夏目漱石のレビュー一覧

  • こころ

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    夏目漱石の『こころ』をNHK100分de名著のテキストといっしょに買ってみる。

    「先生」は自分が死に至るまでの経緯と理由を、唯一「真面目」だと認めた「私」に宛てた手紙のなかで述懐。
    この「手紙」という媒体に残した・書ききったという行為が、自らが生きた世界に何らかの痕跡を残したいという人としての本能的な行為であったように思う。手紙にしては長過ぎるけどな。

    それにしてもスネに傷を持ったことを抱えながら生きることは出来ないのだろうか。そういう意味でまったく救いのないストーリーだと思った。
    が、テキストの姜尚中は、漱石自身は死を肯定も否定もせず、死あってこそ生を見出だすことができるみたいなことを言

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    2013年04月01日
  • 明暗(新潮文庫)

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    何と言う小説。

    水村美苗さんの「続明暗」を読みたいな、と思い再読したのだけど。

     此処に津田という男がいる。主人公である。会社員で、まずは悪くない勤め人で、30前後のようで、新婚である。その妻が延子。
     粗筋で言うと、津田が胃腸らしき病気である。大層ではないが数日入院して手術が必要だ。会社と、世話になっている親戚筋に挨拶して入院。手術する。
     津田の家庭はやや使い過ぎで、毎月の給料では足りない。京都の親が仕送りをくれていたが、仲違いしてそれが途切れた。金策に困る。

     延子は新婚で、津田との愛情、夫婦のあり方にぼんやり不安がある。
     津田の妹、秀子。津田の上司の吉川氏の奥さん。…などが、「

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    2014年05月29日
  • 文鳥・夢十夜(新潮文庫)

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    こんな夢を見た。

    自分はとあるサーカスで働く道化の少年である。白と黒の化粧をし、同じ色の白黒の道化服を着て、毎日客の前に立っている。年齢は幼く、サーカスのヒエラルキヰでいえば底辺に属するような位置である。賃金も大変に少ないが、しかし、自分はさして悲しんではいなかった。自分の隣には、道化の相棒がいるからである。相棒もまた、白黒の紛争をしているが、少しだけ赤色の混じった服を着ている。身長は自分よりわずかに高いが、自分より痩せていた。
    自分と相棒はサーカスの部屋でいつも同室であり、二人で共有している錆の浮いた焼き菓子の缶箱がある。
    古びたその中には、菓子は入っていない。入っているのは、僅かばかりの

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    2023年01月24日
  • 草枕

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    こいつはいい。最後の言葉がいい。無責任な写真家のような。グレン・グールドはどこが好きだったのだろうか?主人公の様な生活できたらいいな。

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    2013年01月24日
  • 夢十夜 他二篇

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    面白い。想像したよりも面白かった。
    個人的には一夜と三夜の話が好き。
    これは漱石自身の夢をもとに書かれたものらしいけど、本当にこんな様々にみたのかね?
    ロマンチックだったり、怖かったり、滑稽だったり。
    それにしてもどれもたんたんとしていて、それでいてドラマチックなのが流石。

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    2013年01月18日
  • 虞美人草(新潮文庫)

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    『夢十夜』で初めて漱石を知り、『草枕』で文体に衝撃を受け、この『虞美人草』で面白さにどっぷりと嵌った。漱石の小説の中で一番好きかも。
    よく「漱石は女性が描けない」とか言われるけど、だからって別に男性が描けているとも思わない。小説を書いている。

    それはともかく、この人間関係、マンガ的で面白い。ちゃんとキャラが立っている。男も女も。
    それを「通俗的」だと言われれば確かにその通りなんだろうけれども。
    職業作家としての初めての長編小説。「面白い小説」を書こうと苦心したんだろうな。
    装飾華美な文体や、ほんの少しハミ出ている「セオリー」たる主張のようなものがちょっとくどいような気もするけど、それはご愛敬

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    2012年12月11日
  • 夢十夜 他二篇

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    山のシューレで能楽師の安田登さんが演じたものが、この夢十夜のオマージュ(物語内のいくつかの話が混在している)だったと知って読んでみました。
    夏目漱石はあまり読んだことがなかったけど、これはすごく好き。曖昧さの極致を表現してると思う。

