谷津矢車のレビュー一覧
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東洲斎写楽モノといえば正体を巡る歴史ミステリだが、その正体は能楽師・斎藤十郎兵衛で決着しジャンルとしては廃れるのかと思っていた。だが本書の谷津矢車氏は、東洲斎写楽の活動期間が10カ月という短い期間にもかかわらず、作風や絵の質が最初期とそれ以降で全く違うという点に着目し、実は別の写楽がいたのではないか?というテーマで抜群に面白い歴史ミステリを作り上げている。
本書は、地本版元の主 鶴屋喜右衛門が、斎藤十郎兵衛のもとを訪ね写楽の「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」を依頼するところから始まる。だが斎藤十郎兵衛はかの有名なこの絵を含む6作の役者絵は別の写楽のものであり、無理だと仄めかす。かくして鶴屋喜右衛門 -
ネタバレ 購入済み
面白い!
「吉原の埒を壊して、不埒者になりたい。吉原を江戸に、江戸を吉原にしたい」そう言った、蔦屋重三郎という男の生き様を描いた作品。文章と、ストーリーに、スピード感が有って、ぐんぐん引き込まれて、あっと言う間に読んでしまった。
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著者はこの本を文庫本にすることを長らく拒んでいたそうだ。その顛末はあとがきに書かれている。今回、大幅に加筆して、満足のいくものとなったのだろう、折しも今年の大河ドラマの主役が蔦屋重三郎とあって、急ぎ文庫化したようだ。その甲斐あって、自由な物語として描かれたこの蔦重は面白かった。
日本橋の地本問屋、豊仙堂の主人、丸谷小兵衛から、店を買い取ったところから、蔦重の出版人生が始まる。
狂歌の面々や、山東京山、歌麿、東洲斎写楽も出てくるが、丸谷小兵衛の視点から物語は進む。彼は蔦重にとって、細見の版木よりも重要な人物なのだと本人に語るのだが、それは後になってよくわかる。
振袖女郎になったお銀と歌麿、重 -
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10年ぐらい前に読んだ島田荘子さんの『閉じた国の幻』を読んで以来、蔦屋重三郎のファンで、写楽は誰なのかと言う事に思いを寄せています。
また、その頃から美術館の企画展などで浮世絵が来る時は行くようにしております!
↑の作品を読んだ頃に産経新聞の下の方に書いてある広告で本書の存在を知り、文庫化されるのを待っていたら10年の時間が過ぎました・・・
→理由は作者後書きで何となく語られております。
また、本のカバーを見ると本書の作者は『憧れ写楽』と言う作品も書いたようです!(次は文庫化するまでこんなに時間を置かないでほしい)
本作の蔦屋重三郎の物語は日本橋に居を構える丸屋小兵衛とコンビを組んで江 -
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2019年8月に読んだ増田晶文著『稀代の本屋 蔦屋重三郎』が私には合わず、その時のうんざり感が胃もたれのように「蔦重の本はもういいや」と思わせていたのですが、本書が出ると知ったとき、「いやこの人の書く蔦重なら読みたい!」と購入を即決。これに限らず谷津矢車さんの作品には、だいぶ前から好みセンサーがビビビッと反応していたのですよ。やっぱり私の目に狂いはなかった。すっごく良かった。
地本問屋豊仙堂の主人丸屋小兵衛は、店を畳んだばかり。その小兵衛のもとに男が訪ねてくる。〈当代一流の豪勢な品を嫌味なく着こなし〉、〈男ぶりのいい顔〉をした、耕書堂の主人蔦屋重三郎だった。「あたしの仕事を手伝ってください」 -
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ネタバレ谷津矢車の歴史小説。主人公絵師岩佐又兵衛は実在の絵師で荒木村重の子供というのも史実らしい。てっきり架空の人物架空の設定かと思ったのだが…。
物語は天賦の画描才能を有しつつも、将来の吃癖と不器用な生きざまの主人公又兵衛が、器用な立ち回りが生き残る必須の術ともいえる織田豊臣徳川の時代変遷の中に生きていく様を描く。
絵を描く描写の丁寧さが読みどころながら、絵心が皆無な俺にとっては、人間描写の巧さが核心部であり味わいどころだった。
人と関わることに不器用で苦手な又兵衛がその煩悶の逃げ口として余計に絵にのめりこむ様や、後半のある瞬間に自分の絵を完遂させるために、人との関わりをひとつ深く入り込むあた