アメリカの作家「アイザック・アシモフ」のSF(ロボットモノ)連作『われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集(原題:I, Robot)』を読みました。
久しぶりにSF作品が読みたくなったんですよね… SF作品は7月に読んだ『ドゥームズデイ・ブック』以来、、、
「アイザック・アシモフ」作品は、3年前に読んだ『黒後家蜘蛛の会 1』以来なので久しぶりですね。
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ロボットは人間に危害を加えてはならない。
人間の命令に服従しなければならない…これらロボット工学三原則には、すべてのロボットがかならず従うはずだった。
この三原則の第一条を改変した事件にロボット心理学者「キャルヴィン」が挑む『迷子のロボット』をはじめ、少女「グローリア」の最愛の友である子守り用ロボットの「ロビイ」、ひとの心を読むロボットの「ハービイ」など、ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史。
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1950年(昭和25年)に刊行されたロボットSFの古典的名作9篇が収録されています… 有名なロボット工学三原則(Three Laws of Robotics)が示され、「アイザック・アシモフ」がロボットSFの第一人者としての地位を確立することになった記念碑的な作品です、、、
USロボット&機械人間株式会社の主任ロボ心理学者「スーザン・キャルヴィン」の回顧録という体裁を取っており、彼女もしくは同社の新型ロボット実地テスト担当員の「マイク・ドノヴァン」と「グレゴリイ・パウエル」のコンビが各エピソードの主役を務めていいます… ロボットが一見してロボット工学三原則に反する様な行為を行う事件が起こり、その謎を「スーザン」達が解明していくという展開の作品が中心となっていますが、単なる空想科学ではなく、AI導入等の進展が予想される実社会の問題として読むことのできる作品でした。
■序章(原題:Introduction)
■ロビイ(原題:Robbie)
■堂々めぐり(原題:Runaround)
■われ思う、ゆえに…(原題:Reason)
■野うさぎを追って(原題:Catch that Rabbit)
■うそつき(原題:Liar!)
■迷子のロボット(原題:Little Lost Robot)
■逃避(原題:Escape!)
■証拠(原題:Evidence)
■災厄のとき(原題:The Evitable Conflict)
■解説 ~「ロボット学」の新たな世紀へ アシモフ<ロボット工学の三原則>の受容と発展~ 瀬名秀明
<ロボット工学の三原則(Three Laws of Robotics)>
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
『ロボット工学ハンドブック』 第五十六版、西暦二〇五八年
『ロビイ』は、言葉を話せない子守ロボット「ロビイ」の物語、、、
「ロビイ」は金属のボディでできた、喋ることのできないロボット… けれど、幼い「グローリア」にとって、「ロビイ」は家族以上の存在でした。
しかし、「グローリア」が「ロビイ」としか付き合わず、人間の友達を作らなかったことを危惧した母親によって「ロビイ」は追放されます… しかし、「ロビイ」が「グローリア」の命を救い、家に戻ってくることに、、、
一見、ハッピーエンドに思えますが、このまま「グローリア」が人間関係が築けず、社会の一員になれないのでは、という不安が残る作品でした。
『堂々めぐり』は、水星鉱山を舞台にした「マイク・ドノヴァン」と「グレゴリイ・パウエル」の物語、、、
二人は水星でトラブルに見舞われる… 太陽電池層の補修のためにはセレンが必要なことから、新型ロボット「SPD13号(スピーディ)」にセレンの採取を命じますが、なぜか「スピーディ」はセレンを採取せず、セレンプールの周囲を回り続けます。
