名無しさんのレビュー一覧
レビュアー
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犯人達への拍手と挽歌と苦笑い
まず、「犯人達の事件簿」は読者が原作を既読であることが前提である。
原作特有の幻惑さと不気味さを10代で体験した身であるが、それから20年余り。「犯人達の事件簿」のユーモアが40代になった今の自分にじわりじわり来る。
全ての犯人に言えるのが「その努力を健全な方向へ使え」。やり方によっては手を汚すこともなく復讐を完遂できたはず。特に「MR.レッドラム」は。
本作品のラスボスである金田一少年に目をつけられる環境を自ら作成し、トリックの完成まで汗と涙にまみれて努力し、トリックをやりきったことに陶酔し、金田一にトリックを公衆の中で暴かれるという辱しめを受ける。
この作品はそんな犯人達への拍手と挽歌であ...続きを読む -
中年になるとかえってキツい
構成はテンポ良い。主人公も努力家で困難に立ち向かう。性格も社交的。登場人物(妖怪)も多彩。小説として申し分無いはず…。
でも、私には合わなかった。
主人公とアパート仲間と親友には救いがあるけど、それ以外の人間はバッサリ切り捨てられてる感がある。
作者が市井の人物を睨めつけているような、そんな薄ら寒いおぞましさを感じてしまう。
この世界では妖怪に親和性のある人間はスポットライトが当たるが、そうでない人間は「単なる嫌みな奴」で背景同然に埋もれていく。
そうやって埋没していく人間を主人公は考察という名のレクイエムを綴る。
「ライトノベルのモブにいちいち感情移入してはキリが無い」と反論されそうだが。
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待望の電子書籍化
紙媒体出版から2年と3か月、ようやくbookliveで読めるようになった。
連載時点が2012年の角界を反映しているためか、辛辣な内容も。
角界を一歩離れた目線で見ることになった元力士の肉森さんの意見がなかなか重い。
ただし、肉森さんの助言が効いたのか(?)Twitter利用などの内部改革が進み、また遠藤などの人気力士が登場して現在の隆盛に至るのは言うまでもない。
単に重い内容だけでなく、風刺だったりコミカルな内容も盛りだくさん。新弟子、和田サンの経歴は際どい内角攻め。
ねこ関もとんとん拍子で出世とはいかなかったし、土俵に悲喜こもごもが凝縮されているんだなあ・・・と。
評価を満点にしな...続きを読む -
買い直し
作品自体は星5ですが、リブレ版が突如削除されたので、クロフネ版を買い直ししました。手間とお金がかかったので、星マイナス1。
次回作はクロフネ社のみの出版なので、リブレ版の突然の消去は次回作リリースの前触れでしょうか。数ある電子書籍の一冊なので、予告無しの差し止めは仕方ないのかもしれません。電子書籍ユーザーは「電子書籍を読む権利」を購入しているに過ぎないので。
肝心の内容は、星5です。相撲界の慣習や決して甘くない現実をユーモア交えて表現されています。ユーモア漫画、猫漫画、相撲漫画、各要素が調和した名作です。
追記:2017年6月23日
リブレ版は再ダウンロード可能でした(クロ...続きを読む -
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そして少年国王が誕生した
パタリロを始め、彼を取り巻く(?)バンコラン、マライヒ、エトランジュなどのレギュラーキャラが位置付けされた作品集。
パタリロが主人公だから当然かもしれないが父王ヒギンズ三世の描写があっさりとはしている。詳しい肖像も僅か二度しかないそうだ。それと比例して、パタリロとヒギンズの関係も淡泊である。
パタリロが父王を「女好き」と評したり、ヒギンズ自身が晩婚だったことから、ヒギンズ三世も息子に劣らないトラブルメーカーだったのではなかろうか。されば、一作目のような展開になるのも頷ける。
だが、パタリロは父王の振る舞いに内心辟易していた一方で、どこかで慕っているのでもなかろうか。国主という特殊な立場が...続きを読む -
再評価されるべき逸材、遠藤周作
遠藤周作は自身の信仰に疑問を持っていた。作家活動は自己肯定感を得るための試行錯誤である。その活動の一里塚たる作品が「母なるもの」ではなかろうか。隠れキリシタンの信仰は、本家バチカンから見たらはるかに程遠いもの。しかし、遠藤は「これで、いいのではなかろうか」と肯定感を見出した。隠れキリシタン信仰の神秘性と隠匿性をもって地域が結束していたをの確認したから。そこから、遠藤は自身の母親との関係にも思いを馳せる。
目に見える成果や舌先三寸の刹那的芸当ばかり持て囃され、そうでなければバッサリ切り捨てられる昨今。遠藤周作のような、人間の弱さを学識と宗教観で試行錯誤して書きたてる作家はもっと再評価されても良...続きを読む -