伊東潤のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
信玄亡き後の甲州武田家の棟梁となった勝頼だが、長篠で信長と家康の連合軍に破れたことにより、勢力が弱まる。しかしそれだけが原因で武田家は滅亡へとむかったわけではない。
長篠後の武田家は増大する信長の勢力に対抗するために、南関東を支配する北条家から桂姫を輿入れさせ、同盟を結ぼうとする。
嫁入り後の桂姫は二心なく一貫して両家の繁栄を祈り行動するが、勝頼の側近・釣閑の策謀により、武田家と北条家の関係は悪化する。金山の枯渇により軍資金の不足が深刻になったと判断した釣閑は北条家領内にある金鉱脈を狙ったのだ。
武田家が無敵を誇れた一因は潤沢な軍資金にあったが、それも金山があってのこと。武将と言うより経済官僚だった釣閑は、長篠で生き残った信玄以来の古参の武将を悉く遠ざけ、武田家内部で権力を集中することに成功した。しかし軍事には疎く、北条家との同盟を壊し、なおかつ金策にも失敗するという最悪の結果を招く。
事がそこまで悪化してから、勝頼は自らの不明を家臣に詫び、釣閑を遠ざけるが、あまりにも遅かった。急速に滅亡への坂道を転がり落ちていく。
勝頼が愚将だったから武田家は滅んだ、というのは簡単だ。
しかし、勝頼は武将としては優秀だった。棟梁としても私心なく、ただ武田家の行く末に心を砕く、凛々しき青年武将の姿が小説からは見える。
武田家滅亡の主な原因は金山の枯渇と、長篠で多くの人材を失ったことによる人的資源の欠乏といわれる。
しかし、人は探し出せばいたんではないかと思う。北条家との同盟をうまく運べば歴史は変わっていたかもしれない。つまりは勝頼が信玄ほど人を見抜く慧眼がなかったということに尽きるのだと思う。釣閑さえいなければと勝頼も思ったことだろう。
この小説は600ページを超す大作で、登場人物が多すぎるので読むのが大変だ。しかし「長篠の合戦以降に急速に衰えた」と、学校ではわずか一行で片づけられる歴史を、とてもドラマティックに描いている。知らないことばかりだったので歴史小説好きにはかなり面白い。
信長、家康と拮抗していたはずの武田家が、一気に瓦解する後半は読み応え十分だ。
武田家を裏切る者、武田家に信義を尽くす者、滅亡の際に立たされた人々の生き様の対比が鮮やかで、心を打つ。時代小説の傑作だ。
-
Posted by ブクログ
太平洋戦争開戦直後から終戦まで、氷川丸とそこに乗り組む軍医中尉河野を主人公として描く。戦いの真っ只中に置かれることはほぼないが、それでも凄まじい業務内容・量である。収容した軍人もかなりの数が死んでいく。
日本の病院船がほとんど撃沈されたのに、氷川丸だけが(?)攻撃を受けず、戦後まで生き残ったのは運も勿論だろうが、それだけではない。病院船としての塗装、灯りを守り、輸送物資・人員についても極力(100%ではないのが微妙だが)国際法を守ったのが大きいのはだろう。
病院船の実態がよく分かる。基本的に日本から医療物資を運び、南洋諸島を回って病気(これが多い)と傷ついた軍人に対して医療を施し、戦いに参加出来なくなった軍人を日本に連れ返す。
17年の初め頃から南洋ではもう米国はかなり強く出ており、結果負傷者が多かった、ミッドウェーが転換点という認識は正しいにしても、ソn前は日本が押していたというのは間違いだ。
なお、南洋諸島の位置関係、ミッドウェーがハワイより北だというのは初めて認識。
-
Posted by ブクログ
東京で派遣社員として働いていた紗栄子だったが兄でねぶた師の春馬が病気になってしまったため、助けに帰郷する。
動けない春馬の手足になりねぶたを仕上げて行くが、本番2日前に春馬が「これはわしのねぶたじゃねぇー!」と言って壊してしまった途端意識を失い緊急手術となる。
壊されてしまったので、一時はもう出台を諦めたが、奇跡的に春馬の一番弟子が壊された箇所のスペアを作っており、徹夜で本番に間に合わせ、無事大賞を獲る物語。
ねぶた祭りへかける青森の人達の思いやねぶた師の強い想いが上手く描かれていて先が気になるまさに題名に奔るとあるように疾走感溢れる小説だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ着地に失敗した幻の"傑作"。
それでも、同じ人間として、極限まで頑張る姿に勇気をもらえるので星4つ。
