まず、「犯人達の事件簿」は読者が原作を既読であることが前提である。
原作特有の幻惑さと不気味さを10代で体験した身であるが、それから20年余り。「犯人達の事件簿」のユーモアが40代になった今の自分にじわりじわり来る。
全ての犯人に言えるのが「その努力を健全な方向へ使え」。やり方によっては手を汚すこと
...続きを読むもなく復讐を完遂できたはず。特に「MR.レッドラム」は。
本作品のラスボスである金田一少年に目をつけられる環境を自ら作成し、トリックの完成まで汗と涙にまみれて努力し、トリックをやりきったことに陶酔し、金田一にトリックを公衆の中で暴かれるという辱しめを受ける。
この作品はそんな犯人達への拍手と挽歌である。
作者もあとがきで述べているように、原作者へのリスペクトが感じられる。あくまで犯人が弄られているのはトリック成立までの過程であり、動機そのものには触れていない。作画の再現度も高い。原作初期のポッチャリ感から、case期の「スクリーントーンを多用した影の付け具合」まできっちり再現。犯人へのインタビューで締めくくるエピローグまでテンポも良い。この外伝そのものの完成度も楽しめる。
第一巻に登場する「ファントム」「MR.レッドラム」は愛する者の敵討ちが動機。「放課後の魔術師」も「元の所属先から押し付けられた貧乏籤に長年苦しめられた」という、些か同情の余地はあった。しかし、トリック成立までのドタバタぶりや巻末の「夜空に浮かぶ犯人達のドヤ顔」を見ると同情心も砕け散る。
冥土または刑務所で金田一少年の驚異に悶え続けるのが彼等に下された永遠の罰であり、読者にとって一番の笑い所である。