谷津矢車のレビュー一覧
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匿名
購入済み紀州藩主の三男だが、母親の出自身分が低いため、父に疎まれる新之助。
そんな新之助に幼少期から仕える星野伊織は、新之助を藩主にするべく、新之助の父と兄二人を毒殺する。
そんな伊織の行動を、新之助は己が命じたことだと言い、一蓮托生を誓い、新之助は藩主の座に就き、吉宗を名乗る。
伊織はひそかに「御庭番」を組織する。
吉宗も伊織も、吉宗の母の待遇を上げたいと思うが、母は受け入れない。
その後、江戸の幼い将軍の後継問題が持ち上がり、尾張徳川家の継友と紀州徳川家の吉宗が候補に挙がり、大奥や幕閣が対立する中で、伊織は命を落とす。
吉宗は将軍となるも、母は吉宗を認めないまま世を去ってしまう。
母も伊織も喪った吉宗は、幕政を仕切っていくにあたり、将軍に推挙した大奥や門閥とも対立することにもなり、自らの後継者選びにおいては、かつては味方だったものが敵方になってしまうなど、複雑な政治的対立が描かれ、吉宗は孤独になっていく・・・。
この作品の吉宗には、政治に対する高い理想があるわけではない。ただ、民には人気が高かったことについて、
「善政を敷くことは、おのれの権威を確立するための手段に過ぎなかった」というほど。
想像以上にダーティで孤独な吉宗だった。 -
Posted by ブクログ
東洲斎写楽モノといえば正体を巡る歴史ミステリだが、その正体は能楽師・斎藤十郎兵衛で決着しジャンルとしては廃れるのかと思っていた。だが本書の谷津矢車氏は、東洲斎写楽の活動期間が10カ月という短い期間にもかかわらず、作風や絵の質が最初期とそれ以降で全く違うという点に着目し、実は別の写楽がいたのではないか?というテーマで抜群に面白い歴史ミステリを作り上げている。
本書は、地本版元の主 鶴屋喜右衛門が、斎藤十郎兵衛のもとを訪ね写楽の「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」を依頼するところから始まる。だが斎藤十郎兵衛はかの有名なこの絵を含む6作の役者絵は別の写楽のものであり、無理だと仄めかす。かくして鶴屋喜右衛門は、ひょんなことから相棒となる喜多川歌麿と共に写楽の正体を探ることになる。
本作の魅力は、やはり東洲斎写楽に縁のある蔦谷重三郎や、山東京伝、大田南畝、十返舎一九ら、また歌舞伎役者達とのかかわりあいであり、その生活の姿である。特に蔦谷重三郎は、写楽の正体を守るため立ちはだかり、写楽のことを「憧れ(あくがれ)」と評する。
写楽の正体は、納得感がありつつ成程と思えるものであった。この作品で面白いのは、本作の寛政年間をまるで現在の写像のようにして書いている点である。これは先代の喜右衛門が活躍した天明年間までを高度成長期からバブル期のように描いている点で対比している。主人公である当代の喜右衛門は、そんな先代の時代に「憧れ」を抱いている姿が特徴的であった。まるで版元、作家、職人の仕事の仕方が、一昔前と今との対比のように書かれている。
学術的には正体が明らかになってしまった写楽だが、まだまだ歴史ミステリの題材としての面白さを感じれる仕事であった。蔦屋の言う「憧れ(あくがれ)」が何なのかはご自身で確認してほしい。 -
ネタバレ 購入済み
面白い!
「吉原の埒を壊して、不埒者になりたい。吉原を江戸に、江戸を吉原にしたい」そう言った、蔦屋重三郎という男の生き様を描いた作品。文章と、ストーリーに、スピード感が有って、ぐんぐん引き込まれて、あっと言う間に読んでしまった。
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Posted by ブクログ
著者はこの本を文庫本にすることを長らく拒んでいたそうだ。その顛末はあとがきに書かれている。今回、大幅に加筆して、満足のいくものとなったのだろう、折しも今年の大河ドラマの主役が蔦屋重三郎とあって、急ぎ文庫化したようだ。その甲斐あって、自由な物語として描かれたこの蔦重は面白かった。
日本橋の地本問屋、豊仙堂の主人、丸谷小兵衛から、店を買い取ったところから、蔦重の出版人生が始まる。
狂歌の面々や、山東京山、歌麿、東洲斎写楽も出てくるが、丸谷小兵衛の視点から物語は進む。彼は蔦重にとって、細見の版木よりも重要な人物なのだと本人に語るのだが、それは後になってよくわかる。
振袖女郎になったお銀と歌麿、重三郎の幼馴染の話も出てくるし、重三郎が床についていよいよ・・・となったところでの意外な展開も面白かった。
谷津矢車の時代劇は、話に生きの良さが感じられて、新鮮だった。 -
Posted by ブクログ
10年ぐらい前に読んだ島田荘子さんの『閉じた国の幻』を読んで以来、蔦屋重三郎のファンで、写楽は誰なのかと言う事に思いを寄せています。
また、その頃から美術館の企画展などで浮世絵が来る時は行くようにしております!
