平野啓一郎のレビュー一覧
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ネタバレ名作…平野啓一郎さんの天才ぶりを存分に感じた。
火星への宇宙探査、アメリカ特有の社会構造を踏まえた大統領選挙、そして《散影》という新たな社会システム。複雑にみえる場面たちが、ディビジュアル・分人主義という平野さんの軸となる思想と絡み合って、最後収束していく様が本当に美しかった。
2008年刊行ということに驚き…まだスマホもろくにない世代に《散影》や「可塑整形」のある情報過多社会をこんなにもリアルに描くなんて…
ディストピアのようだったけど、今や描かれている内容も遠くない未来のように感じてしまう。《散影》が定着した背景にどこか納得してしまうところもあるし--
「警察に見られることを怖れて、犯罪に手を出さない。──悪くない考えでしょうが、私としては、アメリカ国民の一人として、誰に見られても恥ずかしくない行動を取る、という考えの下に日常生活を営む方が望ましいと思っています。同時に、権力の濫用には、国民全員で対抗すべきです。」
歴代大統領の名前にトランプが出てきていなくて、発刊当時からのアメリカの変化を思うと、どうしてネイラーのような考えの人が立ってくれていないのだろうと現実を哀しく感じてしまった。
代替銃の考え--「これは、個人individualではなく分人dividualだけを撃つ銃です。誤射の際に、取り返しがつく銃であり、後悔が常に間に合う銃なのです。」
も心から賛同できるし
デルガードとの関係性を通じて明らかにされる、ネイラーの「普通の感覚(自分こそがサポートしなければならないという積極的な支援の感情を抱かせるもの)」も、とても納得。
一方で、キッチンズもきっと己の正義と戦っていたのだろうし、デヴォン社のタールがアストーにキレるとき
--「たった一発の誤射で、世界中が非難囂々という有様だ。何もせずに、リヴィングのソファで指を咥えて見ている世界中の偽善者どもが!」
の発言にはハッとさせられるものがあった。これまで「悪者」として見ていた人物の正義をまざまざと見せられて、それを否定しきれなかったから。でもやっぱりどんな正義のためだろうが、暴力や殺人を許してはいけないのだよね。自殺まで追い込まれてしまったけれど、彼も正義のために戦ったひとりだよな、と。 -
Posted by ブクログ
見事なまでにすれ違う大人の静かなラブストーリー。
三谷のしたことに賛否あれど、結果的にうまくいったのならそれが運命だったと言えなくもない。
結局のところそのようにして人はいつも誰かと繋がったり途切れたりしているのではないか。
ならば三谷を一方的には責められない。
蒔野と洋子があっさり最初から付き合っていたとしても未来がどうだったかはわからない。
何年もの年月にそれぞれの人生が流れる。
もう時々しか思い出さないと思う日もあれば、まだ思いが燻って近くにあると思い知る日もある。
NY公演の客席にひっそりと座る洋子に気がついた蒔野がマチネの終わりに贈った一曲。
For you
英語だと『皆さんのために』。
同時に『貴方のために』とも訳せる。
公演後にセントラルパークを散歩すると公言した蒔野。
お互いにすれ違いを演じることもできた二人だが、そこに洋子はいた。
会うのは3度目だが、二人はそのときやっと初めて出会ったのかもしれない。
上質の映画をみたような読後感でした。
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自殺について、
なぜ死にたいのに確実に死ねる方法を取らないのか?
どの分人がどの分人を殺したのか?とか、
そういう考え方がとても面白かったです。
目からウロコとはまさに!
命は一つだから素晴らしい、懸命に生きることができる。
とはまあ、いろいろな作品で語られていることではありますが、
私にはこの作品が1番そのこと受け止められるきっかけになりました。
命は一つ、人生は一度きり!
そうはいっても、毎日惰性で生きてしまってるなあ。
そんな風に全力で生きられていないなあ。
もちろん、復生後の主人公のように
張り詰めて生きていく必要はないと思いますが、
自分が大切な人や大切に思ってくれる人を
大切にしていきたいな、と思いました。
大好きだって気持ちと、ありがとうって何回でも伝えていって、
そうすることが、きっと自分を大切にすることに繋がるんだろうなと思います。
そしてこのタイトルに返ってきたとき、
りくがどんな風に父の自殺を受け止めたのか。
全てが報われるような、ステキな読後でした! -
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「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?」
本書は、単なる恋愛小説ではなく、登場人物がそれぞれに愛を育み合う過程において「愛とは何か」「過去とは何か」といったことを示す哲学書であると僕は感じた。
読み進めていくと、
僕では言葉にできないような感情がいくつも湧き出てきた。
今後再び読むことがあったら僕がどこに心を動かされたのかを覚えておきたいと思い、感情の動いた箇所にとりあえず印をつけた。
とにかく平野さんの文章は、人の感情や葛藤、思考を最も適切な言葉で、それでいて艶がある、とても素敵な表現をされる。
そういえば、僕はちょうど能登半島に行ったところだった。
震災からは2年半以上経過しているが、
町の中はまだまだ復興の最中である。
当たり前に過ごしてきた日常を一瞬にして失った過去。
その過去は変えられるのだろうか?
