとか。まぁ、こんな人がうんうん悩んでいても、「お前はとりあえず働け」と思ってしまうのも、もっともな話か。

さて、今作の主人公の代助くんがどんな悩みにぶち当たるかと言うと、不倫だ。
今よりも倫理観とか厳しそうな時代に、スーパーニートが不倫に悩む。これは人気ないどころかむしろ反感買ったりしたんじゃなかろうか…。

代助には学生時代からの友・平岡がいて、代助も平岡も三千代という女性を好きになってしまう。代助は友情を選択し平岡と三千代の仲を取り持った過去があり、現在平岡と三千代は夫婦だ。

そこから時は経ち、代助は平岡夫妻と再会。平岡は金の為にあくせくする「代助が嫌いなタイプの人間」へと変貌しており、夫婦関係も色々あって冷え切っている様子。
そんな不遇な三千代の姿を見て代助は再び三千代に惹かれ始める…。
というのが今作のストーリーだ。なんとなく『こころ』とも通ずる人間関係。
さて代助は不倫へと踏み込むのか否か…こう聞くと大分ドラマティックな物語のようだが、漱石先生お得意のゆったりとした展開で、モヤモヤした空気が結構な時間紡がれる。
その間、代助は実によく悩む。実家の方では度々彼に縁談を持ちかける。
いっそ結婚してしまうか、断って三千代への思いを貫くか。縁談を断り人の妻を奪うと、当然実家からの仕送りは打ち切られるだろう(おい)打ち切られたら大嫌いな労働をしなければならない(おい)
などなど、共感出来るような、共感出来ないような悩みで煩悶する代助。

働いて当然、不倫はしないのが当然、というような社会の常識とか制度とか、そういったものと、人間の自由というものの対立構造が色んな箇所で登場するこの作品。
全てと対立していく為に、共感を得にくい主人公像になったのかもしれない。

実際、代助の言葉には道理が通っているなぁと感じる場面も多々ある。
印象的なのは代助が三千代の夫・平岡に言うこのセリフ。

「三千代さんは公然君の所有だ。けれども物件じゃない人間だから、心まで所有する事は誰にも出来ない。本人以外にどんなものが出て来たって、愛情の増減や方向を命令する訳には行かない。夫の権利は其所まで届きやしない。だから細君の愛を他へ移さない様にするのが、却って夫の義務だろう。」

とこうだ。なるほど、それは道理だ、となる。『吾輩は猫である』の後半における結婚論といい、夏目漱石の描く男女の関係には新しいものがあるように感じる。
既成の概念に囚われずに生き方を模索する様が刺激的だ。

『それから』は、これも漱石先生あるあるだが、後半、エンジンがかかりにかかっていて面白い。まさに怒涛の展開。
「僕の存在には貴方が必要だ」と、どストレートなセリフまで飛び出す。
それまでまったり進んできた物語が一気に加速する。ラストシーンは緊迫感があり、ここまで読んできてよかったー!という気持ちになった。

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2025年06月23日

Posted by ブクログ

人生に彩りがない白黒の世界で生きていた代助
あることをきっかけに人生に彩りが出てくる
代助に意志が出てくる

ある意味人間らしい

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2025年04月03日

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3部作の2作目という事で、期待しておりましたが、普段大して小説を読まない者からすると、中々の出来で流石漱石先生という感じです⁉️
時代背景とか難しいですが、奥深く感じて色々考えさせられました。
風景の言い回しとか、スゴくキレイだと思います‼️
3作目『門』が楽しみです

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2025年02月13日

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『三四郎』に比べて難しい表現がないのとストーリー性を重視しているので読みやすかったです。
武者小路実篤の『友情』の解説にあったのがきっかけで読みましたが、無意識の抑圧からの自然の発作による悲劇は似ているのかなーと思いました。
ただ、読後感は圧倒的に『三四郎』の方が好きですし総合的にも『三四郎』派です

