平野啓一郎のレビュー一覧
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ネタバレ身近な人を亡くした人なら誰でも、生き返ってくれたらどれだけよいか、また会えたら話せたらどれだけいいか、何度も空想すると思う。復生者という概念は完全なるファンタジーなのに、それを通じて、人の死の儚さにとことん現実的に向き合っている不思議さ。平野さんの哲学的でじっくりと思考している小説が本当に好きだ。
実際に復生者が現れてしまったら、大切な人を亡くしたひとはその人が帰って来る日を待ち望んでしまって、それこそ現実世界に戻れないんじゃないだろうか。
↓かなり冒頭の文章だけど、本当に死の儚さを綺麗に切り取った表現。
「生きている人間は、日々活動して新しい。変化し、豊富になる。昨日とは違うことを感じて、考え、行動する。それが今日、生きているということである。しかし、死んだ人間は、ささやかな幾つかの逸話の主人公として、何度でも同じ行為を繰り返すしかなかった。」
最初はまさかのミステリー?と思ったけれど、後半になるにつれて、分人主義を提唱する平野さんらしい展開になってきた。自分で自分がわからなくなる感覚、どこが夢でどこが現実かわからなくなる感覚。徹生の苦しさがひしひしと伝わってくる。
1日であっというまに読んでしまった。
あと、復生者の会で金縁眼鏡の男が言った
「人生には、いいですか、一つとして同じものがないでしょうが?だったらどうして、死後の世界だけ一通りしかないと思うの?」という言葉にはハッとさせられた。私も死後の世界を信じている方ではないけれど、でもその世界もその感覚も今生きている世界と同じく、十人十色だよなあと。 -
Posted by ブクログ
「本当の自分」という、実体のない不可侵の塊を探すのをやめさせてくれる本だった。一貫したたった一つの「個人(インディビジュアル)」として生きるのではなく、対する相手や環境ごとに生まれる複数の「分人(ディビジュアル)」のネットワークとして自分を捉える。この視点は、真面目に生きようとするほど息苦しさを感じる現代において、非常に実用的な思考ツールになる。
●「一貫性」の呪縛からの解放
世間では「裏表のない人」が美徳とされるが、本書は相手によって態度やキャラクターが変わることを「不誠実な嘘」とは呼ばない。親といる自分、職場の自分、趣味の仲間といる自分。そのどれもが「本物の自分」であるという肯定は、素直に腑に落ちる。
私自身、結婚して子供が生まれたことで、家庭内での分人が占める割合が大きくなった。その「足場」が強固になった結果、皮肉なことに外部の人間関係に対して「自分の気持ちに正直に」割り切れるようになった感覚がある。すべての場所で同じ顔(一貫性)を強要されないことで、かえって精神的な安定が得られるというのは、分人論が示す「構成比率(ポートフォリオ)」の妙だと言える。
●他者を必要とする「分人」への疑念と整理
論理として納得しつつも、実生活に引き写した際に生じた二つの疑問についても、自分なりに整理がついた。
1.承認欲求への依存について
「他者がいて初めて分人が作られる」のなら、他者の評価に支配されないかという懸念があった。しかし、実際には特定の分人に依存せず、複数の心地よい分人に分散投資しておくことで、一つの関係性での否定が全人格の否定にならないという「守り」の側面が強い。家族という大きな分人があるからこそ、他者からの承認を過剰に求めずに済むという現在の状況が、その証左だろう。
2.一人きりのときの自分について
誰とも接していない「自分オンリー」の時間は、無(ゼロ)ではなく、過去の他者の残響や、向き合っている対象(本、映画、食事)との間に生じる分人の時間である。例えばNotebookLMなどのAIと対話する時間は、客観的な「他者」を鏡にしながら、自分自身の内省を深めるための特殊な分人が立ち上がっている状態といえる。一人の時間もまた、純粋な孤立ではなく、世界や自己との「対話」によって構成されている。
●印象的なエッセンス
1.個人から分人へ: 分けられない「一」ではなく、状況ごとの「多」として生きる。
