大分の小藩日出の国家老の家柄、御一新で藩がなくなってからは政府に出仕した厳格な父の元に生まれた、名家・瀧家の跡取り息子・廉太郎。庭の水琴窟が奏でる音、姉の弾く琴の音色とは別に、廉太郎の心の奥底にはいつも流れ続ける音があった・・・
20歳にして労咳で亡くなった姉・利恵が、死の間際に廉太郎に託した音楽への夢。その夢に寄り添うように音楽への道を進む決意を固める廉太郎。音楽がまだ道楽とみなされていた時代、「男が芸人になるなどけしからん!」と反対する父を押し切り、日本唯一の音楽学校であった東京音楽学校を目指した廉太郎は、その狭き門を突破し最年少で入学を果たす。
幸田露伴の妹・延(のぶ)に師事し、めきめき頭角を現す廉太郎。学友と語りあう将来の夢、廉太郎に激しいライバル心を燃やす延の妹・幸(こう)との斬り合いのような重奏シーンなど音楽学校の日々が生き生きと描かれる。友情の温かさ、ライバルの存在があってこその成長、支えてくれる人々への感謝、そんなものの全てが盛り込まれている。これぞ青春!
努力を重ね、ピアノ演奏のみならず作曲にも才能を発揮、23歳でドイツへの官費留学を果たし、まさにこれからという廉太郎を襲った病・・・。順風満帆な船出を果たしたそのタイミングでの不幸。結果が分かっていながら、そこに到達することを拒む気持ちが抑えられない。
どれほど悔しかったろう、どれほど無念だったろうそんなことを思いながら、終盤はもう涙なしには読めなかった。
滝廉太郎と言えば音楽室にあった肖像画と「荒城の月」のメロディくらいしか思いつかなかったけれど、日本の音楽の黎明期に大きな一歩をもたらした作曲家だったんだとしみじみ。今の子供たちはもう廉太郎の作った唱歌を歌わないよね・・・。時代とは言え少し寂しい。