あらすじ
恋愛事件のために家を出奔した主人公は、周旋屋に誘われるまま坑夫になる決心をし、赤毛布や小僧の飛び入りする奇妙な道中を続けた末銅山に辿り着く。飯場にひとり放り出された彼は異様な風体の坑夫たちに嚇かされたり嘲弄されたりしながらも、地獄の坑内深く降りて行く……。漱石の許を訪れた未知の青年の告白をもとに、小説らしい構成を意識的に排して描いたルポルタージュ的異色作。明治41年、『虞美人草』に次いで「朝日新聞」に連載された。(解説・三好行雄)
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瞬間的に、めまぐるしく移り変わる感情の、見逃してしまうような、小さな皺のようなものが、くどいぐらいに丁寧に描写されている。本気で生きたいと思うことも、本気で死にたいと思うことも、紙一重かもしれないと思った。
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実在の人物の経験を基にした作品と聞いた。無知と無鉄砲さ、生死に対しての軽さが、この若さのリアルで、いつの時代も人間というものは変わらないのかもと思わされた。心は固形体じゃないと考えているところなんか、とても共感した。
暗い坑の中で1人考えるところが印象的だった。
周りにいくら教えられても、自ら経験していく順序を追わないと答えの出せない気持ちは分かる。この、東京に帰ったという事実だけ淡々と最後語られるところが、主人公が人間を知り社会を知り大人になったということを感じさせる。
サラッと終わったのに不思議な余韻がある。
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新潮文庫に使われているスピンを見ると本書を開けた風がなく、30数年来の積読本であった。『坊ちゃん』にも似た軽妙な文章で、落語に出てくるような大家の若旦那が女性関係でしくじって、当時最下層の仕事と目されていた鉱山労働者に身をやつした回想を心理的考察を交えて綴られたものと読み進めた。しかし解説を読むと、荒井という青年の持ち込み材料であったことを知り、「小説になる気づかいはあるまい」などと放り投げたような表現が妙に気になったことを改めて実感した。また『虞美人草』との構成の対比など夢想だに出来なかった。修行不足だ
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「小説の様に拵えたものじゃないから、小説の様に面白くはない。」
しかしそんな欠陥を、漱石特有の精確な心理描写と飄々としたユーモアでねじ伏せてしまった異色作、いや意欲作と呼びたい。
「……壁へ頭を打けて割っちまいたくなった。どっちを割るんだと云えば無論頭を割るんだが、幾分か壁の方も割れるだろう位の疳癪が起った。」
こういう屁理屈っぽい笑いのセンスはさすが!
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同時のブルーワーカーに関する問題提起書かと思いきや、炭坑に行くまでがやたら長く、行ったら行ったで1日で帰ってくる。結局どーいうことなんだ?
村上春樹著「海辺のカフカ」でカフカ君が「坑夫」について、炭坑生活を通して主人公の成長がまったく示されてないから良いのだと論じてましたね。主人公の物語への関わり方という点で、たしかに新鮮でした。
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NHK『100分で名著』で、ある作家さんが「漱石作品のなかで好きな作品3つ」のなかに挙げていたので、読んでみました。
おもしろかったです!
まったく知らない世界の話で、ぐいぐい引き込まれました。
人の品格とは職業(医者か坑夫か…)ではなく、「教育から生ずる、上品な感情」と主人公が感じるシーン、大好きです。
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授業で足尾銅山を扱ったばかりだからタイムリーで面白かった。坑夫の生活状況が学べてよかった。
人間の性格は1時間毎変わるという文にあるように主人公のダイナミックな心情の変化が豊富な語彙で語られてて面白かった。地獄に仏ありと言うが、安さんがかっこよかった。
漱石先生の話は後半の盛り上げがやはり面白い。
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最初に読んだときは、…???
さっぱり意味がわかりませんでしたが、解説を読んでから読み直すとすらすらと読めるようになりました。
特別な事件が起こる訳ではありません。
いま流行りの伏線回収もありません。
何かの意味や、コスパを求めて読む人には向いていないかもしれません。
それでも本書を読み終えると何か〈文学〉を読んだという感じで満たされます。
主人公が〈地獄の三丁目〉で見たものとは?そこで下す決断とは?
