柚木麻子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
2026.48
小説は時代をうつすと聞いたことがあるけど
この作品を読んで本当にそうだなと思った
過去であり現在であり未来だった
第5章の散りばめられた言葉たちが
小さな炎のように見えた
いいなあ、今読んで良かったなあ
====
P75 「私、怖いんですよ、もし、動けなくなったら、私どうなるんだろう」
P155 「大丈夫だよ。オール・ノットの真珠にすれば。あんたみたいながさつな子も。これは絶対に切れない、そういうつなぎ方をしているんだよ」〜「え、オール・ノットって、全部ダメだって意味じゃなかったつけ?」「それはall not だよ。このつなぎ方はall knot ね。あとall notは全部ダメって意味もあるけど、全部ダメってわけでもない、っていう意味もあるんだよ。そうだよ。全部ダメってわけじゃないんだよ。なにごとも」
P276 今年で四十歳になった。奨学金はあと半年で返し終わる。近隣諸国との関係悪化から防衛費が増大した分、文教および科学振興費は激減している。少子高齢化の影響もあって、大学が次々に廃校して全人時代がやってきたものの、授業料無償化には未だ至っていない。
P295 自分が同じ立場になったからわかる。下の世代が自分よりさらにひどい苦境に立たされているのを見ると、腹の底から湧いてくる感情は、憐れみではない。この国への怒りなのだ。 -
Posted by ブクログ
恵泉女学園創立者の河井道を主人公に、明治期以降、日本の女性の地位向上に奮闘した人々を描く大河小説。
明治期、まだ女性は「家」に従属するものであり、独立した「個」とは見做されていなかった。
個人の夢なんかより「奥様」になり子をなすことを要請する日本社会に抗い、女子の自立を目指した津田梅子が主宰した女子英学塾。
そこから、主人公の河井道をはじめ多くの女性が、日本の女性の地位向上のために立ち上がっていく。
新渡戸稲造、津田梅子に始まって、平塚らいてうや山川菊栄、市川房枝…などなど、歴史で習った有名人が出るわ出るわ。
こんなにも多くの人たちが、それぞれにできるやり方で世の中を変えようと奮闘してきたのかと、頭が下がる思いになる。
主人公の河井道は、キリスト教の「シェアの精神」を体現した人物で、自らの善意は惜しみなく分け与えるとともに、他人の善意も有り難く受け取る。そうやって、感謝の輪が広がり、活動の輪が広がっていく姿は、まさに河井道が若き日に留学先のブリンマー大で見たランタンの継承そのもののようだ。
小説の組み方も、過剰な装飾はしない。ただただ、河井道ら、多くの登場人物の生き様がもう重厚なドラマなのである。とはいえ、それを引き立てるためのちょっとした仕掛け(随所で形を変えて登場する"暗闇"は旧時代の象徴だろうし、ちょっと可哀想な描かれ方をしている徳富蘆花や有島武郎は分かりやすい対比)を散りばめているところに、著者のうまさを感じた。
700ページを読み切ったとき、河井道ら、この激動の時代を戦い抜いた彼女たち自身が希望の灯となり、その灯が次から次へと広がって、暗闇を明るく照らし出す……そんな情景が自然と心に浮かんだ。
教育の重さを改めて感じ、少なくとも我が子の親としての自分の責任を感じて背筋を正す思いだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ津田梅子から戦後まで、連綿と続くシスターフッドの物語。
メインは、恵泉女学園の創始者、河井道と教え子の一色ゆり。
解説は村岡恵里で、もしやと思ったら村岡花子の義理の孫だった。
明治~昭和まで、活躍した女性たちがたくさん登場するが、みんなそれぞれに考えがあり、決して一枚岩ではない。
それでも、女性の地位向上のためにゆる~く連帯する様子がシスターフッドなのか。
しかし、登場する男性は総じてクズばかり。
まともな男が、ゆりの夫の一色乕児しかいない。
あ、新渡戸稲造も良い男に描かれていた。
有島武郎に至っては、相当ひどい書かれようである。
その有島が、道の心の闇を照らす亡霊として、死後も登場し続けるのもまた興味深い。
それにしても、明治の頃から日本の男は、若い女性が楽しそうにしているのが気に入らないんだな……。
「女が死なないとドラマにならない」って、なんだそりゃ。 -
Posted by ブクログ
短編小説集
全編共通したテーマとしては、女性の自立でしょうか
まぁ、例外的な作もあるけれども
大体は柚木麻子さんのいつも通りのテイストなシスターフッドの物語
・Come Come Kan!!
