小尾芙佐のレビュー一覧
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「光の前にはいつも闇がある。だから暗闇のほうが光よりも速く進むはず」
自閉症と診断を受けている主人公のルゥはそのアイデアを胸のうちで温めている。
裏表紙のあらすじで「光の前にはいつも闇がある。だから暗闇のほうが光よりも速く進むはず」という言葉を読んだだけで、内容もまったく知らないうちから、深く感動して泣いてしまいそうになる。なぜ感動したのか自分でも思うわからない。それどころかそのセンテンスが果たしてなにを意図しているのかさえもわからぬまま、泣きそうになる。そういったことが、この小説のなかにはあふれている。
ルゥの語りによって物語は進む。『アルジャーノンに花束を』に似ているとのことだったが、実際には似ているところもあればそうでないところもある。この物語は、新開発の自閉症の治療法を、ルゥが受けることにするかどうか、その過程に重きをおいている。『アルジャーノンに花束を』のように、自閉症の状態と、自閉症でなくなった状態がどう違うかに重きをおいた作品ではない。
自閉症とはなにかということをルゥは突き詰めていく。自閉症であることによってなにを失ってきたのか、自閉症でなくなることによってなにを失うのか。自閉症であることはノーマルであることとどう違うのか。ノーマルとはどれだけノーマルなのか。はたして私たちは治療されなければならない存在なのか。その問いは果てしのないものだ。そして切実だ。
作中での描写や発言の意図を完全に理解するのは難しい。理解することが難しいことが、この本の持つ魅力になっている。そして理解するのが難しいことはルゥが自閉症だからだという人もいるだろう。一方で他者の言動からその人の思考を推測することはつねに不可能なことなのだともいえる。一見繋がっているようにみえる論理も、一見充溢しているようにみえる意味内容も、果たしてこれまで一度でも本当の意味で理解されえたことはあっただろうか? この問いかけは、作中で繰り返し扱われる、ノーマルは自閉症性をいっさい排除しているのか、ノーマルと自閉症のあいだで誰がどうやって線を引いているのか、自閉症は異常なのか、という問いかけに呼応する。意味はつねにひとつのアナロジーであり、理解とはアナロジーによって生み出されるものだ。意味の理解とはひとつの構造であるはずだ。ゆえに、ルゥの語りの「真意」を知ることはできずとも、私たちはその文章を理解することができる。そこに、祈りを読みとることができる。翻って、意味がわからないということそのものが、そのまま、ある祈りなのだ。 -
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フィリップ・K・ディックの1955年に発表された第一長篇。世界観や用語の説明不足などは、最初の作品からだったのかと納得。という訳で、誰にもおすすめできませんが、個人的にはとても面白い作品だと思いました。
世界を統べる権力者が、公共偶然発生装置(ボトル) による無作為な攣動(トイッチ)によって決められる世界。それは、ランダムに抜擢し、あるいは蹴おとし、ランダムな間隔でランダムに権力者を選び出す。人は、権力を独占できず、安泰した地位など存在しない。誰も独裁者になろうとしてもなれない世界。
そのような社会機構である、九惑星連邦の最高権力者(クイズマスター)であったヴェリックがこれにより退位(クワック)させられ、代わりに選ばれた(ボトルされた)のは、プレストン会(謎の太陽系10番惑星「炎の月」の存在を示唆したジョン・プレストンを信仰する)会長のカートライト。
その地位についてから24時間後には公認の刺客が指名大会で選任されて、一度に一人ずつクイズマスターを殺しにくる挑戦方式が、退任まで続きます。周囲を守ってくれるのは、ティープと呼ばれる人の思考波を捕えるテレパスの部隊。その間隙をついて命を狙う第一の刺客は、退位させられたヴェリックが送り込んだキース・ペリグ。果たしてティープ部隊は守り切ることができるのか…。
と、ここから怒涛の展開が始まるのですが、はっきり言ってこのキース・ペリグのスペックがチート過ぎて笑えます。読みながら「そんなアホな…」と呟いてしまうほど無茶苦茶でした。それにしても、最高権力者になって、日々命を狙われる世界…しかも全世界公認とは何という罰ゲームなんでしょうね。着任早々、キース・ペリグのようなチートキャラに命を狙われるカートライトが気の毒でした。
