【感想・ネタバレ】さらさら流るのレビュー

あらすじ

28歳の井出菫は、かつての恋人に撮られた自分のヌード写真をネットで偶然発見する。親友の百合や家族、弁護士の助けもあり、写真を消去するために動きながら、菫は元恋人・光晴との日々や彼自身を思い起こす。彼と一緒にいたとき、私が私でなくなるような感覚にいつも陥っていた……。ひとりの女性の懊悩と不安をすくいとりながら、一歩ずつ自分の身体を取り戻す姿を描いた会心作。

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Posted by ブクログ

自分が選んだにも関わらず、期待感が薄かったり、序盤の展開に物足りなさを感じるが、中盤から徐々に「やっぱ選んで間違いなかったな」と思わせられる作品ほど心震わされる。

に加え、内容的にもおそらくほとんどの皆スルーする大衆向きでない作品。それこそが我が至高といえる。基本的に明るいのは描かないよな柚木麻子。そこが好き。(個人的には必ずしもハッピーエンドで終わんなくたっていいんじゃないかともちょっと思う、個人的に。)

作品の内容は暗い。ただし、主人公家族の一風変わった吹き回しが救い。真に風通しが良いとはこういった会社、ではなく家庭だろう。また、加害側のもう一人の主人公光晴の名前に「光」の字が入っている当てつけ感。「名は体を表す」とはいうけれど、名前負けしている陰キャといえるというか狙ってるなこれは。

柚木麻子の作品においてカサブタは非常に特別な装置なんだと改めて思う。今まで読んだ作品においても、できたカサブタを無視できずに剥がそうとしてしまう堪え症の無さが人物の人となりを表す描写として意図的に差し込まれている、と思う。これは自分自身もやっちゃいけないこととわかっていてもやめられない癖として、意識的に意識してしまう。

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2025年01月28日

Posted by ブクログ

主人公の優しさや真っ直ぐさが意図しない出来事が起きてしまう。
読み終えて主人公の強さには惹かれましたが、主人公を傷つけた人達に対してはなんだかな…でした。
それを甘えやちょっとした出来心と言うにはちょっと許せなくて。
優しい人から優しさを奪わないで欲しい。
反省されても主人公が追い詰められた出来事は消えないんだよな、と。
そう思ってしまうのは私には主人公のような強さが無いからなのかな。

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2024年11月30日

Posted by ブクログ

柚月麻子さんは心の中の言葉にした事のない感情をきちんと掬い上げて、表現することが本当に上手な作家さんだと改めて感じさせられました。

暖かく、心理的安全性の高い家庭で育った菫と、真逆の光晴の2人のおはなし。

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2023年05月07日

Posted by ブクログ

人の弱さと強さの両面を改めて感じる作品。
自分の裸の写真が出回ってしまった主人公とその周りの人達のその後のストーリーを描く。
周りの支えを受けて、次第に力強く立ち直っていく、変わっていく主人公。
その姿を応援するような気持ちで読み進め、読み終えた時には、雨上がりの晴れ間のような気持ちになった。

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2022年09月08日

Posted by ブクログ

前情報なして読み始めて「お散歩ほのぼの恋愛小説かな?」と思ったのも束の間、柚月麻子先生がそのような作品を書くわけもなく…(好き)

過去の恋人に撮られた裸の写真の流出と、周りの協力を得ながらそこから這い上がる主人公菫。リベンジポルノというかなり重い題材ではあるが、登場人物が少しずつ自分や自分の周りの人と重なるのがさすが柚月先生だなと思った。

「今回は写真の流出という形で表に出ただけで、根っこにあるのは「女をモノ扱いする男」という問題です」というのがいろんな人の視点を通じて描かれていて、そうなんだよな〜と。それを小学生の祐の台詞として表面化させたりするのが良かった。

光晴がコテンパンに罰を受けるシンプルな勧善懲悪ではないところが物足りないみたいな感想もあったけど、そもそも社会の問題や、家庭の問題や、いろいろな原因があっての結果なので勧善懲悪しちゃったら途端に薄っぺらくなるからこれでいいと思う。

菫が「自分の中にもともと強い部分があったんだ」っていう結論に辿り着けるのすごくかっこよくて好きだった。百合との信頼関係も、元々あるのにさらに深まっていくのが良かった。

