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わが愛と命の記録
将来の伴侶と決めた同僚の教師・中村謙一に伴われ、彼の実家をたずねた中川タミ子は、この結婚に反対する彼の両親から、ひどい侮辱を受けて席を立った。よく晴れた夜空にまたたく何千、何万の星、その孤独な光は人間の孤独に似てはいるが、人間には星にない愛情がある。家を捨ててきた中村とその夜タミ子は近くの温泉に一泊し、進んで契りを結ぶ。昔気質の人格者だが、女癖の悪い彼女の父、二号さんが公認されている中村の家、そんな生活だけは、と笑い合った二人だが……。一時代前の女の赤裸々な記録を通して、現代の若い男女に愛と結婚のモラルを訴える力作長編。 -
マギの恋
平吉は「夢見る男」だった。この人生に、小説と詩を書くこと以外に、真剣になることはない、と思い込んでいた。マギと呼ばれる小屋の2階で、彼は隣りの娘・トシ子と愛を誓い合った。トシ子は美人ではないが、純粋な心の持ち主だと、平吉は自分にいいきかせていた。しかし、結婚してやがて子供が生まれようとする頃、彼の描いていたトシ子の像が、風化された土人形のように崩れてしまう日がやってきた……。津軽地方の土の香りを漂わせつつ、人生への暖かい眼と鋭い諷刺を識り込んだ、巨匠の名作である。他に、若い愛をテーマにした好短篇11篇を収録。 -
そんな筈がない
医学部の学生で、元警察官の父を持つ滝口康子が、次々と事件の真相を推理。新聞記者の小島純吉、康子の父に昔お世話になった老刑事の真田らも活躍する、4編の連作ミステリー小説集。 -
0時間の男
千鳥が渕マンションの一室で、パール・ホワイトの受話器から、悩ましい女声の秘密指令をうけると、刈谷は過去を忘れ、未来を考えない男になる。現在の、この0時間に命をかけるのだ。「人狩り特急」では、在日米軍航空医療班細菌主任・小関博士の身辺警戒を命ぜられて、奇妙な誘拐事件のからくりを暴き、「深海魚作戦」では、ジュネーブ宝石商殺しの真犯人、日本の宝石界を牛耳るリュー将軍一味を捕え、「金髪特攻隊」では、外人旅行者相手のニセの旅行小切手偽造組織に挑戦する。ナポレオン・ソロばりの、秘密国際刑事警察機構・ICPOの日本特派員の、胸のすく大活躍! -
夜ひらく谷
性的不能の烙印を負って、山寺=曼荼羅寺にこもる三国実が、妖女艶婦の愛欲の中で、いかにして青春を復活していくかを描く問題作。 -
青い糧
K学園高等部のサッカー選手だった河村は、試合で膝に怪我をした。その頃、厳格な父が死んだ。スポーツのできない体になった河村は、放埓な仲間との新しい生活に踏みこんでいく。賭博、酒、狼藉、背伸びした女遊び……。悪賢い才覚で大金を手に入れ、それを湯水のように使う。彼らがひかれるのは、じつは賭でも犯罪でも女でもない。情熱の浪費、浪費のための浪費、消耗することへの欲望がすべてなのだ。そうした無頼をてらう生活のなかで、河村はキャバレーに働く可憐な恵子を知り、彼女との愛欲に純粋な価値を求めて……。高校生と年上の女のはげしい恋を描いた長篇。 -
西陣の蝶
殺人の容疑者として拷問にかけられた父は、蝶子が5歳のとき、冷酷な検事をうらみながら、死んだ。20年後、蝶子は、京都上七軒町から、芸者として出ていた。幸うすい青春に、父の記憶は黒いシミのように、影をおとしていた。ある日、呼ばれたお座敷に、父を死に至らしめた鬼検事がいた。蝶子は、装った笑顔で、その男に酒をすすめるのだったが……。社会の暗い部分と人間の醜い本能との間に、しめつけられた蝶のような女の、哀れな人生を、細密画のように描いた「西陣の蝶」の他に、「三条木屋町通り」「貴船川」など、全8篇を収録。 -
身がわりの夜
それは少女だけに許された、幻のような記憶かも知れない。下宿人だった画学生の杉浦が、正子の裸体を熱っぽくデッサンし、鮮紅色の乳房に、ふと触れた日の感傷は……。正子は、いま新宿・元青線のバー勤め。マダムの弥生は画家の未亡人で、かつて杉浦を愛した過去をもつ女だ。「杉浦はパリの安宿で病いに臥せている」と耳にした正子は、パリ行きを決意した。彼女は幻影を追って稼ぐ。ある夜、正子がとった男は甘美な肉体の香に酔いながら、奇妙な述懐を始めた……。女の感傷の傷跡を描く表題作ほか、全10篇。 -
情事の配当
結婚7年め、子宝に恵まれぬのは、夫の体質が原因だと診断されたとき、絹子はむなしい虚脱感を味わった。頼りきっていた12歳年長の夫の姿が、ひどく老化してみえる。豊かな肉体をもてあましつつ、「ゴルフウィドウ」に甘んじなければならぬ絹子……情事への誘惑が心をゆさぶる。相手は、証券セールスの時岡という青年だ。夫の出張の夜、ついに彼女は甘美な悦楽にはしった――。「この情事の配当がほしいわ」絹子の胸に悪魔がささやく。彼女は夫に迫った「ね、私、人工授精をうけようかしら」。が、事態は一変した。時岡が事故死したのだ――という表題作ほか全10篇。 -
女館
生まれながらに霊感を与えられた美少女・妙子と、女ざかりの独身女、妙子に仕えて上品な物腰の、女の魅力を持ち続ける老女――「女館」に棲む3人の女と、影の如くつきまとう奇怪な風体の髭の男をめぐって、さまざまな事件が展開する。妙子の霊感で、動かなかった機械が動くようになり、新しい流行色のファッションが作られるようになり、政治家や実業家が、「女館」に日参するようになる頃、妙子は初めての恋に、女として目覚めてゆく。現代の愛と欲望のゆくえを、流麗な筆で捉えた異色長篇小説。 -
純愛の砂
考古学で名を知られた大学教授を父に持ち、母親がいない20歳過ぎの千也子と、やんちゃな妹で高校三年生のルミ子。二人の恋愛の行方はいかに? -
終幕
30年来、新劇界に不死鳥の如く君臨してきた美貌の女優・長塚明子。彼女は脳腫瘍に冒され「五本の薔薇」の舞台を最後に、生命の危険を賭けて危険な手術に臨もうとしていた。数時間後に迫った死の影に脅えながら、彼女は愛の多かった自分の半生を、愛を交し合った男たちを思い返し、真の愛の意味を問いつづけ、舞台で使った5本の薔薇を、彼女の最も愛した人に贈ろうと考える。劇評家の宇佐見、彼女の発見者・春原、演出家の高城……幕が降り、まだ興奮のさめやらぬ群衆に囲まれて楽屋から出てきた彼女が薔薇を手渡したのは、意外な人物だった……。 -
