サハリンアイヌの話である、ということは事前情報で知っていたのですが、第一章の舞台が石狩川流域の対雁(ついしかり)だったことで、ぐっと話が身近になりました。
というのも、対雁は現在江別市にあるわけですが、江別市というのは小学校低学年から結婚するまで私が住んでいた場所なのです。
そして、樺太に住んでいた
...続きを読むアイヌ人が宗谷に強制的に連れてこられたあげく、対雁に住まされたということを史実としては知っていたので、余計に興味深く読むことができました。
第二章はロシアからの独立を願うテロ行為に巻き込まれたポーランド人学生・ブロニスワフが、冤罪によりサハリンに流されるところから始まります。
こちらはまったく馴染みのない話ですが、第一章の勢いでぐいぐい読めます。
優れた人間、劣った人間というのはいても、優れた人種、劣った人種というのはない。
環境に合わせて進化しているはずなのだから、一種類だけが優秀というのでは進化の多様性を否定することになるではないか。
何度も作品の中で語られる、アイヌ人の、ポーランド人の想い。
「文明ってな、なんだい」とヤマヨネクフの問いに、親代わりの総頭領が答えたのは「たぶんだが、馬鹿で弱い奴は死んじまうっていう、思い込みだろうな」
翻って大隈重信がブロニスワフに言った「弱肉強食の摂理の中で、我らは闘った。あなたたちはどうする」に対して「その摂理と戦います。弱気は食われる。競争のみが生存の手段である。そのような摂理こそが人を滅ぼすのです。だから私は人として、摂理と戦います」と答える。
優劣優劣優劣
他と比べないと自身の評価が定まらないのは、実は苦しい。
日本人に呑み込まれようとしているアイヌ人と、ロシアによって消されようとしているポーランド。
生まれたというだけで、生きていていい。
土地を、言葉を、文化を奪われずに生きるために戦う。
これ、史実をもとにした小説なんですよ。
ヤマヨネクフは日本名・山辺安之助として南極に行っているし、ブロニスワフはポーランド人のアイヌ人研究者として名を残しています。
彼らの周囲の人たちもそれぞれに、人としての尊厳を守るために戦います。
戦いというのは武器を持って暴力で…だけではないことがわかり、胸が熱くなりました。