ラストは謎の太陽系10番惑星での、あるメッセージで終わりますが、遥か西の方で起きている戦争を考えると、現代では受け入れられない考えですね。ある意味、時代を反映した考え方だなと思いました。 -
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この本は今読んだからこそ面白さを理解できたのだと思う。
この数ヶ月間で女性作家を中心とした現代小説を読んでいるわけだが、その中でも群を抜いているいっても過言ではない。
ウィットに富んだ皮肉の数々、主語を欠き視点移動も自在な為、"誰の・何処の・何の"話題なのか訳がわからなくなる構成、馴染みの無いミス・ミセス・ミスタの応酬に複雑な家系図。
世界史の勉強の難しさに似ている。
面白い。
上巻でダーシーの印象が最悪なのは、本人の口から出た災いともいえるが、ネザーフィールドの住人の文化水準が低く、「あんな下品な連中とは付き合ってられない」という、ダーシー側の視点からすると、払拭どころか考えを改めざるを得ない。
特に顕著なのはミセス・ベネット。
リディアの際は、ウィッカムの表面的な印象に囚われて結婚に歓喜する。
ジェインの際は、ビングリー自体は申し分ないわけだが、何の連絡も無く屋敷を去ったことへの怒りを忘れて歓喜する。
エリザベスの際は、あれ程までに嫌っていたダーシーが婿になると知った途端、金勘定で歓喜する。
その他、コリンズなどは言うまでもなく、どうもネザーフィールドの近隣の住民達はひと癖もふた癖もある人ばかり。
この上層中産階級への解像度の高さ、心情表現の豊富さは20歳前半の表現力とは思えない。
しかし、「嫁ける」という表現には恐れ入った。言い得て妙だが、現代で使おうもんなら大炎上するに違いない。 -
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『はだかの太陽』
アイザック・アシモフ 小尾芙佐/訳
Naked Sun
Isaac Asimov
ハヤカワ文庫
イライジャ・ベイリは別の惑星ソラリアで起こった殺人事件を解決するために地球から派遣された。事件の関係者と直に会って話を聞きたいと思うものの、この星の人間は常に映像を通して他者と交流し、直接会うのは動物的なおぞましい行為とされ嫌がられる。物的証拠はロボットに処分されてしまい、文明の進んだソラリア人の地球に対する侮蔑などで、なかなか操作がスムーズに進まない。また外出すると太陽の光が地球人のベイリには有害で具合が悪くなってしまう。
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これは1957年に書かれたものだけど、アシモフの予言もまんざら間違ってないと思う。人型ロボットこそそれほど見かけないけど、生活の至るところにAIが関与し、人と人との接触がだんだんと希薄になってきている。
高度経済成長期やバブルの時代にこの本を読んだら、へええで終わってしまったかもしれない。今の時代に読むと無性に身に染みるものがある。 -
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ポアロは決してなんでもお見通しのホームズの様な探偵ではなく、思考の手順や道筋を整理しながら、ジグソーパズルの様に組み合わせていく、とても人間味のある探偵だ。従って、当然、推理の道筋が違っていて軌道修正する事もあるし、事件の連鎖を未然に防げない事もある。しかし最後には真実に行きつき、そしてハッピーエンドで物語は結末する。今回もとある二人の人物が、ポアロの策略によって結ばれる事になる。彼はキューピッド役を務める事がしばしばあり、幾つかの事件の後、ポアロの御節介により幾つかのカップルが誕生している(笑)。これはある意味でポアロシリーズのお約束でもあり、味の濃いミステリー本編を爽やかにするための要素でもある。
今作はスタートが変わっており、とある若い女性がポアロの探偵事務所を非常識な時間に訪ねて来る。彼女は、「人を殺したかもしれない」と言い放ち、しかしポアロを見たとたん、年寄り過ぎるという理由でいなくなってしまう。ポアロはショックを受けるが、娘については気に掛かり、「死体」の痕跡を探し始める。
