あらすじ
圭さんと碌さんの軽妙な会話を軸に,夏目漱石(1917―66)の阿蘇山旅行に基づき書かれた「二百十日」.若き二人の文学士と文筆に生きる男が,流動する社会に三人三様に向き合う姿を多面的に切り取った「野分」.先鋭な社会批評を中軸に据えた,長篇作家漱石誕生への橋渡しとなる二篇.改版(解説=小宮豊隆・出原隆俊)
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Posted by ブクログ
道也先生の演説パートがとてもよかった。共感できない部分もあるけれどあんなに長いのにスラスラ読めて、力の籠もった文章だなと感じた。
もう少し若かったら刺さってたと思う
Posted by ブクログ
『草枕』の後、4作目『二百十日』と5作目『野分』の二つの中篇小説を収録(この後は『虞美人草』、『坑夫』、前期三部作……と続く)。
『二百十日』
2作目の『坊ちゃん』にも通じる愉快なところもあり、生真面目な『草枕』の後とは思えなかったです。作中の宿の隣室の会話や肥後訛りの下女との楽しげな会話のやりとりは、とても面白かったですね。また、ディケンズの『二都物語』が会話に出てきたのが興味深かったです(早く読め自分……汗)。後半、阿蘇山の火口に向かう道中でのハラハラする出来事も良かった。ただ、圭さんと碌さんの二人の主人公が、途中でどちらが話しているのかわからなくなるところがあり、漱石が勢いに任せて書いたのかなとも思いました。勢いといえば、『坊ちゃん』もそうですが、読んでいて会話のやりとりなどは、北野武が好きそうな文章だなと感じました。
ところで、この作品は何か既視感があると思ったら、梅崎春生『桜島』を読んだときの様子と記憶が混同したようで……阿蘇と桜島で違いはありますが。当然、漱石の方が先ですけどね。
『野分』
後半の道也先生が語る講演は、ちょっと独りよがりな気もしないではないですが、途中に書かれている「解脱と拘泥……憂世子」という道也先生の著作とされる作中の記事がいいですね。特にP169の「趣味は人間に大切なものである。」から始まる文章が好きです。あと、P220で厭世家で皮肉屋と紹介される主人公の一人である高柳君が、道也先生に「罪悪も遺伝するものでしょうか」と問いかけた後の二人の会話がいいですね。ラストは、ちょっと駆け足気味なのが残念かな。
それにしても『二百十日』以上に金持ち批判の本作を読むにつけ、漱石はホント金持ちが嫌いなんだなと思いました。そういえば、最近読んだ『道草』もそうでしたね。