谷津矢車のレビュー一覧
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ネタバレ幕末の「ええじゃないか」騒動を背景に、騒乱を煽る側を取り締まる側の2視点から、滅びゆく江戸幕藩体制下の落ち着かない日本(三河と京都)を描く。
社会の誰もが、徳川将軍を天とし、士農工商の封建社会をゆるぎなきものと考えていたあの時代と、なんぼ税金を搾り取られても、コロナ失政があっても、ただただ自民党政権が続く現代が重ね写されて仕方ない。
天下に人なし、と踊った後、100年を経ず神をあがめて無謀な戦争で国を滅ぼしかけた歴史を考えると、天下に人なし、の現代日本は、また新たに回天があって神をあがめて滅んでいくのだろうか?
そういや維新や新選組やと、妙にきな臭い名前の集団が既得権益と争っているなぁ。くわばらくわばら -
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ネタバレ晴明様特集をしていた『オール讀物』2022年8月号を既読だったので、純粋に初読だった作品は『哪吒太子』くらいだったかもしれない。
他も上記のものを読んでいると既視感のある作品だったし。
それでも、一冊で様々な方の晴明様、もしくは陰陽師話が読めるのはお得である。
そして、改めて夢枕獏先生の晴明様と博雅様の抜群の安心感と安定感が身に染みるという。
個人的にはやはりこの二人を見たいと思ってしまうので、他の作家さんが書かれた話でも二人が出てくるとつい思い入れが。
ゆえに『耳虫の穴』と『博雅、鳥辺野で葉二を奏でること』は特にお気に入りである。
第三者視点から見るとあの二人はああ見えるのかと思えたのもよかった。
また、時代は平安だけに限らず、室町や戦国時代もあり、本人たちが直接出てこない話も収録。
全部が全部、晴明様・博雅様コンビが拝める話ではないので、その点はご注意を。 -
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米澤穂信さんの「黒牢城」を読んだ後なので、その息子の物語がより感慨を持って入って来た。
この作品で描かれる荒木村重は「黒牢城」の彼とは違うのだが、代わりに息子・又兵衛をずっと見守るのが母代わりとなった乳母・お葉と遠い記憶の中にぼんやりといる実母・だし。そして彼の一生を支えた絵。
彼は吃音により言葉で伝えることが苦手。だが代わりに絵で「語る」。それがタイトルの意味だった。
実際の彼がどうだったのかは分からないが、この作品での又兵衛は自身が荒木村重の息子であることを大きくなるまで知らない。
それは『己の周囲三尺の中に引きこもり、その中で生きてきた』からなのだが、その元を辿るとやはり吃音ということにたどり着くのだろうか。
話せば笑われたり苛立たせたりするので話さなくなり、自身の思いを伝えることも聞きたいことを聞くこともしなくなる。
自分が何者なのか知りたいと伝えられたのは関ヶ原の戦いが終わってからだった。
だが彼の吃音を嗤うことも急かすことも、逆に落ち着いてなどと宥めることもせず普通にやり取りしてくれる人も多くいる。
乳母お葉はもちろんだが、パトロン笹屋、狩野工房での兄弟子・内膳、妻となるお徳、仕官する織田信雄と松平忠直、その父・結城秀康、最初の絵の師・土佐光吉、影響を与える長谷川等伯など。
又兵衛の人生も波乱万丈だが、お葉、内膳、結城秀康・忠直親子に織田信雄、長谷川等伯など彼の周囲にいる人々もまた波乱万丈。
忠直は一般に乱心者の悪いイメージでしかないが、彼は娘・鶴姫に何かを残したいと又兵衛に絵を依頼した。その父・秀康もまた息子・忠直に残したいと自分の似絵を又兵衛に依頼した。
自分から『すべてを奪った』父・村重とは真逆の人だった。
吃音と父・村重への憎しみは終始又兵衛を苦しめるが、彼もまた自分の息子や弟子たちとの関わり方を反省するところがあった。
内膳から『そうか。お前は武士にはなれなんだか』とがっかりされるが、信雄に仕え忠直に仕え、物語にはないがその後は江戸に招聘されるらしいし、御用絵師としてある意味武士に似た生き方をしたのではないだろうか。荒木家再興も父・村重が望む生き方も出来なかったが、絵師「岩佐又兵衛」の名は残したし岩佐家を継承する息子も育った。
言葉を操ることは出来なくでも絵で語り『弱くか細い糸』ながら人と繋がった。
結城秀康からは『世の静謐を乱す絵』、長谷川等伯からは『奇妙の絵師』、土佐光吉からは『人を寄せ付けぬ』『寒い絵』、内膳からは己を『曲げられぬか』と言われるが、彼の絵は何故か人を惹きつける。
織田から豊臣、さらに徳川の世へと目まぐるしく変わることへの反発も多くの人々の中にあり、それが又兵衛の絵への共感を呼んだということだろうか。 -
