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長年の奴隷解放戦争に疲弊した惑星ウェレルで、宇宙連合エクーメンの使節ソリーが祭りの日に攫われこの地の真実を垣間見る「赦しの日」をはじめ、圧倒的想像力で人種、性、身分制度に新たな問いかけをする《ハイニッシュ》世界の四つの物語。ローカス賞受賞作
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Posted by ブクログ
本書は「闇の左手」や「所有せざる人々」等と同じく〈ハイニッシュ・ユニバース〉シリーズに属し、四つの短編からなる。それぞれの短篇はゆるやかに関連をもって描かれている。 〈ハイニッシュ・ユニバース〉に世界は以下の通り。 惑星ハインに住む古代ハイン人は高度な文明を持ち、居住可能な多くの惑星に人間型...続きを読む生命種をまいて植民を行なっており、地球も植民地の一つとされている。ハイン人の文明は一度は衰退し、植民惑星の記憶も失われたが、その後、再興したハイン人たちは失われた植民惑星の探索を始め、地球を含むかつての植民惑星を発見していく。それぞれの住人は長い年月の中で独自の文化を発達させていた。そうした惑星の一つで発展した物理理論に基づいて開発された即時通信システム「アンシブル」や星間航法によって宇宙連合が結成されるが、やがて星間での戦争が勃発する。 何世紀にもわたる戦いで連合は崩壊するが、文明を再興した宇宙連合エクーメンは再び、様々な惑星に使節を送って同盟を結ぶことを試みる。(闇の左手より) 本書の舞台は、同一星系に属する惑星ウェレルとその植民星イェイオーウェイ。ここでは奴隷制に基づく階層社会が形成されている。作者はこれを例によって、文化人類学的かつ社会学的に人種や性、身分制度を描き出してる。 ただし、物語の背景に関しては文中で説明されているわけではない。本書の巻末にある「ウェレルおよびイェイオーウェイに関する覚え書き」を最初に読むことをお奨めする。といってもそれなりに難解なので、万人にお奨めできるわけではない。ル・グインのファンなら大丈夫だろう。 こうした架空の世界を描いているのだが、実際は前述の作品等でも「ジェンダー」、「東西対立」、「ベトナム戦争」などの人類の社会をを基にしている。宇宙連合エクーメンなどは、まさに国連そのものだろう。
奴隷制度と女性蔑視 階級社会 女性の束縛からの解放は、実は、現実でもそんなに古い話ではない。 例えば女性の選挙権が世界で認められたのは、先進国と言われる国々を含めても、概ね20世紀に入ってからで、日本やフランス、イタリアは大戦後ようやく始まった。 作者はアーシュラ・K・ル・グィン ジブリの映画...続きを読むでお馴染み『ゲド戦記』の作者。 かつて児童文庫として全巻読んだけど、難解で、よく映画化を決断した(不評だった)と思った。 SF……確かに「ここではないどこか」を描いているが、どこか古代オリエント遺跡の図鑑を見ているよう。 でも、次の瞬間.“今の人”をリアルに描く。女性の目線、しかも結構赤裸々な、もう童話ではない。 カタカナ文字を理解しながら読むのがタイヘンだったけど、最後の「ある女の解放」まできて、頑張って読んだ甲斐があった……少しだけと……。
これまでのシリーズで謎が多めだったハイン人の暮らしぶりや生い立ちが紐解かれた 『星を継ぐもの』のチューリアンに近いハイパーテクノロジー文明を想像してたけど、意外と土着の暮らしや風習めいたものも残ってる(た)のね、、とか エクーメンの在り方にも通じるところあり、面白い ハイニッシュユニバースシリー...続きを読むズの新作が現代でも出版されたことに感謝