刺のある樹
植物学者・仁木雄太郎は、シャボテン・マニアの貴金属商がヨーロッパ旅行中、その邸に住まわせてもらっている。そこへ警視庁の砧警部補の紹介で製菓会社の重役が、警察ではとりあってくれないからと捜査を依頼にくる。自動車に轢かれかけたり、川へ突き落されたりして、死の恐怖におびえる男の出現。この「刺のある樹」は、その妻の死にはじまる。複雑な家庭の、絞殺、青酸カリ殺人の謎と、死の恐怖。電気ミシンのソケットの秘密に挑む、お馴染み雄太郎・悦子兄妹が、密室殺人事件のトリックを論理的に解明してゆく過程を、明るい清新なスタイルで描いた長篇。 -
坂田家の四季
すでに一男二女の父となった、かつてのきんぴら先生こと、坂田金平の家で、長女の縁談をめぐって起こる様々な事件。日常の悲喜こもごもを、小気味よい巧みな筆で描いた、明朗家族小説。 -
沙羅の門
琵琶湖畔の古刹・昌福寺の一人娘・千賀子は、父・承海が、後妻として八千代を迎え入れたあくる日に、初潮を見た。正式な妻帯が許されない寺の中での、父と継母のなまぐさい営みが、女として目覚めた千賀子の心と体を、かなしい渦巻きに突き落とす。やがて京都の大学に進んだ千賀子は、ボーイフレンドと愛の過ちをおかし、そのことを八千代に告白するが、姉妹のような継母と娘の間に、父の承海もたちいることのできない、ふしぎな愛情が育っていた。……偽りと煩悩にいろどられた寺の生活を背景に、せつない女の愛と宿命を、美しい叙情で描きつくした、香り高い名作。 -
紅い水着の女
剛直で声が大きいけれど、めっぽう正義感と腕っ節が強い天川剛太郎は、都心の紡績会社で頑張る若手。湘南の海で出会った深紅の水着の女・涼子にひとめで心を奪われ、急速に距離が縮まるものの、さっぱり行動が読めない涼子嬢との一進一退の関係にほんろうされる。そんな二人の前に、腹にイチモツ抱えた面々が現れて、剛太郎は熱情とトラブルの渦に巻き込まれていく。長く波高い日々と純情がつむぐ、一途な恋の物語。 -
権九郎旅日記
川崎門下の高弟で、新婚間のない土佐藩士・権九郎は、団栗眼、獅子ッ鼻の無骨極まる男だが、藩でも屈指の無外流の達人で、純情硬骨ながら女に甘い。その権九郎が江戸勤番のため急遽、土佐から江戸まで下る道中で、襲いくる女難また女難の果てに、いまだ不本意ながら己が貞操は守られる結果に……。爆笑、哄笑、苦笑い……抱腹絶倒の東海道道中記。 -
拳銃を磨く男
大がかりな偽ドル密輸団を追う「私」なる人物は、密輸団の核心に迫るため、前科者・加下千里の偽名で香港ボス・楊長二の元に潜入し、彼の手先の美女・ジェーン李に近づく。そして、ジェーンとともに東京空港へ向かうが、飛行機のタイヤに仕込んだ偽ドルは、パトカーの追跡で放棄せざるをえない。ホテルの女支配人、女高利貸し、バーのマダムと、その用心棒など悪漢の、入り乱れる密輸団と、公安調査官の対決。力作長編ハードボイルド・サスペンス。 -
銀色の牙
影の多い国際都市・香港――そこでは、国籍は何の保証にもならない。日本商社の駐在員・越見は、ある日、友人のジョニイ劉が、アパートで殺されているのを発見した。間もなく、ヨットの遭難で話題になった男たちが、つぎつぎに殺される。そして、阿片窟の常連、元日本軍参謀、暗い過去のある大貿易商、美貌の女画家などの、もつれた糸のような動きに巻き込まれた越見にも、黒い殺人者の手が伸びてきた……。サスペンスに富んだ巧緻な物語の中に、落し穴を持つ現代の人間関係をさぐった、この野心的な長篇は、行動派の作者が華麗な才質を注いだ本格小説である。 -
温暖前線
九州の南西海上から本土にむけて放たれた無数の風船。それは化粧品会社が、東京への招待客をきめる「幸運の風船」だった。その中の2つ、赤と青の風船が、四国土佐と新潟の山中に落ちた。小松大五郎と柳田千穂は、この奇抜な宣伝アイデアによって出あったカップルだが、小松は新婚旅行の夜、室戸岬の宿で花嫁に逃げられた心の痛手をもち、また千穂も雪溪のみえる谷間で遭難、同行していた二人のボーイフレンドに置き去りにされた悲しい経験をもっていた。著者独自の素材で幻想的にくりひろげる、現代若人の恋と真実。 -
愛の静脈
瀬戸内海に臨んだ県立女子高校の新任教師・矢吹は、明朗な性格で人気者だったが、ロレンス思想の礼讃者である彼は、放課後、教師および生徒を前にチャタレイ講義をし、大きな波紋をよぶ。敬虔なクリスチャンの池内先生は、矢吹と激しい恋に陥ち、霊肉一致の苦悩の果て、二人は結婚したが……。この「愛の静脈」は、子を残して先立った美しい妻の追憶に生きる旧師・矢吹の心の支柱たるべく後妻になった夕子が、未来を開く扉は過去からの照明によらねばならぬとして、互いに傷つけ合う教師同士の怖るべき恋愛に、生徒として関係した愛と憎悪を回想する、香り高き告白小説である。 -
ここは静かなり
自分の恋の行方を追いながらも、教え子たちのコーラス大会への指導、高校生の恋愛問題など、数々の問題を抱え、同僚教師のストーカーまがいの行動なども起こる。また、寄宿している一家の事業が破綻しそうになり……。好感持てる新任教師物語。 -
きんぴら先生慕情譜
「きんぴら先生」とは、小田原の海星女子高校の教師、坂田金平氏の愛稱である。生来の硬骨な朴念仁ぶりと正義感、加えて独身とあって、女学生や教師の間には奇妙な人気があり慕われているが、いつも何らかのトラブルに捲きこまれている。そんななか、元同僚「ザベス先生」が神戸から戻ってくることになり、かつてのときめきが蘇るが……。夢多き女子高校生と多感な青年教師が奏でる青春の幻想曲を描いて好評の、「きんぴら先生青春記」「同青春譜」に続く「きんぴら先生」シリーズの決定版。 -
きんぴら先生青春譜
「きんぴら先生」の愛称を持つ青年教師・坂田金平。独身、正義漢、唐変木のコンコンチキである。甲府の男子校、湘南の女学院、横浜の女子高ときて、このたび横浜郊外の望ケ丘女子高校に赴任してきた。クセのある教え子相手に苦戦しているところへ、かつての教え子も現れてさらに一波乱。そして、同僚エリザベス・テーラー似の「ザベス先生」が気にかかり……。『きんぴら先生青春記』の続編。 -