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2022年08月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

よかった。
元彼が、ミソジニーから抜けきれてなくて、無意識でごりっごりの性差別しながら、悪いことを悪いことだと受け止めきれずにいて、その立場から見た世界の描写が秀逸だなと思った。
本当に酷くて取り返しのつかないことをしたのに、いつまでも自分ごととして受け止めきれない元彼の呑気さに腹が立った。実際こういうものなのだろうか。
また、性被害に遭って男性が怖くなったり全てがしんどくなったりしている主人公の心情や行動もとても共感できるもので、読んでいて辛くなったし、でもこれを描く物語があったことに救いを感じた。
また、性被害の加害者が、昔はかけがえのない大切な相手であった事、それと被害の落差がものすごく鮮明に表現されていて、残酷で鮮やかだった。
最後、主人公は自分の身体を主体的に表現することによって、自尊心を回復させる。描かれる、撮られる、見られる、といった客体になる事が女性は多いけれど、ただ男を喜ばせるための受動的な存在ではないのだ、というメッセージが主人公と百合の決断や行動から出ていてそうだよなあと思った。
主人公は最初から最後まで客体化されているという事に変わりはないけれど、撮る(描く)側と撮られる(描かれる)側の間に同意や尊重があるかという事でここまで違うのか,と思った。

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2022年04月04日

Posted by ブクログ

久しぶりに一気読みしてしまった。そもそも暗渠に目をつけたの「おお…!」ってなるし、冒頭暗渠巡りのシーンから「うわぁ…すごい…めっちゃ好き…」ってなってた(語彙力ないな)話の要所に暗渠、川、海で人物とか状況を象徴するのシンプルに天才かと思う…そして各人の人間味がいい、そんでもって情景描写が良すぎた。読んでて何回もため息でた。「ナイルパーチの女子会」は読んだけど、柚木麻子の他の本も読もうと思った。本屋であらすじ読んだだけではおそらく読んでないから、この本を薦めてくれたY氏に感謝。

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2022年02月15日

Posted by ブクログ

相変わらず
細やかな情景を空想しながら読み進め次の展開が気になって仕方なくなる大好きな柚木さんの作法。
東京が暗渠だらけということも初めて知って
興味深く色々調べたくなった

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2021年11月29日

Posted by ブクログ

取り扱いにくいリベンジポルノの話
だけど、わりと爽やかに読めた。
「暗渠」って言葉をはじめて知った。

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2025年09月10日

Posted by ブクログ

散歩する軽い感じの話かと思ったら間違い!
柚月さんの本は、まったく安心して読めない。社会的な題材も、彼との関係も、ずっとはらはらして好き!

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2024年05月15日

Posted by ブクログ

過去に恋人と撮った写真が流出した女性が、問題に立ち向かい前に進んでいくお話。
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被害者がたくさんの時間とお金を犠牲にして削除依頼しなきゃいけないシステム。潔癖で主人公の菫を罵る先輩。自分がばら撒いた犯人なのに犯罪意識のない男どもとネット民。読んでいてモヤモヤ...やるせない気持ちがずーっとありました。
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薫とその家族や友人はものすごくいい人達で、うらやましい。少しずつ薫自身のペースで自分自身を取り戻せているのは家族や友人のおかげだと思う。

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2024年01月11日

Posted by ブクログ

自分自身の強さや弱さが好きになれなくても、自分自身を作り上げている性格の一部で、その部分と向き合い、「許す」という形で受け入れる登場人物は、人として強く感じられ引き寄せられる清々しさがあった。

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2022年10月22日

Posted by ブクログ

いい本!心情が複雑なのは柚木麻子さんの本の面白いところ!すみれちゃんかっこいい。
光晴も最後自分の思いを家族に言えてる。リベンジポルノは良くないけどみんなすごい成長してて、こうやって辛いことを乗り越えていきたい