新人賞を受賞したものの、次作について編集者からダメ出しされ続けて、掲載されない新人作家の覚子
そんな彼女は打ち合わせが行われていた文藝春秋のサロンにある菊池寛の像に話しかけられる
そこで語られる菊池寛の思いとアドバイス
文藝春秋は菊池寛が始めた会社だとか、芥川賞と直木賞は菊池寛が始めたとか、サロンも昔ながらの文豪同士の交流の場として作られたとかの情報は知ってる
「オール讀物」も、どんな人でも発言できる場としての雑誌なのに
最近は格調を編集者が気にするようになったという嘆き
個人的には、どんな雑誌であれ路線は少しずつでも変わっていくものだし、そこはしょうがないのでは?と思うけどね
新人作家のムーブと言えば「私にふさわしいホテル」を思い出すけど
あっちよりは今作の人たちはまとも
別の新人作家のアヤメが傷ついた建売住宅
どの家も想定する家族があって、自分が対象から省かれているような感覚
確かに、私も離婚して一人で戸建てに住んでたけど
明らかに一人用の住宅ではないですからね
一人用だとマンションになってしまう
あと、雑誌掲載のデビュー作を連作短編にという依頼は確かによくあるようだ
柚木麻子さんもその辺について書いた文章がどこかにあったはず
ネット記事か?
まぁ、読者としては読みやすいし、個人的にも連作短編は好きなのだけど
作家さんからしたら、「それは短編であって、長編ではありません」というのも頷ける
・渚ホテルで会いましょう
かつて、自著の不倫小説の舞台として有名になったホテルにやってきた大御所作家
しかし、その土地もホテルも自作の集客効果はなくなったようで、まったく異なるコンセプトになっている
そんなホテルで出会った子連れの父親との交流
大御所作家の東十条は「私にふさわしいホテル」に出てきた人と同じと思っていいのですよね?
モデルとしては渡辺淳一が大部分で、五木寛之の要素も入ってる感じ
そんなバリバリのジェンダー観を持ってる作家が、ワンオペで子供を世話する父親を目の当たりにする事で芽生えるブラザーフッド
昔ながらの男臭い関係ではなく、女性同士の連帯やケアとしてのシスターフッドの裏返しとしてのブラザーフッド
こんな物語も世の中にもっとあってもいいと思う
あと、義母が、お母さんは地獄にいるって言ってる状況
多分、そのまんまの意味ではなく、比喩なのだろうなぁと思って読んでたけど
確かに、地獄と表現したくなるのはわかる
せめて修羅場と呼んでやってくれw
・勇者タケルと魔法の国のプリンセス
確信犯として女性専用車両に乗り込んだら、何故か昔やったゲームを模した異世界に転移し、勇者として扱われることになった中年男性のお話
プリンセスを救う勇者として扱われる世界
何というか、勇者の扱いが酷いのだけど、あっちの世界ではそうなるまでの過去がわったわけで
そりゃぁそうなるわなとは思う
過去の勇者同士が連帯すれば問題は解決するけれども、それができない人たちばかりというのが、男性への揶揄を感じる
そして、結局のところ勇者はプリンセスだったというオチ
女性専用車両に乗る男性の話や動画はネットでたまに見かける
彼らがどんな事情でそんな事をしてるのかはわからないけど、世間の風潮に一石を投じたいのだろうな
一応、女性専用車両は依頼ベースのため、男性が乗り込んではいけない法的な根拠はないのだけど
場合によっては過失が認められて社会的な死を迎えるリスクをわかってやっているのだろうか?
そんな事を前提にすると、確かに勇者とも言えるなぁ
・エルゴと不倫鮨
会員制イタリアン創作鮨店に、エルゴの抱っこ紐で子供を抱えて入店してきた女性のお話
鮨にワインを合わせるような隠れ家的高級鮨店で好みの女性社員と訪れた部長
下心があるため、お店の特別感や食の蘊蓄で女性を落とそうとしていたところ
お店のオーナーの知り合いだという、授乳期が終わった赤子連れの中年女性ややってくる
卒乳したため飲む気満々でやってきた物書きらしき女性は、店の雰囲気をもろともせずに、自由奔放に自らのオーダーを通していく
そんな彼女に圧倒される同席者達
私も基本的には生魚にワインを合わせるのは反対
余程上手に組み合わせないと生臭さを感じやすいから
まぁ、そんなに知識はないので、イメージ先行の偏見ですが
でも、作中の組み合わせでガブガブと飲み干していく姿を見るに
もしかして、それならアリなのでは?と思ってしまう
お店にそぐわない振る舞いだとしても、お店は一応お客を選ぶ権利があるわけで
オーナーがいいって言うのであれば仕方がないところがある
それにしても、オーナーは本当によかったのか?