ある告白
夫の父である人との結婚を決意した野口ふじ子は、少女時代からの自分の性の歴史をふりかえった。小学校の男の子との幼いペッティング、女学校のクラスメートとの同性愛……。彼女のまわりには、母を犯した孝行息子もいたし、純朴な青年に肉の果実を饗して死んでいった女教師もいた。体験や見聞を通して、ふじ子は、セックスがさまざまな人間たちの中に、原始の祭典のように生きていることを知った。明るく悲しいことだった……。現実に目をそむけることなくセックスを描くことで、作者は観照の深い人間論を展開する。石坂文学のエキスをすべてとかしこんだ長編! -
林檎の花咲くころ
出征した夫の留守中、子供を育てながら籍も入れてくれない舅姑に女中のように扱われた3年間の苦しみに耐えたが、夫は戦病死してしまう。2月半ばの吹雪の烈しい日、春枝は三歳の玉夫を背負い家を出ていった。林檎箱の上に戸板を載せ、衣類を売る苦しい生活が続く。戦争は林檎の花咲く里の春枝の幸福を破壊した。しかし戦いは終り、白い花咲く5月、幸福は再び春枝に甦ってくるのだった。……「林檎の花咲くころ」のほか、「手品師ヤッコウ」「冬の歌」「秋風」「ある貞婦の話」「浴みする女」「憎いもの」「私は鑑定人」「妻の経験」の全9編を収録。 -
麻薬3号
出所してきた極道が、ヒロポン中毒だったが、いまは流行作家になっている五味という男に書いた手紙、という形式で語られる、神戸のヒロポン宿、中華街などを舞台に、極道者、ヤクザ、パン助などが辿る、それぞれの人生の物語。著者が実際に、神戸で放浪生活を送り、覚醒剤依存症になった経験に裏打ちされている、長門裕之・南田洋子で映画化もされた力作。 -
犯罪乱流
東京新宿百人町のアパートでキャバレーのホステスが殺された。刑務所を仮出所したばかりの男が、情婦の心変わりを怒り、間違えて他の女を殺ってしまったのか? 凶器はピストル。公開捜査中の本部に、続いて殺人の報が届く。――佃河岸にダンス・スタジオ経営の男の死体が浮かび、雑司ヶ谷では深夜密会中の人妻と若い男とが狙われたのだ。事件の連続に色めきたつ記者クラブ。夜討ち朝がけを競って特ダネを追うタイムスの荒木、日日のガンさん、日報の山崎……。現代社会の乱気流が生んだ、凶悪な連続殺人事件の真犯人を追う捜査陣と、事件記者の活躍を描いた力作長編小説。 -
那智滝情死考
15歳で、京都五条の遊廓に身を売ったまきは、結核をかくしながら、男たちの相手をしていた。なじみを重ねた政市は、伏見の輜重隊で、けもののようにいじめぬかれていた。……ある日、廓を抜け出したまきと、兵営を脱走した政市の、からだをくくりあった心中死体が、熊野三山の聖域の那智滝で発見された。相擁して飛瀑の底に身を投じた男女の悲運な道に思いをはせて、美しくも哀しい愛の姿を描いた傑作。ほかに「蜘蛛飼い」「赤い毒の花」「真福寺の階段」「雪の下」を収録。 -
投げ縄 秀
清元の師匠・お駒の妾の子として、父親の愛情を知らずに育った秀之助は、幼い頃から「縄」をおもちゃ代りに親しみ、「投げ縄秀」と異名をとるほどの名人となった。母親譲りの美声と男前な風貌で、清元の芸人としても人気者となり、お駒の一番弟子のお光と新世帯を持ち、幸せな日々を送るようになる。やがて、江戸の町に次々と起こる怪事件を、得意の早縄で解決した功により、一介の町人が武士に取りたてられ、生活が一変してゆく。江戸末期から維新の動乱期を経て、明治大正昭和の三代を、きびしい芸道の世界に身をおきながら、「縄」を心の支えに生きた芸人の、心情と波瀾の人生を描いた、傑作長編小説。 -
青い颱風圏
カミソリ奥さんと悪名高い女医の息子・孫六くんと、カミナリ親爺を父に持つ江利子が、若さと機智で、犬猿の仲にある両家をさばく、ユーモア小説――伊豆・天城の山中で偶然の出会いを重ねて惹かれ合った江利子と孫六。その縁結びの神がいたずら好きだったためか、二人は、互いの家族や友の因縁が招く暴風雨のような日々に巻き込まれていく。素直に好意を寄せ合うこともままならないなか、突如襲来したホンモノの台風が解決の糸口となりそうになるが……。『きんぴら先生』シリーズで大衆小説をけん引した著者の、軽妙爽快な青春群像。 -
青い江の島
陽光きらめく湘南・江の島。島の駐在所を一人あずかる藤村亮介は、若くハンサムな警官ではあるが、絵に描いたような朴念仁。職務にはめっぽう熱心である一方で、駐在所向かいの娘・由美の連日の熱い攻勢にも動じることがない。そんな亮介を幼なじみや旅館の若女将、自殺志願の都会の娘らが起こす大波小波が揺り動かしていく。青年の真っ直ぐな心情を描き切る、爽やかな青春小説。 -
死神の地図
新光映画のスカウトマン・五代がスカウトした人気女優・由木涼子が、自宅の湯殿で殺害され、ついで五代がスカウトした代役は、カメラ・テストの最中に何者かの手で重傷を負わされた。これに代って登場したニュー・フェイスの小滝春子のイヤリングが、涼子殺害の現場に落ちていたことは、五代だけが知っていた……。スカウトマン・五代探偵の活躍する、スリラー長編。 -
最終都内版
新聞休刊日には大事件が生れる……というジンクス通り、9月23日の昼下り、警視庁桜田クラブの東京日報のデスクへ「女を殺して新宿の北向八幡の境内に埋めた」と、犯人だと称する男から電話が入った。捜査班も各社の記者も急行したが、本当に若い女性の腕が出てきた。バラバラ事件である。捜査一課はもちろん、各社の取材競争が始った……。やがて被害者は、キャバレーのホステスと判明、彼女のアパートからは、客となった者らしい200数十名の名刺が発見された。日報の山崎、タイムスの矢島記者の頭脳作戦! 続いて第2の殺人事件発生! 猟奇とスリル横溢の長編小説。 -
元禄小源太