華厳の滝で「立派」に死ぬことなのか、それとも現実社会で生きてゆくことなのか…。
漱石先生の隠れた名作だと思います。
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前作の『虞美人草』とは打って変わって、生々しい現実が牙を剥くような、異様なおぞましさを放つ作品でした。
恋愛事件のために東京の家を出奔した主人公の19歳の青年は、周旋屋の長蔵に誘われるまま坑夫になる決心をし、栃木の足尾銅山に向かう。途中、周旋屋から勧誘された"赤毛布(あかげっと)"や"小僧"も加わり、奇妙な行程を経た末銅山にたどり着く。
飯場にひとり放り出された青年は、異様な風体の坑夫たちに嚇かされたり嘲弄されたりしながらも、地獄の坑内深くへ降りて行く…。
漱石の許を訪れた未知の青年の告白をもとに、小説らしい構成を意図的に排して描いたルポルタージュ的異色作。
『虞美人草』の直接的な続編ではないものの、恋愛事件がきっかけで出奔している点は『虞美人草』の小野を想起させます。
また、主人公が自らの育ちの良さを自嘲するあたり、『坊っちゃん』の変奏のようでもあります。
しかし、紋切り型だった前作の人物造形とは異なり、本作の主人公が血肉の通った、揺れ動く人物として描かれているのが印象的。
周到に用意された舞台のような『虞美人草』に対し、容赦のない現実をつきつける『坑夫』は、好対照をなしているように感じます。
むしろ、前作を批判的に描き、乗り越えようとした「続編」と呼ぶこともできそうです。
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帯に「村上春樹の『海辺のカフカ』カフカ少年も読んだ名作!」とあるからそんな場面があったんだろうか、忘れたがなるほど相通じるものがある。最近読んだ桐野夏生の『メタボラ』をも思い起こさせる不思議な作品だ。
といって当然こちらが先。あるものからのがれる逃避行の物語。逃げるってちょっと魅力的。
だけど「坊ちゃん」がぽっと世の中に家出すれば、だまされてとんでもないところに連れて行かれる。連れて行かれたところが銅銀山の飯場。
坑道に案内されて地獄を見、抗夫仲間にばかにされ、粗悪な食事がのども通らず、寝れば虫に悩まされる。しかし、そこは教養のある「坊ちゃん」人生が見えてくるからよしよし、というかなあんだ。
いやいや、この筆の冴え。道理がわかってくる道順が漱石的でただごとではない。やはり一読二読の価値あり。
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それなりの家に生まれて学問も修めていた青年が
言い寄ってくる女と、許嫁との三角関係に苦しんだあげく
死にたくなって、そこを逃げ出してしまう
ところが死に場所を探すうちにだんだん死ぬ気も萎えてきた
そんな折、ぽん引きのおっちゃんに引っ掛けられて
鉱山労働者になる決心をする
安易なわりにプライドの高い彼は
何度も引き返すチャンスを与えられながら
その誘惑をことごとく跳ね返し
ついには居直り者のふてぶてしさを手に入れる
「虞美人草」に続く、夏目漱石の新聞連載第二弾
ただしこれは、「春」の執筆が進まない島崎藤村の穴埋めとして
急遽書き下ろされたもの
いちおう教養小説としての体裁をつけており
また、前作「虞美人草」とのテーマ関連をにおわせてもいるが
基本的には、人に聞いた話をそのまま出したような形である
人間は時々で考えが変わるものだという無責任主義を掲げ
むしろ反・教養小説としての完成を試みているが
しかし最終的に主人公は
一個の刹那主義者として自己規定するに至った
自己規定があるからこそ、こんな告白を小説家相手にするわけで
だからまあその点、失敗作と言うべきなんだろう
反・教養小説(つまり堕落だ)の試みは
芥川龍之介の「羅生門」へ受け継がれたように思う
Posted by ブクログ
夏目漱石は面白いと思うものと面白くないものが自分の中ではっきりしているのだけど、坑夫は何年か前に読んだ時はひどくつまらないと思って途中で読むのをやめてしまった作品だった。
しかし何年かぶりに再読してみて、とても面白かった。
ストーリーらしきストーリーがないという評判なのだけど、ストーリーらしいストーリーに食傷気味の自分にとっては、逆に興味深かった。
人間は矛盾に満ちている、という主人公の考え方は、現代のアイデンティティみたいな概念に対するアンチテーゼとして読めた。日記のように淡々と進んで行くが、出てくる登場人物たちがみな生き生きしているように感じた。
やっぱり、夏目漱石は読みを極めて行きたい作家のひとりだ。
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(心理的に)地下に潜っている身として、深く共感させられる語りが随所に出てきます。青年の外的体験と漱石の内的体験が重なり合って生まれた作品だと、私にはそう感じられます。
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お坊っちゃまの社会科見学シリーズ土方派遣編。
いつになっても始まらない小説だが、曰く「小説ですらない」のだから仕方ない。
道中も穴の中の出来事もきっとどうでもいいし、
結局どちらにしろ実りはなかったんだからどんなバランスだろうと構いやしないんだろう。
人に薦められるかっていうとかなり厳しいが、
程度は様々あれど同じような落ちかけ寸前の若者(?)は多くいるだろうから読んどけばいいんじゃないか。虚しさがしみる。
