川越宗一のレビュー一覧
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小西マンショの生涯をたどりながら、天草の乱をはじめとする、キリシタンの弾圧を描いている。キリシタン側、幕府側からの正義を描いており、どちらにも感情移入してしまい揺さぶられてしまった。平和とは、権力とは、信仰とは、自由とは、多様性とは、様々な場面で考えさせられる。
登場人物も魅力的で、主人公の飄々とした感じや、友人の岐部渇水の豪楽な人物像もかっこよく、幕府側の井上政重が残忍(に見える)なキリシタン奉行になるまでの心の動きの描写もよかった。
悪魔をてんぐ、愛をごたいせつ、といった和訳のルビやクレドの和訳なども心地よく、当時のキリシタンの信仰風景もしっかり考証されている印象を持った。 -
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樺太アイヌのヤヨマネクフ(山辺安之助)と、ポーランド人ブロニスワフ・ピウスツキを軸に、民族の文化とアイデンティティを守ろうとする姿を描いた歴史小説です。ヤヨマネクフが「私たちの土地は、私たちが守り続けてきた」と語る場面では、民族の誇りと土地への深い愛情が伝わり感動しました。一方、ブロニスワフはアイヌ文化を記録する使命に燃えながらも、「記録しても守りきれないかもしれない」という苦悩を抱えています。この二人が文化を未来へと継承しようとする姿勢に心を打たれました。
「人は誰もが、自分の熱源を持っている」という言葉が特に印象に残りました。自分にとっての「熱源」とは何かを考えさせられる作品です。文化や -
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ネタバレGPSの進歩により、灯台がその役割を終えていっているという事実を初めて知った。
「海と灯台プロジェクト」協力のもと、灯台が存在することの意義を、その土地のあらましや歴史、灯台を守ってきた人々にスポットライトを当てることで言語化した、6名の作家さんによる紀行文。
作品を読みながら旅行気分に浸れるので愉しい。作家のみなさんが灯台の中の螺旋階段を登り、灯台室に入られる場面のわくわく感が伝わってきた。フルネルライトを初めて検索したが、見事なライトであった。
灯台の父と呼ばれるイギリス人のブラントンさんという方が、菜種油で火を灯す木造の灯明台が主な海の道標だった日本に、西洋式の灯台をもたらした。また -
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ネタバレ序章。樺太に赴くロシア軍女性伍長クルニコワは、かつてソビエト時代の大学で民族学を専攻し、日本と領有を争っていたサハリンこと樺太の論文や資料に目を通していた。その中には旧式の蝋管レコードにはサハリン・アイヌの歌、五弦琴トンコリ演奏、昔話が記録されていた。そして後に登場するポーランド人学者ブロニスワフ、樺太アイヌのシシラトカ、ヤヨマネクフの名も記されていた。
実は私は何十年も前に、ロシアで発見された樺太アイヌの巫術(トゥス)を記録した蝋管レコードを、日本の孫世代の遺族が聞いて記憶を蘇らせる、というテレビ番組を見たことがあり、とても強い印象を受けました。多分それ以来、ほとんど知らなかった樺太・千島 -
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1人の青年が海賊になり、更には民族的英雄になるまでの大スペクタクル。
国や立場によって個々の名前が変わるため覚えるのが大変だがとても面白い。
同じ学校で学んだ友達が違う道を選ぶように、同じ釜の飯を食った仲間と道を違えば殺し合うことになる時代に、自分の選んだ道を直向きに貫き通す情熱に感服した。
今当たり前に生きてる現代も、昔は主人公らのような人たちが死に物狂いで作り出した時代なんだ、そんな現代=人の世とは何かを考えさせられる。
主人公に反した部下の父の言葉だが、人それぞれが天下であり、天下=国を治めるという考えだから天下を摂っても国内に反乱思考のものが出るというのは現在にも通じると感じた -
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ネタバレサハリンアイヌの話である、ということは事前情報で知っていたのですが、第一章の舞台が石狩川流域の対雁(ついしかり)だったことで、ぐっと話が身近になりました。
というのも、対雁は現在江別市にあるわけですが、江別市というのは小学校低学年から結婚するまで私が住んでいた場所なのです。
そして、樺太に住んでいたアイヌ人が宗谷に強制的に連れてこられたあげく、対雁に住まされたということを史実としては知っていたので、余計に興味深く読むことができました。
第二章はロシアからの独立を願うテロ行為に巻き込まれたポーランド人学生・ブロニスワフが、冤罪によりサハリンに流されるところから始まります。
こちらはまったく馴染 -
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ネタバレ【私、私たちを生かせるもの】
国家制度の中で、多くの民族は消えていく。引き裂かれ、同化され、あるときは誇りを失い、あるときは抵抗し、そんなプロセスが今も続いている。
この本は、樺太を中心とした人々の生き様が書かれている。
先日、ミャンマーの今、についての講演を聴いた。
「不当な命令と権力に対しては、義務として服従するな。」
今の市民の抵抗運動の根底にあるのは、アウン・サン・スーチーさんがずっと訴えてきた、このガンディーの精神であることを学んだ。
抵抗を権利として論じたジョン・ロック、その西洋の思想とは異なり、義務としての不服従を規定する。
国家は人がより良く生きるために人間が組織したもの -
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樺太半島。日本の地図にはないその地の歴史について、ほぼ知らなかった。そこに、日本人が、ロシア人が手をつけ、現地に住んでいた様々な人々が翻弄された歴史を。現地人も、日本で教育を受けたり、ロシア人と仲良くなったりしながら暮らしていたので、日露戦争でとても戸惑ったということを。
どうして日露戦争がおきてしまったのか。戦争が起こったのか。その歴史の源流には、日本人が欧米から感じていた屈辱感があったこと。そしてその屈辱を、今度はアイヌにむけていたこと。
歴史はこうも繰り返し、終わらない。そのことに絶望感を抱きながら読み進めた。
屈辱は、劣等感は、常識は、感情は、歴史は、人が作るもの。その根元には、原因