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2024年12月16日

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「ああ動く。世の中が動く。」
「僕は失敗したさ。けれども失敗しても働いている。又これからも働く積りだ。君は僕の失敗したのを見て笑っている。(中略)笑っているが、その君は何も為ないじゃないか。」
「もしポテトがダイヤモンドより大切になったら、人間はもう駄目である」
重い読後感。代助の不器用さと共に、この時代の「家族」という結びつきの重さを感じた。
友人平岡との職業に関する議論は現代に通じる鋭さがある。

#2024 #2024年12月

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2024年12月15日

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ネタバレ

終わりに近づくにつれてどんどん苦しくなっていく展開でしんどかったです。代助のしていることは自業自得と思いつつ、一人の女性にこだわって家族や友達と絶縁される様子には少し同情してしまった。最後に三千代がどうなったのかだけ気になる。

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2024年10月27日

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最初はなかなかページが進まず時間をかけて読んでいたが、後半の盛り上がりがとても良く手を止めることなく最後まで代助の姿を見届けることができた。前期三部作の中で一番好き。

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2024年10月14日

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最後の方の展開に釘付けになり、本から手が離れなくなるような不思議な感覚。数年経ってからもう一度読みたいと思う。感情の描き方が、理屈チックでありながらも秀逸。さすが漱石、表現が巧くて脱帽。

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2024年05月08日

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ネタバレ

親の脛をかじり悠々自適に暮らして来た代助。金に困らぬ故か、冷静かつ平常心でいる事を常としていた。
が、平岡夫妻が上京し、三千代が不幸と知る。三千代へ気遣っているうちに、次第に慕情が募ってくる経過が見事だ。あの代助が、三千代の為なら今までの自分を全て捨てて一緒にいたいと。
最後は、果たして代助と三千代は一緒になれるのか不安な終わり方で、読者に委ねる形か。後半から夢中で読んだ。

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2024年05月03日

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あらゆる面倒を独自の解釈やロジックて回避、正当化し本能のまま時間を貪る主人公。
観察眼鋭く常に上から目線が鼻につくが、趣味に生きる姿は周囲からは羨望と葛藤が感じられた。

ふと気づいた思い、その源泉を検証する様、結論の導き、と様々な苦難や選択、判断を下してきた者ならば到達しないであろう答えを導くあたりは緩い生活をしてきた者の哀れを感じた。

自己中な放蕩息子の末路。
盲目的に突き進み周囲の者は離れ、身を焦がすような思いやこれから想定される破滅など現代でも何処で聞いたようなリアルさがあった。

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2023年08月17日

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ネタバレ

何故棄ててしまったんです。確かに後からこんな事言われたらせやわな。

でもその時は気付いて無かったからやろうけど、今になって全てを棄てる覚悟で三千代に行くのはどうなんやろか?

もし自分が代助なら政略結婚にホイホイ乗っかって行くやろうなぁ。

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2023年06月26日

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純情と体裁の対立、と見た
父、兄、平岡は、世間体や常識を重んじる人達である
現在の価値観とそぐうものであるかはさておきとして、彼らの理屈も分からなくはない
対して、代助と三千代は純粋である
たとえ、世間がどうであろうと自分の信じたことを進む
それは一種の刹那的な言動であり、そのことが後々の彼らを地獄に落とすこともある
それでも、彼らは自分の思いを貫こうとする
どちらにも良い悪いはない、ただただ、この二項対立の深みに物語ごとはまっていってしまった

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

やっぱり漱石すげぇ 笑
この一言しか出てこない。代助にも三千代にも、そのほかのキャラクターにも一切読者を寄り付かせない。でも離さない。解説で対比されていた「オイディプス王」をたまたま同じタイミングで買ったのは、運命なのでしょうか。

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2023年03月19日

Posted by ブクログ

高等遊民である代助はぶらぶら働きもせず、結婚もせず父の勧めにも載らず、友の妻を奪おうとする自堕落な生活を送っている。但し、三千代と知り合い、人の妻を略奪しようとし、打ち明け、三千代からも覚悟の言葉を聞き、平岡と代助が争うようになるところはこれまでの漱石の小説とは違うと思った。自分自身の人生を生きている気がした。病気である三千代とは結ばれない感じだが、自ら動いているところに女性への積極性を感じた。

