【感想・ネタバレ】ねじまき鳥クロニクル―第3部 鳥刺し男編―(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

僕の考えていることが本当に正しいかどうか、わからない。でもこの場所にいる僕はそれに勝たなくてはならない。これは僕にとっての戦争なのだ。「今度はどこにも逃げないよ」と僕はクミコに言った。「僕は君を連れて帰る」僕はグラスを下に置き、毛糸の帽子を頭にかぶり、脚にはさんでいたバットを手に取った。そしてゆっくりとドアに向かった。(本文より)

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Posted by ブクログ

読んできた村上春樹作品の中で最もグロい描写が多かった。過去に壮絶な経験をしてきた人物たちが絡み合い、その過去回想に深く引き込まれた。

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2025年10月08日

Posted by ブクログ

10/10

“救うためには、救われなきゃならない。”

想像することが、ここでは命取りになる。
ナツメグ、シナモン、バット、井戸、サングラス、声帯、心臓、馬、日食、コンピューター。並んだ語群が示すのは、単なるモチーフの羅列ではない。第3部は第1部・第2部と別の世界に移行したかのようであり、むしろ作品全体の集大成として、作者の音楽的なテーマと技術が一気に噴き出す場だった。

僕が感じたのは、ツイン・ピークスの初期と『ザ・リターンズ』の差異のような段差だ。前段が導入と配置なら、第3部は深淵に沈めるショーケース。静かに、だが確実に読み手を異界へ押し込む。結果として「別格感」が生まれる。これは散らかった伏線の回収というより、作者の思想とイメージを総動員して読者の無意識を揺さぶる試みだ。

無意識と愛の戦い、縦に深い冒険劇
この部は「自己の無意識」と「自己の愛」との戦いだ。精神的にも肉体的にも侵され続けた者が、井戸の水を呑み続けるように過去を抱える。横の広がりはそこまでないが、縦の深さが尋常ではない。幻想・夢・過去・現実が混線し、それらが一本の縦糸へと束ねられていく。それは読み進めるほどに頭がぐらつく体験だが、同時に文学がもっとも先鋭的に機能する瞬間でもある。

ラスボスは外ではなく内にある、
この物語の根源的な敵は「他者」でも制度でもなく、人間の奥底に潜む切り離せない欲望だ。復讐や裁きの物語に見えながら、最終的に立ち上がるのは“内的な課題”。それを二人で背負うという形の救済だ。救いは完全な回復ではなく、共有されることでかろうじて成立する種の救済だと僕は読んだ。

「救い」と「救われる」 二人で交わす救済
シナモンとナツメグ、岡田とクミコ、岡田とメイ、マルタとカルタ。これらのペアは、個人の限界的な救いを互いに分け合うための器だ。単独では越えられない深さを、相互に補い合うことでようやく前へ進める。そこに血の匂いはない。感情と身体があるにもかかわらず、奇妙なほど淡々と、冷たい光の中で事態は進む。血がないことが却って残酷さを増幅させる。

官能について:嫌う理由があっても、魅かれる理由もある
村上春樹の官能描写は賛否を分ける。だがここでの官能は、映画的でもアダルトでもない。生の現前。抱き合い、涎、喘ぎ、叫び。が、読者の目の前で生々しく展開される。僕はそれを、作者が人間の根源的な衝動をかき出す美学と見なしている。嫌う人が多いのも理解できる。でも、だからこそこの小説は読者を揺さぶる。文学の機能を剥き出しにする力がある。

文学的風格について
『カラマーゾフの兄弟』や『源氏物語』のような「王者の風格」はこの作品にないかもしれない。だがそれは欠点ではない。王者的な威圧よりも、僕を昂らせる何か。生理的で即物的な強度。がここにはある。形式と技巧と感情が混じり合い、現代文学としての独自性を際立たせる。

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2025年08月15日

購入済み

さすがの村上作品

自分が年をとってきて、青少年時代に読んだ感想とは違った感想を持つようになった。
あのころの紙の手触りや本の重さもよかったが、電子書籍で上下巻、3部構成など村上作品を持ち歩ける幸せ。
表紙を眺めてると、全て欲しくなってしまう

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2023年01月01日

Posted by ブクログ

この本は、だいぶ前の引っ越し時の整理で廃棄しました、が、河合隼雄さんの本に参照本として出てきたので、そんなに良い本だったのか?と再度購入して読みました。
村上春樹さんの本は数冊読んでいますが、どれも読後感が良くなかったので、その時期以降は読んでませんでした。

読んでいて、最初にひっかかったのは
笠原メイは目の下に傷がある?」という文章。
「女のいない男たち 」から映画化された「ドライブ・マイ・カー」のミサキも目の下に傷があったな~、主人公に救いの手をのべる女性という点で同じ役柄なのでしょうか?
「ひとりの人間が他のひとりの人間について十全に理解するというのは果して可能なことなのだろうか」(第1部p53)というセリフも「ドライブ・マイ・カー」にありました。

次に個人的にひっかかったのは
笠原メイのバイク事故で死んだ彼氏のこと、これは私だけの経験なんですが、私の友人の息子さんが、この本と同じ年代で同じように彼女を乗せて交通事故に遭遇し、同じように息子さんは死んで同乗の彼女は大怪我をしたということがあったのです。後日その事故の翌日の朝刊を探すと、地方版の下の方に、場所と時間などが数行書かれているだけでした。
笠原メイの死んだ彼氏がどんな人かの話はこの本には出てきてませんが、私の知人の家では、一人息子を失った奥さんがその事故が原因で心を病んでしまい、大怪我を負った同乗の彼女の一生のコンタクトなど。厳しい現実に遭遇しています。
私が重く感じるのは、子供がこれからという時にいなくなってしまった奥さんのグリーフケアです。死んだ人との融合という点では、この「ねじまき鳥クロニクル」の人々とつながるものがあります。悪夢であって欲しい、逆に良い夢なら覚めないで~ということ、ありますよね~。

