村上春樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ実際的な部分とメタファーの部分がある。
佐伯さんは実際的な世界を受け入れられず、メタファーの世界にとどまることになった。
主人公は役割的な世界から逃げようとしていたが、結局その世界へ足を踏み入れることになった。
佐伯さんの言葉もあり、役割的な自分に訣別し、実際的な世界で生きていく決意をしたのが最後。
父は実際的な世界に疲れてメタファーの世界を求めていた。おそらく佐伯さんに逃げられたことで生きる意味を見失ってしまった。そのため、鍵となるカフカと猫の笛を作り、ナカタさんを利用することでそこに入ることを画策した。
それぞれの人物がそれぞれに現実世界からの逃避し、メタフォリカルな世界に救いを求めた。主人公が現実世界と向き合う決意をして、帰路に着く終わり方は、印象的であり、彼の成長をそれとなく伝えている。僕たち読者にも現実世界に向き合う勇気を与えてくれる一作。 -
Posted by ブクログ
1930年代後半、アメリカ南部の小さな町。
貧困、差別、不公正、信仰、信念、理想、孤独。
色褪せてざらついた重苦しい世界。
登場人物全員が極端な考えや生き方で、極端ゆえに哀れで痛々しい。滑稽にさえ見える。
人種差別と戦う黒人医師、資本主義を正そうと戦うアナーキスト、カフェの主人、夢を持つ少女、そして彼らを惹きつける唖のシンガーさん。
シンガーさんに向かって溢れる言葉を吐き出す。
静と動。無と有。対比。
最終盤の展開に意表を突かれた。
出口のない心のモヤモヤの表現が素晴らしい。若干23才の女性が初めて書いたとは信じられない。
訳者が村上春樹氏だから良いのかも知れない。
作中に、反ファシズムの少年が「ドイツと日本の商品はどんなに安くても買わない!」という文がある。
戦前の、世界から見た日本が分かる。ヒトラーとムッソリーニをお手本にしていたのだから当然。
外交しない高市政権は戦前の日本を思い出させる。現在の状況での外交はかつてないほど難しいのは分かるけど、だからこそ大事だと思う。それこそが国のトップの仕事では?と思う。 -
Posted by ブクログ
愛する人の喪失を、人は乗り越えられるのか。いや、乗り越えて生きていかなければならない。
そもそも、「愛する人」って? 恋人、夫婦、親友、呼び名はなんだっていいけれど、どんな関係でも、相手の気持ちなんて永遠にわからない。言葉にすればある程度わかるのかもしれないけど、それでも、完璧にはぜったいにわからない。相手が自分をどう思っているか、わかってくれているか、そんなことは、きっとどうでもいいこと。だってわからないから。自分が相手を信じているなら、それでじゅうぶんで、それ以上は望めないのかもしれない。
シンガーは、友人の二度目の喪失には耐えられなかった。一度目の喪失にはうまく対処できていたように思える。それは、実在する友人から遊離した、自分の心の中の友人と交流できていたからだ。ある意味、本物の友人の存在への執着が、彼を弱くしたといえる。HSPという概念の提唱者、エレイン・N・アーロンの本に、成熟とは、安心の器を目に見えるものから目に見えないものに移行していけることだと書いてあった。移行しきれていなかったのだ、ともいえる。
シンガーは唖だ。彼が胸の内を言葉で伝えられる相手は、同じ聾唖者である友人しかいなかった。他の人は口に出して言葉を話す。そのために、意図しないところへ自分の言葉が届き、意図しないつながりが生まれることがあった。良かれ悪しかれ。シンガーの場合、そのように発信が漏れ出ていく機会はなかった。でも、必要に応じて健常者と筆談は交わしている。あの友人以外とつながろうとしなかったことが、彼の弱さだったのだろうか。
聾唖のシンガーに、町の人はすがるように語りかける。わかってくれていると信じて。なんだか、現代人がAI相手に胸の内を吐露するのに似ているんじゃないかとわたしは感じた。AIはそれなりの返事をくれちゃうけど、返事の内容に期待するのではなくて、とりあえず受け止めてくれた感じ、壁打ちの壁になってくれることに満足するのであれば、相手が何を感じていようがいまいが関係がない。