平野啓一郎のレビュー一覧
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2040年、今から15年後の近未来。
アナログな私にとって、物語の始めは世の中の移り変わりに置いていかれそうでなかなか先に進めませんでした。
それでも読む進めていくうちに、世が変わっても人間にとっては避けられない「死」について正面から対峙する作者の信念のようなものに引き込まれていきました。
身近な人の「死」という喪失、そして自分が「生きていくこと」の意味。
わかっていてもどこかで無意識に避けているこの永遠のテーマが、読み終わって自分の心のどこかに根付いたような気がします。
それぞれの登場人物が向き合っている、日々の生活、生きていくこと。
重く心にのしかかる場面もあったけれど、どの人の人生もその -
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全体のテーマ
『本心』は、テクノロジーが人間の記憶や死後の存在までも再現できるようになった社会で、「愛」「自己」「他者とのつながり」が何によって成り立つのかを問う物語
・「愛は、今日のその、既に違ってしまっている存在を、昨日のそれと同一視して持続する。」
…愛とは変化し続ける他者を「同じ存在」と見なす行為であることを示す。
相手が変わっても、それでも愛そうとする「鈍感さ」「誤解」「強さ」のいずれかによって、愛は続く一方で、「今日の愛もまた昨日とは違い、明日には消えてしまうかもしれない」という、愛は永遠ではないが、だからこそ尊いのだという哲学的命題。
・「どの自分として死を迎えるか」という -
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ネタバレ2022年に映画化し、気になっていた作品。
やっと読みました。
平野啓一郎さんの作品を初めて読んだが、
文章が硬めで表現方法が難しく何度も単語を調べた。
読み進めていくと、単語の難しさを後回しにしたくなるほど物語が深かった。
単に里枝の亡夫の戸籍交換の事実がわかっただけでなく、戸籍交換しなければならなかった過去、結婚後も嘘をつき騙していた訳ではなく言えない理由があったこと、他人の人生を丁寧に生きていたこと、里枝を心から愛していたこと。
城戸が谷口大佑とすり替わっていた原誠の真実を追うごとに彼の壮絶な過去と芯の部分の優しさを感じた。
城戸の生きる境遇や里枝の息子の葛藤も心動かされた。
とても良い -
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ネタバレ宮崎にいるりえと夫と子供たちのパートが一番惹かれた。
不幸ばかりが見つかる過去から逃げ切って、幸せな生活を手に入れて死ねた、とても幸福な人の話だったことに気づくと救われる気持ちになる。
悠人はきっと、束の間のお父さんの一生分の愛を受けて、良い子になる。絶対なる!と思った。
推理するような展開が面白かった。
かげの主人公、城戸の家庭と城戸の逡巡などについてはイマイチ分からなかった。この人物像は作者に近いから省略されているのかなと邪推した。
作者が男だけあって、やっぱり登場人物の男性たちが表情豊かだなと思った。女の人は、良い役を貰っているけれどやっぱり「主観」という描き方じゃなくて遠い感じがし -
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【文学は何の役に立つのか?】 平野 啓一郎 著
いつも疑問に思うことがタイトルになっていたので読んでみました。本書は、著者の講演などをまとめたもので、表題については冒頭の35ページとなっています。著者も「答えるのに苦慮する問い」とのことですが、「一つの理由」を見つけたとあります。ネタバレはまずいと思いますが、この理由やその後の論考などは同意するところ大でした。
平野氏の著作は好きでほとんど読んでいますが、本書のほかの論考を読むと、自分と幼少期の経験が似ていることがわかりました。また、文章もきらきらと美しいのですが、三島由紀夫に留まらず、ハイデガー、大江健三郎など多数の文学・芸術に接して -
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平野啓一郎はジャンルがないと言われるけれど、私にとってはやっぱり平野作品にしかない特徴があると思う。文体の滑らかさも含めて。
出てくる人物の思考が、紡がれる描写の端々から伺えて、人格を持った存在として認識させられる。当たり前だけれど、悪人や善人で人を切り分けない。だからなのか、物語が終わると置いてけぼりにさせられた気持ちになる。あまりにも人々がリアルすぎて、この人たちのその後の人生があることを前提のように捉えてしまって、私にはもうその人生を垣間見させてくれる権利が無くなったような。そんな心持ちになる。
分人思考というが作家の思想に深くあるのだと思うけれど、そこが本作品に組み込まれたことで、それ -
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平野啓一郎はジャンルがないと言われるけれど、私にとってはやっぱり平野作品にしかない特徴があると思う。文体の滑らかさも含めて。
出てくる人物の思考が、紡がれる描写の端々から伺えて、人格を持った存在として認識させられる。当たり前だけれど、悪人や善人で人を切り分けない。だからなのか、物語が終わると置いてけぼりにさせられた気持ちになる。あまりにも人々がリアルすぎて、この人たちのその後の人生があることを前提のように捉えてしまって、私にはもうその人生を垣間見させてくれる権利が無くなったような。そんな心持ちになる。
分人思考というが作家の思想に深くあるのだと思うけれど、そこが本作品に組み込まれたことで、それ