笹本稜平のレビュー一覧
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長年外洋航海船の船長が最後の船長職となった船は奇しくも初めて船長職として乗船した、パシフィック・ローズ号。その船長最後の日本向け航海の途上でハイジャック事件が起こる。ハイジャック解決に向けて南シナ海の沿岸国と海上保安庁が必死の捜索が続くが行方は洋としてしれない。そんな中、インドネシアの無人島で姿がパシフィックローズに酷似した貨物船から探索機が銃撃を受けた。ハイジャックされたパシフィックローズを押さえるべく暴風の現場海域に派遣された海上保安庁巡視船かいもんとパシフィコローズが決死の航走が続く。臨場感溢れる筆致とスピード感に加えて笹本氏はこの物語に親子の絆、シーマンシップの絆など海洋エンターテイメ
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大雪山で幻のオオカミを探す男と山岳写真家との出会いから、この物語が始まる。
彼の父とも交流があった男は、殺人罪の刑を終え刑務所を仮出所したばかり。しかし、彼の容疑には冤罪の疑いがあり、その謎の解明と幻のオオカミ探しが同時に進行する。
山岳小説に、警察小説、それに動物小説が融合した贅沢な作品。
オオカミを探し求めての中盤までは、冗長な部分も無きにしも非ずだが、後半は冤罪を画策した犯人との攻防、雪山での遭難と、一転緊迫感を増して一気に読ませる。
ここでオオカミは、自然破壊を繰り返す罪深き人間と対極をなすものとして描かれる。昔は、オオカミがいて豊かな自然が保たれていたのに、文明に毒された人間はその大 -
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笹本稜平『分水嶺』祥伝社文庫。
厳冬の大雪山を舞台にした山岳ミステリー小説。笹本稜平の山岳物だけに十分面白いのだが、少し詰め込み過ぎのように感じた。冬山と殺人ミステリー、幻のオオカミと男のロマンをかき立てる要素はぎっしり詰まり、物語の核となる登場人物も皆、強い志を持つ男ばかり…些か出来過ぎ。
急逝した父親の遺志を継ぎ、山岳写真家として新たな人生を踏み出した風間健介は厳冬の大雪山で亡き父親と親交のあった田沢保と知り合う。絶滅したはずのエゾオオカミの生存を信じる田沢には殺人罪で服役した過去があり、再び田沢の周囲できな臭い事件が起こり始める…
絶滅したはずのオオカミを描いた作品には、柴田哲孝の -
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連続殺人事件を追う警察小説でありながら父と子の物語でもある。
刑事として捜査ひと筋に生きてきた葛木は息子に対して負い目を感じている。
父として遊んでやったこともどこかに連れて行ってやったこともほとんどない。
妻にばかり子育てを押つけて、まるで母子家庭のような環境に息子を置いてきたからだ。
息子が父の背中から何を学んだかはわからない。
キャリアとして警察庁に入り、いまやエリート警察官となった息子。
その息子が葛木たちの署に設置された捜査本部に管理官としてやってきた。
所轄の刑事たちを手足のように使い、手柄をひとり占めしようとする本庁捜査一課の山岡。
きっちりと筋を通す息子・俊史のやり方は山岡を苛 -
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著者の山岳小説の一つの到達点と、解説に書かれてあるが、言いえて妙と共感する。
マッキンリーのカシンリッジ冬季単独登攀を試みる主人公が連絡を絶ち、その盟友が捜索活動する様に全編が費やされている。
山々の描写、登攀の状況、いずれもその場に立ち会わなければ書けないような、そして読者をその場に立たせるかのようなリアルさは、他の作家の追随を許さない著者の独擅場。
そうはいっても、捜索活動の著述は、やや冗長気味で、残りの頁数に嘆息気味であった。
けれども、アラスカ先住民=インディアンで長老の存在が、そんな思惑を削いでくれた。彼が折々に語る処世訓を超えた人生の要諦は、作品を引き締める役割を果たしてくれる。