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肉体労働の仕事に就くか否かで迷ってて、少しでも参考になるかと思って読んだ。
坑夫になる前の心境、なってからの心境。
なってはみたが、辞めたくなる心境。
漱石も言っているが、人間の心とは変わりやすいものだ。
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自暴自棄になった青年の心理が
後になって回顧されたものとして描かれます。
実際こういう立場になったらたしかにこう感じるんだろうなと思いました。
もう死んでやると思ったり、どうせ死ぬなら華々しくとか考えて、じゃそれまで生きなきゃいけない・・
変なとこに見栄が残るんだろうな
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だらだらだらだら長い小説。うーん淡々としすぎていて、文章は確かに漱石らしさであふれていてで面白いんだけど、他の作品に比べるとつまんなかったですねー……しかし安さんとのシーンはすごい感動しましたよ。あとしっとりホラーだったのがなんか意外……ジャンボーが葬式って解ったところはほんと怖かったです。あと南京虫とか微妙にグロ。いろいろいいたいことはあるけどもこういうのが漱石作品の中に紛れていてもいいと思う。
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(個人的)漱石再読月間の7。15作品の半ばまで来ました。
異色作。
地獄のような最底辺の話で、「それから」の高等遊民の世界が好きな私にとって、これは胸つき八丁。
後半の地底も辛いが、そこに到着するまでの山越えがキツい。主人公がまだ今までいた世界と別れる踏ん切りがつかないところがその要因かと。
この後は何回も読んだ作品群なので楽勝かと。
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学も富もある立場から一夜にして坑夫という最底辺に堕落した主人公を通し、人間の内面を描く。時代設定は100年以上も昔になるが、自らの置かれた環境の有り難みが感じられる。
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漱石ファンからは支持されていると帯にあった。特に余韻もなく、普通に起伏なく盛り上がらず終わるので、それがいいという向きにはいいのかもしれない。それが故にあまり後まで残らないと感じた。
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久しぶりに漱石を読もうと思い読み易そうなこれを買ってみた。あとがきに寄ると急遽執筆することになった作品とのことで、特にこれといった筋立てもなく追憶として語られる青い煩悶の反復が特徴的。個人としては斯様に悩む時期は専ら過ぎているので強い感心は惹かれず。
主人公の過去と符合するらしい虞美人草を読んでいたらもう少し他の感想もあったかも。
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題材もストーリーも漱石らしくない。面白くないかと言えばそんなこともないけど、シーンの一つ一つがやたら長くて冗長なので長さの割に飽きてくる。異色作ってのは確かにそのとおりだと思う。
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漱石が他人の体験談を小説化したルポルタージュのような作品。女性関係が原因で家出した青年がポン引きに誘われて、鉱山に連れて行かれ坑内に入るまでが長い。途中で出会う赤毛布の男や坑夫の安さんなどが、その後どうなったかが気になった。
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ボンボンが色恋沙汰に疲れ、坑夫になろうとする話。
『虞美人草』を下地にしている、っていう背景があるらしいので、関連させて読むとさらに深まるかも。
結局主人公は坑夫にならずに帰ってくる。「ここまで引っ張っといてならないんかい!」と思わずつっこんでしまった。心理描写も他の漱石作品と比べたらあっさりに感じる。
けれど炭坑に向かう道のりの怪しさや、坑道内の息が詰まりそうな雰囲気が幻想的かつリアルに映像として迫ってくる文章なのは流石漱石。坑夫達が生きる世界が生々しく「こんな現実もあったんだ」と、なんだか『闇金ウシジマ君』を読んだ時のような気持ちになった。
社会の裏部分を覗きたい人にオススメ。
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漱石せんせ~の作品の中ではわりと異色?かも。
どうでもいいけれど、なんか、ハエのたかった饅頭を週巡行がムシャムシャ食べるシーンがみょうに印象的だったw
Posted by ブクログ
読んでいてひたすら息苦しかったことを覚えています。
読み進めていくと本当に苦しくなってきます。
中編小説なのに、なかなか読み終わらなくて結構時間が掛かってしまいました。
この小説は、主人公が最後まで何も変わらないことが主題なのかなぁと思いました。
Posted by ブクログ
女がらみの問題で家を飛び出した青年が、ポン引き屋につかまって坑夫になろうと炭坑へ行き、そこで最下層の現実を見る…というお話。物語の筋として面白いかと言われると微妙だが、次々と変わる自分の心情に語り手としての自分が突っ込みを入れていく感じはちょっと面白かった。心情の克明な描写には漱石らしさがあると思う。「坊っちゃん」みたいな戯作風の語り口調も、まあ嫌ではないかな。