次にひっかかったのは「大日本帝国・ノモハン事件?」
作者のルーツとして興味があるのはわかるのですが、なんか、つげ義春の「沼」や「赤い花」をもじったように感じる。他に違うモチーフで同じテーマはできなかったのでしょうか?奇をてらう感があります。

次にひっかかったのは、パソコンでの文字のやり取りです。これはもう昭和感ですね(この本が書かれたのは1990年代なので平成ですが)。「スマホが無い時代はこうだったんだ」とわかるように、ちょっと最初に説明がほしいですね。(この時代はスマホはなくパソコンでのやり取りも文字でのやりとりをしていました)

次にひっかかったのは、クラッシク音楽の名前や高級料理の名前が、私には(ほとんどの人には?)わからないこと、このブルジョア不明語が魅力かもしれないけど、ちょっと鼻につく。(私のひがみです)

村上春樹さんの本は数冊よみましたが、急にエロいところでてくるので、どれも健全な書ではないと感じます。また、これが魅力なので、やっかいです。女子の友達にこの本を推したらセクハラの疑いをかけられるかも?

あと、妄想部分なのか現実の部分かわからなくなることです。でもなんか次を知りたくなり一気に読んでしまいます、途中でやめられない。
これは魅力があるからなんですが、これはちょっと感じてはいけない部類の魅力なのではないかと思える箇所があります、麻薬のような「これ以上、その薬を飲んではだめよ」というぐらいの。これ以上説明が具体的にはできないので、また、思いついたら追加記述します。
たぶん、「魂」や「こころ」をお金儲けのアイテムとして使うこの本への違和感なんだろうと思うんだけど・・

「ねじまき鳥クロニクル」についての河合隼雄さんとの対談は「こころの声を聴く」の中に45ページ分あります。また「こころの読書教室」「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」などにも関連の話が載っています。
たとえば、「こころの読書教室」のP206に
河合:『失われた魂を回復するためにそうとうな努力がいるわけですが、そういう中で、ものすごく暴力的な世界にどうしても直面していかなければならない。それが現代です。 現代の世相を見ていられたらわかると思いますが、いろいろなところで変な殺人が起こったり、ものすごい事件が起こったりしているでしょう。人類は賢くなったと思っているのに、戦争したり、途方もない殺し合いしなければいけなかったりしますね。だから、人間の心の中の、魂の領域に近づくということは、すごい暴風雨圏というか力の世界にも直面していかねばならないということです。 「ねじまき鳥クロニクル」を読むと、それがすごくよくわかります。そういうふうな現代人の生活における魂というものを異性像に求めていく場合のむずかしさ、すごさ、それがよく書かれている と思います。
「ねじまき鳥クロニクル」は、世界中で読まれていますね。日本だけではなくて。世界のベストセラーと言ってもいいぐらいではないですか。 このあいだ僕はロシアに行ってきたんですが、ロシアでも村上春樹は大変によく読まれていて、いま、いちばん読まれているんじゃないかと思います。
ロシアの文化大臣と話をしていて、僕が『村上春樹、河合隼雄に会いにいく」という本があるんですよといった途端に、「あの村上春樹の知り合いなのか」というのですごく僕は尊敬されましてね (笑)。『ねじまき鳥』はドイツでも読まれているし、韓国でも読まれています。 世界中で読まれているというのは、現代人の魂の問題を実に適切に取りあげているからではないかと思います。』
ーーーというのがあります。おもしろい話ですね〜。

あと、もうひとつ紹介します。同じ「こころの読書教室」のp104
河合:『これは、「ねじまき鳥クロニクル」(新潮文庫)という本の中で、井戸の中にこもる男性がいるわけですが、「井戸」にこもる、つまり、心の底の扉を開いて、底へ入っていく。面白いですね、井戸はIDOに通じますね。イドはラテン語で、ドイツ語で言うと「エス」です。”それ” です。だから、「井戸を掘って、掘って」というのは、「無意識を掘って、掘って」”それ” の世界に入ってゆくのです。』
ーーー河合さんのダジャレ的発言ですが、これもなるほど〜ですよね。

村上:『ぼくが「ねじまき鳥クロニクル」を書くときに、ふとイメージがあったのは、やはり漱石の「門」の夫婦ですね』とあるのは「村上春樹 河合隼雄に会いに行く」の99ページです。

この本の第3部出版の半年前の1995年3月に地下鉄サリン事件があったのも忘れてはならないでしょう。裏世界だったスピリチュアルが、普通にテレビで語られる時代の幕開けの年に「ねじまき鳥クロニクル」という本は現れたのです。

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2025年03月31日

Posted by ブクログ

全体的を通して、間宮中尉の話とメイちゃんの考察が特に印象に残りました。
このシリーズを読んでいた1ヶ月、ずっと暗い気持ちでした。それだけ世界観に引き込まれていたということだと思います。

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2025年12月11日

Posted by ブクログ

緊張感あり圧倒的な読書体験でした。
折に触れて戦争の場面が出てくると、歴史の上に立っていることに気づく。複雑で難解さは、何かを理解したというより、考えはじめたというような読後感。

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2025年12月10日

Posted by ブクログ

オーディブルで。3巻は長かった。
著者らしい性的な話を含んだ抽象的な不思議な話は、
騎士団長殺しに似ている。
登場人物は、変な人しか出てこない。
でも、笠原メイは賢い。

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2025年11月09日

Posted by ブクログ

☆4.5くらい。

妻がいなくなるという、村上春樹的なおきまりから物語が動き始める。

主人公とその周りの再生を描く中で、主人公がちゃんと闘っているのがいい。絶望しすぎていない。

人との出会いが救いになっているのかもしれない。
それぞれが抱えている地獄が、すさまじい。

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2025年10月19日

Posted by ブクログ

3部作通して戦争の描写が沢山出てくるが臨場感が半端なく息を呑む。

クミコの幼少期のことや兄の関係など最後まで判然としないところがあってちょっともやる。わたしの読解力が足りないということだろうか…100分de名著見てみようかな。

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2025年09月20日

Posted by ブクログ

⭐️4.5
笠原メイの手紙が好き。私もあんな手紙書きたい。

物語に展開がバタバタっとあったからか、3が一番面白かった。笠原メイが、ミドリちゃんポジで、クミコが直子ポジかな〜とか思った。生と死で!

