平野啓一郎のレビュー一覧
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文学・芸術に関して、著者が寄稿したエッセイや批評、講演録、弔辞などをまとめたものである。ドナルド・キーンや大江健三郎、瀬戸内寂聴といった錚々たる顔ぶれとの交遊も伺い知れる。
著者の小説はまだ読んだことがなく、文章を読むのは初めてだったが、硬質に見えて、意外と読みやすい。
評論を書こうとすると、対象をよくよく観察し、客観性をもって言語化する技術が必要になる。多様な視点を持たなければ、独りよがりな説得力に乏しい論文になる。
つまり文学とは、人間を多面的に考察していく営みであり、これは古来から、おそらく未来永劫なくなることはない。
「文系不要論」が言われて久しいし、文系の中でもとくに人文学の肩身がせ -
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表題の講演録について。
「役に立つか」と「価値があるか」は違う。「役に立たなくても価値がある」と言い続けることが大事。
…とのことだが、これは文学に限らず、必需品以外のモノ・コト全てに当てはまる。
「役にたつ」と「価値がある」は違う、よく考えれば当たり前とも言えるが、日常の中では同一視していると思える出来事、言葉、人も思い当たる。役にたつこと至上主義、みたいな。
もちろん、価値がある、ということの判断軸は多様であるべきで正解はない。人によって、また同じ人でも時々によって違うだろう。
なので、読みながら自分の思考は次第に文学の話から離れて、色んなところに乱れ飛んでしまった。 -
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ネタバレ死刑廃止に限らず、何かを論じようとすると、必ず出てくるのが感情論。声が大きいのも感情論派。
物事に「絶対」と言い切れるものはほとんどないと思うので、自分たちが「絶対」正しいという人たちとは距離を置きたい。
争いの多くはその対立から生まれるが、一歩離れて両方を理解しようとするとなかなかどちらにも与せない。当事者以外はそうあるべきだと思うのだけれど。それが法治国家のはずなのに。
筆者は「人権教育の失敗」を死刑が支持され続ける理由の一つとして挙げている。確かに「人権」を正しく理解している人がどのくらいいるかと考えると、己を省みても心許ない。 -
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本書の表題となった講演録を含む、主に文学・芸術論について語られたエッセイ・批評集成。
文学は何の「役に立つ」のか?
著者は、「〇〇は何の「役に立つ」の?という問い自体に不思議さがあることを指摘し、役に立つかどうかは幾つかある価値のうちの一つでしかない」とした上で論を進めています。ズバリ最初に語られたその回答は、「だから自分は本を読んでいるのだろうか」と、自分の読書習慣を肯定されたような気持ちになりました(あまり文学は読んでませんが)。
自分はいつから役に立つかどうかだけで物事を判断するようになったのだろう、と過去を振り返ってみた。そして、自分もその価値観だけで他人の行動や判断に対して制限を -
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起承転結が明白なスリリングなお話ではなく、もっと哲学的な内容だった。作者の平野さんは、「主人公の自殺」という極端な例を用いて、「分人主義」という思想を提唱している。
分人主義とは、個人主義とは違い、対人ごと、環境ごとにいろいろな自分になり、鎧をかぶった「本当の自分」を認めないという考え方だそう。
作者の平野さんがこの分人主義を使って願っていることは意外とシンプルで、ただ生きてほしい、己の人生を全うしてほしい、それだけじゃないかなと思う。
物語だからこの主人公は空白を満たすために戻ってきた。でもこれは物語だから。現実世界に生きて、今どこかで思い悩んでいる人にもしもがあれば、もう二度と空白は満たせ -
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清水
人の生死の一部始終は、清水の水滴が落ちるその一瞬なのかもしれない。滴り落ちる水滴の音は希死念慮だったのか…。
高瀬川
官能的な時間は、その後の出来事や明かされる過去によって、こうも印象が変わってしまうのか、と感じた。一度読んで感じた気持ちはもう戻ってこないと思い知らされます。
追憶
「複雑なことを複雑に考えている人にとっての追憶とはこうなのか?」と思う新たな読者体験。
伝えたい内容の難解さを前に、言葉の定義を自分は果たしてしっかりと理解できているだろうかと自問させられた。
氷塊
氷は2人にとって何を意味していたのだろう。溶けることは…
描かれなかった物語の背景ー氷山の下では、氷に触 -
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『ある男』を読んで、私は二つの楽しみ方を味わった。
第一の楽しみは、物語そのものの魅力だ。
この作品は、登場人物の複雑な心理を精緻に描き出し、読者を深く物語へと引き込んでいく。里枝の再婚相手・谷口大佑が仕事中の事故で突然命を落としたことをきっかけに、彼が“谷口大佑として生きていた別人”であることが明らかになる。真実を求める里枝は、弁護士・城戸に依頼し、「夫はいったい誰だったのか」という謎に迫っていく。
その過程で浮かび上がる人間模様は、ときに痛ましく、ときに深く考えさせられ、ただのミステリーにとどまらない重層的な読書体験をもたらしてくれた。
第二の楽しみは、時系列を読み解く面白さだった。
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人の死について考えさせられる作品でした。
大切な人に先立たれ、この世に置いてかれた人たちは、その、ぽっかりと空いた「空白」をその大切な人との記憶や記録などで満たそうとする。
それは故人を、ある意味「理想化」することでもあり、はたして正しかったとは限らない。
しかし、そうでもしないと「空白」を満たせずに壊れてしまうから。
「分人」という考え方に納得しました。
(「分人」とは他人と関わっている自分の部分的一面のようなこと。)
自分もこれに思い当たる節があり、裏表を使い分けているってよりかは、あの人といると自然とこういう態度をとるなぁってことがありました。
完璧主義な自分でもあるので、自己否定し