変わるべきなのだろうか?
ということをなんとなく考えている。 -
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ネタバレマチネの終わりに
平野啓一朗
何気なく手に取った本が今年最高の1冊だった。
男女のすれ違い恋愛の話。生きること、愛すること、出会うこと、別れること……今自分がこうして生きてる理由は?問いと気づきが多くて感動。読み切れてよかった。
とにかく文章が素敵。こんな表現できるんだ、演奏の様子とか心情とか。自分では普段使わない単語がたくさんでてきた。
平野さんの表現力の高さ、ホントすごいなぁ。
あと一歩違ってたら死んでた、すれ違ってたから今一緒にいない、どうして出会ったんだろう?
人生て不思議だね。今こうして生きてる意味、考え出したら壮大だ。
パートナーを大事にしようと思った。 -
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感情や場面、視えないはずの音の描写まで、全てが丁寧に言語化されていて、体験していないことが頭の中でスムーズに映像化された。感情の描写がリアルで、読者として読んでいると腹立たしい出来事でも当事者の場合に感じることは異なる、と、説得力のある心理描写が重ねられていた。
作中の「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいもの」というセリフが、最初はよく分からなかったが、最後まで読むことでこの考え方がすごく意味を成していることが分かった。
月並みな言い方になるが、すごく素敵な作品だった。何年後かに、また読み返したい作品だった。
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Posted by ブクログ
ネタバレ読み出したら止まらなくなってしまい、2日ほど睡眠を削って読んでしまった。
深く自身と芸術、歴史、文化、思想に向き合う2人が運命的に出会い、引き離され、最後には再会を果たす。軽薄さのない恋愛の崇高さと切なさに憧れを持った。
洋子のような側から見れば完璧な女性のうちにも、凡人のそれと同じく嫉妬や後悔など様々なものが渦巻くものなのだろうと想像できるようになった。また、1970年代からの社会情勢、とくにイラク戦争についての己の無知を恥じ、教養のない女性はセクシーじゃないというフィリップの考えにもどきっとした。
再会のその後は描かれていないが、共に生きていく関係となっていることを願わずにはいられない。この2人が友人としてでも恋人としてでも関わっていくことで早苗との関係は遅かれ早かれ破綻するだろう。しかし2人が完全に縁を切るということも想像のつかない選択肢であるように思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ平野啓一郎さんの著書を初めて読みました。
初めて触れる言葉が多く、辞書片手に読み進めました。笑 また地の文が多いこともあって、想定していたより読み終わるのに時間がかかりました。
戸籍の交換の仲介という闇が、本当にこの世に存在しているのではないか、と思わせるくらいリアリティを感じた。実際、あったとしてもそれが本当にあると、私が真実を知ることは難しそうだが。
本当にそのビジネスがあったとしたら、私は「人の人生のその後を歩きたい」いや「自分の人生をリセットしたい、辞めたい」だろうか?
あの時に戻りたい、やり直したいと考えることはこれまで何度もあった。でも誰かになりたいわけじゃなく、あくまで今の自分の人生の起点となっているだろう一部を変えて、自分の人生の今を変えたいだけ。
「自分の人生を辞めてまで他者の人生を生きる」という選択肢が浮かばない自分は、とても幸せなことなのかもしれない。
日本の「刑罰観」というものに興味を持った。まずは本書の最後に掲載されていた参考図書を読んでみよう! -
Posted by ブクログ
平野啓一郎さんの作品は、これが初めてでした。
これまで読んできた小説の中には、物語としては最後に大きく盛り上がって「面白かった」と思えるものの、そこにたどり着くまでの文章は比較的平凡で、最後まで読むこと自体に少し頑張りが必要な作品もありました。
その点、この本は少し違いました。
物語全体としての評価は、自分の中では星4つくらい。ただ、それ以上に印象に残ったのは、一つ一つの文章そのものの面白さでした。言い回しや表現が独特で、何気ない一文にも惹かれるものがあり、「次はどんな文章が出てくるんだろう」と思わせてくれます。
だから、結末が気になるから先を読むというより、本を開いて文章を読むこと自体が楽しい。隙間時間があれば、少しだけでも開いて読みたくなるような本でした。
「最後まで頑張って読めば面白い」のではなく、「開けば、もう面白い」。
他の作品も同じような読み味なのかはまだ分かりませんが、少なくとも『ある男』を読んで、平野啓一郎さんの文章そのものをもっと読んでみたいと思いました