岡田トオルは、奥さんを愛していた、少なくとも取り戻すために必死だった。でも、愛の物語でいえば、「1Q84」の魅力の方が勝る。なんか、ねじまきの方は、こじんまりしたダサい必死さがあって、その良さはあったなぁと思います。その件については、もうちょっとよく考えてみます。あとは、軍隊関係の描写が多かったのも印象的。ナツメグとシナモンのネーミングも好きやったよ。

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2025年09月15日

Posted by ブクログ

特に人気が高いと聞いていたが、確かに頷かせるだけの物語の重みがある。
緻密な駆け引きと決戦、誰かを想う心の尊さが確立された強い作品。

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2025年09月10日

Posted by ブクログ

3部作….長かった、、、3部作通して3週間あれば読み終わるだろうと鷹を括っていたら第3部が異様に長くて3部作全部読み終わるのに1ヶ月かかってしまった…..
こんなに長い期間、一つの小説の世界に浸っていたのは久しぶりだ。ちょっと疲れたから、一旦短編を挟もう。

ちなみにこれは高校生の時に読んだけど、動物園のくだりで挫折。その後大人になってからも同じ箇所で挫折。今回三度目の正直で読破できた。

動物好きだからいつも動物園のくだりで嫌になってしまっていた。

今回最後まで読めて良かった。
物語として、プロットがとにかく面白かった。

サブストーリーも一個一個ハラハラドキドキして面白いし、何よりある種の歴史小説として自分の知見が大きく広がった。

色んな魅力のある、それぞれ際立ったキャラクターが出てくるのも好き。

うーん、、、やはり村上春樹の最高傑作と謳われるだけあるな……面白かった。

デタッチメントからコミットメントに大きく転換を図ったエポックメイキングな小説。

うむ。。。。

デタッチメントな初期の作風が好き(風の歌を聴け、国境の南太陽の西、世界の終りとハードボイルドワンダーランドなど)なんだけど、
このコミットメントしていく姿勢を貫いたねじまき鳥クロニクルは、村上春樹の職業小説家としての覚悟を感じた。

文章を使って闘っていく覚悟を。

うん、、、何度も読み返す小説ではないかもしれないけど兎に角読み応えがあった。

そうだね、面白い以上に
今まで読んできた本の中で最も読み応えのある本だった。
優れた小説だ。

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2025年09月03日

Posted by ブクログ

3部作を3ヶ月で読もうと思っていたけれど4ヶ月かかって今、読み終えることが出来ました。長かった。よくわからないところがあったけれど私はやはり村上春樹さんの本の世界が嫌いじゃないようです。物語の終わり方の文章が特によかったのでそう思えたのかな。

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2025年08月31日

Posted by ブクログ

村上春樹初心者ですが、騎士団長殺しと同じような転生と再生をテーマにしているような気がします。利得と代償の等価交換的な世界観なんだろうか。雑な感想ですんません。

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2025年08月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

クミコと私。夫婦関係は良くも悪くもなく普通。
猫が居なくなった。
謎の女から電話。加納マルタと加納クレタ。
クミコがいなくなる。手紙が届く。
ねじまき鳥。綿谷ノボルの警告。苛立ち。
間宮中将の戦争話。
井戸の中から想像の世界へ。顔にアザができる。
加納クレタと関係を持ち海外に行かないか誘われる
断る。新宿にいて間宮中将の言っていたように人をとにかく眺める。赤坂の女、ナツメグに合う。
ナツメグの仕事を引き継ぐ。井戸のある場所を買い、久美子を取り戻す決意をする
ねじまき鳥クロニクル。ナツメグの父の戦争時代。顔にアザがあったことを知る。間宮中将の過去。
井戸に入り、綿谷ノボルがバットで殴られたニュースを見る、逃げ出し208号室に。いつもの女がいる。
他の男が入ってきて、バットで殴り殺す。夢から覚め、井戸に水が出ていることに気づく。死を覚悟したがシナモンに助けられる。現実ではあざが消え、綿谷ノボルが脳溢血で倒れる。シナモンのパコソンにクミコから連絡。これから綿谷ノボルを殺しに行くとのこと。笠原めいのところに行く。久美子は判決を待っている。

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2025年07月06日

Posted by ブクログ

読み終えた。ついに初めての村上春樹作品を読み終えた。
この作品は研究しがいがあるだろうなと思ったけど、でもやっぱり全部が全部伏線として繋がってないといけない事はないんじゃないかなとも思った。つまり、読み終えた今、クミコと綿谷ノボルの因果とか、加納姉妹、ノモンハンやシベリアでの出来事、他のいろんなことの繋がりを全部分かった訳ではないが、別に無理やり探さなくてもいいよねって。
おもしろかった。
不思議で暗くて面白い世界だった。
村上春樹読めると気づかせてくれてありがとう〜

牛河のキャラクター、結構好き笑

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2025年06月29日

Posted by ブクログ


僕の考えていることが本当に正しいかどうか、わからない。でもこの場所にいる僕はそれに勝たなくてはならない。これは僕にとっての戦争なのだ。「今度はどこにも逃げないよ」と僕はクミコに言った。「僕は君を連れて帰る」僕はグラスを下に置き、毛糸の帽子を頭にかぶり、脚にはさんでいたバットを手に取った。そしてゆっくりとドアに向かった。