ロボット工学の三原則の原則間に生じる葛藤で、その様な行動をとっていたことが判明… 第一条をより強く意識させるために、「ドノヴァン」と「パウエル」は意図的に自らの命の危険に晒すことで解決を試みます。
『われ思う、ゆえに…』は、宇宙ステーションを舞台にした「マイク・ドノヴァン」と「グレゴリイ・パウエル」の物語、、、
水星での事件から半年後、地球からやや離れた位置にある宇宙ステーション上で、またも二人は難題に直面する… 宇宙ステーションを無人で運用するために製造された高性能「ロボットQT1号(キューティ)」が正常に動作するか確認することが任務だったが、組み立てられて目覚めた「キューティ」は、自分より下等な人間がロボットの創造主だと信じられず、ステーションの要であるエネルギー転換器こそが自分を生み出した創造主だと信じてしまう。
「キューティ」は、「ドノヴァン」と「パウエル」の指示には従わず、「主」として崇める宇宙ステーションのエネルギー転換器の御心に従った結果、素晴らしく安定した作業を行います… 結果オーライなんですが、何とも言えない複雑な思いの残る作品でした。
『野うさぎを追って』は、小惑星を舞台にした「マイク・ドノヴァン」と「グレゴリイ・パウエル」の物語、、、
ソーラー・ステーションの事件から半年後、小惑星で二人はまたまた苦境に陥る… 採鉱用の新型ロボット「DV5号(デイブ)」のテストを行うことが目的だったが、6台のサブロボットを制御する機能を持った「デイブ」が、一斉に6台全ての制御を行おうとした際に奇妙な行進を繰り返す等、本来の機能を発揮しないことが判明。
しかも、「ドノヴァン」と「パウエル」が監視しているときは正常なのに、目を離すと作業がはかどらなくなる… 5台までならきちんと制御できることに気付いたことから、発想の転換で解決策が見出せましたね、、、
「ドノヴァン」と「パウエル」は、しょっちゅうトラブルに見舞われ、命の危機に晒されているせいか、随分、機転が利くようになりましたね。
『うそつき』は、人の心を読むロボット「RB34号ハービイ」の物語、、、
ごく普通のロボットとして制作されたはずの「ハービイ」が、何故か読心能力を持っていた… 驚くべきことのはずですが、ロボット排斥運動の盛んなご時世のため、USロボット&機械人間株式会社にとってはあまり歓迎できぬ事態だった。
「ハービイ」の存在はロボ心理学者「スーザン・キャルヴィン」、研究所所長「アルフレッド・ラニング」、数学者「ピーター・ボガート」、技術主任「ミルトン・アッシュ」の四人だけの秘密とされ、原因の追及が行われるが… ロボットが読心能力を持つことにより、想像しない結果がもたらされていた、、、
「ハービイ」は、人間の心を読んでいたのですが、人間の心がわかっているだけに、正直に結果を伝えることが人間の心を傷つける(=ロボット工学の三原則の第一条に違反する)ことから、「ハービイ」は、真実ではなく、その人が言って欲しいこと、希望する答えを話していた… 人間関係にも言えることかな、人間を守るための優しさゆえに嘘をつき、結果人間関係に亀裂が生じてしまうという哀しい結末でした。
『迷子のロボット』は、第二十七小惑星群にあるハイパー基地で発生した「NS2型ロボット」のうちの一体(「ネスター10号」)が行方をくらました事件を描いた物語、、、
1台のロボットが姿をくらましたことだけであれば、大きな事件ではなかったが、実は「ネスター10号」には絶対的なルールであるはずのロボット工学の三原則の第一条に手が加えられていた(第一条のうち、「危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」が削除されている)ことから、外部に発覚させるわけにはいかず、事件の収拾のためにUSロボット&機械人間株式会社の「スーザン・キャルヴィン」及び「ピーター・ボガート」両博士が基地に向かいます。
「ネスター10号」は同型の63台のロボットの中に紛れ込んでいることが判明するが、外見上は全く区別がつかなかった… 「ネスター10号」を特定できない場合、63台全てを処分せざるを得ない状況に追い込まれるが、、、