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ネタバレ『還るべき場所』が8000m峰の公募登山を題材としているのに対して、本作品が題材としているのは、6000m台の未踏峰の一番容易なルートからの登山。尖鋭性はなく、ニュースにもならない、ある意味、自己満足の登山と言える。
登山を行うのは、北八ヶ岳のビンティ・ヒュッテの従業員の裕也、サヤカ、慎二の3人。過去にちょっとした出来心から、不祥事を起こして失職した裕也。アスペルガー症候群で他人から理解されずに苦しむサヤカ。知的障害を持つ慎二。
この作品の最大の特徴は、社会的に疎外され、登山経験の少ない3人が、彼ら3人を結びつけ、理解し、支えてくれたパウロさんの遺志を継いで、力を合わせて、4人の共通の夢である -
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学生時代に過激に山を登った藤木と森尾。藤木は怪我の後激しい山登りは出来なくなったが、その後激しくなくとも色々な人々に山の素晴らしさを体験させて、生活の糧とする事に喜びを見出し、ニュージーランドのアウトドアに特化したツアー会社を立ち上げた。森尾は藤木に誘われスタッフとして充実した毎日を過ごしていた。
会社の名前の基にもなった”光の山”アスパイアリングに登るツアーは会社の看板でもあり、スタッフであっても登る度に新たな力を得られるような素晴らしい山だった。
今回もつつがなくツアーを行える予定だったが、突然の自然落石によって貴い命が奪われ、生き残った人々と力を併せ生還した森尾。力を尽くした森尾に参加者 -
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海洋冒険小説と謳っているから、ドンドンパチパチの活劇要素たっぷりの作品かとの思惑とは全く違った(笑)(活劇要素を求めるなら、未読だが『太平洋の薔薇』らしい)。
しかし、沈船をめぐってのスリリングな展開に、本を置く能わず。
400年の時を超えて、祖先が眠っている沈船の引き揚げを計画するその末裔。
そのプロジェクトに携わる水中考古学の泰斗。
沈船の財貨を巡って引き揚げ方法で敵対するビジネスパーソン。
さらには、頻発する海底火山の噴火。
果たして、沈船の引き揚げは?
壮大なスケールで描く海洋ロマンは、どなたかのレビューにあったように、猛暑たけなわの今、読むのにふさわしい。
また、こんなエンターテイ -
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久しぶりの笹本稜平。
いやぁ、良くできたエンタテイメントですこと♪
謎―謎―新事実―謎―新事実―謎―危機―恋愛?―危機―危機―新事実―危機―危機―新事実―危機―勝利♪
これでもか?と、繰り返し窮地に立たされる主人公たち。怪しいヤツは、やっぱり悪い奴だったし……味方になりそうな雰囲気を醸し出しつつもやっぱり怪しさの滲んでいたヤツも、案の定に極悪人だったし……
読者の予測を覆す出来事の連続にして、でも期待は裏切らないというニクい展開で、最後はしっかりハッピーエンド♪
アクションもあり、航空機での空中戦も迫力あり。
これ、もし、ちゃんとした予算とスタッフで映画化されたなら『ダイ・ハ -
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著者の小説の魅力は、強大な権力や登攀困難な山岳に、過酷な戦いを挑む男を鮮やかに描いていることだ。
警察小説では、『素行調査官』シリーズに代表されるように、警察組織の中で、その権力の中枢の腐敗に敢然と立ち向かう。この作品も同じ系列。
友人の自殺に疑惑を抱いた警視庁組対部の主人公は、真相究明に乗り出す。左遷の異動命令にも屈せず、敵は警察組織と狙いを定め、巨悪に戦いを挑む。友人の妻は失踪し、仲間の中には裏切り者が。誰が敵で誰が味方か、疑心暗鬼に囚われながらも、決して妥協することなく、疑惑解明に突き進んでゆく。
一筋縄ではいかぬ展開に、読み手の心も熱くなり、文庫本586頁は、たちまち読み終えてしまう。