赦しのタイトルの通り、相互理解と赦しが主題になっている。前提としてこの作品は「ハイニッシュサイクル」、ル・グィンの想像した世界観を前提にしているらしい。 かつて一大勢力を誇りありとあらゆる宇宙に植民を行った惑星ハイン。地球もこのハイン人たちの植民の結果起こった文明のひとつである。ハイン文明は一度滅亡...続きを読むし、もはやハイン人たちが植民したという事実すらそれぞれの星で忘れ去られるほどの長い月日が経った。その後再興したハイン文明が再度かつての植民惑星を発見し、星間戦争も経てやがては「宇宙連合エクーメン」が成立、再度様々な星に使節を送って連合の成立を試みる……という世界観。 この作品集で主な舞台になっている星もその植民惑星の一つ。「惑星ウェレル」および「イェイオーウェイ」である。ハイン人たちがウェレルに入植後、独自の文明をつくりあげ、長い時間を経過した後にウェレルからイェイオーウェイへの植民が起こった。ウェレルでは色の濃い肌の人たちが色の薄い肌の人たちを奴隷として所有してきた歴史がある。イェイオーウェイの開拓にあたり、ウェレルの諸国家は労働力として男性奴隷をイェイオーウェイに送り込み、彼らが過酷な労働で『減少』すると、『繁殖用』として女性奴隷を送り込んだ。既に男性社会が成立していたイェイオーウェイに送られた女性は「奴隷の奴隷」かの如き扱いを受け、伝統の名のもとに性奴や家畜のような扱いを受けるようになる。これらの扱いに農場の女性たちが抵抗したことをきっかけとして奴隷反乱が勃発し、主星のウェレルより先にイェイオーウェイがエクーメンと同盟を締結、のちにウェレルもエクーメンを受け入れるようになった……というのを前提にしないと話が分からない。本作では末尾にこれらウェレルおよびイェイオーウェイの歴史、文化、伝統などの詳細な設定資料が付されているため、正直こちらをざっと読んでから短編を読むことをオススメする。私はこれがなかったら話を理解できなかったと思う。 一作目は「裏切り」。かつてイェイオーウェイの奴隷反乱を英雄として崇められ、しかし度重なる不祥事で栄光が地に落ちた男アバルカムと、奴隷反乱を経て解放され、シティで学び自由を得た老女ヨスの交流の話。奴隷解放にあたって星間同盟エクーメンの援助を受けざるを得なかったこと。彼らの「指図」によって解放を「指導」されたこと。元々我らの土地であるものを取り戻すのにどうして他人からーエクーメンから土地の所有を「承認」されなければいけないのか。アバルカムが不正や裏切りを行ってでも裏切りたくなかったものはなんなのか。道着的な正しさを通すために、現実の不平等を飲み込まざるを得なかった、そしてそれに怒っていたアバルカムの姿が胸につまる。 それ以後の話もウェレルとイェイオーウェイの悲惨な奴隷制を含む現実と、その中でさえ踏みつけにされた「女性差別」の話が描かれる。奴隷たちの中ですら女性は「奴隷以下」扱いを受け、また奴隷制という表層の問題に覆い尽くされてその問題自体が見えにくくなるという二重構造に苦しめられている。 2作目のエクーメン大使ソリーは奴隷もなく女性差別もほぼない環境で教育を受けたからこそ、ウェレルの男たちからあまりにも自然に向けられる「女性差別」に愕然とする。対等な仕事相手にされない、「小さな男」かのように扱われてようやくまともな待遇を得る、ただ仕事上で意見を言い、動きやすい服を着るだけで「女がなぜ意志を持つのか?」と言わんばかりの反応を受ける。誘拐事件を経てこの星の軍人であるテーイェイオとの相互理解に至りはするが、女性差別の痕跡があまりにも生々しい。 続く3作目も歴史家の男性ハウジヴァの視点で描かれるあまりにも因習にすぎる成人の通過儀礼の描写に辟易する。「こうすれば女たちは子供の父が誰かなどと言い出さない」「処女を早く散らすことはいい事だ」などと言いながら薬を嗅がせた女児をレイプ(儀式だろうとれっきとしたレイプである)する描写はあまりにも衝撃すぎた。 その中で描かれる4作目、「ある女の解放」が私は一番好きだ。これはウェレルの女奴隷だった主人公の数奇な人生を描いている。 