あらすじ
大学生の吉岡が二度目のデイトで体を奪ってゴミのように棄てたミツは、無知な田舎娘だった。その後、吉岡は社長令嬢との結婚を決め、孤独で貧乏な生活に耐えながら彼からの連絡を待ち続けるミツは冷酷な運命に弄ばれていく。たった一人の女の生き方が読む人すべてに本物の愛を問いかける遠藤文学の傑作。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
ミツの純粋無垢で不器用な生き方に心掴まれた。主人公の吉岡がクズでミツが田舎生娘であるという単純な構図なのに、何度もミツの言葉に行為に心震わされた。ミツが不幸せな人を見るとたまらない気持ちになってしまうという性質、よく見かける。自分もそう。社会で生きづらいよなと思う。
特にミツがハンセン病と判明した時、昏睡状態、命からがら「吉岡さん」と発した場面にはウッとなってしまった。
後半部分は神の存在に関する記述が面白い。さすが遠藤周作。
重ねてにはなるがミツの死のやるせなさ、吉岡のクズではあるがクズに徹せない人間らしさに感動した。
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作者が考えた理想の女性とされる森田ミツ。美しくもなければ学問もなく、ただ誰か他人がミジメで、辛がっているのをみると、すぐ同情してしまう癖を持つ彼女は、作者の描くイエス像を思い起こさせます。なぜ彼女がみじめに棄てられなければならなかったのか、という問いはすなわち、なぜイエスが十字架に架けられなければならなかったのかという疑問へと結びつきます。
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大学生の吉岡は遊び目的で森田ミツを呼び出し交わって棄てる。
その後の2人の人生が対照的で、読みながら幸せな人生はどちらなのかと考えさせられた。不器用に生きるミツは石鹸工場から職を転々とし、一般的には不幸な境遇だが人生を全うできた意味で幸せだったと言える。一方、吉岡は小さい幸せを得たが、いつまでもミツとの思い出が消えずに残り、この幸せすら保証されているものではない。
結局、修道女以上の愛情を持ち素直で優しい心の持ち主だったミツは関わる全ての者の記憶に残る神のような存在だったのだろう。
次は芥川賞受賞の「白い人」を読んでみたい。
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素晴らしく、そして辛い気持ちになる本。エピソードは異なれどまるで自分の影がみえる吉岡の酷さや三浦マリ子の無邪気さよりも、ミツの、自分も決して恵まれてはいないのに、自分を差し置いてでも辛い人に自然に寄り添うことができる力に涙し、自分の中にある自己中なところ、優しさに欠くところを顧みてその情けなさ涙してしまうのかもしれない。もう少しだけ、私も人に寄り添える心になりたい…
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ネタバレ知っちゃってから読んだけどそれでも最後は泣く。世の中にはいろんな人がいるしいろんな人生がある。そしてそのいろんなことを選び取ることができる。選び取ることができるものが狭くならないためにも、エゴを捨てて、いろんなものを見て感じていきたいと思った。わたしの人生讃歌をいつも遠藤周作はしてくれる。好き!
私たちの信じている神は、だれよりも幼児のようになることを命じられました。単純に、素直に幸福や悦ぶこと、単純に、素直に悲しみに泣くこと、そして単純に、素直に愛の行為ができる人、それを幼児のごときと言うのでしょう。
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昔読んだのでね
なんだろうね、遠藤周作って表現が秀逸とかそこまでじゃないんだけど読みやすくてリズムがよくて読んだあと不思議な気持ちになるんよね
戻ってくるのはいつもここなんかね
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ミッちゃんの素直も、吉岡のあざとさも、どちらも心を抉ってきた。
私にとってこの物語は、ずっと独りぽっちだったミッちゃんが、最後に愛に溢れた居場所を見つけることができたハッピーエンドの物語でした。
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この本は、多くの人に多かれ少なかれ似たようなことを行なっていることを気付かされる。かつてはミツのような純真な心を持っていた乙女もいるのだろうけれど、その多くは生きていくうちに太々しい女性に変わっていくのだから、ミツと結婚していたとしても果たして幸せになっていたとは限らない。
