遠藤周作のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
長谷倉という侍と、ベラスコという司祭、二人の視点で描かれる物語。
『沈黙』と似た雰囲気があり、本書も事実に基づいているらしく、こんな辛い時代があったのかと驚かされる。
キリスト教にも宗派の違いがあり、そこに政治も絡んでくる。
ベラスコは征服欲の強さから教えを押し付けるような行為をしてしまい、その傲慢さを自覚しながらも正当化していた。
しかし終盤になると、自分の行いを見つめ直すことになる。
そこでキリストや神への信仰が本物であると感じた。
暗く、報われない現実。
そんな世界にこそキリストは寄り添ってくれる存在なのだという。
華やかな生活の中ではなく、見すぼらしい苦しみの中に、それぞれの人の中にキリストはいるのだそうだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ時代だとは思いますが、女性の立ち場が無い。
現東京藝術大学を卒業した母が、ヴァイオリンばかり練習していて家庭のことを顧みないと思ってる夫、
主人公が入院したときに、子どもをちゃんと面倒みてないから入院したんでしょ?と思い込む伯母、
病院のベッド脇で左指だけでもバイオリンの練習をする母見て、怒りだす主人公。
主人公の退院後、まったくバイオリンを弾かなくなった母を見て、夫は満足そうにしていたが、結局両親は離婚。精神を病む母。
満州から帰国後も、バイオリン指導が厳しすぎて仕事をやめされられた母。
誰も救われない。
父親が酷い。主人公を父の元か、母の元、どちらに住むか選ばせるようでいて、半強制的。
そのくせ選ばせるように確認するから、どちらかを選べばどちらかを捨てると考えてしまうように思う。
子どもにそんな残酷な選択をさせてはいけないように思う。
成長した主人公も、妻に対して着物を売ればいいとか言うなんて酷い。
でも、ここまで書いておいて、遠藤周作の未発表作品を読めて嬉しいとも思う。 -
Posted by ブクログ
2026年共通テスト国語で出題されていたことをきっかけに興味を持ち、手に取った短編集。
芸術の追求のために、我が子の手を払いのけることができた意志の強い女性——それが主人公の母だった。
戦前の昭和には珍しく、家庭に馴染めず、離婚という道を選んだ母。
幼い頃に植えつけられた寂しさ、慕情、後悔。
そうした生々しい傷や感情を、主人公は無理に忘れ去ろうとするのではなく、向き合い、人生の傍らに置いたまま生きていこうとする。その姿が静かに描かれていたように思う。
私が特に驚いたのは、母が遺した言葉である。
「海の砂浜は歩きにくい。歩きにくいけれど、うしろをふりかえれば、自分の足あとが一つ一つ残っている。あなたも決して、(歩きやすいけれど足あとが残らない)アスファルトの道など歩くような、つまらぬ人生を送らないでください。」
親とは、子に少しでも楽な人生を歩ませたいと願うものだと、私は当然のように思っていた。
しかしこの母は違う。
辛くとも、厳しくとも、生きている実感を得られる道を行けと言い切ってしまう。その強さこそが、子の心に烈しい爪痕を残した理由なのだろう、と腑に落ちた。
もう一つ印象に残ったのは、主人公が恩師に宛てた手紙の一節である。
「我々は、他人の人生の上にどのような痕跡を残し、どのような方向を知らずに与えているのか、気がつきませぬ。」
自分の人生は、決して自分だけのものではない。
そう突きつけるような、私にとっては思わず立ち止まらせる力のある一文だった。
遠藤周作の作品は、テスト対策として名前だけは知っていても、実際に読んだことはなかった。
この一冊をきっかけに、他の作品にも手を伸ばしてみたいと思う。この母の影を色濃く映した作品が、他にもあるらしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ解説で、この物語の元となる歴史背景が書かれている。江戸初期に支倉という人物が使節団の一員として、メキシコを経て、ローマまで渡ったそうだ。
物語の侍はこの人物で、ベラスコ神父も支倉の使節団に関わった神父がモデルとなる。
17世紀初期に、実際に使節団としてアメリカ大陸からヨーロッパまで渡った日本人がいたことに驚いた。
また、物語は旅の苦労や日本で起こるキリスト教迫害をドラマチックに描いている。激しい争いなどは起こらないが、使命(仕事)を命懸けで果たす姿は、私の目を離さなかった。
それ故に、時代の運で使命が無意味になってしまう事が、無念という言葉で表せられないほど虚しい。 -
Posted by ブクログ
死にざまは美しくなければならないか
私がこの本を読んで1番よく考えた事です。
彼は、その美しさを保つ自信がないと言い、
神は死に際、冷静さを装ったもしても
その深層を見抜けるのだから
じたばた死んでも良いのだと教えてくれる。
私は例え神であっても私の深層を覗けないだろうと
そういう種類の傲慢さがあり、美しく死にたい。
