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Posted by ブクログ
漱石の未完の絶筆『明暗』。『明暗』を読まずして、漱石は語れないのではないかと思うぐらい、登場人物全てが浮き上がってくる描写に圧倒されました。2026年のはじめの方で、こんなに素晴らしい小説を読めて良かったです。未完でありながら、このクォリティーの高さ!漱石は天才的。
☆5以上
新婚早々、冷めきっている津田と妻(お延)のやりとりに、まずは興味津々になりました。何なんだ、この夫婦!という感じ。実は、津田はお延と出逢うまえに、清子と付き合っていました。そのことが、この小説展開の大事な要素となっています。
お延と津田の妹(お秀)の、女の怖さが垣間見られる心情描写、津田と妹(お秀)、兄弟同士の臨場感たっぷりの言い争い、結婚前の津田の秘密を知っている友人(小林)の悪意に満ち、とことんまで卑屈になってしまっている話しっぷり、津田と清子の出逢いのきっかけを作った人物、吉川夫人の怖いものなしの強気な姿......
どれもこれもおもしろくて、そして日本語力の素晴らしさに浸りながら、のめり込むように読んでいました。言葉一つひとつを、逃したくない気持ちでした。一人ひとりの人物像が、他者との関係性で、より生き生きとしてくるのです。
今も昔も、悩み多き結婚問題、夫婦関係。そして、男女の思いの不可思議なところ。明治、大正時代のことでも、全く古く感じません。男女はというか人間は、互いに分からないところがあるからおもしろいのだなぁとあらためて実感しました。
先がよめないドキドキ感があり、心理描写や日本語力で漱石と匹敵するか、それ以上の日本の小説に、今後出逢うことができるといいな。
Posted by ブクログ
夏目漱石の未完にして遺作。しかし、もしここで漱石は『明暗』の完了を考えていたとしたらどうだろうか。『明暗』を読み終えて、小説がここで終わっていてもいいのではないかとも思える。
漱石と言えば、私は高校生の時に現代文の授業で、『こころ』を読み通し、読み込む授業を受けた。クラス担任の国語の授業である。『こころ』は日本近代文学の最高傑作であるとされ、当時国語が苦手であったので、知識や読解力がなく、深い意味がよく分からなかった。大人になった今、読み直してみたい作品である。
これまで、『こころ』の他に『坊ちゃん』『三四郎』『それから』『門』『草枕』を読んだ。どれも当然面白かったが、何度読み返しても面白いだろうし、新たな内容と意味が発見できるだろう。幼い頃、家にあった『吾輩は猫である』を読み始めたが、最後まで読んだか記憶にない。
『明暗』には、主人公津田由雄と延夫妻を中心に周囲に登場する人物達との人間模様と人々の心理が描かれているが、社会や世間や結婚や恋愛や人間心理と全てが詰まっている。灰汁の強い友人小林、津田の妹の秀子、親戚や仕事関係の人達などの喋る言葉が多声的に内面心理と共に描かれ、物語を面白くする。
この作品の登場人物達が自分の主張を通そうとするエゴイズム(利己主義)を描くために、各人の言葉と心理を多声的にしたことがあると思う。それに付け加えるべきもう一つの特徴は、延や秀子などが語り、その心理が描写されている点である。女性の声をこれほどまでに真実に近く違和感なく描けるのは、流石日本一の文豪夏目漱石であると思った。男は女のことが分からないのだ。女もそうなのだろうか、女に生まれてみなければ分からない。男女は分かり合えないが、歩み寄ることが大事なのかもしれない。
総じて、やはり全ての描写が素晴らしく完璧だ。津田は延との結婚に満足していない。津田は昔付き合っていた清子が、なぜ自分を捨てて、他の人と結婚したのか分からない。そして最後の場面で、津田の手術後の湯治場で清子と会う。そこで物語は終わる。それからどうなるの、という所である。もっともっと漱石の作品を読み続けていたかった読者の一人である。
Posted by ブクログ
何と言う小説。
水村美苗さんの「続明暗」を読みたいな、と思い再読したのだけど。
此処に津田という男がいる。主人公である。会社員で、まずは悪くない勤め人で、30前後のようで、新婚である。その妻が延子。
粗筋で言うと、津田が胃腸らしき病気である。大層ではないが数日入院して手術が必要だ。会社と、世話になっている親戚筋に挨拶して入院。手術する。
津田の家庭はやや使い過ぎで、毎月の給料では足りない。京都の親が仕送りをくれていたが、仲違いしてそれが途切れた。金策に困る。
延子は新婚で、津田との愛情、夫婦のあり方にぼんやり不安がある。
津田の妹、秀子。津田の上司の吉川氏の奥さん。…などが、「延子は、いまいちな嫁ぢゃないか」、と言う。
津田はプライドと保身だけではっきりしない。ふらふらする。そうして無事に退院する。
退院したら、吉川の奥さんが、「湯治の旅に行け」、と、言う。津田が独身時代に惚れ抜いて、振られた女、清子。その清子に会いに行け、と言う。
津田はかつて、吉川の奥さんの紹介で清子と交際した。そして、津田は清子に振られた。清子は津田を振って、別の男と結婚した。で、津田もしょうがなく延子と結婚した。延子は、そんなことは何も知らぬ。
その清子が今、ちょっと病気で、その温泉宿にいる。吉川の奥さんが、津田に「行け」、と言う。なんで振ったのか、聞いてこいと言う。会社は夫に言って、休みにしてやる。金はあげる。延子にはタダの湯治と言え、と。その間に延子には私が「教育」してやる、と。
津田は情けなく言いなりになる。湯治に行く。清子と再会する。色々会話をはじめる。どうなるどうなる。 東京の延子には何が起こるのか。怖くて不安な心理小説である。
だが、そこんとこで、漱石は死んでしまう。
未完。おいおい!!
というわけで。
会社員と専業主婦の夫婦が、ちょっとやりくりに困りながら、夫が胃腸らしき病気で入院して退院して湯治に行く、という粗筋(笑)。
それが、最高に面白い。
もう、心理描写が全て。
ヒトというものは、プライドと競争と、人情と依存と見栄と、世間体と愛情に、揺れて揺られて高瀬舟、というマコトに情けなくも可笑しくて、ゾッとするものである、というサスペンス。
津田が妹と、妻延子の噂をしている病室に、当人の延子が、ガラッと入ってくるところなど、単純に小説的な痛快さ、タマラないカタルシスがある。
うーん。文章のテンポ、格調、日本語の快楽。心理を解剖して観察するのだが、淡泊端然、偉ぶらず、の諧謔精神。
好みとしては、至高の小説。
10代の頃に漱石は、夢中に読破したのだけど、40になって改めて舌を巻く。
(脱線すると、漱石初体験に「我輩は猫」は、最悪。アレは第一章ダケならともかく、通して考えれは漱石最悪の退屈小説です。初めは「坊ちゃん」「こころ」あたりが良いと思う。オモシロイから。)
25年ぶりくらいの二度目の体験、この歳になってなお更に、愉快興奮な読書だった。
初の青空文庫。タダっていうのもヘンな心地ではあるけれど。
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