柚木麻子のレビュー一覧
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柚木麻子女史は前作の『 BUTTER 』でも強い女性を描かれていたが、今回登場する若い女性たちも、一見ひ弱そうで実は逞しかった。
昭和初期から現在まで、苦労を抱えて生きる女性たちが7編の短編に綴られている。
様々な立場の女性たちが、ユーモアを含めながら自らの道を切り開く痛快物語だ。
全編に駄目な男に対峙する女性が綴られている。
「女性が社会で仕事をするのはつらいだろうけど、男だって大変なんだよ」と思っている男性こそ、この一冊で女性の現状を知るべきだ。
登場する女性たちは、懸命に真剣に生きている。
子育て真っ盛りのシングルマザーは、一杯のワイン、一貫の握りを心ゆくまで味わうことは難しい。
女性が一人で真にリラックスして珈琲一杯を飲める場所は意外と少ない。
何気ない姑・舅の嫁への圧力等々、ジェンダーが語られる今の世の中でも女性が背負う荷は決して軽くないのだ。
そんな女性たちが、もどかしさを堂々と飛び越えて、新たな局面を自らのチカラで引き寄せる物語だ。 -
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ーだって、年寄りは次にちやほやされるのはいつかわからないんだもの。ひょっとしたら、そんな機会がないまま死んじゃうかもしれないんだもの。
正子の言葉を読んで、心にひんやりとした風が吹いた。そうか、歳を重ねていくごとに、褒められたり心配されたりすることは減っていくのか。怒られることが減るとはよく聞くが、もはや関心を持たれること自体減ってしまうとは。
そして今までやってきてもらったように、今度は自分が若者に関心を向ける番になっていくのか。
切ない。しかし言われてみれば、若者のあいだで何が流行っているかは世間で話題になるが、お年寄りのあいだで何が流行っているかは話題に上がりもしない。お年寄りに関心が向いたとしても、嘲笑が含まれていることも多い。
ならば、ちやほやされていた時に満たされていた自己顕示欲はどこへ向くのか、年とともにそんな欲自体、減っていくのか……と想像していたが、正子を見ていると、全員が全員そうでもないらしい。
自分に向けられるはずの注目が他人に向くと正子は嫉妬し、自分が注目されるととても生き生きして、それだけで表情がぐんと若返る。
まるで少女のような人だ。たくさんの人生経験を積んで大変な思いも数知れずしてきただろうが、根底にあるパワーはとてつもなく強くて、まぶしい光を放っている。
正子は壮太郎が亡くなってから、次々と驚くような行動を起こす。鎖が解き放たれたかのように、湿っぽさもなくアクセル全開で突き進むそのさまは、なんとも痛快だ。
しかし本来はそんな風な彼女を、壮太郎の何がせき止めていたのだろうか。恋に落ちて結婚しても、いつしか関係性が変わり、自分をがんじがらめに縛ってしまう元凶になるものか。正子も気づかぬうちに泥に足を取られ、毎日大人しく家で家事をこなしていくうちにそこから抜け出す方法も分からなくなってしまったのかもしれない。
一方、アクセル全開で突き進む正子は、マジカルグランマを脱した姿ではあるのだが、若い頃から時が止まっているかのように、自分の体力を過信した行動が多い。また自分の思いを叶えるために周りに迷惑をかけることも厭わないため、そばにいる杏奈や明美と同じように心配や苛立ちを覚えて、読んでいて辛い部分があった。
老人ホームで働いていたとき、似たようなお年寄りがたくさんいた。人が身近にいる人の言葉にさえ耳を貸さなくなったり、周りの目を全く気にしなくなったりしてしまうと、厄介な側面も大いにある。
単なるおばあちゃんの愉快痛快ストーリーで終始しないところに、柚木さんらしさを感じた。
どのページも文字で埋め尽くされていて、すさまじい文字数だが、正子がどんどん新たな行動を起こしていくため、中弛みすることなく最後まで読むことができた。 -
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The British Book Awards 2025を受賞した『BUTTER』(第157回直木賞候補作品)を著した柚木麻子は、最近毒を軽やかなタッチで描き出している。本作は第161回直木賞候補作品。
主人公正子は元映画女優、映画監督との結婚を機に家庭に入ったが、今では家庭内別居が続き一人で生きていくために俳優業の再開を目論む。スマートフォンのCMのおばあちゃん役を射止め順調にいくと思えたが、夫の死をきっかけに転落して行く。マスコミから叩かれ、芸能事務所との契約を解除された。夫の知り合いと名乗る若い娘杏奈との同居生活、残された家屋の売却、息子との確執を通じて、何故か生きがいを感じるようになる。
早く家を手放し都心のマンションに引っ越したい正子は、家にあるあらゆる物を杏奈の勧めでメルカリに出し、義理の父母の残した物にも手を付ける。杏奈はスマホで短篇映画を制作し、正子は新たに役者になるためにオーディションを受ける。
マジカルグランマとはステレオタイプのおばあちゃん像。『風と共に去りぬ』のマミーがマジカルニグロと知る正子。自分が目指す役者とは?