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2022年09月12日

Posted by ブクログ

リベンジポルノ問題を取り扱った物語

タイトルや冒頭の恋の予感を感じさせる始まりから想像するさわやかさとは反対に、気持ちが結構重くなるものが描かれている


コーヒーチェーン店会社の広告部署で働く30歳手前の菫は、自分の裸の写真がネットにアップされているサイトを偶然発見する
元彼に乞われて撮られた事はあるが、その場で消してもらったはずの写真
彼との馴れ初めは、大学の飲み会で渋谷から暗渠を辿って自宅まで同行したことから
当時の回想と今起こっている事への対応が交互に描かれる中で明らかになる二人の関係性の変遷と事件の真相
そして菫がとった行動……

主な登場人物は少ない
元彼の光晴
母の亜希子、父の井手さん、弟の幹夫
高校の美術部からの親友で、芸大を経て高校の美術教師の百合


自分の裸が知らない人たちの間で評価され共有されている事を嫌悪し戸惑う菫
元彼を疑いたくない気持ちと共に、もう会いたくないという感情
自らが普通ではない状況にいることを自覚しながら、いつも通りに振る舞おうと取り繕う

温かい家庭でまっすぐに育って常に自然体でいられる菫に対し、義母との複雑な家庭環境で屈折して育った光晴が対比されている
自称複雑な家庭で育った光晴に多少の同情は感じるが、身勝手な自己弁護や浅はかさ、酒との付き合い方には嫌悪感を覚える
結局は原因を他人になすりつけてきた人生の責任をとってないだけに思っていまう

マンガ「彼氏彼女の事情」を思い浮かべてしまった
あっちでも暖かな家庭で育った雪乃と複雑な生い立ちの有馬という組み合わせだし、有馬は違った意味で拗らせた感情を持っていたけれども、結末はまったく違うものですね




このケースは厳密にはリベンジポルノではないかもしれないけど、独善的な所有欲というのはあるでしょうね
そもそもの問題は、彼氏のそんな提案を断れない関係性であって、そんな関係性を築いてしまった事やそんな人間と付き合ってしまったという過失もあるのではなかろうか
ま、そこに原因はあっても責任はないですけどね

そして先輩社員の坂咲
被害者への追い打ちというか、二次被害ですよね……
同性に限らず、自己責任論をかざす輩はいるでしょうねぇ……


そんな人達にとっては、菫のとった選択も意味がわからないというか、「やっぱりそんな人なんじゃん」と思ってしまいそう
だけど、その選択が文学っぽく思う
拡散してしまったものは完全に消すことはできない
だから「自分の体を取り戻す」というのが回復の方法なのですね

最近何かと話題のAVに関する法改正について
同意して自らの意思で行っている人もいて、そこに自信をもっているというのが矛盾しない状況もありえるわけで
全面的に一律で禁止という案に一石投じてるのだろうか?

造り手の視点、見る人の視点によって対象の意義が変わるというのも表しているのかね?
義母が光晴の視線を嗜める行為と両者の認識の相違、ポルノサイトの画像と百合の作品の違い
明確な基準は決められないでしょうけど、多数に受け入れられる基準は決めなければいけないのでしょうねぇ

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2022年06月07日

Posted by ブクログ

あなたは、『さあ、見て、と言うように、軽く手を広げ、何も身につけない身体を差し出している』というあなた自身の写真を偶然にもネット上に見つけたとしたらどう思うでしょうか?

『人気モデルの問題写真が流出』、といったニュースがネット上を駆け巡る今の世の中。かつて『ボーイフレンドや女友達と水着姿で浜辺ではしゃいでいるただのスナップ』として撮った写真が、まさかの後の世に、その人に社会的制裁を加えるかのような事態の起点となってしまうことが往々にして起こりうる現代社会。私たちが日々生きていくのも常に緊張感と隣り合わせでなければいけないと考えると、なんとも窮屈なものです。

仲の良い者どおし、何気なく撮りあった写真、それがその後の人生にまさかの影を落とすことになろうとは誰も思いはしないでしょう。大好きな恋人に『離れている間も、菫の裸を見たいんだよ。お守りみたいに大事にする』と言われれば関係性によっては心が一瞬なりとも揺らぐ感情が生まれることだってあるかもしれません。しかし、まさか、そんな行為が『自分はそんなにも愚かだったのだろうか。あの男を信じたことは、こんな罰がふさわしいほどの過ちなのだろうか』と、悔いる未来へと繋がるとは思いもしないでしょう。一方で、そんな行為を、結果論から『どうしてそんな莫迦なことしたの?』と一刀両断する気持ちもわかります。今の世の中、情報が伝達するスピード、そして伝達する範囲は想像を絶するものがあります。しかし、だからといって一概にそんな写真を撮らせた人物を非難できるものでしょうか?そんな人物は非難されるに値する人物なのでしょうか?