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2022年08月16日

Posted by ブクログ

食べるための仕事は嫌だ、なんて言いながら、事業家の親の金で日々を暮らすニートが、友達の嫁を好きになり、親に愛想尽かされ、友達も失い、いよいよ食べるための仕事をしなければならない、と追い込まれる話。

日露戦争後の時代背景や、夫々の心情の捉え方が現代とは異なるかもしれないけれど、結局そういう話。

んというか、主人公の身勝手さに悲しくなりました。

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2022年07月17日

Posted by ブクログ

 千年読書会、今月の課題本でした。学生の時に読んだ記憶があったので、手元にあるかと思ったのですがなかったため新潮文庫版を購入。他の漱石の蔵書と比べて大分新しい見た目となってしまいました。。

 さて、本編の主人公は「代助」、とある資産家の次男坊で、大学は出たものの、30歳をこえても定職に就かず、フラフラと気ままな日々を送っています。当然結婚もしておらず、学生時代の友人「平岡」の妻「三千代」にほのかな憧れを抱いているものの、二人の幸せを祈ってる状況だったのですが、、その夫妻が仕事で失敗して東京に戻ってくるところから物語が動き始めます。

 代助はいわゆる“穀潰し”なわけですが、家族には愛されているし、期待もされている。今でいう、ニートや引きこもり、、ってほどにネガティブでは無く、当時の高等遊民との言葉がまさしく言い得て妙です。ただ、危機感のなさからくる“社会”との乖離は共通しているのかな、、

 背景となる時代は、日糖事件のころですから、1910年前後でしょうか。一等国ぶっていても、借金で首が回っていないとか、日露戦争後の日本社会状況を冷静に見通している、知識階層の感覚もなんとなく垣間見えて面白いです。

 そんな中での“金は心配しなくてよいから、国や社会のためになにかしなよ”との、父や兄の言葉はなかなかに象徴的だな、とも。次男・三男に、金銭よりも公共性の高い事業へのケアを求める。そういった観点からの社会への還元は、ある種の分業とも取れて意外とありだなぁと、そして、今でも結構あるよなぁ、と。

 さて、仕事にしくじって戻ってきた平岡夫妻、なかなか思ったような再就職もできず手元不如意に。そんな夫妻の危機に対し、金銭的には力になれない代助は、自身の無力さを感じるものの、社会に対してはまだどこか他人事のように接しています。

 そのまま十年一日のように過ぎていくのかと思いきや、夫婦間の根底の問題に触れ始めたころから、他人事ではなく“我が事”としてのめりこんでいくことに。。

 単純な愛情だけではなく、二人の不遇が故の同情もない交ぜになったその様子が、どこかアンニュイに世界と関わっていた代助が変わるきっかけに。その三千代への狂おしいほどの想いとしては、どこから来ているのか、そんな心の機微が濃やかに描かれています。

 並行して進められている、いわゆる“いいところの御嬢さん”との縁談の話との対比も象徴的で、価値観の合わない女性との結婚に、イマイチ前向きになれない代助ののらりくらりとかわそうとする煮え切らなさも面白く、、どこか微笑ましく見ていました。

 そして興味深かったのは代助と平岡の仕事に対する意識の違いでしょうか。代助は「食う為めの職業は、誠実にゃ出来悪い」、平岡は「食う為めだから、猛烈に働らく気になる」と、これは今でも同じかなと。どちらも“あり”だと思いますが、個人的には代助に共感を覚えます。

 終盤、代助は勘当された状態となり「職業を探してくる」なんて風になるわけですが、代助が「自分のこころに対して愚直なまでに誠実」であることは、物語の最初から一貫していると思います。表面的には、坊ちゃん然とした甘ったれにも見えますが、当時の家族とのしがらみや金銭的な問題をも飛び越えての、代助の在り様と、それを受け入れようとする三千代は、なるほどなぁ、と。