ただ、純真な女性をボロ切れのように棄てるような生き方をしても幸せにはなれない
Posted by ブクログ
非常に面白い作品でした。遠藤周作作品にしてはかなり読みやすいらしいです。僕は海と毒薬しか読んだことないのでよく分かりませんが…。遠藤周作は純文学作品の著者として高い評価を得ていますが(沈黙、海と毒薬など)、本作品はそれらに比べて通俗的な、所謂、大衆文学的な要素が多く含まれています。
物語は、一人の男と二人の女で構成されています。
貧乏大学生の主人公吉岡は、日頃の鬱憤と溜まりに溜まった性欲を晴らすために、たまたま知り合った田舎娘のミツと関係を持ちます。田舎臭く、容姿も悪かったミツを吉岡はゴミのように棄て連絡を断ちます。大学卒業後、吉岡は就職し職場で知り合った社長の娘と結婚。ミツは吉川への想いを捨て切れず、孤独で貧乏な生活に耐えながら彼からの連絡を待ち続けます。ミツの状況は一向に悪くなるばかり。そんな中、ミツに降り注いだ一つの不幸が、吉岡とミツを思わぬ運命に導きます…。
物語は、「男女の関係」という入り口から「信仰」「愛」という出口へ抜けていきます。作中ではハンセン病などにも触れており、非常に重く辛い内容ではあります。ただ、運命とは、神とは、信仰とは、そして愛とは、などの普遍的なテーマを打ち付けてくれる力強い物語でもあります。真の愛には多くの定義がありますが、僕的にこの物語で描かれている愛こそが真であると思います。もしかしたら僕のその考えも、信仰という土台の上に成り立っているのかもしれません。クリスチャンではありませんが…笑。
Posted by ブクログ
NHKアナウンサー鈴木奈穂子さんが中学生の時に、読書感想文の課題図書だったと聞いて気になって購入。
人に優しくばかりして自分が犠牲に女性、好き勝手自由にして幸せを手に入れた男性。
自分なら中学の時にこの本の感想は書ける気がしない。
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適当に手にした小説だったが、名作が過ぎる。そう思って後を見ると2008年第92刷発行て。初版が1972年とあるので、やはり長年人々の心を惹きつけてきたのかしら。
セックスをするためだけにミツに近づき一晩で棄てた男。なんのことはない、どこにでもあるありふれた一幕だと思う。でも読んでて苦しい。それは相手がミツだからだろう。
私は、純朴ゆえ生きるのが下手なミツが愛おしい。そして歯痒い。
ミツのような人間が近くにいたのなら、あるいは私の人生感も変わっていたに違いない。
当時の時代背景などもあるが、フェミニスト系の人には受け入れ難いかもしれない。
Posted by ブクログ
大学生の吉岡が軽い気持ちで無垢な娘・森田ミツの体を奪い、棄てる。その後の人生を2人の視点から描いたストーリー。
スール・山形の手紙の「もし神が私に1番、好きな人間はときかれたなら、私は、即座にこう答えるでしょう。ミッちゃんのような人と。」が印象的。
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教養なく見た目もよくない森田ミツは、修道女に「一番好きなのはミッちゃんみたいな人。どういう人になりたいかと問われればミッちゃんのような人」と言わしめ、自分を棄てた吉岡に「聖女」と言わしめる。
他者に強く強く共感し、自分ごとのように他者の苦しみを受け止め、他者の苦しみを見過ごせないミツ子は、それが美しい行為であることに本人は全く気づいていない。だからこそ、その心の清らかさに周囲が圧倒される。
社会の角で生きて早逝したミツ子は、確かに「消すことのできぬ痕跡」を吉岡に残した。私自身もまた本書を通してミツ子と出会い、その痕跡を残されたような気がする。
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主人公吉岡の生き方を批判はしないし、かといってミツのような女性が素晴らしいのかどうかもわからないけれど、ただただひとりの男を愛し
平等に人間を愛し、孤独と戦いながら死んでいったミツは哀しい女性だなぁ、という印象。
現代では「重い女」と排除されてしまいそうな一途さだけれど、他に拠り所のない人生において何かにすがりたい想いはわからなくもない。
せつない。
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ただただ、ミツの愛に生きる姿に対して理解に苦しんだ。これが隣人愛ってものなの?この物語で出てきた、「人生をたった一度でも横切るものは、そこに消すことのできぬ痕跡を残す。」というメッセージはずっしりきた。重い。