この作品は、『彼は確かに生涯を通じてのパートナーだった』という彼に撮られた写真をネット上に見ることになった女性の物語。『こうしている今もあの画像がどんどん拡散され、世界に流れ出し』ていくことに恐怖する一人の女性の物語。そして、それはそんな女性が『私、自分の裸を取り戻したいの』と再び歩みを始める瞬間を目にする物語です。

『せっかくなら川を辿って、歩いて帰らない? 介抱してくれたお礼にうちまで送らせてよ』と急に言われ目を丸くするのは主人公の井出菫(いで すみれ)。『この川のずっとずっと上流が玉川上水と繫がってるはず』と、京王線沿線にある我が家まで渋谷駅の地下を流れている川が繋がっているという垂井光晴の説明に聞き入る菫。そんな光晴は『暗渠(あんきょ)ってわかる?』とたくさんの川が蓋をされてきた歴史を語ります。大学の『東京名所探求会』の飲み会に参加していた二人。『居酒屋の男女兼用のトイレで吐いてしまった彼をみんなで介抱し』てあげた数十分前のことを思い出す菫は、既に自宅には連絡済み。しかし、『午前まで繁華街に居たことなどないから』不安な面持ちで、すっかり回復した彼と歩きます。『光晴くんのことが気になっている』という菫は、光晴との会話を楽しみながら歩みを進めます。『泊まってうちの家族に会っていってよ』と誘うものの『いや、常識的に考えて、まだ会ったこともないのに、そこまで甘えられないよ』などと話している内に、『はい、渋谷川の支流、宇田川に会えました!』と光晴が説明するポイントまで到達しました。そして、その場でしばし佇む二人。場面は変わり、『ポスターに起用する予定の、十九歳の人気モデルの問題写真が流出したらしい』という話を小耳に挟み、『芸能人に限らず、あらゆる隠し撮りや流出画像を無差別に集めた場所』でその真意を確認する菫は、二十八歳。『大手コーヒーチェーン』の『広報部宣伝課』に勤めています。件の写真が大したものではないことを確認し『今は騒いでいても、みんなすぐに忘れていってしまいますよ』と『明日の朝、宣伝課の篠田課長に伝えよう』と思う菫。しかし、そんなサイトをスクロールすることが止められなくなった菫は、サイト内に大量に存在する写真を見て『彼女たちはこんなところに自分の裸体が晒されていることを知っているのだろうか』と考え込みます。『その時、なんの前触れもなく、よく知った瞳とぶつかった』という菫。『それがいつ撮られたもので、誰にどう乞われ、その時、どんなことを感じていたか。どんな気持ちでカメラに笑顔を向けたか』が、『すぐにわかった』という菫。そこには『こちらを見つめている』自分自身の姿がありました。『さあ、見て、と言うように、軽く手を広げ、何も身につけない身体を差し出している』目の前の菫。『控えめな大きさの、離れた乳房』、『陰毛がふさふさ濃く、下腹部の広範囲を覆っている』というその姿は『今も毎日、トイレや浴室で、目にしているもの』です。一方、そんな姿形を『揶揄する見知らぬ誰かのコメント』が目に入り『反射的にパソコンを閉じた』菫は『彼と別れた年だから、たぶん二十二歳の時のものだ』と思います。新鮮な空気を吸いたくて外に出た菫は立ちすくみます。『この足の下には、隠れた水の流れがある』と『暗渠』の上を歩いた過去を思い出す菫は『十八歳の春、人生で最初に、それを菫に教えたのは、あの男だった』と思い出します。そんな菫が、ネット上に流出した自らの裸体写真の存在に苦しむ姿が描かれていきます。