五代将軍・綱吉治下の元禄期は、ある意味で暗黒期と言えた。将軍・幕閣のあいだに、女色はもとより男色の風がはびこり、賄賂はなかば公然とまかり通り、お犬様が人間より優遇された。この風潮に敢然と立ち向かった浪人たちがあった。冠小源太と汀十次郎――いずれも、悪政のいけにえとなった由緒ある家筋の血を引いている。ふたりの反抗は、私憤というよりむしろ世直しの気慨であった。しかし、男が志を立て事をかまえる時、そのかげで泣きくずれている美女がいるのは、いつの世も変わらない。元禄期を舞台に、剣と恋、勇気と策謀、正義と悪がからまり合う時代小説。小源太よ、お主どこへ行く? -
でめ金挑戦
静岡県の片田舎に、石川豊太は呱々の声をあげた。生まれたとたん、とりあげ婆に3本の指を突きつけたという大物である。小学校は開校以来の秀才で通し、村の神童を謳われた。そして豊太も今や17才の春を迎え、あり余る野心と精力を、ひたすら牝山羊を相手の自涜で消化していた。しかし或る日、耳よりな話が転がり込んで来た。小学校の代用教員に採用が決まったのである。教員を踏台に、ゆくゆくは東京に出て行こう。豊太の野望はふくらんだ。――金と女と酒に人生を賭け、なりふり構わず世間をのし渡って行く痛快児を描く、異色の長篇小説! <上下巻> -
きんぴら先生青春記
戦後すぐの女子高に赴任した新人教師・金平(きんぴら)が、美人生徒たちにモテ過ぎて、新任の美人教師たちにモテ過ぎて、てんやわんやと……。大人気を博した大衆小説の名作シリーズ。 -
官能文学電子選集 丸茂ジュン『痴女伝説』
北海道の繁華街・ススキノに次々と男たちを路地などに連れ込んで犯す痴女が現れた。その痴女の正体を追う新聞記者の運命は・・・・・・。 「ススキノに痴女現る」という新聞記事が街中に大反響を呼んだ。記事を書いた記者・北見の行きつけの小料理屋でもその話で持ちきりだった。痴女といっても、電車の中で男の下半身を触るなどという単純なものではない。酔っ払った男を深夜、路地などに連れ込んでホルマリンをかがせて犯すという強烈なものだ。おまけに犯された男は何も覚えていないのだが、目を覚ますと下半身に生えている恥毛が1本残らずそり落とされているのだ。男たちは熱狂した。「自分も犯されてみたい」と・・・・・・。記事が反響を呼んだために、北見は特集を組むことを命じられる。取材を進めてみると、痴女は色白の美人で、サングラスをしている。年齢は30歳前後で襲われる男は決まって10代後半の若い男だ。北見は知り合いである特殊浴場勤務の女の情報を元に取材を進める。そして、ついに警察が動き始める。第5の被害者が持っていた現金を痴女に奪われたというのだ。しかし、その被害者は32歳ということに加え、恥毛も剃られていない。これまでとは違うパターンだ。狂言だったのだ。振り出しに戻ったわけだが、ある夜、北見は背後から声をかけられた。ハスキーな声だった。出た!と思った時には、もう意識がなかった。北見が発見された時、まわりには深夜とは思えないほど人垣ができていて、無残に剃りとられた恥毛の上に口紅が1本と使用済みコンドームが落ちていた。シャツをめくるとお腹には「これから冬眠。春まで待って!」と口紅で書かれていた。痴女は一帯誰なのか!? 表題作「痴女伝説」に加え、「とまどい」「ウエディングベルが鳴る前に」「夜の指」など9作からなる短編集。美人官能作家として時代の寵児となった著者の会心作である。 -
官能文学電子選集 館淳一『背徳の眩暈』
美少女アイドルとその母親の元に悪徳所属事務所社長から命を受けたヤクザたちが向かい、陵辱の限りを尽くすのだが・・・・・・。 暴力組織とも繋がりのある芸能事務所社長の勝山は、手段を選ばない男だ。移籍を画策するアイドルは手下のヤクザを使い、陵辱してその様子をカメラに収めて脅迫。移籍封じするどころか、美少女好きの政治家に抱かせるなど骨の髄までしゃぶり尽くしてきた。今度の標的は、人気アイドルの宇佐美メグだ。まだ男を知らない純情な少女だ。熟れた母親・あき子と写真集撮影のために事務所の社員寮に滞在していた。そこに勝山の息がかかった2人のヤクザが忍び込み、まずは母親に陵辱の限りを尽くす。心ならずも体が反応してしまうあき子。ヤクザに犯されながらも我を忘れ、激しく反応し、よがり超えをまき散らして悶え狂う。その様子を見せつけられるメグも一糸まとわぬ真っ裸にされる。その姿に興奮したチンピラのテツは自らの肉棒をメグの口に押し込もうとするのだが、そこでメグが反撃し、膨張したテツのイチモツを爪切り鋏で思い切り切り刻む。そしてあき子を弄んで風呂に入っていた兄貴分のサブに向かってメグが出刃包丁を突き立てて、黒幕の名前を聞き出す。大どんでん返しの結末は・・・・・・。 この「柔肉の報酬」に加え、「悪女の肉宴」「娼婦母 禁断の約束」「注文の多い人妻モデル」ほか計6編を集めた名手・館淳一の短編集。 -
官能文学電子選集 菅野温子『脱皮』
40歳の行雄は12歳年上の姉に恋い焦がれるシスコンだ。女に甘えることが大好きで、3歳年下の響に身も心も可愛がられて喘ぐ・・・・・・。 37歳の響は、しつこい男や、用もないのに追ってくる男に対しては鉄面を見せる男っぽい性格だ。しかし、ふとしたことで知り合った身長180超えの大男で40歳になる行雄にはなぜか引かれるものがあった。行雄のすることはどこか遠慮がちであり、手慣れなさが垣間見えたからだ。長年にわたって仕事をしている大人の男なのに女の前では少年の部分が顔を覗かせるのだ。じつは行雄は6歳のときに結婚した12歳年上の姉に憧れを持つシスコンだったのだ。だから行雄はことあるごとに響に甘えてくる。響の乳房に頭を埋め、乳首をペロペロ舐め回してくる。響の手首を掴んで、自分の下腹部に持って行く。実際には3歳年上にも拘わらず、目の前の行雄はたまらなくかわいい。さっぱりした性格の響だが、セックスの対象になる男の前では、嘘のように女の部分が増殖してしまう。「体を弄ばれることってなかったから、いろいろなところを触られたい」という行雄に響は欲情する。シャワーも浴びずに絡み合う。髪の毛や腋の下の匂い、性器の匂い・・・・・・汗や体臭さえ燃え上がる女にとってはご馳走になるのだ。密室で男を飼いならしたいという欲望をかなえて、響は満足そうな笑みを浮かべるのだった・・・・・・。今まで著者が書いてきた作品とは一線を画したという自信作「響」に加え、「HUG」「仮面の夜」「冷たい熱帯魚」「脱皮」「ヌードモデル」など9作をまとめた短編集。 -
