小尾芙佐のレビュー一覧

  • 偶然世界

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    ディック27歳のSF長編第一作。権力者がくじびき機械のランダム性によって決められるという設定を皮切りに、テレパシー、最終戦争、植民惑星、管理階級社会、人造人間、など、この時期からすでに世界観ががっつり作り込まれていて、読者を引きずり込むディックらしさが感じられる。ただ、得体のしれない不安感を誘うところや、現実崩壊感覚などはまだ強くはなく、刺客ペリグの設定と手に汗握るアクション的な攻防が最大の見所だと思う。近年大ヒットしたあの3D映画を思い出した人も多いだろう。この小説が1955年発表のものであることに驚く。未知の世界へ宇宙船でたどり着いた果てに聞こえる最後の言葉は、若かりしディックの前向きな心

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    2021年03月30日
  • 火星のタイム・スリップ

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    精神分裂病が引き起こす、時間感覚の崩壊。ディック作品おなじみ現実崩壊感の別バージョンな感じ。序盤では描写される火星開拓の行き詰まりがリアルに感じられて面白い。中盤は火星の住民たちと分裂病患者をとりまく人間ドラマが印象的。終盤でタイムスリップがキーとなって物語を飛躍させ、SFらしい驚きの感動を与えてくれる。ディックで一番好きという声が多いようで、確かに他の長編に比べて読みやすかったと思う。ギミックが難しくなく、人物の感情の流れもわかりやすいからだろうか。個人的に自閉症や神経症に縁があるので、そのあたりの著述も興味深かった。

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    2021年03月26日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    小さな島唯一の書店。偏屈な書店主のフィクリーをめぐる人々との物語です。
    自動車事故で妻を亡くし、大きな喪失感を抱える中で、閉店中の書店に残された孤児のマヤを里親として育て始める事によって変わっていくフィクリー。
    色々な事故や事件が起こりながらも、暗くならず何かを次の世代に引き継いでいく尊さが身に沁みます。
    本を愛する人に囲まれて生きられて幸せだよフィクリー。温かい物語でした。

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    2021年04月03日
  • ママは何でも知っている

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    安楽椅子探偵の連作短編小説集。1950年代~60年代に書かれたもので、舞台はアメリカ、人物はアメリカ系ユダヤ人の家庭でユダヤ教の話が出てくる。
    ママが探偵役。人情(動機)と論理の組み合わせで、見せかけのストーリーを裏返していく。解決はあざやかでパズルの完成度が高い。でも逆向きにたどっていくと犯人がかなりお粗末なことが多くてなんだかなあと感じる。
    安楽椅子探偵ものなので人物描写は期待してなかったが、なかなかユーモアがあり恵まれない人々への温かい視線があって良い。

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    2021年02月25日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    本好きにはたまらない魅力にあふれた素敵な1冊だった。冒頭のアメリアとA・Jのやりとりだけで引き込まれ、天使のような少女・マヤの登場に心ときめいた。愛する妻を失ったA・Jにとっても魔法のような効果をもたらし、頑なな心を少しずつ解かしていく。語られる小さなエピソードの1つ1つが微笑ましく、紹介される本(大半が未読または初めて知った)を手に取りたいと思わされた。2016年本屋大賞翻訳部門1位は納得できる。

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    2021年02月17日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    本好きには刺さる本ですね

    意固地で無愛想な店主フィクリーが、本を通して様々な人と関わり自己成長する物語です

    読み始めはただ本屋さんの温かい日常系かな〜って思いながら読み進めてたんですけど、しっかり所々にイベントがありフィクリーの心境の変化や周囲の反応が上手く描写されていました

    今の時代通販ですぐに本を買え、電子書籍もあり本屋の需要が減ってきました。けれど本屋を通してでの新たな本の出会いやワクワク感はやっぱりネットでは体験できませんよね。この本を読んでよりいっそ本屋が好きになりました

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    2021年02月09日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    「マヤ、ぼくたちは僕たちが愛しているものだ。僕たちは僕たちが愛するものそのものだ」

    読み初めは「はい、はい、こうゆうかんじねー」って期待してなかったのに、めちゃくちゃよかった、、。
    諦めて忘れてた頃に意外な展開が盛り込んであったり。
    これが本屋大賞は頷けるー!