その家の主人のお手つきとなった母親から生まれ、奴隷でありながら真っ黒な肌を持って生まれた主人公が、何も学ぶ機会を持たないまま女主人に「使われ」、やがては奴隷解放されるも無秩序な解放によってより奴隷的な立場に落とされ男に「使われ」、やがて志ある人の助けを経て農場から脱出する。(この『使われる』というのは正直あまり詳しく記述したくないのだが、あなたが想像する一番悪い人間の『使われ』方で相違ないと思う) シティで学んだことでこれまでの自分の受けた境遇、自由の意味を知っていく変化の過程が瑞々しい。さらに彼女は自由を求めながらイェイオーウェイに向かうが、イェイオーウェイは前述の通り男性社会の威風が残り続けていて、彼女はまた女奴隷と同じような扱いを受ける。なんとかその場を脱し、前の短編で出てきたドクター・イェロンやハウジヴァと出会いながら、彼女は自分の持つ力ー文字を書き人に伝える力の無力さを嘆く。 これはまるでル・グィンの嘆きそのもののようにも感じた。世の人は文字よりも映像やホログラムの軽薄な「ニアリアル」に夢中で、文字で伝える歴史や知識の集積など何の甲斐もないというのだ。だが、ハウジヴァに「文字が無ければ世代間の知識は毎回リセットされてしまう、私たちは言葉を蓄えていかなければ」窘められたところが爽快だ。文字の無力さを実感しつつも、その伝える力を確かに信じている作者の希望のようなものを感じる。 この作品の中で主人公はセックスというものを嫌悪していた。女主人に「使われ」、ついでは男たちに使い女として浪費され、彼女の中ではレイプとセックスは同義であり、体を「使われる」ものでしかなかった。だが、ハウジヴァに「あなたのオーナーは婦人のようだ」と言われ、自分の体と自由を取り戻した上で、彼女は改めてハウジヴァと繋がりたいと願う。身体を他人につかわれるものではなく、愛する人との繋がりを求めて手を伸ばせるようになった彼女の人生の変遷があまりにも眩しくて素晴らしい。架空の星の奴隷制度を圧倒的な空想力で描きながら、一人の女が女であるがままに自由を掴み取り立ち上がる姿を鮮やかに描く本作は、現実の女性の自立と解放にもそっと手を差し伸べてくれるかのような美しさがあった。
分断の物語。性別、持つものと持たざるもの、その入れ子構造、オールドメディアとネット。ネットについては1990年代の知見ということで、先見性というべきか偏見というべきか。 『帰還』というブービートラップが大爆発して再起不能に近い傷を負わせられながらもなお読み続けているのは、ゲド戦記三部作+『風の十二...続きを読む方位』や『夜の言葉』、『闇の左手』に受けた好ましい衝撃よ再びと望んでいるからに違いない。しかし、出会えない。 『西のはての年代記』でもそうだったが、物語というより設定語りという印象が強い。本書においては各編後半には物語になるとしても、導入の設定語りがどうにもあわない。 本書に収められている四篇のうち三篇を読み終えたあとの『ある女の解放』に感じられた読みやすさは、それ以前の説明で十分に世界に慣れたためだろうと思われる。 SF的な観点で言えば、1990年代の創作に後知恵でつっこむのも野暮だが、ハードウェアを無批判に受け入れているのに対し、ネットやそこにある情報を含むソフトウェアとは反発しあっているように見えること。 このゆえか、惑星間植民を成し遂げた文明がもつであろう諸テクノロジーがアンバランスに見える。
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赦しへの四つの道
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アーシュラ K ル グィン
小尾芙佐
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