良いおばあちゃんなんて、この世には居ない。杏奈と初めて行ったディズニーランドのホーンテッドマンションを参考に、自宅をお化け屋敷にして自らが驚かせるおばけ役になる計画を立てる。奇想天外なアイディアを実行する正子ばあちゃんは、ヒラヒラと自由に生きる。
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ネタバレ料理をテーマにしたアンソロジー。
柚木麻子さん『エルゴと不倫鮨』…安定した著者の「反権力(=男性)」「女たちの結束」鉄板ネタ。安定した漫才を見ているよう。
伊吹有喜さん『夏も近づく』…一番飯が美味そうだった。柚木さんの後に「義姉から性的虐待を受ける少年」が登場するので、並びとして良い。
井上荒野さん『好好軒の犬』…文学的。悪い犬じゃないんだよ、かわいそうな犬なんだよ が無意識的な嫌味、斜めな見方。おもしろかった。
坂井希久子さん『色にいでにけり』…金平糖の着色や和菓子の着色。江戸時代の話。粋。
中村航さん『味のわからない男』…こういう芸能人、いそう。リアル。
深緑野分さん『福神漬』…表現がうまい。そして後の作品『どっしりふわふわ』にもなんとなくつながっていくのだが、主人公の「私」が男なのか女なのか判然としないまま終わる。それもうまいな、と。
柴田よしきさん『どっしりふわふわ』…前半部分、悩める50手前の女主人公に、感情移入。パンの描写もうまい。だがオチはいまいち、だと思う。同性愛者である必然性が、まったく無い。単純に同性愛者を「オチのネタ」として使うのは、驚きを起こすには技術としてアリ、だが、テクニカルすぎて興ざめ。
☆気になった表現
私が小説なんて書くようになったら、妻である部分は少なからず損なわれるはずだ。
時に飢えるほどの貧乏暮らしだったという少年時代を持つ光一郎は、今は自分が稼いだお金でたべたいものを食べられる、という現実と時々うまく折り合えなくなる。
『好好軒の犬』井上荒野
見事だった本棚はがらんどうとなり、お腹を空かせて恨めしそうに私を見た。
『福神漬』深緑野分 -
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最近お気に入りの女性作家に感じる強いフェミニズム。小説で出されると抵抗があって引っかかることが多かったんだけど、やっぱりその風潮あるよね?と納得のエッセイ。
最低限はこなせてるんだからいいじゃん、あとは枝葉だよ、の回が好きだった。
完璧主義をやめた方がいいよ。って言われるたび、やめ方もセットで教えてくれよ!って憤ってたけど、この考え方ができるようになってから楽になった気がする。
今でも怒られたくないから(31歳)できる限りの対応はするけど、落ち込んだ時に「これだけはちゃんとできてるんだから既に完璧だぜ」と思えるようになってきた。
冒頭にも書いてあったけど、頑張りたい!、できない…、ダメだぁ、でもまあヨシ!の繰り返し。そうやって少しずつ人生って進むんだねぇ。
ところで最後の映画はなんだったんだろう。怪獣のやつかな。 -
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ネタバレ「楽できるならそれを恥じずに環境に感謝してどんどん先に行った方がいいし、その分、人を助けたらいいよ。便利で新しいものもためらいなく取り入れる方がいいと思うよ」
私はずっと楽することに罪悪感を感じていました。環境に感謝するという考えは今まで持ったことがありませんでした。目から鱗でした。
ただ楽をするだけでなく、楽してできた時間を人助けで還元する。それなら楽することは罪と思わなくなるのかもしれないと思いました。
私は便利で新しいものを取り入れるのも慎重になり過ぎる傾向がありますが、便利なものはどんどん使っちゃえと思って、躊躇なく取り入れられるようになりたいと思いました。 -
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『あいにくあんたのためじゃない』に通じる短編集で、この中では「渚ホテルで会いましょう」の腹黒さが個人的には一番面白かった。
だけどそれ以外の作品に関しては、残念ながら著者の意匠が空回りしているように感じられる。特に菊池寛の名前が出てくる2作と解説は、正直ナニコレ?って印象で、読んでいるこちらが恥ずかしくなるほど派手にスベっているのではなかろうか。そこまで文春に忖度しないともう載せてくれないのかよと一瞬訝しんだけど、さすがにそんなことはないか。
これを独立した短編集に入れる意図もよく分からず、どうせだったらそっち系の作品で揃えれば良かったのにと思った。