ラストの展開が実にシスターフッド的
・立っている者は舅でも使え
夫の浮気で子供を連れて実家に帰った女性が、何故か追いかけてきた舅をこき使いながら同居するお話
コーヒーチェーンの創業家の息子と結婚して子供も出来たが、夫の浮気で田舎に戻って離婚調停中の桃
そんな中、舅が住まわせて欲しいとやってくる
桃は、追い返す目的で家事や息子の世話などを押し付けるが、なんとかこなそうとする舅
そんな不思議な関係の同居生活
説明されても、やはり嫁の実家までやってきた舅の意図がわからん
それまで自分で家事をやってこなかったのに
何を思ってやってきたのだろう?
それに家事と子守りに悪戦苦闘しつつ音を上げないのも不思議
作中では語られていない事情が、何かあったのだろうなぁとは感じる
・あしみじおじさん
貧困の中でも自らの人生を生きようとする女性と、それを応援したい教授のお話
美容整形外科の待合室に置いてあった、「世界名作全集」の「ハイジ」を読んで価値観を変化させた亜子
美容外科の受付をしている友人の好意で全集を貰い受け「赤毛のアン」「少女ポリアンナ」「小公女セーラ」「あしながおじさん」「家なき子」「若草物語」を読んで、少女たちの共通点に気付く
結局は誰かからの援助で成長して成功する物語だと
そこで亜子はお金持ちと知り合うため、友人の伝手でお金持ちのお話相手のような便利屋として派遣される仕事を始める
落ちぶれたお金持ちの家のお隣さんに又貸しされた先での行動が正に「おもしれー女」
まぁ、本人も自覚しつつきっぱりと反論してるのだけど、そこで面白がってくれるのは坊っちゃんの方ではないところが柚木さんらしい展開
あと、教授の気づき
変化したのは彼女たちではなく、支援すると決めた人たちという指摘
確かになー
世の中には、もしかしたら彼女たちのような女性がいっぱいいるのかもしれないけど、それを援助しようとする人達の価値観が変わらないから救われない人達も沢山いそう
あと、あしながおじさんのように、誰が援助したのかを隠すのは自己満という指摘も正にそう
・アパート一階はカフェー
同潤会大塚女子アパートメントの1階に開店したカフェと、それを援助した菊池寛のお話
女子専用アパートや谷崎潤一郎の二番目の妻として嫁ぐ事が決まっている古川丁未子も史実に基づいている
何より、菊池寛が出資したとか、金だけ出して余計な口出しをしなかったとかも本当らしい
菊池寛は、下心や見返りを求めて女性に接するのではなく、自分が面白そうと思った事は応援するし
それでいて自分が首を突っ込まずにきっぱりと線を引くというような事を他にもやっていたそうな
何というか、「勇者タケルと魔法の国のプリンセス」と対比されているのだろうな
アンフェミにしても、チン騎士にしても、女性にうざ絡みする輩は現代でもわんさかいる
ネットなんかでは多数観測されるし
この物語でも何か手伝える事はないかと一見優しそうな男も登場するけど
その土台には、女性は守ってやらねばという、ある意味で下に見ている感情が伺い知れる
全体を通して、冒頭で書いている通り、柚木麻子さんらしいシスターフッドの物語を感じる
と読み終わった感想を抱いているところに
「解説 菊池寛」でもの凄く笑ってしまった
こんなん笑うしかねぇだろw
やはり、柚木麻子さんは「おもしれー女」過ぎる
-----------------
分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。
編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。
----------------- -
Posted by ブクログ
75歳の正子が、炎上や再就職、メルカリ、家族や旧友との再会など、現代社会の出来事に真正面から向き合っていく物語。
読み始めは『ランチのアッコちゃん』シリーズのような軽やかさを予想していたけれど、実際には「今の時代をどう生きるか」というテーマを、ユーモアを交えながら描いた作品だった。
『風と共に去りぬ』を巡る価値観の変化や、「過去にこだわろうにも、未来がない」という言葉など、考えさせられる場面も多い。
一方で、メルカリや遺品整理といった身近な題材は共感しやすく、柚木麻子さんらしい食べ物の描写も健在だった。
少し都合よく物事が進みすぎると感じる部分はあったものの、それも正子自身の行動力があってこそだと思うと、不思議と納得できる。
読後は、「マジカルグランマ」というタイトルの意味も含めて、正子という一人の女性が最後まで自分らしく生き切った物語として印象に残った。