遠藤周作のレビュー一覧

  • 十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。

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    ネタバレ

    狐狸庵ものの先駆けなる、手紙の書き方を中心とした軽妙なエッセイ。死後発見された原稿ながら、昭和三十五年ごろの、新婚で幼い長男を抱えた遠藤周作が肺結核を患っていた頃のものらしい。
    男性読者を想定したものでもあり、かなり時代は感じさせるし、すごく腑に落ちながら読んだわけではないが、「読み手の身になって」書け、という一貫した主張も時に語られる人間心理も普遍的なものである気がした。恋文書く側は男性編で、断る側は女性編と銘打たれているのが、昭和というより平安時代の古典常識だなと思った。森鴎外は『雁』で、「見られる」女から「見る」女への転換と挫折を描いたけれど、このエッセイでは一貫して女は受け身。その辺が

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    2024年08月05日
  • 眠れぬ夜に読む本

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    古い内容や、現代の文筆家ならしないような表現もあるが、全体的には面白い。軽く読めて、へぇ、ふむふむ、と楽しめる。
    作家ならではの視点や洞察や感性に満ちているし、うまい言葉で書き表しているなぁと思うところも随所にあった。隙間時間にオススメできる一冊。

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    2024年07月30日
  • キリストの誕生

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    まず著者自身が疑問を持って考え尽くしたのだろうと思った。迷い苦しむ弟子たちに対する親密なまなざしが、文面からでも伝わってくる。
    キリスト教のことはよくわかっていない立場からの感想だが、取り繕わずに率直に、堅苦しくなく書かれていて非常に興味深く読んだ。
    著者による福音書の読み解き方を知るにつれ、使徒たちの死を「書かない」という行為に、ルカの正直さと人間味を感じた。胸に浮かんでくるこの気持ちは何なのだろうか。書物の向こうに人間がいると気づいたような感覚。
    死はきっとどんな人間にも呆気ない。たとえ神に一生を捧げた者でも、死には劇的なものなんてないのではないかと思う。
    強い信仰を持ったことがないわたし

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    2024年06月27日
  • 新装版 わたしが・棄てた・女

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    教養なく見た目もよくない森田ミツは、修道女に「一番好きなのはミッちゃんみたいな人。どういう人になりたいかと問われればミッちゃんのような人」と言わしめ、自分を棄てた吉岡に「聖女」と言わしめる。

    他者に強く強く共感し、自分ごとのように他者の苦しみを受け止め、他者の苦しみを見過ごせないミツ子は、それが美しい行為であることに本人は全く気づいていない。だからこそ、その心の清らかさに周囲が圧倒される。

    社会の角で生きて早逝したミツ子は、確かに「消すことのできぬ痕跡」を吉岡に残した。私自身もまた本書を通してミツ子と出会い、その痕跡を残されたような気がする。

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    2024年06月14日
  • 秋のカテドラル 遠藤周作初期短篇集

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    ここまで心の機微を表現出来るのが、凄い。自分の気持ちの有り様を言葉に正確に移し替えてあるその見事さ。初期でこれほどとは。

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    2024年06月09日
  • 侍

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    なんというか、すごい本を読んだ。
     300ページ超とそれほど分厚い本ではないのに、重苦しく読むのに10日と、とても時間がかかった。が、つまらないからでは決してない。
     この本の感想を言葉で表す術がない。怒り、悲しみ、切なさ、理念、信念…少し、頭をひやしてじっくりと脳みそがことの本質を理解するのを待つことにする。いや、もしかしたら感想を書くこともできないかもしれない。私のような凡人にこの本の感想を書く資格などないのかもしれない。

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    2024年06月04日
  • 私にとって神とは

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    キリスト教は人間の執着とか欲望があってその中に神の動きをみつける、というのが面白いと思った。
    ユダヤでは差別されていた人たちに声をかけて慰めたのがキリスト。仏教のように執着を捨て、静かに死んでいくのではなく、波瀾万丈でドラマチックに苦しい死に方をするキリスト。
    また男性的なユダヤの世界旧約聖書と比べて、新約聖書キリスト教では女性的な母の愛の要素が多いという捉え方もおもしろかった。
    また遠藤周作作品読んでみたくなった。

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    2024年06月04日
  • 海と毒薬

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    ・あらすじ
    終戦直後の日本、東京。
    私は気胸治療を受けるために勝呂という陰気で無愛想な町医者の元を訪れる。
    治療は的確だが、どこかその「手」に冷たさと不気味さを感じるその医者は、戦中の大学病院で起こった生体解剖事件に関わっていた。

    3章仕立てで2、3章はその生体解剖事件に関わった勝呂、看護婦の上田ノブ、医局生の戸田それぞれの思惑、過去、悔恨などが綴られる。

    ・感想
    実際に起こった事件(相川事件)をもとに書かれた作品。
    現代では到底倫理的に受け入れられない言動が多々出てくる…けどこれがこの「時代」だったんだろうな。
    生命倫理、医療倫理…人の命が軽すぎた時代、簡単に失われる時代にあって「倫理」

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    2024年05月20日
  • 海と毒薬

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    「しぬことがきまっても、殺す権利はだれにもありませんよ」と言うヒルダさんの良心が信仰によって導かれているのに対し、手術の当事者は医学の進歩を建前とすることで自身の良心をねじ曲げ、残虐行為に及んだ。
    この違いは信仰神の有無なのだろうか。結局我々は、神の教えが無ければ都合良く良心の書き換えを行い、道徳に背いた行為に及ぶのだろうか。
    作品を通して、多神教である日本での幼少期における道徳教育は何よりも大切なのではないかと思った。自身のこれからの良心が相手の立場になって考えることに基づくものでありたいと強く思う。

