遠藤周作のレビュー一覧

  • 留学

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    重く長い。
    工藤も田中も遠藤周作自身なのだなと思った。
    彼らの中には必ず劣等感があり、その部分こそが私たちを同じ人間なのだと狂わせる。
    誰も同じなわけないのに。
    我々はいつどこの場所に生きても、思い悩み、一点の消えない朱色を追い求めるんだ、と思った。

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    2020年07月25日
  • 新装版 わたしが・棄てた・女

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    遠藤周作の小説は、読みやすいけど重い。
    タイトルからして明るい内容ではないだろうとは思って読み始めたのだけど、こういう流れと結末が待っていることは予想できなかった。

    大学生の吉岡努が2回目のデートで身体を奪って棄てた森田ミツは、不美人だけど無垢な、田舎生まれの苦労人の娘だった。面倒になった吉岡はミツとの連絡を断ち、月日は流れた。
    大学卒業後、吉岡は勤め先の社長の姪との結婚を決めた。一方ミツは、孤独で貧乏な生活に耐えながら、吉岡からの連絡を一途に待ち続けていた。
    そしてミツは、さらに過酷な運命に弄ばれてゆく。

    吉岡はエゴイズムの権化で、一方ミツは自己犠牲や愛の化身、という印象。ミツは容姿だけ

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    2020年04月23日
  • 死海のほとり

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    ネタバレ

    「イエスの生涯」の前に読んだ方がいいかも?
    同伴者としてのイエス
    「裏切り者」と遠藤、いや人類のオーバーラップ。

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    2020年04月23日
  • 母なるもの

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    ネタバレ

    キリスト教と日本人、また遠藤周作がもつ信仰について。短編集ひとつひとつが心を打つ名作。かくれ切支丹から読み取られる、マリア信仰の強さ、母なるものへの思慕。日本の宗教的本質は、父なる神の教えと相容れない。遠藤の信仰は、実母への愛着を原点としており、かくれ切支丹への気恥ずかしいながらの共感を示す。明治以後に伝来したキリスト教への違和感、信じられることへの羨望。「最もアーメンに縁のないような人間に、なぜアーメンはとり憑いたのだろう」

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    2020年04月09日
  • 口笛をふく時

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    戦前に灘中に通っていた父と、大病院で癌患者を担う息子。戦争と医局の力関係という、それぞれ大きな力の元、一人の女性によって人生が交わっていく。

    医療系で真面目な方の遠藤周作であるが、かなり読みやすい部類だと思われる。戦時中の灘中(今の高校)で、平目という同級生と出会い、成績不良で挫折し、戦争によって引き裂かれる。一方で、医者の上下関係によって、正しい治療法を見誤っていく。

    戦争の話は、かなり端折って軽く描かれている分、医局の異常さという部分が重くのしかかる文章となっているものの、難しい文章ではないため、理解しやすいだろう。展開としては、最後に大きくカタルシスがあるわけでもないので、最後の部分

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    2020年04月07日
  • 恋愛とは何か 初めて人を愛する日のために

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    文学考察として十分に面白い。
    性差別が少し乱暴な気もするが、時代だから仕方ないか。
    愛と情熱は別物らしいぞ。

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    2020年03月27日
  • 侍

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    ☆☆☆2020年3月☆☆☆


    江戸時代初期、まだ大坂の陣は終わっていない頃。
    徳川氏の天下が確定しつつあった頃の物語。
    東北から、宣教師とともにメキシコへ、ヨーロッパへと旅した「侍」と、宣教師を中心とした物語。


    「侍」=長谷倉のモデルは、明らかに支倉常長だろう。
    異国との通商を求めるという親書を携え、メキシコへ、スペインへ、イタリアへ、苦難の旅。
    「宣教師」=ベラスコはポーロ会という宗派の宣教師で、日本にキリスト教を広めたいという強い思い、そして自分が出世したいという秘めた野望を持っている。


    長谷倉らは、使命を果たすため、やむなくキリスト教に改宗。これが帰国後彼らにとって悲惨な結果と

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    2020年03月15日
  • 死について考える

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    20年も前に書かれた本ではあるが、その姿勢は現代のターミナルケアに通ずる部分も多い。以下、自分の印象に残ったこと、気づき。