官能文学電子選集 藍川京『紅蕊日記』
夫の再就職問題で知人だった佐久間に相談したことで、美人妻・千亜紀の運命は急転していく・・・・・・。 夫・真人が勤めていた大手銀行が倒産。再就職に悩む真人のために29歳になる貞淑な妻・千亜紀は学生時代にバイトしていたときに知り合った大手損害保険会社の元専務だった佐久間德二郞に相談した。すると、佐久間からはかつていた会社への再就職を条件に千亜紀の体を弄ぶ。そして、要求は次第にエスカレートしていく。夫のためとはいえ、佐久間に体を許したことが千亜紀の胸に悔恨の念を宿す一方で、体は佐久間にされた破廉恥な行為を待ち望んでいくのであった。そして、佐久間の命令で入った華道教室で講師として待ち構えていたのは佐久間の後妻である美和だった。バイセクシャルである美和のテクニックに千亜紀は頭では拒むものの、体はいつしか美和を求めるようになっていく。精神的に崩壊しそうになると思いつつも、抗うことのできない快楽に千亜紀は溺れていくのであった・・・・・・。 -
崋山と長英
幕末に開港論を主張した高野長英と、攘夷の非を鳴らした渡辺崋山が、ともに幕府の忌諱にふれ、鳥居耀蔵の奸計で囚われの身となり非命に死んだ、いわゆる蛮社の獄の経緯を描いた名作。一章「獄中記」は長英の投獄を、二章「檻送記」では崋山の白洲での戦いを、三章「蟄居記」は幽閉された故郷での自害まで。野間文芸奨励賞受賞作品。 -
体の中を風が吹く
章子は、ぐうたらな夫と別れ、2人の子供をかかえて働く、婦人記者である。わが子の成長を楽しみに生きる章子にも、女としての心のひもじさに耐えきれぬ夜もあった。彼女には、年下の恋人・省吾がいた。誠実な彼は結婚を迫るが、章子は自分の境遇を負い目として応じられない。愛しあい、逢瀬を重ねながら、章子の心は、かたくなに閉されてしまう。そして、上役の世話で、省吾に若い笹子との縁談が起こるのだが……。年上の女の情熱と哀しみを主題に、定年を迎えた隣りの山崎家、そこに同居する共稼ぎの安川夫妻など、善意をもって生きる人々の生活の哀歓を描く、長編傑作。 -
蒼氷
蒼氷に覆われる厳冬期、富士山気象測候所に勤務する主人公と同僚たちの生活に入り込んでくる、男たちを翻弄する美女との入り組んだ関係を軸に、厳寒の山の凄さ、颱風の凄さなど荒ぶる自然の前に無力な人間を描いた、傑作長編。 -
青い失速
冬の菅平へ、木塚哲男と稲山洋子は、新婚スキー旅行にやって来た。襖1枚の隣室のスキー客の含み笑いに、洋子は初めての夜をこばんでしまう。翌朝、木塚は偶然逢った友人とともに、洋子を残して根子岳に出発、そして吹雪の山で道を失う。救出された木塚の枕元で、洋子はうわごとに「美津子」と呼ぶのを聞いた。……濃霧の高原、寒冷前線の乱流の中に展開する、青春画像を描いた長編力作。 -
人斬り新兵衛
田中新兵衛は、鹿児島城下の船頭だった。彼を薩摩勤王党に推挙したのも、商人から武士になった森山新蔵である。尊王討幕の気運がみなぎる京にあって、新兵衛は、孤独な末輩でしかなかった。やがて、彼が心から頼った森山新蔵は、寺田屋の変に連座し、あえなく切腹して果てる。佗しく郷愁に身を焦がしていた新兵衛にも、ここで転機が訪れた。酔って中座同心を斬ったのをきっかけに、九条家の諸太夫・島田左近を斬殺、首を三条河原に梟した。旋風のように、人斬り新兵衛の名は、京洛に鳴り響いてゆくのだった。そして、姉小路卿の暗殺……。幕末転変の人生を描いた佳篇「人斬り新兵衛」はじめ、全12篇。 -
振りむいたあなた
それぞれに、妻ある人を愛した姉妹。その人の妻の存在を思うとき、情熱に身を任せることのできない、姉の加代子。家を出てアパートに移り、恋人との愛に生きようとする、妹の美佐子。……妻ある男性との恋愛という、現代に多い愛のケースを主題に、世代と心情を異にする2人の女性の心の明暗を描きつつ、新しい愛のモラルを追究した力作。 -
女の椅子
夫が若い商業デザイナーを愛し、間もなく子供さえ生まれようとしていることを知ったとき、由紀子は、小さな息子の洋を連れて、家を出た。家政婦として働き始めた彼女は、いままで知らなかったさまざまな家庭と、その中に息苦しく耐えている夫婦の姿を見た。それぞれの業を背負った男と女が、お互いに傷つけあっている姿に愕然とするが、それでも彼女は、安らかな「女の椅子」が欲しいと願いつづけた。その間に、夫との溝は、ますます深くなって行くのだった。……新鋭女流が、動揺しやすい夫婦愛の機微を、きめこまかな筆づかいで捉えた、味わい深い佳篇である。 -
嫉妬やつれ
夫がポケットにしのばせていた、女文字の手紙。《夫を愛している女性がいる》……三千代はとまどった。40歳をこして、冬眠した動物のように、枯れきっていた夫に、そんな情熱が、どうして甦ったのだろう……。相手は若い女なのだろうか? 三千代は、夫の後をつけた。そして見た、夫の情熱を呼びさました冴子という女を。突然、三千代は乾きを覚えた。忘れていた性の乾き。雑踏の中で、稲妻のように体を突き抜けた思いに、三千代は戦慄する。《私も夫を裏切ってみたい!》……中年夫婦の愛情の危機を繊細な筆でえがく、『嫉妬やつれ』はじめ、全10篇。 -
銀の庭
京都の名刹・聚閣寺の住職・栂春泉には、貞淑な妻と美しい2人の娘とがあった。ある年の5月、アカ新聞が誤解に満ちた筆で、春泉の私行を暴露した。寺の金を横領して、先斗町の女にバアを経営させているというのである。それは、燈全寺派法類間の政治的な争いの材料にされ、栂一家は蟻地獄に突き落とされた。事件の成り行きを通して、それは次第にあきらかになった。そして「法衣を着たけもの」の爪は、春泉の娘・圭子にも迫った。……慈悲の法燈の影にひそむ俗臭と本能とを執拗に追求し、そこに散る花びらの哀切な美しさを描いたこの連作は、水上文学を象徴する野心作である。 -
兜町狼