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    2024年05月05日
  • 海と毒薬

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    ☆4.2

    なんとなくで手に取った本だったけど、こんなに心に残る時間になるとは思っていなかった。
    どんな年齢の時に読んだとしても、必ず読んで良かったと思うことだろう。
    続編があるとは知らなかったので、その続編『悲しみの歌』もきっと読もう。

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    2025年06月13日
  • 秋のカテドラル 遠藤周作初期短篇集

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    知り合いから聞いた話のような、フィクションかノンフィクションか曖昧で不思議な短編集。えぇ…て感じで終わる話もあれば、くすっとしてしまう話もある。旅をしていろんな人に出会ったような充実感がある。

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    2024年04月18日
  • 現代誘惑論 遠藤周作初期エッセイ

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    遠藤周作先生の初期のエッセイ。
    冒頭はこの本が書かれた当時の
    プレイ・ボーイとはどういう者か、
    それとドン・ファンそしてカサノバの違いについて。
    どれも、女性を誘惑する者であるが、
    遠藤先生はどれも情熱はあるかもしれないが
    愛を知らなかったと。

    私も結婚して10年以上たつので
    多くの人と同様に倦怠である。
    既に情熱はない。

    しかし、遠藤先生の言葉を借りるなら
    《二人が忍耐して、倦怠期や病気や失業や子供の入学、子供の卒業、その他もろもろの日常と人生の悲しみと悦びとを一緒にしながら(どこの他人が君とこれほど君の人生を共にしてくれるかね)二人の連帯を努力して続けていこうとするのが「愛」というのだ

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    2024年05月17日
  • 死海のほとり

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    私と戸田の巡礼の記録と、2000年前のイエスを取り巻く群像の一人ひとりの物語が交互に語られ、一度その人の人生を横切ったからには「永遠の同伴者」として共にいる惨めで貧しいイエス像を描き出す。
    神は清らかで威厳があり高く尊いもの、という一般的なイメージに対して、今回も遠藤周作が描くのは、無力で惨めで汚らしく、ぼろ切れのように棄てられるイエス。戸田が語るように、奇跡を期待する民衆に対して何もできず、その無力さに愛想を尽かされて皆に棄てられるのだが、一度関わった人は誰も彼を忘れられない=イエスは誰も見棄てない。
    弱くてずるい修道士のねずみはナチスの収容所で最後まで弱いまま、ただ最も歳若だった少年に自分

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    2024年03月06日
  • 影に対して―母をめぐる物語―(新潮文庫)

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    短編集なので、読み易い。
    「沈黙」など、これまでに読んだ著作を思い浮かべながら読み進めていたが、最後の作品に辿り着いたときに、この本は心に残るな、っと実感した。
    見つかった未発表原稿をこの1冊にまとめた編集部と表紙の選択、そして薦めてくれた読書会のメンバーに感謝と拍手です。

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    2024年03月05日
  • 新装版 海と毒薬

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    ・小説として面白い。文が上手い。惹きこまれる。長すぎずに、短く読めるのが良い
    ・解説者によると「日本人の良心はどこにあるのか」というのが遠藤周作の根源的テーマらしい。確かに、そのようなテーマを感じさせつつ、堅苦しすぎないストーリーがよかった。普通の人間が、どのような過程でおぞましい行為に手を染めるのかが理解できる。
     ・相当強い倫理観や信条でもない限り、人は組織のルールや価値観に沿って動く。所属する組織の価値観やテーマが邪悪であれば、誰でも法を犯す可能性がある

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    2024年01月01日
  • 現代誘惑論 遠藤周作初期エッセイ

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    若い頃の作品
    才能溢れる友人との交流
    母親がヴァイオリニストで止める母親に
    逆らってレッスンに挑むが三ヶ月で挫折
    結果的に小説家になった 笑える
    愛についてのエッセイだが
    ドンファンとプレイボーイについて
    面白かった
    ヨーロッパはジゴロという言葉もある
    でも筋金入りのいい男はいないな
    日本の文化には似合わないのかな

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    2023年12月29日
  • 侍

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    大事に少しずつ読んだ。
    フィクションとはいえ 悲しい 日本 いにしえの時代の黒歴史。
    なぜ日本は ラテンアメリカ諸国のように キリスト教 に征服されなかったのか ここに一つの答えがあるように思う。

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    2023年12月20日
  • 新装版 海と毒薬

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    倫理についての捉え方、命の価値や正義は、その時代に応じて大きく変わる。
    10年程前のアメリカでは、半数以上の人が、日本への原爆投下は正しかったと言った。だが、今では7割の人が、原爆投下は不必要であったと答えた。
    テロは神風と呼ばれ、特攻はテロと同列に語られることもでてきた。
    私たちは戦争のない国に生まれ、道徳というものを学んだから、この九大の事件を酷い話だと感じるが、例えば今、自国で戦争が始まったとして、敵国の捕虜が人体実験に使われようとしていると知ったとき、そのことに対し声を上げることは出来るのだろうか。同胞の仇を前にして、倫理を貫けるか。自分が勝呂の立場に立ったとき、恐れることは、人命を軽

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    2023年12月10日
  • 死について考える

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    またかけがえのない人が亡くなったときこれを読みたいです。仮にある人がまだこの世界にいても、いつか亡くなったときのことを想像するだけで今いる時間を大切にしようと思えます。

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    2023年12月08日
  • 夫婦の一日

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    作者のキリシタンとしての葛藤に苦しむ姿が描かれた「授賞式の夜」「日本の聖女」「夫婦の一日」。作者の中に渦巻く残酷さや人間臭さを書いた短編「ある通夜」「六十歳の男」。どれもリアルで生々しく、非常に興味深い内容でした。

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    2023年11月14日