Posted by ブクログ
2015年02月21日
『その苦しみを優しい寛大さと喜びもを以て耐えている姿にはね、生まれてくるこの子にとってだけじゃなくて、僕らすべての生を生きられるに値すると感じさせるような慰めがあると僕は思う。』
『この世界に3キロほどの重みを持って、最早、否定出来ないような事実として放り出される前にはね、やっぱり、母親という一個...続きを読むの人間の内部に、最初の場所を許されていた。これは、人間の生が始原に於いて抱えている根源的な条件だよ。』
『今もまだ、「優しい」理由は何だろうか? 別れてからも、いつまでもよく思われていたいという、男のあの見苦しい、単純な願望のせいだろうか?』
『なぜそうしたいんだろう? 俺が今、生きようとしている理由は何だろう? ここから落下するための数秒では足りなくて、更に数十年が必要な理由とは、一体何だろう!』
『…俺はただ、捏造された自殺の苦痛を、新鮮に保ち続けることでしか、生き続けることが出来ない!』
『俺は名声には興味がない。しかし、その考えを突き詰めれば、たった一人から蒙る評価だって、捨てなきゃならないだろう。他方で、名誉はどうか? 名声は量的な評価で、名誉は質的な評価だと言う。しかし、俺にはその違いが分からない。誰に褒められるかに拘ってみせることは、実は軽薄なんじゃないかと思う。』
『人に喜ばれると、実際は当たり前に嬉しいと感じるからね。だけどね、自分という人間が、そういう他人からの承認の束を支えにして存在しているという考えには、救われないんだよ。』
「シャワーじゃ物足りなくてお風呂に入りたいっていうのは、一種の退行的な儀礼なんだと思うよ。合理的に考えれば、ヘンな習慣だから。夜になる度に、こういう狭い場所に全裸で身を屈めて入って、体温くらいの液体に浸るっていうのは。浴槽が母親の子宮の象徴で、お湯が羊水でって考えると、ちょっと分かりやすすぎるかもしれないけど。…」
「眠りが死の象徴っていうのは世界中で共通してるのかもしれないけど、その前に必ず入浴があるっていうのは、そんなに一般的にじゃないよ。日本人は、そういうところで、手が込んでいるだね。母親のお腹に回帰したような余韻に浸って、布団に入るなら、死ぬっていうより、自分がこの世界に出現する前のゼロの状態に戻るみたいな感じがするかもしれない。ーー沙希ちゃんが言うみたいに、リセットっていう感じなのかな、それは。…」
『そうして彼が今、苦しい胸の裡を明かすのが、自分でなく見ず知らずの誰かであるということが、彼女には理解できなかった。それも、浮気をしているだとか、おかしな趣味があるだとかいったことではない。誰よりも家族が支えとなるべき仕事のことで、彼は妻を相談相手として選ばなかったのだった。』
『彼女は、再び自問した。なぜ、自分ではないのだろう? 愛していればこそ、相手に知られなくないというのだろうか? しかし、そうまでして守る愛とは、一体何なのだろう? そんな、こわれものを扱うようにして大事にするのが夫婦の愛なのだろうか?…』
「知性というものが、蛇に似ていると気がついた古代人は偉大だね。そう思わないか? 柔軟で、艶々しくて、掴み所がなく、何でも一呑みで消化して、頭から尻尾へという単純な一本の線にしてしまう。おまけに不気味で、凶暴だ。咬まれれば全身に毒が回る。ーーあなたを留まらせたのは、あなたの蛇だよ。」
「あなたには、殺したい人間がいる。ーー結構。殺すべきだ! あなたがそう思ったという事実こそが、あなたの殺人を全面的に肯定してくれる。」
「殺人は、太古の昔から今日に至るまで、一日として例外なく行われてきたことだ。自然死と同じくらい自然にね。そして、未来永劫にこの事実は変わらない。」
「人間というのは、そういう愚かな存在だ。ーーその愚かさこそを、むしろ人間は、人間性と呼んでいる。」
「ーーところでだ。人間の行為の中で、最も愚かなのは、殺人ということになっている。つまり、殺人こそは、最も人間的な行為というわけだ。ーー分かるね? 簡単な三段論法だ。」
「いいかね? 存在者から存在を奪う! これは月の引力が海をも引っ張り寄せるように、人間を密やかに、しかし、逃れ難く強力に拘束している考えだ。この世界は、表面上、確かな殺人を駆逐するフリをしてきた。尤も、その唯一の現実的な方法は、常に殺人だったがね。」
『テレビは視聴率の前では盲目のブタだ。』
『殺す阿保に見る阿保
同じ阿保なら殺さな損損www』
『わたしは、わたしの生きている世界には、わたしの居場所がないと思っています。反論する人がいるでしょうが、もう聞き飽きました。
人間はひとりとして同じ人はいません。なのに、この世界は一つしかありません。その世界は、一部の人たちにだけ、都合よくできていて、わたしにとってはそうではありませんでした。だからわたしも、離脱者の一人になることにしました。法律からも、道徳からも、完全に離脱します。
わたしは、世界は、人間の数だけ多様であるべきだと思います。みんなが納得できる世界なんて、あるはずがないと思います。それで、わたしはわたしの世界で生きていくことに決めました。
人を殺すのはどうかと思いましたが、それもわたしが、離脱する前にいた世界の勝手なルールにとらわれているからだと考えなおしました。
わたしは、わたしに、とても言葉では言い表せないような残酷なことをしてきた人たちに、これから一人ずつ復讐していきます。その人たちは、わたしのやりかたを責めるかもしれませんが、それはその人たちの考えなので、わたしには関係ありません。』