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Posted by ブクログ
文句無しの日本文学の金字塔。
苦沙弥先生と寒月や迷亭といったクセ強キャラたちによる日常の屁理屈合戦。この手のフォーマットは現在でもアニメやマンガで見るし、「常識を皮肉る」という点では本書の前にもあったが、漱石の面白さは出てくるネタの博識さと名人の落語やコントのような軽妙な掛け合いにあるだろう。舞台装置を固定して登場人物の掛け合いだけで読ませるのは純文学的だが、良い意味で下らないトークが続くので高尚さを感じさせず肩の力を抜いて楽しめる。また、ジャンルの都合で作者の信条が見え隠れするが、出し過ぎず抑え過ぎず、実に上手い。
大人になって、坂の上の雲を読んでから読んだのだが日露戦争ネタが多いことに驚く。乃木希典が読んだらブチギレそうな気もするが、当時どうだったんだろ。
Posted by ブクログ
この作品は、地の文が苦沙弥先生の家に住み着いた猫に
よるもので一貫されていて、人間心理の内側はまったく見えないので、
各人の言葉の裏側をのぞき見ることができません。
猫は実質主人公ですが、ストーリーを動かす力はまったくなく、
折々のシーンの空間に『居ても構わない』立場、
かつ、人間よりも幅広い高低差レンジでの機動力を活かして
人間を俯瞰視しつつ、事細かい観察でもって数々の批評を
繰り出しては読むものの笑いを誘います。
恐らくこの作品はオートフィクションであり、漱石本人の
自虐ネタがふんだんに盛りこまれていて、
それをとりまく家族や交友関係を巻き込んだ
壮大なイタズラ心で出来ていると思います。
発表された当時の本人の周辺は、いろんな意味でさぞかし
ざわついていた事だろうと思いますが、これが単なる暴露本でなく、
当時の、西洋文化をどんどん吸収して変化していく日本の在り方に
警鐘を鳴らす様なメッセージを随所に込められている点が、
この作品をただの娯楽本と一線を画するものとしている
重要な点だと思います。
彼は、あの当時では普通でない留学を経験し、何足飛びかで
未来の日本の姿を既に予測していたわけで、自国民が元々持っていた
文化や思想が西洋からのそれに書き換えられていく姿に対して、
なんとしても声をあげたかったんでしょう。
例え話は無数に挙げられていますが、特に自分の心に残ったのは、
向こうに檜があるだろう。あれが目ざわりになるから取り払う。
とその向こうの下宿屋がまた邪魔になる。
下宿屋を退去させると、その次の家がしゃくにさわる。
どこまで行っても際限のない話さ。
独仙の言葉この部分で、トンネルを掘る、橋をかける、
西洋文化は、なんでも合理的にすることに目線が向いていて、
無理に移動しなくてもその場で事足りるようにする、
かつての日本なりの美徳やつつましやかさを、上書きさせられている。
この考えは、確かになぁ、と頷くものがありました。
自分たちで学識を積むでなく、婿を取り、金の力で箔をつけようと
画策する金田一家に対する皮肉はほぼ全編にわたって描かれていますが、
これも金と権力で人を動かそうとする金満主義への非難を
投影したもののように感じました。
登場人物の主要キャラクターである、迷亭、寒月、東風、独仙の
4人は、当時を生きていないうえに夏目先生の身の回りの人間関係も
まったく無知の自分にとっては、それらにモデルがあったかどうかも
謎ですが、彼らは苦沙弥戦隊ゴレンジャーを形成して、
それぞれ個別の概念を象徴するものして描かれているのだと思います。
迷亭=生まれたての個人主義
寒月=知的好奇心
東風=保守主義
独仙=禅
ゆがみひずみはあるものの、ここには、古き良き日本人の心を
宿す者の、この時点での現代・未来への憂いが凝縮されているのかなと。
この作品が発表された時からは120年近くの時間が
経過していますが、個人主義の社会が導く人の世って、ホントに
手放しでいい世の中に繋がっているのかな?って疑問はあります。
むしろ、一人一人を分断して結束する力を削ぎ落として
支配者階層の体の良い言いなりになる様に仕向けている様な気はします。
夏目漱石には何が見えていたのか、何が言いたかったのか。
なかなか一読して全容が掴みきれるものではないですが、
ほんのすこしだけ伝わった様な気がします。
伝説的・夏目漱石の記念すべき第一作。
楽しませてもらいました。
Posted by ブクログ
何度か脱落した本書ですが、ようやく読み終えることができました。話はそれなりに面白いのですが、次から次へとダラダラと続く感じが少しつらいところです。寝る前に少しずつ少しずつ読み進めていきました。登場人物たちのキャラがつかめてきて、ようやくスイッチが入った感じです。
「草枕」ほどではないですが、かなりの教養が問われる作品です。巻末の注釈とにらめっこしながら、何とか読み進めました。当時の読者はこれを注釈なしで読んでいたんでしょうか。感心します。
最後の方は後期の作品、例えば「こころ」にもつながるような話があります。Kや先生が自殺した、その理由はこの「吾輩は猫である」に書かれてあることがその一つなのでしょう。単に友人を裏切るとか裏切られるとかそういうことでもないのでしょう。
あれだけバカバカしいやり取りをしていた苦沙弥先生や、迷亭君、寒月君、東月君、独仙君たちが、最後にそれぞれ帰っていくところなどは、しんみりさせられて、読後感は思いのほかビターです。
漱石の世の中に対する目線が、デビュー作にして固まっていたというか、生涯変わらなかったというかそういうことを感じました。
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