ロボットにとって有害なガンマ線と無害な赤外線を区別できたのは、人間から教育を受けた、「ネスター10号」だったことに気付いた「キャルヴィン博士」は一芝居をうつことに… 他のロボも自分と同じ行動をするだろうと判断した痛恨のミスにより、「ネスター10号」は特定されてしまいます。
ロボットが優越感を持ってしまったが故のミス… ロボットも高度になると、心を持ち、それ故に人間と同じミスを犯してしまうんですよね。
『逃避』は、非常に高度な計算能力を有す特殊な陽電子頭脳「ブレーン」により、「マイク・ドノヴァン」と「グレゴリイ・パウエル」が宇宙に放たれる物語、、、
USロボット&機械人間株式会社のライバルである合同ロボット社からスペース=ワープ・エンジンを開発するために必要な方程式の解決について依頼が届く… 合同ロボット社にもUSロボット&機械人間株式会社と同じく思考マシンが存在したのですが、この方程式を解かせようとしたことにより、ジレンマが発生し、その陽電子頭脳がスクラップになってしまったらしく、問題の解決を依頼してきたのだった。
USロボット&機械人間株式会社では、人類初の恒星間エンジンが開発できれば、大きなアドバンテージとなることから、「ブレーン」に問題を与えることに… 「キャルヴィン博士」は、「ブレーン」が壊れてしまわないようにあらかじめ指示を与えた上、問題を解かせようとしますが、、、
「ブレーン」により簡単に問題は解決され、「ブレーン」は星間ジャンプが可能な宇宙船まで製造してしまい、試験的に乗り込んだ「ドノヴァン」と「パウエル」を、実験台として宇宙に放つ… この二人、またまた死にかけましたね。
というか、今回は、一度、死んだのかな… 結果的には、その死は一時的なものであることも証明されたようですが、ここまでロボットに暴走されると怖いですね。
『証拠』は、市長選に立候補した有能な検察官スティーヴン・バイアリイに、人間ではなくロボットではないかという疑惑が持ち上がる物語、、、
スティーヴン・バイアリイは人前で食事はおろか、飲み物する口にしたことがないことや、睡眠時間が短いことから、政敵であるフランシス・クインから、ロボットではないかと指摘される… X線を照射すれば、人間かロボットかは判明するのですが、彼が頑なに拒否したことから疑惑は深まる。
しかし、ある日スティーブンは、公衆の面前で、「自分を殴れ」と挑発する男を殴った場面を目撃される… 人間に危害を加えることは、ロボットには不可能なため、スティーブンは、人間であることが証明された、、、
しかし、ロボットが人間を殴れる可能性はゼロではなかったんです… それは、殴られた側もまた、ロボットであった場合… スティーブンが人間なのかロボットなのかは、今になっては藪の中というオチでした。
実際はロボットだったんでしょうね… きっと。
『災厄のとき』は、ブレーンの発展形であるマシンが、世界経済の管理を人間に成り代わって行うようになった時代の物語、、、
この時代、地球は四つの地区に分けられ、それぞれの経済は超陽電子頭脳マシンによって管理されていた… 四台のマシンはあらゆる要素を考慮し、最も適した経済政策を実施するはずだったが。
ロボット工学の三原則をどう解釈するかなんですけどね… 第一条の「人類に危害を加えてはならない」を守ろうとすると、経済的混乱を惹き起さないようにしないといけない、そのためにはマシンの破壊が最大の脅威、よって、マシン(自ら)を守る必要があり、自分を脅かす要因を取り除く必要がある、、、
マシンの思考回路は、そうなってしまったようですね… 必要な経済政策の実行よりも、自分を守ることが優先になってしまっているということは、人類がロボットに支配されているとも言えるような。
でも、ロボット工学の三原則がある限り、マクロ的には人類を幸せに導いてくれるのかな… 最後は哲学的な問題に突き当たっちゃいましたね、、、
単純に愉しむというよりも、現実問題として、AI導入等によるメリット/デメリット、利便性と脅威について考えさせられる作品でした… 深いですね。