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    2012年11月27日
  • 草枕

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    他の作品と同様、リズミカルな日本語が読んでいてとても小気味好い。凄すぎますね、一つ一つの言葉選び。正に文豪。
    自分という人間を、芸術家という存在を、こうも深遠に描くことができるのは本当に圧倒されるし引き込まれる。分かりたい、と思いながら読むことができる。

    私の未熟な読む力ゆえ分量の割に時間がかかったが、時間をかけるべき作品だった。それは間違いなくそう思う。

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    2012年08月24日
  • 行人

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    ネタバレ

    漱石の手に心臓を掴まれた気がした。
    第四章『塵労』は読んでいて苦しい。

    「ああおれはどうしても信じられない。どうしても信じられない。ただ考えて、考えて、考えるだけだ。二郎、どうかおれを信じられるようにしてくれ」
    「僕は死んだ神より生きた人間の方が好きだ」
    「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない」
    「僕は迂濶なのだ。僕は矛盾なのだ。しかし迂濶と知り矛盾と知りながら、依然としてもがいている。僕は馬鹿だ。人間としての君は遥に僕よりも偉大だ」
    「どうかして香厳になりたい」

    ああ、苦しい。
    駄目だ。
    泣く。

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    2012年03月01日
  • 吾輩は猫である 下

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    猫の視点から、読心術から、独白から語られる、あてども無く続く近代文明批評、文化批評、社会とは個人とは愛とはユーモアとは、なしくずしの放談・・・。
    現代を生きる僕たちにも綿々と続いている苦悶・懊悩。
    猫の達観にはほど遠い。

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    2012年01月05日
  • それから

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    文学上の「高等遊民」を感じようと読んだ作品。解説で吉田熈生が「息苦しい感じ」と評す漱石の文体を肯定できるようになるには年月がかかった。ストーリーは「自然」に人を愛そうとする遊民・代助の社会的不許の愛である。ただし注目に値するのは、物語の幹ではなく枝葉にある。視線の行方、煩悩の文字、不快な相互理解の描写、それらの精微な表現がこの作品の醍醐味であろう。やはり漱石を読むには、中学生時代の私は幼すぎたね。

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    2011年12月23日
  • それから

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    「代助は決してのらくらして居ゐるとは思はない。たゞ職業の為ために汚されない内容の多い時間を有する、上等人種と自分を考へてゐる丈である。」

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    2011年12月18日
  • 思い出す事など 他七篇

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    漱石は小説も面白いが、むしろ随筆や日記の方が面白い。
    本書もその類。

    死の淵から辛くも生き延びた漱石と、逝ってしまった周囲の人々。
    生き延びた悦びと、自分だけが生き残ってしまったことへの言いがたい感慨が、淡々とした筆致の中に情緒を感じさせ印象深い。

    20代の頃は、漱石のよさがわからなかった。
    ようやくわかる年になったか、と、こちらも感慨深い。

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    2011年12月17日
  • 三四郎

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    中学生の時に読んだ本。
    しかしタイトルは覚えていても中身が思い出せない。。。
    ということで、10数年ぶりに再読してみました。

    本作は三四郎の学生生活を書き綴った作品。
    田舎から出てきた三四郎の周りに、
    自分とは異なる考えを持つ様々な人物との交流から
    様々な経験を得るようなストーリー。

    明治時代の作品なので、学生生活といっても
    現代とはマッチしないし、言葉が難しいのもあるけども、
    色々な心理描写があり、全体の雰囲気は分ります。

    本作はずっと気になる美禰子に失恋した感じで終わります。
    本作は「それから」「門」と3部作なので、
    さらに引っ張りだして他も読んでみようと思い

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    2011年12月16日
  • 思い出す事など 他七篇

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    ネタバレ

    大病で生死をさ迷ったにも関わらず
    やはりひょうひょうとした漱石らしい記述で
    その時々の思いを写したエッセイ。

    しかしその醒めた語り口のなかにも
    生き返った自分と、戻らなかった隣室の患者を比べ
    生死の不可思議に考えをめぐらせたり
    療養によって今までの日常生活を離れてみたからこそ
    解る人とのつながりに感動したり
    生きて帰って来れたことに、素直に安堵したり…
    漱石の人間らしい暖かな気持ちがにじみ出ている。