もし貴方がドニー・アイガー著「死に山」を読んで面白かったのなら、「八甲田山雪中軍遭難事件」に潜む疑問を突いた本書は十分楽しめます。
以下はネタバレあります。
1902年1月199人もの犠牲者を出した八甲田山での雪中行訓練は、ソ連の南下策を念頭に陸軍で計画されたもの。
歴史雑誌編集者が社内企画で社運をかけたのがこの事件。そして調べれば調べるほど計画、装備(防寒対策)、組織体制が杜撰だったことが判明。
なぜ現地に精通した案内人をつけなかったのか、なぜ防寒対策を軽視したのか、なぜ統率系統を乱す上司の随行参観を許したのか。
これらの疑問は、人が冬山でどのくらい耐えられるのかという軍の「人体実験」だったのでは、という恐ろしい仮説(疑惑)を生む。
計画された全行程22kmのうち険しいのは賽の河原から馬立場までの3kmのみという点も甘く見ていた要因の一つだったが、厳冬の八甲田山は秒速20〜30mの暴風雪が吹き荒れ前方が見えなくなり、5〜6mに積もった雪溜まりを踏破しなければならなかった。もちろん、寒冷地出身者や冬山に慣れた隊員もいたが、猛吹雪に外を出歩く危険な経験などなく、ほとんどが素人集団だった。さらに行軍当時は、観測史上最悪の天候だったのも不運だった。
また、手紙や文献資料を当たっていると、稲田一等兵の行軍参加が濃厚となるが、遭難者名簿には名前がない。
そして、歴史に埋もれた稲田を主人公とした第三章が展開される。
そして彼一人、命からがら村にたどり着き助かったと思ったその瞬間、思わぬ衝撃的事態が…
この辺から小説的展開(フィクション)となり、やり過ぎ感が出てくる。
ガイド役の小山田が、雑誌記者菅原とはぐれて遭難させようとしたところまでは許容範囲だが、猟銃で脅すとなると話は違う。ここまで傑作だった本書の着地はそこじゃないと歯噛みしている自分がいた。
さらに、桐野編集長の妊娠というエンディングは壮絶で暗い話を緩和させようとした筆者の試みだと思うが、余計でした。
そうして「囚われの山」は、ラスト近くまでほとんど傑作だったのに結果残念な1冊(怪作)となりました、ちゃんちゃん。 -
Posted by ブクログ
類まれなる知性と厳格さで、摂関家の再興に執念を燃やす左大臣・藤原頼長。権力を盤石にするため、多子を近衛天皇の入内(じゅだい)へと送り込む。しかし、頼長のあまりに潔癖で妥協を許さない政治手法は、周囲の貴族や皇族、台頭する武士たちの反発を招き、やがて時代は凄惨な内乱「保元の乱」へと突き進んでいく。政争の道具とされた多子が、滅びゆく頼長の背中を見つめながら見出した、自らの生き様とは。。。特徴は、王朝文化の終焉と退廃を見事に小説の中で描き切った点かな。そして、頼長の信念である「理」や「法」と、多子が抱く「情」との対立が物語の通奏低音となっており、読後には滅びゆく美しさと哀愁が深く残りまよ~。
-
Posted by ブクログ
短編集なので、さらっと読むにはちょうどいい
読み易いし、ストーリーも面白い
一本一本ちゃんとしてて、考えさせられるところも多い
戦国武将の評価や人となりというのは
本当によくわからない
全てとは言わないが、かなりの部分は後世に面白おかしく作られたはずで、本当のことは誰にもわからない
江戸後期から維新の時代だってかなり怪しいわけで
ましてや信長や秀吉がどんな人間だったかなんてわかるはずがない
そういった意味では歴史物はやはりファンタジーと言うべきか
たまたま今大河ドラマで秀吉は出てくるが
あんなにいい人間であるはずもなく、もっと卑しくてずる賢くて、嫌な人間と考えたほうが自然である
しかしファンタジーである以上、面白ければよい
ボクは現代物もよく読むし、好きだけど
上橋菜穂子や司馬遼が大好きなのだと再認識 -
Posted by ブクログ
久しぶりの歴史小説。戦国時代の知識は高校の頃に習った日本史に加えて太閤立志伝ってゲームをちょっとやってたくらいです。みかん転売しまくってた。
現代とはあまりにも命やプライドの価値観がかけ離れていて、だからこそこの時代にしか存在しなかった美しさみたいなものが後半にかけて押し寄せてくる。それに、どんな時代であっても等しく憧れる生き様、かくありたいという人間が存在していたということを確かに感じました。
歴史小説の楽しいところって、誰もが知ってる戦国大名から小さな村の兵卒まで、直接的な接点がなくともドラマが繋がっているところが…いいなぁって思いますよね。