特に、生活をするための自分(社会的な自分)は
地上に残していくかたみのようなものだ
というセリフにはグッときたし、
尚更綺麗なまま残していきたいと思ってしまった。
また、カトリックで自殺が良くない
とされている理由は自分の人生への愛がないから、
という理由にはかなり納得してしまった。
当然、人生を愛せなくて死を選ぶのだから
本当に自殺について考えている時期に
これを読んでもあまり響かなかったと思うが、
その波を超えて今読めて良かったと感じる。
孤独を愛する以上、人生を愛する他ない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ悲しみの歌
著者:遠藤周作
発行:1981年6月25日
新潮文庫
初出:週刊新潮1976年1月1日号~9月2日号『死なない方法』
書籍化:1977年1月、新潮社
遠藤周作の初期の代表作といえば、戦争中、九州大学でアメリカ兵捕虜を殺した生体実験という犯罪を描いた小説『海と毒薬』。その続編と考えられる作品。『海と毒薬』では、若い助手時代に生体実験を手伝った医師・勝呂が、企業村のような殺伐とした郊外都市で開業している変わり者の開業医という設定だったが、この小説では舞台を新宿にしている。勝呂は、戦犯のその後を追う新聞記者の折戸から取材を受ける。自分はもう裁判も受けたし、あの時は断れなかったんだ、書きたければ書けと開き直る。
甘やかされて育った学生山崎らは、遊んでばかりで単位が取れない。教授の矢野のところに頼みに行くが、けんもほろろに拒否される。山崎は矢野に娘がいることを知り、口説き始める。そして、矢野が夜に変装して若い格好をし、若い女の子と遊んでいる秘密を知り、それを娘にもバラす。娘は山崎と付き合い、妊娠してしまう。
日本に住み着いてそんなに長くないフランス人のガストンは、新宿の飲食店で残り物を集める。心優し彼は、病気で寝ている芋売りのナベさんを心配し、それを食べさせている。そして、ナベさんを勝呂医院に連れて行く。どうやら末期癌のようだった。ガストンは不慣れなアルバイトを掛け持ちし、医療費やナベさんの孫へのプレゼントを買おうとする。
折戸は九州へ行ったついでにH大学病院へ行き、勝呂の過去について調べる。その時に乗った飛行機のCAと東京で再会し、結婚を前提に付き合いはじめる。戦犯のいまを扱った記事は頗る評判がよく、局長賞を受賞して記者としての自分の将来に期待をしはじめる。
矢野は娘の妊娠を知り、勝呂医院に行かせて堕胎させようとする。偽名を使い、くれぐれも大学教授矢野の娘がふしだらなことをしたということがバレないように、と注意しつつ。堕胎すれば誰にも分からない、なにもなかったように嫁に行ける、と。勝呂は、助手時代に生体実験を手伝ったのは自分の選択だったが、とても断れる状況になかったから、したのだと言う。堕胎しにくる女性に対しても、一度は断るが事情を説明され、強引にいわれるとしてしまう。多くの命を奪ったことが心に積み重なってはいくが・・・
折戸の記事により、勝呂医院は患者が遠のく。看護婦も辞めていく。もう成り立たない。それでも構わない、と勝呂はいう。
折戸は局長賞を受賞し、自信満々になったが、プロポーズを断られる。怒りを表す。こんなに将来有望な新聞記者のなにが不満なんだ、仕返しに今度会っても無視してやる!
祭りの日、勝呂は入院していた芋売り老人に、苦痛から解放してくれと頼まれ、安楽死をさせる。その秘密を知った不良大学生、そして、折戸。
勝呂は祭りの終わったH神社(花園?)で縊死する。
70年代の新宿は、あらゆる〝人種〟が集まるまちであり、何が正解か分からない、結論なき混沌と自由がある。
*******
山崎:文学部学生、遊び人の不良学生、身勝手
林:同上
和田:同上
古沢:同上
矢野:文学部教授、62歳
矢野ハナ子:その娘、森進一ファン、山崎の子を妊娠し堕胎、野口の甥と見合い
君島:主任教授
浅田ミミ:ゴーゴー酒場に中年男と来る若い女子、中年男にメシをたかる、自分の稼ぎは全て貯金、店を持ちたいモデル
ガストン・ボナパルト:心優しい外国人、フランス人、食べ物を集めている、ナベさんの友達、おかま帽(御釜帽子)
ナベさん:芋売り老人、末期がん
キミ子:ナベさんの孫
内田:ガス工事の監督
折戸徹夫:新聞記者(日日タイムズ)、
野口:九州H市の支局、東京で折戸と同期だった
浦川:現在、折戸の東京での同僚記者
勝呂:大学病院で生体解剖、新宿で開業医
戸田:かつて勝呂と同じ研究所にいた医師
伊藤テル:生体実験時の看護婦、H大学病院に残り外来事務
森田敏江:生体実験時の看護婦、既に辞めている
浅井助手:生体実験時の助手
大場看護婦長:生体実験時の看護婦長
上田看護婦:生体実験時の看護婦
本藤貴和子:スチュワーデス、矢野ハナ子とは高校の同級生だと後で分かる、
江田:ハナ子の洋裁学校の友達
今井:刑事
菊池貞夫:野口の甥、貿易会社勤務、ハナ子と見合い
近藤:牧師、貞夫の父親の友人、貞夫の大学時代の保証人