2.個性の正体: 固有の核があるのではなく、分人の構成比率がその人の個性となる。
3.環境による調整: 嫌な自分がいるなら、その原因となる分人を物理的に減らすという戦略。
●まとめ
「本当の自分がわからない」「あの人といるときの自分が嫌いだ」と、内面に原因を求めてループしてしまうとき、視点を「関係性」へと外に連れ出してくれる一冊。自分を一つの塊と見なさず、環境ごとに最適化されるネットワークとして眺めることで、変化していく自分を静かに受け入れられるようになる。 -
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上下巻の構成とは知らずに上巻だけ買って一気読みしてしまい、待ちきれず途中駅でわざわざ下車して下巻を買った。本当に面白かった〜〜
一つ一つの描写で、自分が日々当たり前に見ている景色、考えていることがよりクリアに的確に表現されていく感じ、読んでいて気持ちいいなと思う。
分人主義についての本を読んだことがあったので考え方自体は元々知ってはいたけど、自殺についての見方は新しくて、且つ納得感があった。
あと、直前に原田マハの『たゆたえども沈まず』を読んだおかげで、ゴッホの肖像画のくだりがより一層深みを増したように思う。
佐伯は結局何者だったんだろう。
平野啓一郎の本、好き! -
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ネタバレ・難しくて途中でやめてしまおうかと思った。半分あたりまで進んでもイマイチ乗れず、けど辞めずに正解だった
・『消失点』で一気に引き込まれて本を置くのがイヤ!ってくらいに続きが気になり過ぎた
・早苗の行動が私には理解できないし、許せないけど、結局は言う通りなのかもしれない。あのすれ違いがなくて2人が結ばれたとしても、主役と主役の人生ではうまくいかないのかもな...と最後に思ったのは悔しかった。
・物語の内容以外にも戦争の事やリーマンショックの事とか勉強になった。と同時に色々な事を考えさせられた。
・心の繋がり、心の話をした時に通じ合える相手はこの世界にどれだけいるのだろう?「この話したいな」と思える相手がいる事は幸福なのだと思う。 -
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ネタバレ【読もうとしたきっかけ】
袴田事件のドキュメンタリー映画「拳と祈り―袴田巖の生涯―」のパンフレットに本書の著者の寄稿を発見。そこに「死刑存置派から死刑廃止派に変わった」と書いてあり、非常に興味深いと思った。
【感想は】
一般的に割合の多い死刑存置派の考えの言語化をはじめて目のあたりにして、鋭い指摘を行っていると思った。とかく、死刑制度の是非というのはオープンに話される話題ではないため、該当する言葉を私は持ち合わせていなかったが、この本のおかげで可視化できた。目から鱗。また死刑存置100%の考えだったが、フィフティフィフティに変わった。
国家に人は殺せないし、また犯罪者の生育環境を考慮すると、死刑にしてはい終わり、という死刑賛成派の考えには同意しかねる。一方で、では自分の周りの人が何らかの事件に巻き込まれ、自分が被害者側になったとき、感情的な面で、死刑反対派に簡単に同意できない部分もあると感じている。
今後、えん罪や死刑に関する小説を読み進めていき、もう少し自分なりの意見を確立したいと思う。
【死刑に対する考えはどんな風に変わった?】
死刑存置100%の考えから、死刑存置50%、死刑廃止50%に考えが変わった。
【理解できる部分】
・なぜ死刑存置を望むかと言えば、命を奪った側の人生がこれから続いていくのに対して、被害者にはそれがなく「アンフェア」なため。
・加害者側に共感できるかどうかの感情論が先に立ち、共感できなければ極刑もあり、というのが日本人の死刑に対する心理構図。
・日本は人権教育が失敗している。
【死刑廃止50%】
・劣悪な生育環境に置かれ人を殺めた人を国家が殺していいというはずがなく、根本的な問題が解決されていない以上、同じ共同体の一員として支えなければならない。
