伊東潤のレビュー一覧
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『〝クジラ〟強調月間始めました!』7
第7回は、伊東潤さんの『巨鯨の海』です。
伊東潤さんは、時代小説を中心に書かれている方です。本書が初読でしたが、和歌山の太地で、江戸時代から独自の組織的捕鯨を行っていた人々と鯨の圧倒的な物語でした。
臨場感あふれる捕鯨場面の描写が素晴らしく、迫力と緊張感に溢れ、時・潮・風や鯨の動きを読みながらの漁は、鯨の情の豊かさや悲しい運命まで表現される秀逸さです。
専門用語や方言も多く登場しますが、丁寧な説明があり気になりません。また、太地の人々は、鯨を「夷(えびす)様」と呼び、古くから鯨に対して畏敬と感謝の念をもっています。更に、鯨と命懸けのやりとりをす -
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「御予約受付中」(=近日発売)という様相で発見し、発注して入手した。そして早速に紐解いて愉しんだ。好かった!
本作は「関ヶ原合戦」を背景にした時代モノの小説である。
「関ヶ原合戦」ということになると、物凄く知られている戦いである他方、色々と小説家の想像の翼が羽ばたく余地も多々在るかもしれない出来事であると思う。旧いモノから近年のモノまで、合戦そのもの、合戦の前後のこと等を色々と取り込み、様々な人物を中心視点人物とする小説等の作品が在ったと思う。が、本作はそれらの何れとも「似ているようでいて、全然似ていない」という面白さが在る。
本作は2人の主要視点人物が設定されている。そして2人の視点による物 -
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時代を問わず、日本史の事件や人物を小説化する著者だが、本作品で選んだのは保元の乱。政権争いのキーマンが貴族から武士に移るきっかけになった事件として有名だが、戦闘そのものは短期間で片方の圧勝に終わり、見どころは少ない。しかし、著者の手にかかると、人のエゴが渦巻くサプライズあり、エンターテインメントありの大ドラマに。
主人公は保元の乱の敗者、藤原頼長に密命を与えられて、皇室に送り込まれた女官、栄子。当時は天皇家、藤原家、源氏、平氏、それぞれが一族の主導権争いで一触即発の状態。そんなキナ臭い社会で、女性ができることなんて、たかが知れている。しかし、栄子は女であること、琵琶奏者であること、独特の風貌 -
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『商いとは人のしないことをし、人の望む物を望む形で供すること。』
まずここから始まる。
河村屋七兵衛自身は、学問や芸術で大成したわけでもなく、抜きんでた技術を身につけていたわけでもない。ひたすら実直に困難に立ち向かうだけ。
『大計を論ずる者は小費を惜しまず。速きを欲さずしておのずから速き者なり。』
物事を推し進める奥義ではないだろうか。
『いつか死ぬその時に、もっとがんばればよかったと思わないために、今出来ることに全力を尽くさねばならない。』
『人の成功を喜べる者に、商いの神は微笑む。』
『人なんてものは皆、取るに足らないもんさ。だがな、取るに足らない男ほど何事にも真摯に取り組む。そして成 -
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主要視点人物が大鳥圭介となっている。幕末から明治の初め、「箱館の戦い」に至る旧幕府系の人達の物語である。
「箱館の戦い」に身を投じた様々な人達を取上げた小説等は多く在ると思う。色々なモノに触れて来たと思う。そういうモノの作中に大鳥圭介は色々と登場もしている。だが「大鳥圭介」を主要視点人物とした作品は余り記憶が無い。そういう意味でも少し惹かれたのだった。
本作では、鳥羽伏見の戦いの後に、新政府側に対して抗戦を唱える人達が各々の行動を始めようとしていたような頃から物語が起こっている。
幕府の中でも「精兵」と呼び得る、当時のもっとも新しい理論に基づく、フランス人顧問団の指導も受けた<伝習隊>は、鳥羽 -
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「賢者は理屈で動き、愚者は感情で動く。」人気歴史作家が分析した戦国の合戦十二番勝負。
幅広い分野の歴史小説で名を馳せる筆者の一冊。小説を支える豊富な知識に基づいた、戦国時代の合戦を最新の知見から分析している。
本書は陸上自衛隊の隊内誌「修親」という何ともマニアックな雑誌の連載コラム。かなり専門的な読者を想定している。
特に長篠の戦いの織田信長と、摺上原の戦いの伊達政宗。相手方を自分の仕掛けたトラップ、窮地に引きつける戦術の見事さ。
近年、関ヶ原の戦いを始め従前の定説を否定する新説が広がりつつある。そんな最新の解釈も踏まえた合戦の解説。
筆者の小説とはまた違った視点から楽しめます。