    ・最期に自分を支えるのは、やはり精神だ。先立たれた大切な人に会える、だとか苦しんでいることを理解してあげることが一番いい。
    ・延命処置の是非。尊厳死はどうなのか?天寿を全うしているなら、尊厳死でもいいのか?
    ・ACPは、死に直面したときに初めてスタートする。在宅医の先生の訪問診療について行った時の経験を思い出した。
    ・安楽死は可哀想だから死なせてあげるという家族のエゴが入っている。尊厳死はその人が死に方を選べる。しかし自殺はダメ。天寿を全うしてないから。
    ・痛みも生きて

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    2020年03月15日
  • 王妃マリー・アントワネット(下)

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    とても面白かった。題名が『王妃マリーアントワネット』という本だけど、歴史的に重要なフランス革命が起こった行きさつなどを、とても優しく、忠実にその流れを描き表せている。登場人物の描写やその心情が分かり易く、物語に深みを与える。
    最後結果はわかっているのにどうなるのかと、ハラハラした。

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    2020年03月12日
  • 愛情セミナー

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    遠藤周作先生による恋愛というか男女のあれやこれやに関するエッセイ

    前半はまぁ大体納得できる
    「情熱」と「愛」の違いとは?
    「信じる」とはどういうことか?
    「嫉妬」とはなにか?

    愛とは信じる事
    「裏切られた」「女は信用できない」という言葉は、まず「信じる」ありきということ


    心に残った部分

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    現代において女とたくさん寝ることは易しい。
    青春の論理としてむつかしい行為を選ばねばならぬ。むつかしい行為とはなにか。それはこの地上でたった一人の女を選び、その女を愛するように努力 することである。ひとりの女を選んだならば、それを生涯、棄てぬことである。これはやさしいこ

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    2020年02月27日
  • 白い人・黄色い人

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    遠藤周作氏の「沈黙」や「海と毒薬」、「深い河」等をこれまで読んだが、そこで出てくるテーマの前兆が、この本にも見え隠れしている。

    肉欲(サディズム含め)、日本人の良心・罪意識のなさ、異文化で根付かぬキリスト教、そしてだれかにとってのユダ、、、
    裏切りの心理描写が絶妙。

    うーん。遠藤氏は良心の呵責を(少なくともはっきりとは)感じない日本人をよく描いているけれど、自分は全体的にそこまで無感覚ではないと思うなあ、、、

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    2020年02月03日
  • 死海のほとり

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    遠藤周作、高校生以来久々に読んで、あれ、こんな読みやすい人だったのか。と思う。
    なんとなく親しみにくいイメージだったけど、まず、文体が読みやすい。

    今回は、イスラエル旅行に合わせて、イスラエルを舞台にした小説ということで読み始めた。
    なんせ、宗教をしっかり勉強したことなく、キリスト教とは、ユダヤ教とは、というか宗教だけじゃなくて、イスラエルの建国ってどういうこと?から、よく分かっていなかった私にとって、なんとなくキリスト教と、イスラエルの理解が進む、良本でした。

    特にキリスト教について、遠藤周作なりの、私なりの、理解ができて、なんとなくキリスト教に納得がいった。
    奇跡を起こさないキリスト、

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    2020年01月11日
  • キリストの誕生

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    --概要--
    ・「イエスが死後どのようにキリスト(救世主)として認められていったか」というテーマ。『イエスの生涯』に続く著書とのこと(私はこちらは未読)。
    ・巻末の高橋たか子氏の解説にあるように、「イエスという人が実際にいた、そして十字架上で死んだ、ということがあった、それを素材として創作された話が新約聖書なのだという見方」で書かれている。ペトロ、ヤコブ等の弟子や宣教師ポーロなどの視点で、彼らがどのような体験・思いから書簡(=今日の新約聖書)を書いたのかが様々な資料の研究の上に述べられている。
    ・イエスの死、迫害、分派、弟子や伝道師の殉教、ユダヤ戦争での多くの信徒の死といった苦境の中で、「神が