 「仕事は“何のため”にするのですか?」

 こんな問いかけをされているように、思いました。「家族を養うためにきつくても嫌でも我慢して、働いてやっている」なんて風潮に疑問を投げかけながらも、かといって、霞を喰って生きていくわけにもいかないとの現実的な問題も対比させて。劇中の代助の選択肢はいくつもあり、自分だったらこうするのにとの投影も可能だと思います。

 ラスト、代助と三千代、ふたりの“それから”がなんとも気になる終わり方となるわけですが、、物語としては生殺しですが、問いかけとしてはこのオープンエンドはありだなと。このような物語を当時の時代を踏まえながら描き出せるのはさすが漱石といったところ、今まで読み継がれているのもあらためて、納得でした。

 ついでに言えば、代助を男性として見た場合の魅力はどうなんだろうと、女性にもきいてみたい、そんな風にも感じた一冊です。

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2024年10月22日

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夏目漱石 前3部作の中間に位置する作品。

 不倫、というテーマが大きいような気もしましたが、自分としてはこの作品に現代に通ずるようなニート像が見えたような気がしました。
 まず、「働いたら負け」という考え方です。代助は職にもつかず、実家の父から定期的に生活費を貰いながら日々を過ごしていて、それが理に適った正しい生き方だと考えていて、今仕事でバリバリ働こうとしている友人・平岡にはそういう面では良くない印象を抱いている。代助の働いていない引け目など感じていないあたりがまさに30歳頃の開き直ったニート感が出ていると思いました。
 そして「そこまで器用じゃない感」も社会に出ていないゆえ漂っていると思いました。代助は友人平岡の妻であり、自身の旧友でもある三千代に思いを寄せるようになり、三千代への思いを貫くか、家族から何度も進められる縁談に気乗りはしないが乗るか、少し悩みます。結局縁談を受け入れることは無いのですが、どうせ三千代との関わりは自分が既婚か独身かに依らず罪なので、表向きは親族の望む縁談を受け入れて、三千代との関わりは密かに続けていくということも選択としては出来たはずなのに(最低ですが…)そうしない、それを考えもしなかったのは代助もニートなりに正義感や倫理観が備わっているのか、それともただただ考えが及ばなかったのか、どちらにしてもマイペースニートっぽさがあるなと思いました。
 最後に、「働き始めようとすると急に苦しくなる様子」です。物語のラスト、父親にも三千代との関係が知られた代助は、もう生活費の援助を受けることも出来ないと思い、働き口を探しに街へ出ます。そうすると序盤中盤では描写されなかった気温の暑さの描写が増えます。『代助は暑い中を駆けないばかりに、急ぎ足に歩いた。日は代助の頭の上から真直に射下ろした。乾いた埃が、火の粉のように彼の素足を包んだ。彼はじりじりと焦げる心持がした。』  働かず悠々自適に歩いてた町も、いざ働くという使命を背負って歩くととても暑く、苦しい環境だと感じるのもどこかニートの心情を言い当てている気がして、夏目漱石はやはりすごいなと、実は漱石もニート時代があったのかな?と思いました。

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2025年07月08日

Posted by ブクログ

心情描写の緻密さを取ったら、夏目漱石の右に出る人を知らない。

衣食の為に働く人類の在り方を問う。
「文明は我等をして孤独せしむるもの」文明化学が発展するほど、孤独が加速することを云う。
労働と文明への風刺が効いている。

人は悩む時間が多いほど、後悔の余波も大きくなるのではないでしょうか。

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2024年05月15日

Posted by ブクログ

又吉さんの新書「夜を乗り越える」を読んで、読んでみたくなった本。序盤はなかなか難しい表現や知らない単語も多く理解が困難でしたが、後半一気に話が加速して少し読みやすくなりました。どうやら3部作の2作品目らしく1作目「三四郎」3作目「門」も読まないとなと思います。

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2024年01月11日

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