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2025年06月22日

Posted by ブクログ

小さな男と背の高い男 何かを土に埋める 松の木 ギギギという謎の音 数列のヒント ねじまき鳥/フクロウ 物語の時間軸が自由に動く 悪の引き渡し(乗移り)

メイから手紙。別の場所に住んでる。空き家の雑誌記事について書かれていた。
雑誌:空き家はいわく付き物件。七人か自殺。そこを赤坂駅のペーパーカンパニーのX氏が買って、今は高い壁の邸になってる。なぜか井戸が掘り返された。
クミコの両親からは離婚の催促がくるが、「本人に会わないと承諾しない」と言っている。新潟のノボルの叔父が死ぬ(元代議士、ノボルの選挙区)
土地に詳しい近所の不動産屋を訪ねた。空き家(今は更地)と井戸について聞いた。そして自分はあの土地を買うつもりだと言った。井戸を手に入れたいためだ。
しかしその金は無い。再び新宿であてもなく人を見続ける。そこに去年の人観察で声をかけてくれた中年女性と再会。「お金が必要」と言ったら、明日名刺の赤坂の住所に来い、という
ある少年は夜中に目を覚ました。今日こそねじまき鳥を観てやろうと、窓の外の松の木を見た。そこには小さな男と背の高い男が話し合っていた。小さな男は木に登った。ねじまき鳥を捕まえる?しかし男は見えなくなり、鳥も飛び立たない。背の高い男はしばらく木を見ていたがどこかに歩いていった。しばらくして鞄とスコップを持って背の高い男が戻った。背の高い男は木のふもとを掘り、鞄から何か猫か子供の死体っぽいものを埋めて立ち去った。ねじまき鳥は鳴かなくなった。少年は眠気におされ寝てしまった。
岡田は新宿の女の約束で赤坂のオフィスに行った。なにもしゃべらない若い男に案内所されて奥の部屋で目隠しされて座った。男と入れ替わりに香水を着けた女が来て隣に座った。それは今まで嗅いだことの無いもの。アザをなめられ勃起したが、「自分は空き家だ」と考え時間がたった。入れ替わりに若い男が来て目隠しを外す。隣のシャワー室を案内されて浴びる。射精していた。新しいパンツとシャツが用意されていた。元の部屋に戻り封筒を渡される。日がくれていた。オフィスを出て赤坂見附、四ッ谷と歩き、店に入りビールを注目する。封筒を確かめると20万円入っていた。店を出て靴屋で青いスニーカーを買った。古い靴も持ち帰った。新しいパンツとシャツとスニーカー。翌朝考えると昨日の行為はクレタの買春に似ていると気づく。外に買い物に行き家に帰ってくると行方不明だった猫「ワタヤノボル」が玄関で出迎えていた。
メイからの手紙:最初の転校場所を辞め、自宅に戻った。いまでは「ねじまき鳥さんの世界の一員」になってしまった私。そして今はあなたも知っている山奥の別の場所に来て生活している。
猫には新しい名前をつけた「サワラ」。再び新宿に行くと中年女と再会した。女につれ回され服と靴と時計を買ってもらった。イタリアンで夕食。そこで名前を聞いたが「必要ない」というので仮名を発案してくれた。中年女はナツメグ。息子のしゃべれない男はシナモン。
井戸に入りバットを持って瞑想。上蓋は仕掛けで閉じることが出来る。これはシナモンが作ってくれた。
ナツメグと月に二度ほど食事をしてお互いの経緯を語り合った。ナツメグの父は獣医で頬にアザを持っていた。満州の動物園に勤務。終戦間際、動物たちは銃殺され、中国人たちへ依頼され解体して市場に。虎を銃殺した若い会計係の兵隊はねじまき鳥の声を聞いた。わ幼いナツメグはおんぼろ船で日本に疎開。その途中アメリカ軍潜水艦に撃沈されそうになった。ナツメグの父は満州かシベリアでおそらく死んだ。
またメイからの手紙。今はカツラ工事で住み込みで働いている。場所はおそらく越後妻有あたり。
岡田は「裏」から自宅に帰ってくる。そこに男がいた。牛河。牛河はノボルの秘書で、岡田に取り引きを持ちかけてきた。裏の屋敷を手放せ、そうすればクミコに会わせる、というもの。岡田は取り引きを拒否。
朝、ベンツに乗ってシナモンがやってくる。買い物袋を抱えて。彼は六才の時に突然話さなくなった。しかし頭の良さで言語、外国語、ピアノ、工学を独学した。
牛河が来て借金で裏の屋敷が手放せないならこちらで払うと提案。牛河はノボルが変装しているのでは?
牛河は岡田とクミコとの会話をパソコン通信で行えないかと提案。岡田はシナモンが設置していたパソコンのパスワードを解読した。
ナツメグは服飾の仕事で出会った夫とファッションデザイン事務所を立ち上げた。大繁盛したが、夫は1975年に殺害された。内臓を取られ首を切断された猟奇殺人だった。その後事務所を売り払った。お世話になった女性デパート経営者の頭をたまたま触れる機会があった時、過去の動物園や「なにか」の動きを感じた。その後別の人にもそれが出来ることがわかり、その仕事を始めた。
岡田はパソコン通信でクミコとコンタクトを取った。「(私が)ダメになったのは「もっと長い時間」のことです」と言われた。
雑誌や新聞をシナモンに買ってもらい、ノボルの記事を研究し始めた。ノボルに選挙区を譲った叔父は満州で兵站をしていた。このことで今まで関わった人たちが満州、ノモンハンで繋がっていることが解った。
岡田は牛河に連絡を取り、ノボルとパソコン通信で会話をしたいと提案する。
ナツメグが屋敷にやって来た。我々の活動に危うい赤信号が灯っていると。なのでしばらく客を取らないとした。