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    2019年12月29日
  • 侍

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    歴史に翻弄され

    海外からの文化が入ってきたばかりの時代で
    太平洋、アメリカ大陸、大西洋を渡って旅をするなんて
    とんでもない冒険であった事だろう。

    帰国後の国内情勢の変化も不遇であったが、信仰心に救いはあったのだろうか。

    #ダーク #泣ける #タメになる

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    2021年04月22日
  • 私にとって神とは

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    ネタバレ

    作家の目線で、聖書を史実か伝承か、効果的な創作としての一面などを説明してくれていて、私には非常に分かりやすい。聖書の別の一面を見ているようだった。
    ハッとすることが多い内容だった。特に、清浄であるということ、つぐなうということ。日本の文化として当たり前に受け入れてきたことがキリスト教の考え方との違いを生んでいるなんて、考えたことがなかった。
    著者の小説をより深く楽しむ手助けになる、興味深い一冊だった。

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    2019年10月30日
  • さらば、夏の光よ

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    イケメン南条、デブサ野呂、美人な戸田京子の三角関係のお話
    遠藤周作が本人の役で出てきて、若者から請われてトンデモな恋愛指南(唐辛子作戦とかヤキモチ作戦とか)をしてたりする

    こんな設定は現代のラノベに通じるものもあるし、前半は男女の機微を知らない若者をからかい半分にいじる周作先生のキャラがユーモラスに感じる
    でも、中盤から描かれてあるのは運命に翻弄される若者たちの姿
    何というか、もっとどうにかならなかったのかなぁと思わざるを得ない

    南条はまぁ一般的な感覚を持っているのであろう
    時として軽率だけども、若者ゆえのこらえ性のなさと見ればまぁ許せなくもない
    ただ、その行為が後にどんな結末をもたらすか

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    2019年10月26日
  • 砂の城

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    ◯青春小説、と帯にはあり、解説にも軽小説・青春小説とあるが、個人的な感想としては、別段軽小説でも青春小説とも感じなかった。(解説の文芸評論家は片手間で書いたのだろうか、それともこれが世間的な評価なのだろうか。)
    ◯「善なるもの、美しいもの」(自分が信じるなすべきことなのか、)を追い求めるも、時代や環境の波に飲まれ、脆くも崩れ去る砂の城としての人間の「エゴ」が描かれており、そういった重厚なテーマを、掲載雑誌テーマと、その読者層に伝わるように書いていると思う。
    ◯もしも軽小説・青春小説と読めるのであれば、表面的な感想であるが、むしろ著者の技術の賜物である。
    ◯ただし、その根底に流れるテーマは、「軽

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    2019年08月07日
  • 生き上手 死に上手

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    死について深く語る序盤、身近な人も含め死を意識してしまう。その後は生上手な面が台頭する展開に。遠藤氏は大きな病と戦っている経験から常に死を意識しながら生き急ぐあまりなんにでも興味を持って取り組まれた方だったのだろうと解釈する。冒頭、読者に引かれるような言葉をわざと持ってきて実は興味深いことをお教えくださる文体も好み。
    作者の積極性ある深い生き方を見習いたい。

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    2019年07月12日
  • 妖女のごとく

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    サスペンスっぽい作品。遠藤周作氏って、こんな作品もあるんですね(もともと、読んだことのない作家さんなので当たり前なのですが)。ひょんなことから、ある女性の身辺調査を始めたところ、その怪しい魅力に引き込まれていき引き返しせないことに。

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    2019年05月12日
  • 侍

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    ネタバレ

    「沈黙」のテーマ「神の存在の有無」に対し「侍」は「宗教とは何か」という問いかけの小説だと思います。

    キリスト教のお話でありながら、日本の宗教観についても描かれていて、「なぜキリスト教は日本に向かないのか」をヴァレンテ神父が語る場面は、深く頷きながら読みました。ヴァレンテ神父の語った日本の宗教観や社会構造は現代日本に脈々と受け継がれているものがあるのを感じました。

    また、江戸時代の日本社会の陰湿な部分を、政府上層部や役人の描き方や、暗く冷たい建物の描写で表してるところがすごく印象に残りました。

    でも正直読みながらずっと思ってたのは「ベラスコのせいでこんな事に…!!」ということです。こいつさ

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    2019年04月30日