三条銀行の頭取・高藤喜七郎は、財閥解体政策によって統制を失っている旧三条財閥を、銀行の主導権の下に復活させることを悲願としている。しかし、三条不動産社長・田淵英造は、高藤に対抗し、不動産の主導権による三条系列再編成を画策する。一方、もと証券取引所守衛・山沢新二郎は、某外国人と組み、三条不動産株の買占め、乗っ取り、さらには東京のド真中・日本橋の租界化を企む。買占めの情報は「とり屋」の栗山に嗅ぎつけられ、事件は影の主役、保守政党政調会長の登場をよぶ。欲望の町・兜町を舞台に、利権を追って浮沈する人間の相をダイナミックに描く長編ロマン! -
海流
遭難した紅洋丸の通信長・豊野道彦を救った密輸船の秘密。沖縄と海の生活を舞台に展開される、波瀾万丈のメロドラマ。海難事故から始まる出だしで、壮大な海洋物の長編と思いきや、ぐいぐい恋愛に引き込まれていく傑作。 -
右京介巡察記
将軍代替りのたびに、各藩へむけて発向せしめられた幕府巡察使は、しだいに初めの意義がうしなわれ、形骸化してきている。各藩が失政をおおいかくすため、巡察使に対して酒色と賄賂の奸策を用い、その口を封じようとしたからだ。だが、その年の3人の正副使のなかに、ひとりの気骨ある武士がいた。瀬名伝右衛門。巡察の古習を守ろうとする正義のふるまいは、各藩にとって、若々しいかぎりであった。しかし、藩の秘密を守ろうとする奸計にはめられた伝右衛門は、腹を切って果てる。その怨念を承けついで日かげに育った一子・紫右京介は……。神変無想流をきわめた虚無的な瞳の美剣士が、父の仇を討つ時が刻々せまる! -
シバテン群像
高知に棲息する天狗の幼虫的存在で、道行く人に相撲を挑み、1000人から勝ちを得ると天狗になれるという、妖怪・シバテンを題材に、江戸時代から明治開花の御世までを舞台に、坂本龍馬なども登場させて、虚実綯い交ぜの民話風味わいの滑稽譚集。 -
薔薇の木にバラの花咲く
潔癖で清純な心の持主の黎子は、アルバイトをしながら大学で学んでいた。戦災で両親を失い、肉親は姉ひとり。人の負担になるまいと肩を張って生きている彼女の前に、名門の建築設計士の叶が現われる。叶は黎子を愛し、若い直情から、彼女の肉体に愛の烙印を押した。黎子に静かな愛を寄せていた誠実な鳴海は、事情を知ったとき、男らしく耐えて、黎子と叶が結ばれることを願った。が、それは、黎子を蟻地獄のような苦しみと迷いに追いやるのだった。純粋な処女の心理と、愛情の哀しみと美しさを追究した、清爽な抒情あふれる青春ロマン。 -
夜と昼と
静子は過去に一度結婚したが、夫に女ができると自ら身を引いて別れるような、内気なやさしい性質であった。姉の愛子の家に、妹の珠子とともに身を寄せているが、姉たち夫妻のいまだに新婚気分の漂う幸福そうな様子、バレエに打ち込む珠子に較べ、女としての自分の幸福を夢みることもあった。静子は姉の夫の弟の和夫に親しみを感じていたが、和夫の方も共かせぎを続ける妻のさばさばした性格とは違って、いつも「女」を意識させる静子にひかれてゆき、やがて二人は周囲の人々の目を忍ぶ暗い情熱に結ばれてしまう。現代社会における愛のあり方を追求した力作。 -
鶴の来る町
南国・薩摩半島の農家に生まれ、枕崎のあいまい屋で働いているかね子は、一度だけ男にだまされたことがあった。それ以来、男に気を許すまいと誓っていたのに、蜂飼い男の刀祢吉が店に現われたとき、ふしぎな心の動揺を感じた。刀祢吉は、妻に先立たれ、まだ幼い一人娘をかかえた、風采のあがらない男だった。なぜ馬ヅラの蜂飼い男に惹かれるのか、かね子自身にもわからなかった。まして、それが悲しい運命の序章になるとは、夢にも思わなかった。……この作品は、貧しく世間知らずの二つの魂が、幸せを求めてのたうつ姿を、社会性のある眼で捉えた、美しい心の歌である。 -
地場者
地場者、それは日のあたる証券会社の椅子から振り落とされた一匹狼たちである。大相場師と謳われた亡父の夢のお告げに人生を賭けようとしている神沢、客の株券で思惑を張り1800万円の大穴をあけて悩む隅野。彼らは、喫茶店ナインに集まっては自嘲をくり返し、情報を囁きあうのだ。そこで神沢は資金繰りの秘策を練り、隅野は逃亡を決意した。しかし、所詮は地場者、神沢は空しく高騰を続ける相場を傍観するだけだったし、隅野もこの街の魔力から離れることはできなかった。兜町の影に生きる男たちの生態を生々しく描く「地場者」のほか、企業小説2篇を収録。 -
戦国兄弟
敵の内部を分断する反間苦肉の策。秀吉一流の調略に見事はまった織田信雄は、亡父・信長以来の家老・岡田重孝の誅殺を策した。豪邁の士・重孝は「さらば死に狂いの働きを見せよう」と主の面前に進む。暗愚な信雄に、戦国武士の死にざまを示そうというのだ。深傷を負いながらも、なお屈しない凄絶の暗殺劇だった。そして、兄への諫言も空しく残された重孝の弟・義同は憤激した。織田・徳川連合軍相手に奮戦し、小牧長久手の戦いに発展してゆく。義同はやがて前田・加藤両家を転々するが、その雄偉なる骨格、性根は、戦国の世にも異彩を放ってやまない。剛毅に己が信念を貫いた「戦国兄弟」の生涯を描く。 -
神々の岩壁
南は、ハーケンを打つ右手に、異常を感じた。手ごたえが甘い。垂直300メートルに屹立する衝立岩にとりついて3日目、最後の一滴の水もつきていた。バランスを失って、危うく墜落しそうになる。もはや彼の心には、岩に対する憎しみだけがあった。登攀不可能といわれる衝立岩は、神々の手に守られて、人間を拒んでいるかに思える。それでも、南は危険な垂直の前進をやめようとしない! 少年の日、登山家を夢見ていらい、ヒマラヤを志して精進を続けた、天才的クライマーが、魔の谷川岳、衝立岩に挑む姿をえがいた実録小説「神々の岩壁」はじめ山岳小説4篇。 -
新編 八犬伝
おなじみ、苗字に犬という字があり、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌それぞれの文字のある玉を持つ、8剣士ならぬ8犬士の物語。日本文学最大の長編と言われる滝沢馬琴の名作を、剣豪小説の名手が描く! -
小次郎と武蔵の間