ノボルとのパソコン通信。取り引きについては決裂。岡田はノボルには秘密があると打ち込む。悪夢を見ていると。そしてそれを解決するのは岡田だと薄々わかっている、クミコの姉にしたことをわかっていると。
通信の後疲れてその場で寝ると夜中にパソコンから音。画面に「ねじまき鳥クロニクル」と出ている。そこには選択肢があるので#8を選択した。
『ねじまき鳥クロニクル#8』昨日猛獣は処分され、妻子は脱出していった。翌日兵隊たちがまた現れ、荷車と騾馬を接収した。その翌日荷車に野球ユニフォームを着せられ暴行された中国人がつれてこられた。背番号は1,4,7,9。中尉は「我々はこの動物園で駐屯する」といった。空地になぜか野球のバットで円を書き、ユニフォーム中国人を連れてきて穴を掘らせた。そこに四人のやはりユニフォームの中国人の死体を入れた。その番号は2,5,6,8。その後作業員中国人の1,7,9を木に縛り付けて兵隊たちに刺殺するよう命令が出た。中尉によると彼ら中国人は満州国軍の士官学校の生徒たち。新京防衛の任務を拒否し、日系教官二人をバットで撲殺して逃走した。それを我が隊が発見して制圧。四人を射殺。四人を拘束。二人は逃亡した。一人生きている背番号4は反乱リーダーで野球部主将の四番バッター。彼が教官二人を撲殺した犯人。彼らは満州国軍の制服で逃げるとまずいので、軍野球部のユニフォームで逃亡したからこの格好。上の命令でこの四番は「バットで処刑」するように命令されている。若い兵隊が処刑役に抜擢。しかし彼は野球をやったことがなかった。上官が丁寧にスイングを教えた。中尉は「苦しませないように一発で仕留めてやれ」と命令。首尾よくグッドスイングが出て四番は倒れた。獣医は死亡確認を要請され、瞳孔や脈を計り死亡を伝えた。その瞬間、なぜか四番は息を吹替えし獣医の手を掴んで穴に一緒に落ちた。中尉は穴に降り拳銃で四番の頭を撃ち絶命させる。しかし四番の手が離れないので指一本一本を入念にはがして事が済んだ。獣医の手には四番の指痕が残った。バットの若い兵隊は呆然としていたが、廻りにねじまき鳥の声が聞こえるのでその姿を探していた。そして彼は周りの人々のこれからの運命を感じられた。上官たちはソ連軍に殺されたりシベリアで死んでいく。獣医はソ連に連行され、シベリアの炭坑縦穴掘削作業中に出水にあい他の兵隊たちと溺死。しかし自分の運命は見えなかった。ただ日本から大陸に渡る時に生まれて初めて観た海の情景が浮かんだ。ねじまき鳥の声は他の誰にも聞こえなかった。『ねじまき鳥クロニクル#8』終。
他のねじまき鳥クロニクルはロックがかかり見れない。しかしこれはシナモンが書いたものと推察される。この「ねじまき鳥」は自分のあだ名であり、ナツメグが前に語った物語にも出てきた。しかし岡田がねじまき鳥と呼ばれていることは二人に話していない。
メイからの手紙。向かいにあった宮脇さんの空き家のことが最近よく思い浮かぶ。絵に書いたような幸福な家族。夫婦と子供姉妹。心中したけれど娘一人は行方不明。そして自分がクミコになったような錯覚も最近感じる。
シナモンが家に来なくなった。ナツメグとも連絡が取れなくなる。牛河の電話も「現在使われておりません」。仕方なくノボルと会合した品川のホテルに行き、その後電車で帰ろうとした時、向かいのホームに牛河を見つけた。電車の中で会えた。そして降りて話をすることになる。牛河はノボルの事務所を辞めた。何かをこの一件で掴んだため、それを元に別の仕事が出来るとふんだようだ。そしてクミコとノボルの関係に重要な秘密があると。そらは岡田の元にクミコが帰ってきたとしても手に終えないもの。
夢を見た。カツラの吊るされた天井の部屋には無数のテーブル。犬になった牛河がいる。向かい合って電話でマルタとはなした。マルタ島に行ってた。「猫が帰ってきた」と伝えるとその猫のしっぽは違うと言った。マルタは裸になり尻に本物のしっぽがついていると見せた。クレタには子供が産まれた。その名はコルシカ。牛河「人は島嶼にあらず」。目が覚めた。
間宮から手紙がきた。前の話の続きがあるので話したいと。その後戦闘で戦車に、踏まれ腕を失ってソ連軍に助けられた。ロシア語をうわ言で話したから。シベリアの炭坑に送られ通訳をやらされた。そこであの「カワハギ命令のロシア将校」に会った。彼は囚人になっていた。ニコライというキエフの軍人と仲良くなり、カワハギのことを聞いた。カワハギはボリスという名前の秘密警察員。ボリスはノモンハンの後各地に転戦して部下のモンゴル人にカワハギ拷問をさせていた。ベリヤという上官に気に入られていて出世した。が、ある時共産党幹部の身内を間違って殺害。それでシベリア送り。しかしベリヤが出世すれば解放される可能性があるので、ここでは特別扱い。そのうちボリスは間宮を呼び取り引きを申し出る。「日本人捕虜と画策して謀略をしたいから、仲介をしろ」と。そこで日本人捕虜のリーダーに会わせたら、その方向になった。
深夜屋敷に移動。井戸に降りる。バットがなくなっていた。瞑想すると眠ってしまい、起きると、あのホテルルームに、来ていた。「壁を抜けた」のだ。しかしホテルは少し違っていた。電話は通じないし、ウイスキーも減っていてまるで盗掘された遺跡みたいだ。
しかし部屋のドアが開いた。外に出ると迷路のような廊下。分かれ道が次々現れる。どんどん進んでると同じ場所をグルグルしてる感覚。そこにあの「泥棒かささぎ」を口笛するボーイを見つけた。隠れながら後を追った。ボーイは208号室に来てノックをした。しばらくしてドアが開いた。