・警察の杜撰な捜査で、無実の人が死刑執行されるということが起きている(飯塚事件)。本当にあってはならないこと。
・被害者遺族の中には、死刑を望まない人もいる。
・「全体に迷惑をかけるな」という考えが、「公益」を最優先にする。罪に対しては、徹底した自己責任論となり、その存在を抹殺しようという発想となる。(p89)
【日本で死刑制度賛成の割合が多い理由】
・切腹など自死をもって罪を償うという文化や、勧善懲悪の物語がアニメーション(アンパンマンがアンパンチという暴力行為を通してバイキンマンをやっつける行為)で古くから語られており、それが日本人に染みついているため。
【これから知りたいと思うこと】
著者によると、日本は被害者遺族のケアが足りていないとのこと。被害者側のケアとはどういうことか。「犯罪被害者と認識されながら生きることの困難(66ページ)」に通じるのかもしれない。 -
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普遍的なテーマだけども、想像できないストーリー展開、細部まで作り込まれた設定、丁寧かつ端正な美しい文章のお陰で、最後まで期待を裏切らなかった。
近未来という設定で、格差社会、仮想現実、AIなど、今もある舞台装置を拡張しているのが絶妙すぎる。
主題が、格差、死、分人、性、愛、外国人、など色々入り組んでいるが、やはりメインはタイトルの本心なのかな、という気がする。色々なテーマが絡み合って一つのストーリーになっているので厚みがあり、読後の満足感が大きい。これが、2時間の中で完結させる映画では味わえない、読書の醍醐味だと思う。
「もう十分」と言って自由死を望んだ母の本心は?
「平気なの?」と三好に問われて抑制的な返答をした朔也の本心は?
その回答を聞いて“「そう‥」とだけ頷くと、自分の勘ぐりを、そっと僕の目には触れぬ場所に片付けた”三好の本心は?
何が本心なのか?
自分の本心も、誰にも知られぬままになるのかな、と思っていたが、もしかしたら自身もわかっていないのかもしれない。
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僕は、死刑は廃止にすべきと思っている一方で、死刑存置派の人から遺族感情はどうするんだと問われると、いつもゴニョゴニョと誤魔化すことしかできていなかった。
この本は、この点についてもっと深く考えるきっかけを与えてくれた。
死刑の存否にかかわらず遺族のケアが十分に行われていないこと。
死刑と加害者を赦すことは不可分一体ではないこと。
罰ではなく赦しも尊重できる社会にすること。
いずれも僕が十分に持てていなかった視点であり、自分の高慢さを反省しながら読み進めた。
また、僕は、死刑囚の境遇を知り、自分も同じ立場であれば同じことをしてしまっていたかもしれないと共感することこそが、死刑廃止につながると考えていた。
しかし、平野さんは、共感により刑罰の当否を考えることは、共感できない対象の存在によって相対化されてしまうため、絶対的に犯すことが許されない基本的人権から考えるべきだとしており、この点ももっともな指摘だと思った。
当事者でも、政治家でも法律家でもない、他者の視点で物事を書くことができる小説家だからこそ書ける、とても良い本だった。 -
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平野啓一郎の「文学は何の役にたつか」を読み終えた。エッセイや評論集の類いで、中には僕には難解のものがあったが、大半は興味が惹かれるものだった。
三島由紀夫、ドナルド・キーン、瀬戸内寂聴、大江健三郎、安部公房、古井由吉、ハン・ガン、ドストエフスキー、森鴎外などたくさんの文豪が登場する。
寂聴さんにはかなり可愛がって頂いたようで、お酒の席で寂聴さんからたとえば甘粕正彦のリアルな話を聞いていたなんてことが書かれていると僕までなんかワクワク楽しくなったのだ。
この本を通じて、まだまだ読みたい本、読まなければならない本がたくさんあると実感した。
ちなみに平野啓一郎は「正気を保つため」に文学は役に立っていると書いている。