夏目漱石のレビュー一覧
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読めて良かったー。読み応えのある「野分」の方が好き。
金銭本位な世の中で学者という人間は窮屈だったろうと思う。それでも敢えて苦しい境遇に身を置いて、社会に屈せずに己の道を貫く道也先生の姿勢に背筋の伸びる思いがする。
人間としての「道」が、富や権力より大事だということをきっとわたしは頭では理解しているけれど、だからといってそれを堂々と口にするのはなんとなく気恥ずかしくて、結局は世俗の評価基準に甘んじてしまっている。でもそれではいけないと思わされる。どんなに世界が歪もうと正しいものは正しいと、信じ続ける勇気を与えてもらっているような気がして。
中間部分あたりで道也先生の語る「文学」の話と、最後の演説の場面は痛快です。本当に本当に素敵。
それから最後の場面の、呆気ないけど劇的な感じも好き。
学問の意味を見失い気味なひとに、納得いかない世界に悶々としているひとに、是非、この本を。 -
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非常に思いテーマを扱っている小説だった。一郎のように、知識や研究に生きる人にしか理解できない苦悩があるのだろう。なにもかもを分析して研究して理解することはすばらしい事だけど、人の心はそうはいかないものだと思う。それでも、理解して解釈しないでは居られないということ自体、どれほど苦痛だろうか。決して、解決されるような問題ではないのだから。
知識人ゆえ、一つのところに留まれない苦痛は、死ぬか狂うか宗教に入るかというところまで一郎を追いつめている。私自身は一郎のように知識人ではなく平凡な人間で、一郎ほど思い詰める事も無いから理解しがたい部分もあるけど、ただ、ひとところに留まれないような感覚、焦燥感に近いもの、そういうのは分かる気がした。それは誰でも、どこかで感じることなのかもしれないなって思う。何も考えずに生きるという事のほうが、実は難しいのかもしれない。 -
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ネタバレ上京したての三四郎は、
まだ自分のことばを持っていない。
気持ちをうまくことばにできない。
まわりの与次郎や広田先生みたいに、
気のきいたことひとついえない。
その、ことばにできない部分が新鮮で、
上京したての気持ちがフラッシュバック。
ヘタなことをいうより、
黙っている三四郎がよかった。
ことばはほとんどなくても、
美弥子と通じ合う瞬間があって、
その瞬間が、肖像画みたいに、
三四郎の中に残っている。
○ヘリオトロープの瓶。四丁目の夕暮。ストレイシープ。ストレイシープ。空には高い日が明かに懸る。
ことばにも、かたちにもならない、
淡い恋の気持ちに浸される、いい本だ。
与次郎くんの胡散臭さや、
広田先生の厚い人物像、
そんなに出てこないのに存在感のある美弥子。
三四郎のほかの登場人物も味わい深い。 -
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聡明な頭脳を持つ哲学者である兄。それゆえに思考のみが先走り、本人が望んでいる行動に移せない。行動に移るなら愚鈍でなければならない。それにもなれないという哀れさ。
中盤で、兄が自分の妻の貞操を確かめる場面があるが、あの時どちらに転んでも兄は同じ反応を起こしたのではないだろうか。
自分で妻に対して聞きただしたかった。しかしそれができずに弟に頼む。結局何もないにも関わらず、兄は弟に対して癇癪を起こしてしまう。
「自己本位」という漱石について使い古された言葉を念頭において考えれば、ここでは「受身な我儘」がテーマになっていたのではないか。
妻に何も言えず、弟に任せる兄、ふと縁談が勝手にまとまってくれれば良いと思う私、兄を疎ましく思うもなんら処置を下せない家族、自然のままに流そうとする三沢、これら全員が受身な我儘を持っている。その根底にあるのは決定に伴う責任を回避したいという甘えではないか。
「君は山を呼び寄せる男だ。呼び寄せて来ないと怒る男だ。地団太を踏んで口惜しがる男だ。そうして山を悪く批判する事だけを考える男だ。なぜ山の方へ歩いて行かない」
Hのこの言葉がそれを表していると思う。
唯一自己の愚鈍を主張している嫂の直とHはこれとは違うと思った。
「今の日本の社会は――ことによったら西洋もそうかも知れないけれども――皆な上滑りの御上手ものだけが存在し得るように出来上がっているんだから仕方がない」
この言葉がそれを代弁している。
長々と愚説を書きましたが、読み物として普通に面白いです。一読あれ。 -
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冒険などのロマンが好きな敬太郎。職を得るため探偵めいたことをしてのち、やがて彼は友人・須永の深い内面世界の傍観者となる―――ってこんな感じでいいんだろうか。前半はイラン&失敗&構成がなってないっていう意見が昔からあるらしいが退屈な日常に漠然とした不満を持って何か起こらないかなと敬太郎が思ってるのはいいなと思った。「雨の降る日」から急に面白くなり始めます。雨の降る日は漱石の実体験に基づいてるだけあってリアルで怖い。そのあとの「須永の話」須永と千代子の関係やエピソードに激しく燃えました、萌えました、悶えました。千代子可愛すぎる!!「嘘よ」のシーン可愛すぎる!ノックアウトされたあ!非常に密度の高い理詰めな文章がまたたまらんくってこれにも胸を締め付けられてました。はあ〜……後期三部作の幕開けですぞ!まだまだ内容的に暗くないから読むべき。
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表紙のあるものが、新潮とこれしか見当たらなかったが、私が読んだものは岩波であったように思う。
私はこの作家の書くものがなべて好きだ。
胃弱で、おそらく心痛から意を痛めたと推察される彼は、おそらくあの時代を集約した「近代人」のはしであり、それを文筆と言う形で表に現した数少ない人物の一人だった。
或いは、江戸を引きずり、或いは日本を否定し、或いは困惑のうちに影響を整理しきれず、西洋と日本を周知した上で、自己分析までをなして見せ、東洋を失わなかった彼の、その視線の鋭さと優しさに時折感嘆する。
私は彼の著作が好きだ。
彼の書くものは、ひかりもやみも含めて、とてもやさしい。