Posted by ブクログ
困っている人を見ると助けずにはいられないミツと、自分の幸福のためなら他人を利用することを厭わない吉岡の視点が双方向から描かれていて面白かった。
ぼくは完全に吉岡側の人間だけど、ミツのような人に憧れを抱くこともある。ミツは修道女や患者にとって忘れられることがないと思う。
Posted by ブクログ
■美しい魂が宿す悲しい運命が切ない。■
疑うことを知らず、馬鹿がつくほど正直でお人好し、母性の塊のような女ミツ。彼女は誰かの不幸せが自分のことのように悲しく、自分を犠牲にしてまで助けてしまう。彼女はその美徳ゆえの悲しい性を背負って生きていくしかないのか。
一方の吉岡は、勉強して大学に入り、背伸びしてちょっと世間を知ったつもりの男子学生。若者にありがちな見栄、傲慢さ、無責任さ、そして抑えがたい性欲を持つ。根っからの悪人というわけではない。
誰しも(もちろん僕にも)思い出すのも恥ずかしくなるようなほろ苦い経験や深い悔恨がある。若気の至りってやつだ。
吉岡はミツの性格を利用し、遊んだ後はボロ雑巾のように捨ててしまう。
その後、それぞれの運命がたどる軌跡が対照的でやるせない。
人と人の人生が交差するとき、残した痕跡は消えることがないという。
確かに、人が僕の中に残していった痕跡は、僕の人生に確実に影響を与えている。
では、僕が人の中に残した痕跡は、その人の人生をどう狂わせたのだろうか。
Posted by ブクログ
昔のエリート――というほどではないが、二流三流とはいえ大学出の――男が、過去に残酷にやり棄てた女に対する懺悔や言い訳の入り混じった告白をする話かな・・・と思いきや、まあそうといえばそうだけど(いや懺悔はしてないな)、やはり遠藤周作だし、神の愛まで話は至った。
田舎出の、愛情にも運にも恵まれなかった森田ミツという女性が、タイトルでいう「棄てられた」女なのだが、彼女が、人の苦しみを自分の苦しみと思い人のために尽くさずにはいられない人間で、ある価値観ではこれを「お人よしで損ばかりしている愚鈍なやつ」ととらえることもできるが、この本のテーマとしては彼女こそが神のいうところの「幼子のように素直に愛の行為ができる人」。
いっぽう「棄てた」側の男=吉岡努は、少なくとも現代の感覚でいえば色々許せないところはあるし、「最後に真実の愛に気づき彼女を迎えに行き絶景ポイントで抱擁」みたいな泣かせドラマでもないのでそういう英雄的な見せ場は一切ないが、彼が得たひとつの学び、「ぼくらの人生をたった一度でも横切るものは、そこに消すことのできぬ痕跡を残すということ」は、全くその通りだなあと。そしてさざ波のように静かに周囲にも変化を及ぼすものだ。
Posted by ブクログ
遠藤周作の小説は、読みやすいけど重い。
タイトルからして明るい内容ではないだろうとは思って読み始めたのだけど、こういう流れと結末が待っていることは予想できなかった。
大学生の吉岡努が2回目のデートで身体を奪って棄てた森田ミツは、不美人だけど無垢な、田舎生まれの苦労人の娘だった。面倒になった吉岡はミツとの連絡を断ち、月日は流れた。
大学卒業後、吉岡は勤め先の社長の姪との結婚を決めた。一方ミツは、孤独で貧乏な生活に耐えながら、吉岡からの連絡を一途に待ち続けていた。
そしてミツは、さらに過酷な運命に弄ばれてゆく。
吉岡はエゴイズムの権化で、一方ミツは自己犠牲や愛の化身、という印象。ミツは容姿だけ見るとけして美しくはないものの、心は純真無垢で、つい自分よりも他人を優先してしまい、そしてそれを彼女自身の無意識の徳として生きているような人間。
登場時のミツの印象が文章からすると美しくなく薄汚れたように思えたので、物語が進むにつれ、聖女さながらの彼女の姿が神々しくさえ思えてくる。
確かにミツは吉岡に棄てられ、そしてミツは純粋に吉岡のことを待ち続けたのだけど、最終的にはミツよりも吉岡の方がそのダメージを多く負ったように見える。ミツの神々しさが、そんなことは彼女にとってはダメージでも何でもない、と思わせてしまうのかもしれない。
物語のネタバレになってしまうので後半については言及しないけれど、ミツにとある病気の疑いが掛かったことが、彼女の運命をまた深い場所へと連れていく。
1人の男を愛し、それが相思相愛どころか棄てられたという結果であっても、一途に待ち続けたミツは幸福だったのかもしれない。端から見れば不幸な顛末なのだけど、人の心の中はその本人にしか分からない。
シンプルに吉岡はクズ男だと思うし、そんな男を想い続ける価値など…とは思うものの、吉岡がそういう男だからこそ、ミツの徳の高さが際立つのだろう。
