西加奈子「こうふく みどりの」の姉妹作。
2冊で1作品、ということだが、普通に【続編】と理解
した方が良いかも。だから、もしこの作品を読もう、と
いう人が居るのなら、先に「みどりの」を読んでからの
方がおもしろい、と最初に言っておくことにします。
「あかの」の主人公は二人で、それぞれのタイムライン
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の物語が交互に進む、という構成。一人は2007年の段
階で調査会社に中間管理職として勤務する男で、典型的
な「事なかれ主義」を貫くサラリーマン。
もう一人は2039年の段階で「最強」とされるプロレス
ラー。残念ながら、その時代のプロレスはかなり衰退し
ている模様。
2007年のある日、妻の突然の「妊娠報告」に狼狽する
夫。妻とは長い間夜のコンタクトが無かったため、お腹
の子どもが自分の子ではない、ということは確定。妻を
問いただし、揶揄したいという願望はあるものの、事な
かれ主義が身体に染みついている男は何をどうしたら良
いか解らない。
一方2039年、ドサ回りをしながら少ない観客の前で最
強を証明し続ける48歳のプロレスラーは、新人選手の挑
戦を受ける。対戦相手はコレがデビュー戦。普通では考
えられないシチュエーションの試合で、王者は…という
内容。
「みどりの」に比べれば、束も薄く、苦手な大阪弁表記
も無いので読みやすいハズなのだが、こちらの方が読み
終えるのにかなりの時間を要した。本当なら嫌悪すべき
な調査会社課長に多大なる感情移入をして読んでしまい、
そのいたたまれなさに読書を数度中断したのが原因。
おそらく僕も「事なかれ主義」の権化であり、問題対処
の考え方が主人公とほぼ同一。共感するたびに情けなく
なる、という、やたら精神に突き刺さる作品であった。
この作品の根底には、「みどりの」よりも数倍色の濃い
『アントニオ猪木』が流れている。『俺が今まで、猪木
のような眼をすることがあったかと、四十を手前にして
思うのは大変に辛く、ただただ手遅れであった』という
一文が、この作品の全てを表現している、と言って過言
は無い。
…僕もだ。
50年近くアントニオ猪木を見続けて来たのに、猪木の
ような眼で何かに立ち向かったことが一度でもあったの
か?そう考えると、涙が出てくる。
僕より一回り若い女性は、きっと猪木と同じ眼をして小
説を書き、結果的に直木賞を受賞した。そう考えるとか
なり悔しいけど、悔しさ以上に西加奈子という稀有な才
能をリスペクトせざるを得ない。
【こうふく】連作、凄いインパクト。目が覚めました、
本当に。