手紙の続き。日本人たちは自治を認められつかの間の平穏が訪れた。周りの共産党員やソ連中隊はどんどん粛清されボリスの言いなりになり、彼の王国が出来上がった。日本人はどんどん元より過酷な環境になる。リーダーは暗殺され恐怖政治が作られた。ある日ボリスに呼ばれる。部下になれ、という。本来は断るが「ある計画」が思いつき従った。間宮は優秀な秘書として重宝された。が日本人たちから孤立化した。ニコライとも疎遠になった。しばらくして「計画」のチャンスが訪れた。それはボリスを殺すこと。彼の拳銃を盗み彼に向かい引き金を引いたが弾丸が抜かれていた。罠だった。「「想像することは命取りになる」と忠告したはずだ」と言った。しかし彼は引き出しから実弾2発を取り出し間宮に渡した。「これで打て。だが失敗したらここで行われたことを誰にも話すな。それが取引だ」言った。間宮はうなずいた。至近距離で2発打ったがどれも外れた。ボリスは言った「君には私を殺せないのだ。そして君はこれから一生誰も愛せない、からも愛されない人生を送る。それが呪いだ。私は殺す必要のない人間は殺さない。」と言った。間宮は翌年帰国した。 間宮は手紙をこう締めくくった「この話をようやく岡田様に引き渡せた。なにとぞ心残りなき、良き人生をお歩みください」
208号室。部屋には誰かがいる。そこでボーイと入れ替わりに部屋に入るか、ボーイに付いていくかを考えた。ボーイに付いていくことにした。それは「彼が属している場所に辿りつける」だろうから。戻ってくる時の目印に分かれ道にボールペンで✕を書きながら追った。ロビーに出た。9人の人がいた。テレビではNHKニュースをやっていた。そういえば本田さんのテレビも常にNHKが映っていた。しばらくしてノボルが映った。アナウンサーが言う、ノボルが事務所で襲われ意識不明で病院に運び込まれた。犯人はバットで滅多撃ちにして逃走。目の横にあざのある人物。テレビが切られた。そして9人か次々と岡田を見た。怖くなり廊下に向かったら、みんなが追いかけていた。そして真っ暗になった。よろけたり、ぶつけたり、コートの先をつかまれたりしながら暗闇の廊下をにげた。逃れられたと思ったので一息ついた。テレビの事件を思い巡らす。「僕がやったのか?もう一人の僕が存在?」突然「岡田さん」と声をかけられた。顔のない男だ。彼らはテレビを信じる危険な人たちだから逃げよう、208に案内する、と言った。彼の上着のはしを掴んで進んだ。部屋の前についた。「私は虚ろな人間。味方は私一人だけ」と言ってペンライトを渡し男は消えた。部屋に入って鍵をかけた。元の部屋の状態に戻っているよう。奥の部屋から女が言った「私を照らさないで。約束してくれる?」。岡田は「約束する」と言った。
オンザロックが飲みたいというので作って女の近くの机においた。岡田は「君はクミコだ」と言った。女はそうなの?と言って声色をクミコにした。岡田はノボルの邪悪な力で君の姉を死に追いやった。そして君が妊娠をして君の存在も必要になり僕から奪った、だから君を取り返す、と言った。女は「私はクミコじゃかいかも。本当にそう思う?」。岡田「君はクミコだ。もう僕は逃げない」。女「プレゼントがある」と言ってバットを渡した。そこには髪がついた肉片がついていた。女「ノボルは死なない」。ドアを誰かがノック。女「ここから逃げなさい」。岡田「僕はもう逃げない」。岡田はバットを持ってドアに向かった。
岡田はすみに隠れ息を殺した。ドアが開いて男が入ってきた。ライトで部屋を探っていた。ライトが消されナイフがつきだされた。鎖骨あたりを刺されたがひるまず何度か格闘して暗闇で相手の頭を叩き割った。ライトで相手を確かめようとするとクミコの声がした「見てはダメ!私を連れて帰りたいのならやめて」。岡田はバットを落としソファーにへたりこんだ。意識が薄れ自然に身を任せた。ゼリー状の壁に吸い込まれた。気がつくと井戸に戻ったが、何かが違うようだ。腰まで水が沸いていた。体は動かなかった。そして水は増えていった。水かさは口と鼻を越えていった。
メイの手紙。近くの池が氷って9羽のアヒルの人たちご滑りながら暮らしているのを見て私は楽しんでいる。夜夢で岡田の大声が聞こえ目が覚めた。満月の夜だったので、裸になり月明かりに体をさらした。そして延々泣いた。
ナツメグ「シナモンが助けてくれた。もう少しであなたは死ぬところだったのよ」。仮縫い室に寝かされていた。傷は浅い。毎朝ナツメグが来て看病したが送り迎えのシナモンは顔を見せなかった。そしてナツメグはノボルが長崎での公演中脳溢血で倒れて再起不能になった新聞記事を教えてくれた。「私たちがこれから会うことはない。屋敷は売り渡される」と言った。眠って夢を見た。クレタが子供を抱え現れた。父親は岡田と間宮。今は私は新しい名前が出来て間宮の元で暮らしている。「マルタは?」と岡田は聞いた。クレタは悲しい顔で答えなかった。体が動かせるようになり鏡に立つとあざが消えていた。そしてパソコンが鳴り再び「ねじまき鳥クロニクル」が操作できた。#17を開いた。
『ねじまき鳥クロニクル#17』(クミコの話)私はあなたに隠していたことを告白する。私が綿谷ノボルを殺さなければならない。これから病院に行き生命維持装置を抜く。そして出頭する。
メイに会いに行った。結局メイの手紙は一通も岡田には届いていなかった。クミコはこれから裁判。戻ってくるのを待つ。どこからも誰からも遠い場所で深く眠りについた。