「さらさら流る」というこの作品。作品冒頭に東京都渋谷区の地図がまず掲載されています。その見出しに書かれた言葉は『暗渠MAP』。『蓋をしたり、埋設してある川とか水路』を指すという『暗渠』という言葉。『東京オリンピック前に、街の景観を整えるために、たくさんの川』が『暗渠』にされたということが物語の冒頭で垂井光晴の口から語られます。渋谷という街は行ったことのある方ならお分かりの通り、はっきりとした谷底です。一方で古今東西、そんな谷には川が流れているものですが、その谷底にあたる渋谷駅の周りには川を見ることができません。しかし、それは存在しないのではなく、光晴の説明通り、蓋をされ今やすっかり地下に埋設されてしまって『暗渠』となった『渋谷川』、『宇田川』の上に私たちの暮らしがあります。そんな普段意識することのない『暗渠』を辿っていくという物語冒頭は、土地勘のない読者には若干の苦読を強いる部分です。この辺りの言葉や雰囲気感はまさしくNHKで放送されている”ブラタモリ”の感覚です。『今は地下で裏原宿を流れている川が、どこかで明治通りをくぐって、宮下公園の方に下って』、『そもそも、渋谷川って、新宿御苑が源流なんだよね』、そして『玉川上水はあくまで水道だから、厳密にいえば川じゃないけどね』といった表現が頻出する物語は、好きな人にはたまらない話題なのかもしれませんが、渋谷を知らないわけではない私でも、少し食傷気味。すっかり集中力が落ちてしまって、柚木さんの作品の読書では初めて流し読みをしてしまいました(苦笑)。

そんな物語は、それから六年の歳月が経過し、大手コーヒーチェーンの広報部に勤務する今の菫に場面が移り、かつ数多の裸体写真が掲出されているサイトの中に『こちらを見つめている』自分の姿を見つけるという衝撃的な場面の登場で一気に緊迫感を帯びてきます。あなたは、自らの無防備な姿が自身の認識に全くない形でネット上に晒されていることを知ったとしたらどう思うでしょうか?改めて言うまでもなくネット上の空間は世界に繋がっています。認証を求められない限り、誰もが自由にそこにあるものを見、自分のものとすることも可能です。そんな空間に出てしまった瞬間に『光晴にだけさらした肌も乳房も、ただの観賞物として消費されて』しまうだけです。また、『全部消せるのはいつかわからないし、そもそも全部消せるかわかりません』というのが現実であり、一度流出してしまうと取り返しのつかない現実が待っています。

『「性被害に遭った女の子がどう立ち直るか」というテーマを、じっくり書きたかった』と語る柚木麻子さん。そんな柚木さんがこの作品の中で取り上げられたのが物語中、親身に相談に乗ってくれる坂咲という女性が写真流出のことを相談されて『井出さんがそんな写真を誰かに撮らせるような人には思えなかったから。どうしてそんな莫迦なことしたの?』と語った言葉の先にある考え方でした。『写真を流出された被害者にも落ち度があったのではないか』というその発想。世の中で何かしらの事件が起こると、その被害者の責任を追求しようとする声が起こりがちです。この物語の坂咲も決して菫のことを突き放すようなタイプではありません。しかし、この問題では上記の通り、菫のことを慮るよりも前に『撮らせたのはあなたなわけだし』と、菫の落ち度を責めます。このことについて『自分や家族、親友には絶対に起こらない問題だと信じたい思いがあるのでは』ないかと続ける柚木さんは、『だからこそ被害者の落ち度を探してしまうのではないでしょうか』とまとめられます。本来、辛く悲しい思いをしている被害者をさらに鞭打つ感覚、それは私たちが被害者を一種見下す思いの先に、何かしらそんな被害者との間に一線を引こうとする感覚から生まれてきているようにも思います。私自身を振り返っても、日常のニュース報道等で、第三者的に被害者に対して冷たい視線を送る感覚を感じることがあります。犯罪被害者が向き合わなければならないのは、そんな無数の非難の目、『なんの落ち度もない彼女が、浅ましい存在として徹底的に貶められ』てしまうという厳しい現実を改めて怖いと感じました。