佐々木小次郎が宮本武蔵に敗死した後、豊前細川家では長い間、兵法者を召し抱えていない。藩主・忠利が、小次郎の死を哀惜したからに外ならぬ。10数年後に、その忠利が見出したのは、二階堂流の松山主水であった。知行800石で召し抱えられた主水は、軽捷無類、魔法としか思えぬ剣の妙手であった。忠利は、小次郎と流祖を同じくする主水を寵愛した。肥後に国替えになった細川家で、やがて忠利と父・忠興の間に、新旧の相剋が起こる。忠興の家来が主水に辱しめられた事件は、火に油をそそぐ結果となり、「主水、討つべし」と忠興は激昂するのである。武芸者の意気地を描く「小次郎と武蔵の間」ほか8篇。 -
告白・女心遍歴
幾度も職業を変え、貧に悩み、さまざまな傷心を、人の何倍か味わった水上勉は、人間のおそろしさにおののき、しかも人間を愛さずにはいられない。「女心遍歴」という言葉の中には、理想の女を求め、裏切られ、やはりそれを思うことをやめられない男の、せつない祈りがこめられている。また、みずから破戒坊主と称して、女性とのもつれ合いを「告白」するとき、水上勉の心には、愛へのはげしい願いが、こみあげてくる。……自伝的な、この2つの異色作は、著者の作品群の中で印象的な位置を占め、著者の心の記念碑ともいうべき、美しくかなしい物語である。 -
皇女和の宮
有栖川宮熾仁親王と婚約するも、公武合体・尊王攘夷で揺れる幕末の、江戸幕府と皇室と複雑な関係から、将軍・徳川家茂に降嫁することになった和の宮。大政奉還の後、二人は再会するが……。巨匠・川口松太郎が描く、幕末のヒロインの物語。TVドラマ化もされ、またこのドラマが縁で平幹二朗と佐久間良子が結婚へ向かったことでも話題になった作品。 -
脚光
ヤジマ製薬の宣伝部に働く大道輝子は、中流家庭にのびのびと育った明朗な現代娘。気まぐれに無名の劇団アシカビに加入し、たまたまヤジマ製薬提供のラジオ番組にサクラ出演したのが縁で、連続ドラマのヒロインに選ばれる。こうなると、本人の意志に関係なく、マスコミはスターの座におしあげていく。周囲の醜い嫉視、許婚者との愛の破綻に傷つきながら、輝子は次第に女優としての意識にめざめ、主役に抜擢されたT座公演の初舞台に、新生の第一歩を踏みだすのだった……。平凡なビジネスウーマンが一躍華やかな脚光を浴びて女優となる、現代の夢に愛と真実の意味を問う傑作長編。 -
偽りと真実のあいまに
たみ子とのぶ子は、魅力的な結婚適齢期の姉妹である。よく似た顔立の2人だが、性質は対照的で、姉は引っこみ思案、妹は積極的でコケティッシュでさえある。ある日、のぶ子は、デパートの特売場で好意を感じている好青年・野崎正雄と出会い、急速に親しくなる。そこでのぶ子は、野崎とたみ子を結びつけるために、野崎の若い血潮を燃え上らせ「飢餓状態」に引き入れようと企んだが……。ユーモアと健康なエロティシズムで愛情の真実を描いた「偽りと真実のあいまに」の他、「ハシカのようなもの」「辛抱づよく生きたS氏の像」「私の犬はレオという」「猫」「老婆」を収録。 -
甘いホテル
いっけん英国紳士風の直江一良は、「善良な市民のよき相談相手」と称する《直江コンサルタント》を開いている。ある日、麗しい女性の依頼人がやってきた。彼女は細谷てい子といい、金力にものをいわせて温泉マークのホテル建設を狙って画策している萩原仙三に対抗して、品格あるホテルを建て上品な保養地にする計画の実現に力を貸してほしい、という相談であった。躊躇している直江のもとに「彼女こそコール・ガールの組織を操る悪女」という怪電話があり、助手の紀子と竜平の応援をえて、俄然真相究明にのりだす。笑い・スリル・お色気に溢れるユーモア・ミステリー。 -
花の墓標
勤め先のアメリカ人商社が、密輸容疑で捜索された日、厚子は、社長の使いだという背の低い男に、車で連れ去られた。彼女は、3日後、轢死体となって発見された(「黒い首飾り」)。両親のいない勝子は、幸せを求める女ごころから、隆鼻手術を受けた。医者が、彼女の鼻に入れたプラスチック材に、ダイヤをひそませたことを彼女が知るはずもなかった。彼女は、荒川土手に死んでいた(「鼻のない顔」)。……占領下の日本の街々で、人知れず散った女性たちに、著者が花を捧げるつもりで綴った、異色連作小説7篇を収録する感動的名篇。 -
歌舞伎剣法
15歳の美少年・山三郎は、蒲生氏郷に召し抱えられたが……という表題作はじめ、五味康祐、柴田錬三郎とともに、剣豪小説を支えてきた著者による傑作8編。 -
佳人
一日中、子供用の肘かけ椅子に行儀よく坐って、紅殻色の出格子にはめこまれた小さなガラス窓から道路をのぞいていた、足なえの童女、その名は圓(つぶら)。薄い皮膚に「いのち」を包んで、それは幻のように美しい童女であった。女にとって、いちばん華やかで夢多い季節になっても、彼女は10歳にも満たぬ躯しかなかった。が、数奇な運命をになう彼女に、結婚の日が訪れる。それは非情な忍従を求める、おそろしい日々の明け暮れだった。清純に死を選んだ彼女が残していった紅絹の匂い袋……。直木賞作家・藤井重夫が哀切な筆でえがいた佳人の生涯。 -
まぼろしの人
初恋の女性との結婚生活に失敗した私は、いまふんぎりの悪い独身生活をつづけている。ある日、私は、既に人妻となっているリキ子と、37年振りに再会した。私とリキ子には、東北のS町で幼い性の遊びをしたという遠い記憶がある。それは異常な老婆の仲だちで行われた暗い彩色画のような、心の歴史の一齣であった。幼い体験から出発した二人は、それぞれに辿った人生の半ばを過ぎた頃、ホテルの一室で語り合う夜がめぐり来るとは、夢にも思わなかった……。人生のたしかな実感に裏打ちされた中年男性の抒情を流露させた「まぼろしの人」ほか4編収録。 -
じゃが太郎兵衛無惨帖
日光と上野にある輪王寺を守る宮様に仕え、快剣・南蛮刀法を自在に操るじゃが太郎兵衛は、義経の後胤説もある、神出鬼没の動きをする剣客。泰平の御世を喰い物にする水野出羽守忠成とその一味を相手に、胸のすく大活躍をする! テンポのいい文体で描く連作短篇集。 -
この子の父は宇宙線
11人の女性だけを月に送り込んだ国と、9人の男性ばかりを送り込んだ国があったが……、という表題作はじめ、山岳小説で有名な著者が描いた、貴重な4つのSF小説。現在の電気通信大学卒で気象学者という、理系の作者だと実感できる。 -