    べたべたと飾り立てず、淡々と、しかしリアルに
    生と死をとらえたエッセイとして
    非常に面白く、心を打つ作品だった。

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    2011年11月17日
  • 道草

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    これは初めて読んだ。作者の自伝的な作品。
    せっかくロンドンに留学したのに、帰国したら貧乏になっていた彼の家。
    親戚縁者から借金や小遣いをせびりに来られてストレスを感じている。
    奥さんともしっくりこないし、けんかをする。
    何が面白いか、と言ったら人物描写だ。なかでも元養母が丸い年寄りになって座布団に座っている様子。
    彼女の描写は見事。
    喘息持ちのお姉さんの描写も面白い。口やかましくて愛されていないのに、夫に妾がいることに気づかず弟から貰っている小遣いを与えていて、夫孝行と呼ばれている。

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    2011年09月22日
  • 思い出す事など 他七篇

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    布団の上から身を動かせずに見えるものがこんな豊かで慈愛に満ちたものなのか、そしてそれを表現している文章の綺麗さに感動してしまった。死に近いという一点のみでは、少なくともその気概を持って接する分には若い人には負けない。どっかでこういう言葉を聞いたけど、いやいや、もうただただ頭を垂れるしかない小さな自分がそこにいるだけだった。
    知り合いの旦那さんが亡くなられる数年前に読んでいた本が並んである本棚から拝借してきた本の中の一冊なんだけれども、こうやってものを介して出会う前に一度お話ししたかったなと思わずにはいられません。
    思い入れこみでの評価だけども、星5つの基準を変えなきゃなと思いました。

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    2011年09月04日
  • 漱石 ホラー傑作選

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    しっかり?夏目漱石読んだのはじめてだな〜。

    夢十夜をちゃんと読みたくて借りたけど予想以上に収穫があった。

    中でも『永日小品』と『我が輩は猫である』の「迷亭くんの話」がよかったな。
    なんかもう足先がぬるま湯に浸かっているような安心感がある。でも足先しか浸かってないから肝心の本体はふとした瞬間に寒気が走る。そんな気持ちいいホラー。

    夏目漱石を一度キッチリ読もう。
    実はかなり好きな文体で話の組み方でござった。

    古い文体だと毛嫌いしてはいけませんね。読みだすとかなりハマりそうな気がする。

    それにしても『夢十夜』の完成度の高さよ………

    全部ものすごく好きだわ〜。

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    2011年08月21日
  • 三四郎(新潮文庫)

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    3度目の三四郎。

    最初に読んだのは、高校生のとき。「坊ちゃん」のような派手な展開もなく、田舎者の三四郎が美禰子さんに憧れるが、地味な失恋をするという陳腐な青春小説という印象で、面白い本とは思えなかった。

    50代での再読で漸く良さがわかった。汽車の中の情景、途中下車した名古屋での女性との一夜、水蜜桃を頬張りながらの富士山談義で構成される印象的な導入部。日露戦争後当時の東京の情景と漱石が思うこれからの日本の将来への展望も良く書かれていて、読書の楽しさが味わえた。

    そして、今回は「それから」「門」を読んでからの「三四郎」。漱石の世界に馴染んでからの「三四郎」の世界は心地よかった。なんと言っても

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    2023年12月08日
  • 虞美人草

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    エンターテイメント小説として非常に面白く、なんといっても会話文の巧さがこの若者たちの群像劇を瑞々しく魅力的なものへと引き立てている。

    冒頭の甲野さんと宗近君の登山における和気藹々なやり取り、続く第2幕の小野さんと藤尾の只ならぬ男女の仲を匂わせる会話の応酬を立て続けに読んだら最後、ぐっと物語に引き寄せられてしまった。

    活き活きとした会話文とは対照的な漢語下し調の地の文は、その装飾的に過ぎる難しい表現に読み進めることを戸惑いもしたが、あまり拘泥せずに読み進めてゆくと、地の文を支配するリズムに虜となってしまうから不思議だ。

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    2011年06月23日