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Posted by ブクログ
『〝クジラ〟強調月間始めました!』7
第7回は、伊東潤さんの『巨鯨の海』です。
伊東潤さんは、時代小説を中心に書かれている方です。本書が初読でしたが、和歌山の太地で、江戸時代から独自の組織的捕鯨を行っていた人々と鯨の圧倒的な物語でした。
臨場感あふれる捕鯨場面の描写が素晴らしく、迫力と緊張感に溢れ、時・潮・風や鯨の動きを読みながらの漁は、鯨の情の豊かさや悲しい運命まで表現される秀逸さです。
専門用語や方言も多く登場しますが、丁寧な説明があり気になりません。また、太地の人々は、鯨を「夷(えびす)様」と呼び、古くから鯨に対して畏敬と感謝の念をもっています。更に、鯨と命懸けのやりとりをするため、太地の掟は厳しく、熱くヒリヒリした同胞意識も伝わってきます。
太地の古式捕鯨の栄華から終焉までを、壮大なドキュメンタリータッチの物語に仕立てた本書は、「凄い」の一言に尽きます。強烈な余韻が後を引く読後感でした。
Posted by ブクログ
紀伊半島の漁村・太地。そこで組織捕鯨を確立し、日々鯨に挑む漁師たちの姿を描いた連作。
「なんという迫力……」
この小説を読み終えた時の感想を最も簡潔に表すとこうなります。
太地の人々の鯨漁はもはや漁ではありません。それは戦いなのです。時に十数メートル以上の鯨に対し銛を打ち込み、何度も網をかけ少しずつ弱らせ最後にとどめを刺す…。言葉にすればただそれだけの話なのですが、その描写力たるや…
太地の漁師たちの息遣いやピリピリした感じももちろん伝わってくるのですが、さらにすごいのは狩られる側である鯨の生きたい、死んでたまるか、という気持ちすらも伊東さんが書き込んでいること。
作中で鯨のエピソードで、過去に鯨漁から逃げ切った経験を活かし太地の人々の漁から逃げ切ろうとする鯨や、子を思う鯨の姿が描かれるのですが、そうしたエピソードだけでなく、死に際の鯨を描く場面がまた秀逸です! 作品全体を通してみると鯨もまた主人公なのです。
最終話の「弥惣平の鐘」の漁の描写と自然の厳しさの描写は圧巻の一言! いかに人間が自然の厳しさの前に無力かということを感じさせられます。
もちろんそれぞれの短編の人物描写、心理描写も伊東さんらしい情念が込められた作品ばかりです。
厳しい掟が支配する閉鎖的な共同体の太地。そこで暮らす少年たちは何を目指すのか、男たちはどう行動するのか。掟に縛られながら生きた人、掟を全うした人、時に太地に疑いをもち外の世界を夢見るもの。それぞれのドラマが伊東さんの圧倒的な筆勢で描かれます。そこにあるのはただ生きるだけでは満足しない、本物の「生」を渇望する男たちのドラマだと思います。
伊東潤さんがどんな人か全く知らないのですが、もし会うことがあればいきなり「兄貴ィ!」と読んでみたいです(笑)。こんな例えで伝わるかどうか不安ですが、本当にそれだけ伊東さんの作品には迫力があります。男が漢に惚れるってこんな感じなのかなあ。
第4回山田風太郎賞
第1回高校生直木賞
Posted by ブクログ
太地・鯨シリーズの第一弾。江戸時代末期から明治時代までの紀伊半島の漁村・太地で組織捕鯨に携わる男たちを描いた連作短編集。いずれも読み応えのある6編を収録。
鯨と人間が対等に近い立場で、命をやり取りをした時代…太地鯨組の厳しい掟と捕鯨に携わる男たちの勇気と苦悩。若者は捕鯨を通じて成長し、若者を導く年長者はいつか身を引いていく。
『旅刃刺の仁吉』。流れ者の刃刺の仁吉が太地鯨組の中での地位を確立していくと共に妾腹の音松に刃刺への道を示す。
『恨み鯨』。鯨組の厳しい掟の中で生きていく親子と物哀しい家族愛を描いた佳作。
『物言わぬ海』。耳が聞こえない喜平次と刃刺となった与一の友情とその間に立ちはだかる太地の厳しい掟。
『比丘尼殺し』。本作の中ではミステリーの色合いが強い異色の短編。一番、面白かった。比丘尼や遊女を連続して殺害した犯人は太地鯨組の刃刺と目されたが…
他に『訣別の時』と『弥惣平の鐘』を収録。
Posted by ブクログ
捕鯨を題材にした作品なので、鯨と人との勇壮な闘いが物語の中心なのだろうと勝手に思い込んで読み始めたのだが、視点が違っていた。
飢えて死ぬことが珍しくなかった時代に、鯨を捕ることで、地域全体が栄え、支え合って生きていける。集団で闘えば、集団みんなが生きていける。生きていくために強固に結びつき、生きていくためには強固に結びつかなければならない。その閉じた社会を維持するための絶対的な掟の下で、闘って生活の糧を得るために、特殊技能を磨き上げていく。それが生きることの全て。
集団として生きる個。生きる手段が生きる目的だった。そこに訪れた時代の大きな転換。題材は捕鯨ではなかったのかもしれない。
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