谷津矢車のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
二・二六事件を描く小説が好きで、これまで何作も読んできたけれど、この作品は今まで読んだ数々の作品とは一味違うアプローチ。
事件後主犯の一人として拘束された技術将校・山口一太郎と、彼の捜査を任じられた憲兵・林逸平を主軸に事変後の捜査過程を通して当時の国の混迷の姿、国家の大義、人としての正義のありようなどを描く大作。
この事変を題材にする作品は、どこに(誰に)焦点を当てて描くかで趣がガラリと変わる。まさに真実は人の数だけあって、それだけに興味が増していく。
この作品は山口大尉の人間的な魅力に引き込まれた。一人一人は非力でも、小さな水滴の一つとして声を上げていけば、いつか水滴は岩を穿つという終盤の -
Posted by ブクログ
久しぶりの谷津矢車小説。
なんと二二六事件とな・・・大好物w
あらすじは、山口一郎太大尉の事件への関与をめぐり、
憲兵隊の逸平が調査を進める。
一郎太と関わりのある、士官学校時代の同期、技術部の上司・・・
そこへ石原莞爾大佐がからみ、何かと便宜をはかってくれる
かと思いきや、突然陸軍上層部からの暴力を受け、邪魔される。
実は矢車小説から距離をとっていた。
前回読んだ小説が、もうとにかく暗くて、暗くて・・・
絶望的な気分になったからだ。
この人の著作は最初に読んだ『廉太郎ノオト』も暗く、重たかった。
今度も、その傾向はあるけれど、まずまずやりすごせる。
逆に言うと、う~ん、迫ってこないとも -
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東京音楽学校で知り合った姉妹に幸田延と幸がいてこの二人は幸田露伴の妹たちだったとか。日本の西洋音楽の先駆けになったそうで、「鳩ぽっぽ」「お正月」を作詞した東くめと幸は親友で滝廉太郎とも親しかったとか。勿論作曲は滝廉太郎ですね。
優秀な人材が東京に集められ各方面で活躍が期待されていた時代。ビッグネームがうじゃうじゃいてそのつながりを想像するだけで嬉しくなりました。
そしてその中の音楽分野の第1線に幸田姉妹や滝廉太郎がいて互いの才能を開花させるために切磋琢磨した日々が輝いてみえました。結核にかかり23歳の若さで世を去った廉太郎の無念、関わった人たちが彼の未完の想いを繋げようと頑張っていく姿にビビっ -
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瀧廉太郎の作曲『荒城の月』がとても好きだ。
哀調の調べが美しいし、今は石垣だけとなっている城が当時の姿を取り戻し、楼閣で酒を酌み交わす武将たちの姿が月光の中に浮かび上がるようだ。
傾ける盃に、夜桜の花びらがはらりと落ちる。
まさに日本の叙情の世界。
「クラシックTV」のメンデルスゾーンの回を観ていた時のこと、彼が作った音楽院に入って勉強した日本人がいる、それが「瀧廉太郎」!
と聞いてびっくりした。
そしてこの本を手に取った。
23歳の生涯はあまりにも短い。
明治は、「鎖国」の間に日本が取り逃していた世界の文化を貪欲に吸収すべく、各分野が活動に励んだ時代。
音楽に関しても、西洋音楽を取り入れ -
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ネタバレ幕末の「ええじゃないか」騒動を背景に、騒乱を煽る側を取り締まる側の2視点から、滅びゆく江戸幕藩体制下の落ち着かない日本(三河と京都)を描く。
社会の誰もが、徳川将軍を天とし、士農工商の封建社会をゆるぎなきものと考えていたあの時代と、なんぼ税金を搾り取られても、コロナ失政があっても、ただただ自民党政権が続く現代が重ね写されて仕方ない。
天下に人なし、と踊った後、100年を経ず神をあがめて無謀な戦争で国を滅ぼしかけた歴史を考えると、天下に人なし、の現代日本は、また新たに回天があって神をあがめて滅んでいくのだろうか?
そういや維新や新選組やと、妙にきな臭い名前の集団が既得権益と争っているなぁ。 -
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ネタバレ晴明様特集をしていた『オール讀物』2022年8月号を既読だったので、純粋に初読だった作品は『哪吒太子』くらいだったかもしれない。
他も上記のものを読んでいると既視感のある作品だったし。
それでも、一冊で様々な方の晴明様、もしくは陰陽師話が読めるのはお得である。
そして、改めて夢枕獏先生の晴明様と博雅様の抜群の安心感と安定感が身に染みるという。
個人的にはやはりこの二人を見たいと思ってしまうので、他の作家さんが書かれた話でも二人が出てくるとつい思い入れが。
ゆえに『耳虫の穴』と『博雅、鳥辺野で葉二を奏でること』は特にお気に入りである。
第三者視点から見るとあの二人はああ見えるのかと思えたのもよ -
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米澤穂信さんの「黒牢城」を読んだ後なので、その息子の物語がより感慨を持って入って来た。
この作品で描かれる荒木村重は「黒牢城」の彼とは違うのだが、代わりに息子・又兵衛をずっと見守るのが母代わりとなった乳母・お葉と遠い記憶の中にぼんやりといる実母・だし。そして彼の一生を支えた絵。
彼は吃音により言葉で伝えることが苦手。だが代わりに絵で「語る」。それがタイトルの意味だった。
実際の彼がどうだったのかは分からないが、この作品での又兵衛は自身が荒木村重の息子であることを大きくなるまで知らない。
それは『己の周囲三尺の中に引きこもり、その中で生きてきた』からなのだが、その元を辿るとやはり吃音ということ