そんな物語は、実は写真を流出させられた菫視点だけの物語ではありません。『自分だけが知っているはずの彼女の真実が、あらゆる人間に共有されていた』と、まさかの写真流出の事実を知らされた光晴にも視点が移動します。さらには、過去と現在、つまり、『暗渠』を巡って深夜の渋谷の街から自宅へと二人で歩く過去の菫と光晴の姿にも場面は繰り返し移動します。そう、過去の菫と光晴、今の光晴、そして今の菫という三つの視点が次々に切り替わりながら物語は進んで行きます。物語冒頭に『暗渠』巡りで集中力を欠いた方も、間違いなくこの凝った展開に集中力を一気に取り戻す、それがこの作品の魅力です。そんな物語に込められた強い思いを柚木さんはこんな風に語られます。『被害に遭った方には「自分を責めないでほしい」という気持ちはとても強くある』。しかし、その考えを押し付けたくはないと語る柚木さん。『何かしら心に残ったり、時間を置いてでもこの作品に込められたものが届いたりしたらいいな』と続ける柚木さんの強い思いがこめられたこの作品。ネット上への意図せぬプライベート写真の流出といった次元を超えた深い物語がここには描かれていました。

『誰にも知られたくない一瞬が、世界中で見られるアルバムに記録され、未来永劫、菫を責め続ける』という厳しい現実を前に立ちすくんでしまった菫のそれからが描かれていくこの作品。そんな菫が葛藤の中から『私、自分の裸を取り戻したいの』という思いへと一歩ずつ歩みを進めていく様を見るこの作品。『暗渠』という存在を物語世界に重層的に重ね合わせながら、主人公たちの心の在りようを映し取っていくこの作品。

『私は誰かを、世界を、自分を信頼するということを、決してあきらめない』。

再び前を向いて力強く宣言する菫の眼差しを感じるこの作品。ネット社会の怖さを改めて感じるとともに、人が再び立ち上がっていく姿の力強さ、美しさ、そして尊さに心囚われた、そんな作品でした。

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2022年02月09日

Posted by ブクログ

あらすじから、主人公の奮闘記になるのかと思っていましたが、そこまでではなく自らの画像が消されるまでの心情を描いている物語でした。しかし画像を見つけた時のショックや元カレの男に対する思いの変化、さらにその男側からの視点やそこから現れる男の複雑な過去も描かれていて、面白かったです。特にもこの物語を印象づけたのが、主人公の友人の存在だと思います。あまりにも正論が強く、個人的には少し「うっ」と拒絶反応が出かけてしまう程でもありましたが、これほど強烈な正義感と友達を思うからこその言動が主人公の行動、さらにはこの物語全体の推進力になっているなと感じました。扱う題材としてはややデリケートなことかもしれませんが、それでも周りとうまく相談し解決へと行動する女性の姿を表現している小説と思います。

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2021年11月28日

Posted by ブクログ

元恋人が撮ったヌード写真がネットに流出
どんな風になっていくのかとはらはらしたが、落ち着くところに着地でよかった。
途中、誰が主人公に悪意を持っていたのが怖かった。

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2025年06月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

純粋で優しい心の女の子がネットに裸を晒されてしまう。自分の娘がそんな経験をしないかとても心配になった。彼氏の弱さや暗さがイラッとさせる。

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2025年04月26日

Posted by ブクログ

光晴くんていったい。。。
菫の光晴との4年間を失敗と思いたくないって気持ちは分かるけど
やっぱりネットに晒すやつはサイテー。
お金掛けて削除しなきゃいけないのか〜。
理不尽だ。

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2024年11月12日

Posted by ブクログ

裸をネットに晒された女性の話
女が悪いて感想もあったけど、二人ならそんなこともあるだろ

女の家庭が幸せそうで、晒した男がそうじゃなさそうで、報われない

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2024年10月10日

Posted by ブクログ

もうちょい晴れやかな気持ちになる本を期待してた…

思ってたより重くてなかなか読み進められなかった。

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2024年06月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み終えるのに時間がかかった。爽やかな装丁とは全く違った、重い内容でシリアスな話だった。
たった1枚の写真で、人の人生は簡単に崩れるものなのだとわかった。私だったら、自分の写真をネットで見つけてしまっても怖くて見て見ぬふりをするだろうが、きちんと向き合った菫はとても強いと思う。
最後まで読んでも光晴のことが許せなかった。百合の作品をコソコソ見に行ったもの気に入らないし、いつまでも菫の姿を追い求めているのが気持ち悪いと思った。

