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複雑に屈折した生き方を強いられた隠れ切支丹の姿に、自己の内なる投影を見た作者の魂の表白である表題作など全8編。――裏切り者や背教者、弱者や罪人にも救いはあるか? というテーマを追求する作者が、裁き罰する父なる神に対して、優しく許す“母なるもの”を宗教の中に求める日本人の精神の志向を、自身の母性への憧憬、信仰の軌跡と重ねあわせて、見事に結晶させた作品集。
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再評価されるべき逸材、遠藤周作
遠藤周作は自身の信仰に疑問を持っていた。作家活動は自己肯定感を得るための試行錯誤である。その活動の一里塚たる作品が「母なるもの」ではなかろうか。隠れキリシタンの信仰は、本家バチカンから見たらはるかに程遠いもの。しかし、遠藤は「これで、いいのではなかろうか」と肯定感を見出した。隠れキリシタン信仰の神秘...続きを読む性と隠匿性をもって地域が結束していたをの確認したから。そこから、遠藤は自身の母親との関係にも思いを馳せる。 目に見える成果や舌先三寸の刹那的芸当ばかり持て囃され、そうでなければバッサリ切り捨てられる昨今。遠藤周作のような、人間の弱さを学識と宗教観で試行錯誤して書きたてる作家はもっと再評価されても良い。 その実、彼の代表作「沈黙」が映画化され、封切間近である。洋画のためか、遠藤の関係者との見識に違いもあり、埋まることはなかったそうだ。それでも、遠藤周作の再評価の前途が明るくなったことに相違ない。
Posted by ブクログ
これは傑作。 棄教司祭や神経質な神学生を主人公に置き、作者自身も抱える”キリスト者の内なる弱さ”を描写した8篇。 鬱屈とした進行に鋭い表現が刺さる。 史実に基づくエピソードも多く挿入されてて読んでて面白い。
序盤、読み進めることに少し苦労した。何故ならば、主人公が中年以降の男性という設定であり、更に人生に多少の疲労感を持っていたり、どう頑張っても私の人生経験では想像してもし尽くせないほどの深みを秘めていたからだと考えられる。 日本の隠れ切支丹の「痛み」と「母なるものへの祈り」に触れて、隠れ切支丹の祈りを...続きを読む伝承するという精神的難しさについて想像が膨らんだ。また宗教問題から切り離して、「痛み」「母なるもの」に対する心情に個人的共感を少なからず感じた。 『沈黙』など他作品と関連する内容や、主人公描写が著者について、類似性を考えながら読み解くことも興味深かった。
エルサル旅行の友。私は遠藤周作さんの宗教観がとても好きで、日本人にとって宗教とはと考えるとき彼の考えが心にぴったり来る。それは自身が西洋のキリスト教に染まりきれなかった葛藤であり、切支丹の歴史を考え抜いた末の見解であり、亡くした母への後悔の念であり、それでも上手く伝えきれないもどかしさに、なんだかと...続きを読むても惹きこまれるのである。
異端の宗教として政府に抑圧され、拷問にかけられ、転んだとしても罪の意識に苛まれて苦しい生涯を送ることになってしまう そんな背景があるからこそ、厳格な父性よりも赦しと抱擁の母性を求めたのかもしれない
日本のカトリックをテーマにした短編集。いずれも作者自身がモデルとしか思えない人物が出てくるので、私小説風な話ばかりである。『沈黙』などに代表される切支丹時代を舞台にした長編とかぶるテーマが多く、とても興味深く読めた。しかし巻末の解説が、仏教の経典を引用しつつ遠まわしにカトリックを非難する場違いとしか...続きを読む思えない内容で、ちょっと残念な気分になった。
自身と母との関係、自身とキリスト教との関係、そして隠れ切支丹について描かれている。 隠れ切支丹は、今まで過去の一定の時期にのみ存在していたものだと思っていた。隠れとして独自に信仰が進化し、その後宣教師からの改宗を拒み苦悩した人達がいたという歴史を知らなかったので、考えさせらえれるものがあった。 また...続きを読む宣教師達の苦悩も知らなかったので、これを機に色々読んでみたいと思う。
遠藤周作の短篇集。母なるものとは、母なる神、母なる宗教を指す言葉だろう。遠藤の宗教観である。遠藤の思想が端々にまで行き届いたものだと思う。長編のようにプロットを細かく気にしない分、短編は思想的になりやすいだろう。時代背景も、テーマも、人物に至るまで、ああ、遠藤だという感じである。解説は読んでいない。...続きを読む今更もういいだろうと、彼に関しては思う。 12/5/29
著者自身がモデルと思われる人物が登場する短編小説や、エッセイに近いスタイルで書かれた文章など、8編が収録されています。 本書のタイトルにもなっている「母なるもの」は、明治以降も正統なカトリックの教義にしたがうことなく、日本的に変質してしまった信仰を保ちつづけたかくれキリシタンの里を訪ねるという内容...続きを読むの文章です。「小さな町にて」もこれとかさなるテーマをあつかった内容で、「日本人はどの宗教にも母親の姿を求める」という著者自身の考えが提示されています。また「巡礼」は、やはり著者自身を思わせる小説家の矢代が、イェルサレムの地で合理的な立場からキリスト教について語る神学者の西尾の話に納得できずにいるすがたがえがかれています。 「学生」は、戦後まもなくフランスに留学することになった、著者自身がモデルと思われる主人公が登場します。天正遣欧使節としてヨーロッパに派遣された四人の少年たちと自分たちを引きくらべつつ、その体験が語られています。
作者の信仰感を垣間見るような短編集。多くの作品で過去と現在を対比させながら展開する構成を採っており好ましく感じた。自分の母親を想わずにはいられない「母なるもの」、執筆当時でまだキリスト教が侮蔑されていたという驚くべき事実の「小さな町にて」、4人の留学生の紀行に興味を覚える「学生」、キリストの最後の地...続きを読むを訪れるまさに聖地巡礼「ガリラヤの春」、矢代という主人公に作者のある意味歪んだ考えを語らせている「巡礼」、幕府に屈して転ぶ伝道師とその召使いの強い宗教意識と過酷な運命「召使いたち」、小鳥と宗教の不思議な因縁「犀鳥」、ローマ法王謁見の機会に考える、見ないでも信ずることを諭す「指」。 キリスト教のみならず宗教観について考えさせられる機会となった。 安っぽい、下手ななど乱暴な意見が気になったが、そこは本音で書かれている内容なのかと理解しておいた。
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