『一日二四時間の中で、人間が考えられることって、三つしかないと思うんです。ー過去のことか、現在のことか、未来のことか。』
『人はなるほど、たまたまそんなふうに誰かを見ることなど出来ないのだろう。彼の中の何かが、そんなふうに彼女を見させていた。』
『私は、人間のへそ曲がりなんだと思いますね。完璧だ
...続きを読むって言われると、完璧じゃないところが気になるじゃないですか。』
『人が一緒の時には、相変わらずの他人行儀だったが、二人きりになると、もう敬語は使わなかった。お互いに、声のトーンが少し低くなり、ゆっくり話すようになって、ささやかな笑いの吐息が、電話をしていると、よく耳に触れた。大げさな相槌も、捻り出したような話題も、自然と必要なくなっていった。』
『恋愛とは、よく言った言葉だと彼は思った。好きという感情に前後があるのならば、なるほど、前半は恋で、後半は愛なのだろう。恋が、刹那的に激しく昂ぶって、相手を求める感情だとするならば、愛は、受け容れられた相手との関係を、永く維持するための感情に違いない。』
『愛とは今、相手に配慮を通じて表現されるよりも、無我夢中に自己満足を通じて表現された方が、遥かに信用出来、真実らしいと感じられるのだった。』