    本好きのための愛おしすぎる物語。

    悲しいのに読み終わった後じんわりじんわり優しさで心が暖かくなるんだなー、

    やはり読書はいい。

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    2021年01月18日
  • 闇の左手

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    人類がかつて植民地化した星ゲセンは遺伝子実験の末に男女の性別のない不思議な社会に進化していた。外交を結ぶために赴いた地球人ゲンリー・アイによるこの人類と社会の風俗、思考などの考察が1つの話。政治的陰謀により元首相エストラーベンと一緒に極寒の氷原を逃亡する話がもうひとつ。男女の区別はないが生殖という面ではタイミングでどちらかが男にどちらかが女に自然に変わる。手を触れるといわゆる恋に堕ちる。男女という概念がないから我々には理解できない世界観を持つ。話はゲンリーの一人称だけでなく複数の人間が事実を語る。視点の違いがストーリーを変え、違う話に見えていく。陰謀は話を複雑にする。これは友情か信頼か、恋愛な

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    2022年09月14日
  • 夜中に犬に起こった奇妙な事件

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    子供向けの推理小説だろう、と、気軽な気持ちで選んだ本。
    ところが、えそっち?となっていき、引き込まれた。
    この家族が抱える家庭の問題に、共感するところがあって、自分がこの本を手に取った偶然に驚いた。そして、何度か身につまされて泣いた。
    自閉症の子の目線や心の動きのまま(という設定で)書かれているので、読みにくいと感じることもあったけれど、それはそれで味わい深く、分厚い本でしたがあっという間に最後まで読みました。
    息子を持つ親御さんにおすすめ。主人公の言動にハラハラしつつ応援しながら、親としての自分のことを振り返りながら、読んで、その状況を(物語なので当然ながら)立体的にかつ俯瞰して眺めることが

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    2020年10月28日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    本を愛する、書店を愛する人たちの物語。

    愛する人を失った時、癒してくれるのは何?
    それは人によってそれぞれですが、その一つは人との繋がり。

    愛する妻を事故で失って、投げやりになっていたフィクリーが前向きに生きていくようになったのには、そんな人との出逢い、繋がりができたから。

    そしてフィクリーにとっては、本も大きな役割を果たしていた。
    「ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない。」
    そう語るフィクリーだから。

    この本を読んで、ますます本を大切にしていきたいと思った。

    小さな島にある

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    2020年09月22日
  • われはロボット〔決定版〕

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    ネタバレ

    ロボ心理学者のスーザン・キャルヴィン、ロボット技師のドノヴァンとパウエルが主人公の連作短編集。

    すべて、ロボット工学三原則にまつわる話になっている。以下簡略した三原則。
    第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない
    第二条 ロボットは人間の命令に服従しなければならない
    第三条 ロボットは第一条あるいは第二条に反する恐れのない限り、自己を守らねばならない。

    本書では子守ロボットを探したり、嘘をつくロボットを看破したり、掘削ロボットの故障を直したり、ロボット疑惑のある市長を調査したりする。なにか強大な敵がいてそれを倒すといったような話ではない。どれもロボット工学三原則が生み出してしまう些細な

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    2020年08月12日
  • はだかの太陽〔新訳版〕

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    ネタバレ

    再読。
    ロボット工学三原則を使って一種の密室を作り出したミステリー。

    それにしても、初めて読んだときには、まさか人と人が接触することを避けるよう求められる時代が来るとは思ってもみなかった。
    地球が惑星ソラリアのようにならないことを祈る。

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    2020年06月20日
  • 高慢と偏見(下)

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    ネタバレ

    恋のシーソーゲームとはこのことか。日本でいうと江戸時代に書かれたドラマだが、今読んでもおもしろい。恋愛に関する誤解と偏見を通じてなかなかゴールしないふたりにハラハラする。