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戦国史を足利一族の視点から描くアンソロジー。
古河公方発足から、喜連川藩誕生までの200年余りが物語の舞台となっています。
室町から戦国にかけて関東一円の戦乱の原因は、鎌倉公方・管領の足利一族のいざこざのせいだと思っています。なんというか、関東だけに限らず、足利は血族の争いが多い気がする。尊氏と直義から始まってることですし。それでも、240年近く幕府として続いたことは珍しいことでしょうね。
時代を下りながらのアンソロジー7話。一つの流れとして、関東公方家に仕えた忍びの「さくら一族」の存在があります。「足利の血脈」というタイトルですが、「さくら一族」伝でもあります。
『嘉吉の狐』『螺旋の龍』『大禍時』の3話では、足利義教、義輝、織田信長の暗殺に関わったと配役。特に『螺旋の龍』は伝奇色が強くて好きです。
足利一族。特に関東の公方と管領の関わりは、いま一つ把握ができていません。
公方も管領も多いのですよ。そして、それぞれの陣営が頼りにする長尾も北条も関東豪族も、多い!しかも、長い間争うから、代替わりしていて家系図の把握が大変!なまじ、権威はあるだけに、誰がどこの養子になったり、実質管領職は誰々で、とかごっちゃになるんですよ。
それを把握しながら、読む進めるのは楽しいのだけど大変。大変だけど楽しい。
このアンソロジーの「さくら一族」のように、物語に一つの幹があると理解がしやすくていいです。
歴史小説楽しむには、まだまだ精進が必要です。 -
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絵師を描くことが多い谷津さんにしては珍しい類の作品かも。『廉太郎』とは滝廉太郎、『ノオト』はノート(楽譜?)と「の音」を掛けているのかと勝手に想像。
滝廉太郎と言えば「花」「荒城の月」などの教科書に載るような有名曲の作曲家、そして若くして亡くなったことくらいしか知らなかった。この作品では作曲家というよりはピアニストとしての成長が多く描かれていたので新鮮で興味深い内容だった。
23歳という若すぎる死をまるで予見したかのように十代半ばで頭角を表し、その後も駆け抜けるようにピアニストとしてそして作曲家として階段を駆け上がった廉太郎。
しかしついに『天井』を突き破る前に病が彼を連れ去ってしまった。
『天才とは、他の人が諦めてしまった天井に挑み続け、ついには破ってしまった人間のことだ。だが、そうした人間にはさらなる天井が現れ、そのたびに自分なりに答えを出していく。傍から見れば天井がないように見えるが、それは違う。己の頭上にある天井に果敢に挑み、破り続けているだけだ』
ここに描いてある滝廉太郎青年は一般的にイメージする天才型ではなかった。ピアノの奏法や座学など、飲み込みの速さという点においては才能はあったのだが、その先にある、人に響く演奏という点においては常に悩みなかなか思うようにならなかった。
そして彼の前には常に天才バイオリニスト・幸田幸(幸田露伴の娘)がいた。幸はいわゆるツンキャラなのだが、彼女の叱咤により廉太郎が伸びたことは間違いないだろう。
他にも幸の姉で恩師の幸田延を始めとする教師たち、ピアノで一皮剥かせてくれたケーベル師、廉太郎を役人にさせたい父から庇って音楽の道に行く助力をしてくれた叔父・大吉などたくさんの協力者や仲間たちがいた。
何よりも廉太郎が音楽に触れる原点となった亡き姉・利恵は常に彼の心にいた。
廉太郎は幸のように自分が全面に出るタイプではなく、ピアノ演奏も作曲も誰かと和を奏でることを求めていた。それは幼い頃の利恵との琴の演奏が原点にあったのかも知れない。
彼の死が結核によるものだっただけに、当時としては仕方のないことかも知れないが遺品のほとんどが焼かれてしまったというのは残念。せっかく集めた楽譜や資料も自身の手で焼却されてしまった。未発表の楽譜もあったかも知れない。
しかし子どもたちに西洋音楽を馴染ませたい、それもただ西洋音楽を押し付けるのではなく日本人にも馴染める音楽をということで子どもたち向けに作った作曲集は今でも残っている。
『もういくつねるとお正月~』のあの曲も彼によるものだとは知らなかった。
遺作の『憾(うらみ)』はどんな思いで書いたのだろう。作中では早逝することへの恨みではないと書かれていたが、やっぱりお姉さんと同じ病で自分も早逝するなんてと天を恨んだ気持ちもあるのではないだろうか。
この時代、結核が死の病でなければもっともっと活躍出来たであろう方たちはたくさんいたので彼に限ったことではないのだが、やはり23歳は若すぎる。