↑の作品を読んだ頃に産経新聞の下の方に書いてある広告で本書の存在を知り、文庫化されるのを待っていたら10年の時間が過ぎました・・・
→理由は作者後書きで何となく語られております。
また、本のカバーを見ると本書の作者は『憧れ写楽』と言う作品も書いたようです!(次は文庫化するまでこんなに時間を置かないでほしい)
本作の蔦屋重三郎の物語は日本橋に居を構える丸屋小兵衛とコンビを組んで江戸に吉原文化を華咲かせようとする物語、二人で次々とヒット作を産み出していく!!!
歴史物のお決まりで本当にあった事実は避けられず、物語途中で田沼意次から松平定信に時代は移り質素倹約が推奨される世の中になっていく!!
コロナの時に思った事ですか、自粛ムードで最初に削られるのは外食産業と文化芸能!
生きていく上で不要なものと決め付けられ、歪んでしまった道徳に一番最初に切り捨てられる産業ですが、決して少なくない人達がその産業に関わっているのを考えて欲しい!
たまに我慢するのは良いかもしれませんが、長期間 周りの目に怯え我慢する事はその産業にダメージを与え、文化を衰退させ、そこで働く人達を殺してしまう。
寛政の改革やコロナ禍の引きこもり生活が二度と来なければいいなぁと思います。
最後に、来年の大河ドラマは蔦屋重三郎!
他にも蔦屋重三郎や写楽を題材とした作品が刊行されることを祈ってます! -
Posted by ブクログ
2019年8月に読んだ増田晶文著『稀代の本屋 蔦屋重三郎』が私には合わず、その時のうんざり感が胃もたれのように「蔦重の本はもういいや」と思わせていたのですが、本書が出ると知ったとき、「いやこの人の書く蔦重なら読みたい!」と購入を即決。これに限らず谷津矢車さんの作品には、だいぶ前から好みセンサーがビビビッと反応していたのですよ。やっぱり私の目に狂いはなかった。すっごく良かった。
地本問屋豊仙堂の主人丸屋小兵衛は、店を畳んだばかり。その小兵衛のもとに男が訪ねてくる。〈当代一流の豪勢な品を嫌味なく着こなし〉、〈男ぶりのいい顔〉をした、耕書堂の主人蔦屋重三郎だった。「あたしの仕事を手伝ってください」と言う。「一緒にやりませんか、あたしと。もう一度この世間をひっくり返しましょうよ」と。
本好き読書好きとして、絵師や戯作者たち、また何があっても何度でも立ち上がる蔦屋重三郎を、全力で応援していました。私もいっしょにフフッと笑ったり、ビックリしたり、憤慨したり、くやし涙を浮かべたり、悲しくなったり、切なくなったりしていたら、いつのまにか胃もたれがスッキリしていました。読んで良かったぁ。
今年2024年の大河ドラマは、物語を書く紫式部が主人公。来年2025年は、本を作って売る蔦屋重三郎が主人公。この流れ、本好きとしては注目したい。電子書籍も便利かもしれないけど、本屋さんに行って本を買おうと思ってくれる人がひとりでも増えますように。
〈人間は色を好み、金を好み、絵空事の物語や絵を好む。このどうしようもない浮世から逃げ出したい人々が物語や絵を買い、溜飲を下げる。人の業を否定するなど誰にもできはしない〉
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Posted by ブクログ
ネタバレ谷津矢車の歴史小説。主人公絵師岩佐又兵衛は実在の絵師で荒木村重の子供というのも史実らしい。てっきり架空の人物架空の設定かと思ったのだが…。
物語は天賦の画描才能を有しつつも、将来の吃癖と不器用な生きざまの主人公又兵衛が、器用な立ち回りが生き残る必須の術ともいえる織田豊臣徳川の時代変遷の中に生きていく様を描く。
絵を描く描写の丁寧さが読みどころながら、絵心が皆無な俺にとっては、人間描写の巧さが核心部であり味わいどころだった。
人と関わることに不器用で苦手な又兵衛がその煩悶の逃げ口として余計に絵にのめりこむ様や、後半のある瞬間に自分の絵を完遂させるために、人との関わりをひとつ深く入り込むあたりの下りは、のめりこみ過ぎて通勤電車で危うく目的駅を通過しそうになったほど。
「人は誰しも後悔を引きずって生きるもの」という結論に自分のくだらない人生を照らし合わせて、なんかすごく安心させてもらった。