そんな中、オリヴァ夫人の強引な(笑、いつもそうだ。)招待を受け、昨日のショックについて話していると、どうやら娘のきっかけを作ったのはオリヴァの可能性があり、名も知らぬ相談者のきっかけをポアロはつかむ。まだ殺人が起きたかどうかもわからない霞がかった状態から、ポアロは経験により何かの悪意を感じ、それを調査させていく。
作中、ポアロシリーズ同じみのキャラクターが総出、ジョージ、レモンは両方登場し(珍しい?)情報屋のゴビィなども登場する。主題「第三の女」は、アパートのシェアをするサードガールと文字通り三人目の女性の意味合いもあり面白い。
レスタリック家を巡る騒動になるが、トリックは再読の為、なんとなく記憶にはあったが、改めて楽しめた。設定が現代と似ている環境下でもありイメージを持ちやすく、読みやすい様に感じた。いつの時代も年寄りは若者を受け付けないらしい。また、今や伝説的なビートルズ等も型破りで受け入れられなかった時代のイギリスを読み取る事ができ、面白い。
物語冒頭から何を捜査しているのか。がテーマになる訳だが、読者もポアロと同様にこの小説のパターンを見出すまで時間がかかる。オリヴァのとある発言をきっかけに物語が動き始め、いよいよ大詰めか、というところで衝撃的な事実が判明する。過去にない手法だが、ミステリーとしては丁寧で、きちんと作中にヒントが残されている(最後は流石に驚きだが)父親のレスタリックの半生と娘の悲哀がとてもアクセントになっている。
推理小説としてとても丁寧な構成の作品だが、事件の取っ掛かりがあるまではポアロとオリヴァの冒険譚であり、長く感じてしまうかもしれない。シリーズを読み慣れている人は、ポアロとオリヴァのやり取りを楽しみながら進める事ができるだろう。 -
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アシモフの「ロボット三原則」
それは矛盾と二律背反がもたらす面白さ……。
舞台は高度にロボット文化の発達した惑星ソラリア。そこでは極端に少人数の住民が裕福に暮らしている。
そこで起こった殺人事件を地球人である主人公が捜査することに……
地球とソラリア、相反する二つの世界はその相違がゆえに同一であることが、徐々に印象的となる。
物語自体もさることながら、アシモフ自身による「序文/ロボット小説の舞台裏」が面白い。
ミステリーに強い興味を持っていたこと、当時のSFには半裸の美女を登場させないと売れないと言われていたにも関わらず、アシモフは女性を描くのが苦手と言われていたことなど、執筆時の様子が面白く分かりやすい。
前作『鋼鉄都市』を未読のため、読み始めに地球の状態がイマイチ把握できていなかったことが残念。 -
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いつか読もうと思っていた本。
短編集だった。
読みやすい。
ファウンデーションに出てたダニール・オリバーが出てくるかと思っていたけど、まだそこまで行かないロボットたちの話。
ロボットシリーズたくさんあるみたいだ、これ全部死ぬまでに読めるかな…
アシモフさんの主要なキャラクターは、三人ぽい。
スーザン・キャルヴィン
イライジャ・ベイリ
ダニール・オリヴァー
イライジャ・ベイリとダニール・ベイリって同じだっけ?
robotics、ロボット工学という言葉を作ったのがアシモフさんなのは凄い。普通にいま現実に使われている言葉。
ロボット三原則を物語の主な道具にしてるとは思はなかった。3つのルールからあんなに話を膨らませられるのは感嘆する。作家凄い。 -
Posted by ブクログ
イギリス文学に初挑戦してみた。たったひとつのシーンごとの描写の回りくどさに最初は面食らったが、慣れると小気味良い言葉のリズムに心地良さすら感じるようになった。イギリス人特有の皮肉に満ちたセリフの応酬はみはや一周回って清々しく見えた。登場人物全員に多かれ少なかれどこか「鼻につく」要素があり、そこに作者の登場人物達へののアイロニーと愛を感じた。特にエリザベスは愛さずにいられない人物であり、彼女の快活さ、聡明さ、自負心の強さには憧憬の念を抱かずにはいられなかった。イギリスの片田舎で、2人の中流階級の貴族、鼻持ちならない自尊心の高さを持つダーシーと自負心故の軽率な偏見を持つエリザベスが、互いにぶつかり合い、愛し合うことで互いの欠点を直視し、歩み寄ろうとするストーリー。そこに絡む一癖も二癖もあるようなイギリス貴族達。それら全てを俯瞰し、平易な文体でありながら見事に描写しつくす作者の技量に感嘆するばかりだ。