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2025年06月09日

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無関係に思えるいくつかの物語が絡み合い収束していく様は、ねじを巻かれた人形のように人の行動は運命によって決定づけられているんじゃないかと思わされる。

小説を読んでいるというより、タイトルにある通り年代記を読んでいるような感覚だった。

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2025年05月24日

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ネタバレ

主人公が妻を救う、或いは悪に向き合うことを決心する第二部の結末に続く第三部。これまでどこか頼りのない人物像であった主人公像から良い意味での変化/ギャップがあり、長編ではあるが一気読みできた。個人的に示唆深かったと思うのは、笠原メイからの幾つもの手紙が全て主人公には届いていなかったというもの。本作に於いて、笠原メイは救いというか、主人公の思考の補助線のような役割を果たしていると解釈しているが、これが実際には届いていなかった、つまり岡田トオルは自ら悪/闇に立ち向かったということが最後に明確化された。そのことが終盤に明かされたとき、補助線を引かれていたのは、この本を読んでいる自分/読者の方ではないか?と不思議な感覚にさせられた。
結果的に、妻は主人公のもとには戻って来ることなく物語は結末を迎える(主人公は妻の出処まで待つと言っているが)ことになるが、ある意味に於いて、2人は共闘し悪に立ち向かったのだと思う。岡田トオルは井戸に降り、クミコは引き籠り、夫々が自身に内在する或いは影響が避けられない悪に向き合った。長編ではあり、幾つものエレメントが複雑に絡み合っているが、この本からはどこか昔話というか、物語性を強く感じた。

特に印象に残った箇所は以下の通り
・そしてそういういろんなちょっとしたものの助けで(もちろんねじまき鳥さんは「ちょっとしたもの」なんかじゃないけれどね、まあいちおう)、私は少しずつ「こっち」に戻って来ることができます(p.237~238)
・さて私は思うのですが、世の中の人々の多くは人生とか世界というのは、多少の例外はあるものの、基本的にシュビ一貫した場所であると(あるいはそうであるべきだと)考えて生きているのではないでしょうか(中略)なにかが起こると、それが社会的なことであっても個人的なことであっても、人はよく「つまりそれは、あれがこうだから、そうなったんだ」というようなことを口にして、多くのばあいみんなも「ああそうか、なるほど」となっとくしてしまうわけだけれど、でも私にはそれがもうひとつよくわからないのです。「あれがこうだ」「だからそうなった」というのは、ちょうど電子レンジに「茶碗むしのもと」を入れてスイッチを押して、チンと鳴ってふたをあけたら茶碗むしができていたというのと同じで、ぜんぜんなんの説明にもなってないんじゃないかしら(p.261)
・ねえ岡田さん、一人の人間が誰かを憎むとき、どんな憎しみがいちばん強いとあなた思いますか?それはね、自分が激しく渇望しながら手に入れられないでいるものを、苦もなくひょいと手にいれている人間を目にするときですよ(p.432)

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2025年05月16日

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ネタバレ

第2部で妻を取り戻そうと決意した岡田亨は、彼女が残したものを手がかりに行方を追う。そんな最中、岡田はナツメグという中年女性と彼女の息子シナモンに出会う。本作は主人公とナツメグとシナモンを中心に物語が展開される。その一方で、第1部から登場した笠原メイの手紙を読んだり、謎の少年が見た不思議な体験、またナツメグの父が過ごした満州の出来事とそこで起きた悲惨な光景を追うなど、これまでと違って話が何度か飛んでいく。

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2025年04月27日

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バッドエンドだと思って心が折れそうになりましたが、救いがあって良かった。
実際にこの世界で起きたことと、精神の世界や別の次元にある空間で起きたことの境界線が引きがたい。
登場人物の多くが特殊能力を持っているSF的な面もあり、最後は逃げずにスカッと悪を倒した、成長物語、ヒーロー物語としても読むことができる。
また、多くの暗示に満ちていて、たくさんの読み落としもあるだろうと感じている。
多方面からの読み方ができる、全年齢向け作品。・・・ちょっと、性描写、暴力描写が多めだけれど。

どうしてシベリアの収容所の話が出てきたのか・・・
権力者というものはこうやって人々を支配していく、という例を引きたかったのか。高い地位にいる支配者が必ず持っているある種の暴力性?
綿谷ノボルもそうであると。
綿谷ノボルを語った牛河の言葉には、多くの経験からモノを見る目ヒトを見る目が肥えている人間には、超能力者でなくても中身が見えてしまうのだなと感じる。

笠原メイの存在は、現実の世界や、呪いのかかっていない世界に向かって伸びている縄梯子のようなものだと思う。
彼女は十七で、まだどんな風にも変わることができる。希望の象徴のよう。

スイカ割りは、ちょっとトラウマかも・・・
「それを見ちゃいけない!」
書かないことで、読者の頭の中ではどんな風にも想像が膨らむ。ホラーが得意な人だったら、どこまでもグロテスクな描写ができる。
(いや、「想像してはいけない」のか・・・)

個人的には、赤坂シナモンと猫のサワラがお気に入りです。

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2025年04月19日

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率直に言えば、腑に落ちない謎や、メタファーの解釈がよくわからないまま終わってしまったなという感想。(自分の読解力不足もあると思う)
しかしなぜか手を止めず読み続けられた。現実と虚構の入り混じる曖昧な世界と、特有のめんどくさいしゃべり方をされる変な人たちだが、惹き込まれる。





