笹本稜平の警察小説も侮りがたいが、山岳小説はこそ秀逸。
それぞれに事情を抱える三人が、亡くなった山小屋の主人の魂と一緒にヒマラヤ未踏峰を目指す。世間の片隅で小さくなっていた負け犬根性の自分たちの人生を生きなおすために。
山岳小説の白眉『還るべき場所』とともに、この作品も「生きるとは何か」を問いかける
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著者は、登場人物の一人に語らせる。
『幸福は他人から与えられるものじゃない。誰かから盗みとれるものでもない。自分の心の中にもともと火種があるんだよ。幸福になれるかなれないかは、それを自分で燃え立たせられるかどうかで決まるんだ。・・・』
生きることに疑問を感じるひとへ
『つまり、人間て、ただ生きているだけで意味があるんだってということよ』
さらに、著者は呼びかける。
「自分の落ち込んだ苦境を時代のせいにするのは簡単だ。しかしそれでは何も変わらない。時代を変えられないのなら、自分を変えるというやり方もある。自分が変われば世界の見え方も変わってくるはずだ。」
そして、夢を持つこと、希望を抱くこと、未来を信じること、を。