連続殺人事件を追う警察小説でありながら父と子の物語でもある。
刑事として捜査ひと筋に生きてきた葛木は息子に対して負い目を感じている。
父として遊んでやったこともどこかに連れて行ってやったこともほとんどない。
妻にばかり子育てを押つけて、まるで母子家庭のような環境に息子を置いてきたからだ。
息子が父の
...続きを読む背中から何を学んだかはわからない。
キャリアとして警察庁に入り、いまやエリート警察官となった息子。
その息子が葛木たちの署に設置された捜査本部に管理官としてやってきた。
所轄の刑事たちを手足のように使い、手柄をひとり占めしようとする本庁捜査一課の山岡。
きっちりと筋を通す息子・俊史のやり方は山岡を苛立たせる。
捜査の目処が立たないまま犠牲者は増えていく。
あまりにも出来すぎた息子に少しだけ辟易したが、物語だと思えばあり得ない設定でもない。
刑事の勘というけれど、何かひっかかるような感覚をそう表すのだろうか。
葛木は自分自身の直感を信じ、仲間たちと協力しながら真犯人へとたどり着く。
所轄刑事の意地を感じた物語だった。
本庁に勤務する刑事たちからみれば所轄は道案内くらいにしか思わないかもしれない。
葛木自身にも経験のあることだった。
だからこそ、互いに協力することの大切さを知っているともいえる。
二転三転する捜査方針。
方向が決まってしまえば、他にどんなに有力な情報が出てきても排除されていく。
それは誰にも止められない。
本来、そんなことがあってはならないのだろうが、いかにもありそうで怖い気もしてくる。
読みやすいけれど読み応えがある。
そんな物語だった。