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2024年04月14日

Posted by ブクログ

悪くは無かったんだけどモヤモヤとした感情が残る読後感だった。

長い事インターネットとは付き合ってきてるけど、そのお手軽な軽薄さはやっぱり問題も孕んでる。

まぁ対象が広大すぎて杞憂の本人が気にするほどのこっちゃないって事もある。

んでもやっぱり気にはなっちゃうわけで。こういう物語が成立するのだけど。

あと筋書き上仕方ないんだけど、女性側がキレイ過ぎて男性側が汚すぎるのもモヤる原因の一つだったかも。

もっとフラットに普通の人にも起こるんだという方が真に迫ってきたように思うんだな。すぐそこにインターネットがあるように。

とはいえ筆者の文体結構好きなので他の作品も読んでみたくは思った次第。

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2024年03月13日

Posted by ブクログ

主役や恋人の心理に、深く突っ込みそうであまり深く突っ込まないんだなーと。
頼れる両親がいる菫のことがうらやましかった。

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2023年08月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

かつて高校生だった頃に読んだ作品。
当時は坂咲さんの目線でしか読めませんでした。
「こんなの撮る方が悪い」ではなく、じゃあとらせなければ良いじゃんと思ってました。
菫と光晴の感じ方が違いすぎて苦しいですね…。
女と男だからこうも違うんだとばかり思っていましたが、どうやらそんなことはなさそうです。
庭環境、考え方の違いでこんなにも違うものなのかと…。
メインはリベンジポルノですが、酒癖の悪さも関係してると思います。結末はさらさないでほしいものが勝手に流出するのと芸術として本人の同意を得て描かれるのは全く違うよと言いたいのかなと解釈しました。

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2023年06月17日

Posted by ブクログ

昔の恋人に撮られた裸の写真をネットで晒され、闘う女性の話。
ひどすぎる。あり得ない。
菫に、何でも話せる親友と、全てを受け入れて守ってくれる家族がいてくれて、よかった。
少しずつ自分の生活や気持ちを取り戻そうとする菫が素敵。

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2023年02月05日

Posted by ブクログ

リベンジポルノか?!が題材でそこは時代にマッチしたテーマだと思ったし興味深かった。でも、私には誰にも共感できなかったのはちょっと辛かった。なんでだろ?等々力渓谷にはいってみたいと思いました!

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2022年05月11日

Posted by ブクログ

都会で自然を感じるのが好きなので、暗渠を2人が辿って行くシーンは、ワクワクしました!そのままだったら、タイトル通りで良かったのにね…現実にもあり得そうなカップル問題…。本当に起こってそうで読みながら、なんだかモヤモヤしてしまいました!気をつけなはれや!

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2022年05月11日

Posted by ブクログ

とにかく光晴の性格がつらかった。不安定で、菫に対する態度に苛つく部分が多かった。



菫の家族や友達はみんな素敵で、こんな人たちと過ごせる菫はうらやましい。

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2022年01月21日

Posted by ブクログ

自由な家族の中で、幸せに囲まれて育った菫は人を疑うことを知らなかった。家庭環境が恵まれてない光晴にとって、憧れの存在であると同時に、羨む存在でもあり嫉妬の対象でもあり、不平等への不満が湧いてくる相手だったんだろう。

一緒の時間を過ごせば過ごすほど、光晴は幸せな環境にいる菫の無自覚さに腹が立っていたのかも。それがヌード写真を軽く扱ってしまったことにつながってしまったんだと思う。

ヌードモデルになることで、自分の裸が再定義される。菫が自分を拾い集める気持ちになるのはなんかわかる気がする。

東京の街を思い浮かべながら読めます。

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2022年07月06日

購入済み

じっくり時間をかけて

最初から最後まで何一つ共感できなかったけど、主人公をとりまく環境(家族や友人)はとても素敵だなと感じた。

とくに起伏なくたんたんとすすんでいく物語なので、退屈と感じる人もいるかもしれないけど、私はわりと好きな部類。

でも、一気読みできるほどの面白みにはかけてるかも。

時間がある時にゆっくり読みすすめる本かな。

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2020年09月28日

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