以下ネタバレ含む








綿谷ノボルの根源的な気持ち悪さ、真意が見えない(存在しない?)のに弁だけはやたら立つし権力も学もあってとにかく”支配者”側にいようとする感じ、昨今の「ネットで人気の」人たちにも通ずる気がして怖い。こういう奴らに踊らされちゃいけない。

人の思考/想像を停止させ、意のままにコントロールしようとする支配者たちに対抗するためには、バットでぶん殴って息の根を止めるしかないのかな。

そう言いながら、実際には牛河のように汚くへいこらと強い者に取り入って世渡りしてしまう自分の一面を恥じる。(割り切ってる分、もっとタチが悪いか。)

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2025年03月05日

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?って感じの終わり方だったけど、この本を読まないとおそらく一生知ることのなかった世界を知ることができただけでも良かったなと思えた

村上春樹さんはアジア圏の戦争の話をよく持ち出すけど、何か意図があるのかなって毎回考えちゃう

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2025年02月07日

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毎年、うちの庭のあたりでも、ねじまき鳥と言えそうな声の鳥がギィィィと啼くんですよ。透明な薄皮一枚文向こう側の世界っていうのが、村上春樹さんの世界なんじゃないでしょうか。僕らは事物の表を見て生きていて、村上世界の住人はその裏側にいるような気がします。だから、ねじまき鳥だって、実は存在していて、それをねじまき鳥と呼ぶのが村上世界のほうなだけなんじゃないですかね。

これまでの2部と違って、時間軸が定まっていないような
比較的パラレルな(というか点在かなぁ)作りになっていました。感じが違う。
それでもやっぱり面白かったです。
多彩な比喩が、読むというリズムに軽快なソロパートを奏でるような、
なんていう僕の比喩はなっていませんが、良いアクセントになっていました。
特徴ですな、この比喩を多用するというところは。
また、牛河というおもろいキャラクターも登場する。
前2部に出てきた加納マルタ・クレタとかがでてこなくなって、
笠原メイも手紙だけの登場になり、主人公の「僕」もそれまでと
雰囲気が変わり、どこか現実離れしてしまうのがちょっと後ろ髪をひくように
残念に感じられて読み進めていくことになるのだが、
ぐいぐい読ませるものがあります。
これは村上春樹好きならば読んでおくべき作品ではないかと思います。

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2025年07月25日

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笠原メイの存在が物語の面白さを引き出していると感じた。主人公を中心に、多くの登場人物の関わり合いにワクワクさせられたし、繋がりという観点からそれぞれの心の空虚とそれを満たそうとする関わり合いに良さを感じた

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2025年09月27日

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異変は、飼い猫がいなくなった事から始まった。その後妻がいなくなり、奇妙な女達との対話、知人からの謎の形見分けなど、不思議とも言い切れない絶妙な出来事が起こる。
霊能者、戦時中の暴力などあらゆる事象が主人公に集約し、妻を取り戻すための物語。

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2025年09月20日

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色々なことがはっきりせぬまま、繋がらぬまま終わってしまった感が拭えない。
第一部ではよく登場した加納マルタ、クレタ姉妹が一切出てこないこと。ナツメグとシナモンが去っていくこと。間宮中尉の話が再び登場したけど、繋がりは?
はっきりさせぬまま終わるところが村上春樹さんらしいといえばらしい。

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2025年08月04日

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断絶された3巻目
 最終巻の雰囲気は、それまでの1巻2巻と持続してゐた空気をやぶって、完全に別物になってゐる。

 笠原メイの手紙が、リアリティを失って実在しえないが、魔性の女子高生として描かれる。
 赤坂ナツメグ、赤坂シナモン、そして牛河の初登場。

 夢での結実が現実に結びつくさまは、ファンタジーであり、なにか切実であり、そしてハッピーエンドでもあり、バッドエンドでもある。
 しかし、それでいいのだ。とおれは思ふ。

 同時に、福田和也や石田衣良、沼野充義が最高傑作だと評してゐたが、おれにはわからない。
 これがほんとうに日本の病理を描いた総合小説なのだらうか? おれの目には、ただ何をしでかすかわからぬ兄を持った妻に執着する男の物語としか映らない。
 村上春樹いはく、これはコミットメントの小説なのだといふ。

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2025年06月07日

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間宮中尉の話やナツメグの回想はかなり専門用語が多く、時代背景も相まって予習しないとスッと頭に入ってこないため途中すこし苦に感じた。

今作は村上春樹作品のなかでもかなりファンタジー寄りな物語に感じた。(鼠初期作品、ダンスダンスダンス、ノルウェイの森しかまだ読んでないです)

ダンスダンスダンスや、羊をめぐる冒険などで夢と現実が曖昧になる表現は過去にあったはものの、それが実際の現実世界や、過去の歴史上の話とリンクしていたり、超常現象を操る人物が出てきたりと。。自由な作風でそこは新鮮で読んでいて楽しかった。

好きなシーンはクミコとのコンピューターを通してのメッセージのやりとり、
個人的に1番盛り上がったのは2部だったかな

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2025年06月04日

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長かったー。
村上春樹作品を読んでる時に、空気が澄んだ何も無い空間に漂ってるような気分になるのとか、読後に、何もない空間に一人投げ出されてなんとなくさみしくなったり虚無感に襲われたりするのが好きだったんだけど、なんだかそういう気分になれなかった。歳を取って感じ方が変わったんだったらかなしい。

2部で自ら井戸の中に入っていくあたりが一番好きだった。

戦争での肉体的な暴力の話とワタヤノボルの心身への暴力の話。透き通った落ち着いた文体だけど、暴力とセックスが多いよね。戦争に関する説明が多くてそこを読むのがつらかった。

とりあえず一連の騒動には区切りがつくんだけど、はっきりしないことも多くてちょっと不完全燃焼。

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2025年03月07日

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