遠藤周作とか三浦綾子とか、キリスト教の自己犠牲的な物語は賛否両論あるだろうけど、あくまでも実体は愚かで美しくはないままだったミツを描ききった前者の方が、リアルなのかもと思った。
Posted by ブクログ
昭和23年大学生の主人公吉岡努が素朴な女性森田ミツをもて遊び棄てる
吉岡の人生とミツの歩む人生の話
主人公がゲス過ぎて不愉快
自分はミツをいいように利用して弄んどいて「聖女だと思っている」って、お前が言うなよ
⋯とは思ったが、
読んだ後に落ち着いて考えると作者はわざとこう書いてるんだろうと思った
自分本位でゲスな男の主人公と、対する素朴で純粋な女の森田ミツが対照になされていて、それによってミツの「無私の愛」がより強調される形となる
森田ミツという一人の女性の悲哀の物語ともとれるし、キリスト教精神の「愛の実践」をテーマとしたものと捉えることもできる
ミツという人柄は、相手を存在そのものとして見ていて、その存在自体を尊重する愛情を持っている
それはハンセン病患者に対しても同様だった
自分が当時のハンセン病患者に何事もなく接することが出来るのかわからない
誰に対しても同様に接することが出来るかどうかはわからない
知らず知らず無意識に何かしら分類しているのかもしれないし、それを差別というのかもしれない
なので、ハンセン病患者や、誰に対しても困っている人に対しても、手を差し伸べ、寄り添うという愛情をもつミツという人は素晴らしいと思う
Posted by ブクログ
哀しい物語
ミツは好きな相手を想い続けるが結ばれない
同じ職場の女性と想い人が結婚
棄てられた女
療養所で生きると決めひたむきに生きたミツ
実在の女性をモデルにした話みたいですが
自分のすること全てが報われるとは限らないと思います
けれど自分の居場所はみんな必要です
Posted by ブクログ
これを本当に理解するには何度か読む必要があるのだと思うが、二度と読む気になれない
でもそれくらいリアリティがある
よくも悪くも、ずっと心に残る忘れられない本
男なら誰でもこんな経験があるということをこの本を絶賛した人が言っていたし、他の人の感想を読んでもそういうのをいくつか見つけた
実際そういう人は多いのだと思う
でも男がみんなこうなのだとしたら、ちょっと人間不信になりそう!
Posted by ブクログ
『沈黙』を昨夏に読んで以来、久しぶりに遠藤周作の作品を手に取った。
彼の小説は、いつも私に疑問を問いかける。
「神は存在するのか?」「真実の愛とは何か?」。
小説の中に明確な答えが書いてあるわけではないけれど、こんなに真正面から真摯に読者に問いかけてくる作品ってあんまりないような気がして、なんだか嬉しくなってしまう。
けれど相も変わらず、遠藤の作品はどれも暗い。
この暗さと重さに堪えられず、そしてあまりにもミツが可哀想で、一度読むのを離脱してしまったほどだった。彼女の吉岡を思う一途な愛を、少し疎ましく感じることもあった。
同じ女として、「あんな男のことなんて早く忘れて仕舞えばいいのに」と何度思ったことか。
しかし読み終わった時、私の中でミツは少なくともただの"可哀想な女性"ではなかった。
彼女の生き方は上手ではなかったかもしれない。
でも、その愛と行動の姿はきっと関わった人の記憶に、そして読み終わった人の心に、一生焼き付いて離れないのではないかと思う。
「人間は他人の人生に痕跡を残さずに交わることはできない」という作中の言葉が深く胸に刺さった。
誰かと出会うことが簡単になりつつある現代に、この言葉は忘れたくないと思った。
Posted by ブクログ
ミツは愚鈍で教養もなく、美しくもないけれど
心の優しさ、暖かさ、弱い他者への共感する力を誰にも教わることなく持っていた。
自分もそれを理想として生きているけれど、そうなりきれることもなく打算やエゴイズムで世渡りしてきたこともあり、その経験、記憶を消し去ることはできない。
私は神や特定の宗教を信じる者ではないので、生きていく指針は自分で構築していくしかない。
自分の理想に恥じない生き方を省みるためにも、この話はとても沁み入るものだった。
ラストの吉岡の諦観は後味悪く、鼻白むものがあった。
色々な意味で、忘れられない一冊になった。
読み始め、石川達三の「青春の蹉跌」と似た展開だと思ったが
読後感は全く違った。救いの無さ、後味の悪さはいい勝負。
Posted by ブクログ
この作品は、出版社の意向で書かれたものであると思われる。
面白く読んだ。内容は良いのだが、しかし、それまで読んだ色々な遠藤周作作品よりインパクトが弱い。
本当に遠藤周作作品なのかと思えるような小説である。