エデンの海
瀬戸内海にのぞむ女学校に、新任教師として赴任した南条は、教師の間で「問題児」として見られている清水巴に惹かれて行く。複雑な境遇のため祖母のもとで育った巴は、「成熟の側からは不逞にみえ、未熟の側からは可憐にみえる」特異な少女であった。教師として巴に対しながらも南条は、彼女の姿態の中に女を見、はげしい感情にとらえられる。二人の行動は、周囲の好奇の目にさらされて行く……。教え子への想いに、教師としての限界に悩む青年教師と、純粋な感情のままに、奔放にふるまう女生徒との愛の行方を、明るい太陽とひろがる海を背景に描き、青春の光と影を鮮やかに刻む傑作ロマン。 -
花嫁の父となりぬ
娘の結婚に、どこの家の父親も……。銀行員をしながら作家をしていた著者の、ユーモアあふれるホームドラマ。父と娘の愛情を描き、連続ドラマにもなった作品。 -
カミさんと私
結婚して25年の雄三夫婦。カミさんは男8人女3人の11人兄弟姉妹の7番目で、実家にいるときは7番さんと呼ばれていた。銀行員をしながら作家をしていた著者の、ユーモアあふれるサラリーマンもの・夫婦ものの物語。 -
いとしい恋人たち
幼い頃に父を亡くし、母の手一つで育てられた矢沢次枝は、恋人・勝田伸にプロポーズされたことを、母に言い出せなくて悩んでいた。依怙地な母は、娘の様子に恋人の存在を感じても、知らぬ振りをしている。伸はそんな状況のなかで、自分自身の勇気のなさに苛立ちつつ、次枝の態度に歯がゆさを覚える。次枝母娘と同じアパートに住む宮内咲子は、勤めのかたわら夜は学校へ通っているが、同級生の加治千太のやさしさを好意以上のものと感じながらも、伸に心ひかれるのだった。それぞれの思いを胸に秘めて、ひたむきに生きる恋人たちの姿と、人々の善意と哀歓を描く青春長編小説。 -
野火
若い兄弟の孤児が、つまずきやすい青春を支え合い、貧しいながらも美しい恋を得て、人生行路を乗り出す、正義と純情の現代ロマン。競馬場のシーンがたくさん出てきて競馬ファンにもおすすめの1冊。 -
冬の椿
戦火がいよいよ烈しさを加えて来た昭和19年、画学生・笹田香澄は、母とともに鎌倉に疎開して来た。隣家の青年実業家・瀬木龍彦は、香澄の美しさに惹かれ結婚を申し込んで来るが、香澄の心には同じ研究所の画学生・伊吹慎一の面影が焼きついて離れない。しかし伊吹に赤紙が来て、応召の前夜、香澄は伊吹に抱かれた。……何年か後、香澄は財力にものをいわせた求愛の前にくずれ、瀬木の妻となっていた。しかし戦死を伝えられた伊吹が突然生還し、香澄の情熱は再び燃えあがった。ふとした事で知った革染の美と伊吹への恋が、香澄の前に明るく開けて来る……女の恋と情熱を描く長篇! -
第三の火
滝村くみ子は、青森行きのみちのく号から水戸駅に降り立ち、東海村へと向かうが……。北海道初の女性作家、『もめん随筆』を書いた女性随筆家による傑作。 -
生きる場所
結婚5年目の伊乃、南仏リビエラのハインリッヒ……。山田耕筰に師事するも、病気のため音楽をあきらめた作家による傑作小説集、全9篇。 -
新粧
新婚旅行に出かける香澄と晴彦。蛇のびっくり箱の悪戯に、電車の中は大騒ぎに。そこに居合わせた晴彦の知り合いの竹内と出会い……。北海道初の女性作家、『もめん随筆』を書いた女性随筆家による、若者たちの姿を描いた傑作。 -
思はぬ人
戦後の混乱した世相と、その中に生きる人間のひとひとりの苦悩とを、『人生劇場』の尾崎氏一流のユーモラスな筆致で描いた傑作、全4編。 -
子供の眼
利発な、長いまつげをした小学校3年の修。実母は病気で世を去り、新しく来た母・幸子は歯科医で、結婚後も実家の仕事場通い。父も勤め人だし、家を切りまわすのは若い叔母の喜世子だけ。黙って梨の実をかじる修の童心の四季に、父の不満や義母の気苦労、婚期にある叔母のあせりなど、おとなの生活と愛情の重みが投影する。「第二の母をもった私の経験が、この作品にいちばん入っている」と作者は自らいう。一度はこわれかけて、また作り直される善意の人々の<家庭>の中に、ひとり眼をみはる修少年のすがたを、流麗の文章にうたいあげた秀作。 -
今日のいのち
才色兼備の南方理子は親のあとを継ぎ、医者になる決意をしていたが、戦争で失ってしまった青山の病院を再建する話とともに、青年医師で研究者の吉成朝巳がプロポーズをしてきて……。山田耕筰に師事、音楽を目指した病気で断念した著者の傑作。石原裕次郎、津川雅彦、浅丘ルリ子らも出演して映画化された作品。 -
寄席行燈
芝居ばなしで一世を風靡した落語家・三遊亭円朝が、人気を捨てて敢然と新しい素話を目指して苦闘する。『法善寺横町』『桂春団治』の著者、十八番の芸道物。<上下巻> -
仮面と衣装
港湾の小都市・南浦市のパチンコ屋の娘・戸田松子が堕胎し、そして縊死した。日日新聞の支局付記者・番匠谷人志は、松子の死を疑い、調べてゆくうち、ヤクザの大里組と葦原組との争いの中に巻きこまれていった。何かを画策している大里組の小湊正美、しばしば番匠谷の危難を求う傷病軍人・城励太郎、妖艶な芸者・つた代、女給・ミリー。サスペンス溢れるスリラー長編。 -
としまあず
30代の女の盛りを楽しもうという、としまのぐるうぷの名誉会員・その子は、富士大学教授夫人の美女である。愛の充たされぬ夫との生活を過して来たその子にとって、熱烈なファンである新進オペラ歌手・柳瀬俊吉の愛の告白は、青春が再び甦り、女としての充実した時を予感させる快いできごとであったが……。虚構の物語の中に女性心理を追究した力作長編小説。 -
由比家の姉妹
異国で迎えた祖国敗戦の日から幾多の辛酸と闘って生きていく二人の健気な姉妹。満州・大連からの引き揚げ者の女3人の家族が、周囲に何度もだまされながらも、けなげに生きる様を描いた傑作。焼け野原となった東京で、父親を待ちながら……。巨匠の麗筆が全女性に訴える敗戦の哀歌。
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