    上巻の最後でダーシーから手紙を受け取ったエリザベスは、今までダーシーを偏見を通じて見ていたことに気づく。しかし、いまさらどうにもならないのだった。
    エリザベスはガーディナー夫妻とともにダーシーの家を訪れる。ダーシーは不在だったが、召使いがいて、ダーシーがいかに素晴らしい人かを語る。そこに突然ダーシーが戻ってくる。丁寧な対応をして、ガーディナー夫妻は感激する。ダーシーはエリザベスに対しても丁寧な対応をするが、手紙のことは触

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    2020年04月02日
  • 書店主フィクリーのものがたり

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    島に一軒の本屋
    ちょっと堅めの店主が幼い女の子と出会い

    章前のフィクリーのその女の子向けの書評も見もの

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    2021年02月20日
  • 心の鏡

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     中編版『アルジャーノンに花束を』が収録されているダニエル・キイスの短編集。全部SFですが、キイスらしく人間の心にも焦点があたっていますね。いずれの短編も良くできていて、面白かったです。

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    2020年01月01日
  • われはロボット〔決定版〕

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    AIのトピックが声高に語られるようになり、それと同時にこの本の冒頭にある、ロボット工学三原則もAI時代にふさわしい原則として頻繁に取り上げられることが多くなってきた。この原則は小説家アイザック・アシモフが考えたものであるが、彼のロボット傑作集が本作品である。三原則も作品の中で取り上げられている。下記にあらすじを記す。その前に、作中でも登場する三原則を記しておく。
    作品のテーマとしては、人間とロボットの共存やロボットの脆弱性。また、近未来ロボットが現在よりも開発が進んだ時に起こるであろうことである。言うまでもなくフィクションであるが、楽しめる作品ばかりだ。

    ロボット工学の三原則
    第一条ロボット

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    2024年02月29日
  • IT(1)

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    ネタバレ

    映画は見ていないのですが、ペニーワイズが姿を変えて子どもたちを襲っていることに衝撃が走りました。もし親しい誰かに成り済まされたら? ゾッとせずにはいられません。ハラハラドキドキしながら、それでも楽しく読みました。続編も楽しみです!

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    2019年11月21日
  • サイラス・マーナー

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    ジョージ・エリオットが男みたいな名前だけど女の作家であることは知っていた。「サイラス・マーナー」も人の名前だとは思っていたが、何故か女の人の名前だと勝手に思い込んでいた。男の人で、しかも変り者の老人の話とは思いもよらなかった。

    しかし、こんな素敵な作家を今まで知らなかったなんて‼️最後がハッピーエンドなのはいかにもヴィクトリア朝だけど、思いもよらぬストーリー展開、人間の心の動き、人物の描き方、いずれも素晴らしい❗️

    それにしても、ジェーン・オースティン、ブロンテ姉妹、ヴァージニア・ウルフ、それにこのジョージ・エリオット、イギリスは秀逸な女性作家の宝庫だ。

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    2019年11月03日
  • サイラス・マーナー

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    親友と恋人に恵まれ幸せに暮らしていたサイラス・マーナー。2人の策略で失意のどん底に。新たな地で孤独の中、毎日機を織り、たまっていく金貨を眺めるのが唯一の楽しみとなっていたサイラス。ある日、心の拠り所の金貨が盗まれ、可愛らしい2歳の女の子がやって来たことで新たな人生が始まる。この時、知らぬ間にサイラスと運命を交差させた村の有力者ゴッドフリー。彼も運命の転換期を迎えた。大事なものを失い、新たに素晴らしいものを手に入れる2人だか、結末は驚くほど違うものだった。作者の宗教観も盛り込まれて深く読ませる作品だった。

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    2019年10月29日
  • IT(1)

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    ホラー小説だけど、描かれている少年少女たちの魅力のほうが印象に残る。キング作品は「11/22/63」しか読んだことなかったけど、あれもキャラクターや数十年前のアメリカのダイナーの食事とか、背景描写がとっても魅力的だったな。

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    2019年10月19日