幾人かの学者らが、資本主義、近代が終焉に向かっている事を指摘するが、本書の著者・水野和夫氏もそうである。
水野和夫氏は、マクロな視点で歴史に注目し、超低金利が、『長い16世紀』が利子率革命により、中世を終わらせ、近代システムが開始したように、現在の低金利が、資本主義と近代システムを終わらせるという
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その先の未来は、『世界は複数の『閉じた帝国』が分立し、その帝国の中で幾つかの『定常経済圏』が成立する。』状態がしばらく続くという。
その閉じた帝国の分立状態を、彼は、『長い21世紀』と呼ぶ。
『長い21世紀』とは、『長い16世紀』が国民国家が分立していたように、新たな中世のような状態『新中世』を意味する。
『長い21世紀』の始まりは、1973年のオイルショックであった。
『長い21世紀』は、今から2100年頃に完成するというポスト近代のシステム完成迄の過渡期である。
この時代のモットーは、『より近く、よりゆっくり、より寛容に。』だ。
つまり、近代システムの真逆だ。
『長い16世紀』の時代に、誰も次の時代がどんな時代になるか予想できなかったと同様、近代システム終焉後の新たなシステムは、誰も予想出来ないという。
ホイジンガが中世から近代への移行が、小さなさざなみが、やがて大きな波に変わっていったと表すように、ポスト近代のシステムもそのように完成して行くだろうという。
そして、縁故資本主義など、『悪しき中世』的な現象は、既に見られている。
これは、富める者の資産の三分の一は相続によるものなどを指す。
つまり、中世の王侯貴族のように、エリートら富める者が固定され、世界を支配しているということだ。
これらは、先日読んだ『ポスト・デモクラシー』のエリート企業が、ロビー活動で政治を支配し、民主主義の状態は、中世に逆戻りだという主張に通づる。
世界は閉じていくであろうというのは、経済的には僕にはわからないが、政治的にはそうであろうと思う。
何故なら、一国では対応するには難しい問題が幾つも存在し、各国が緊密に連携する必要があるからだ。
水野和夫氏も紹介するように、国民国家というシステムは、過渡期的存在であるというが、なるほど、国民国家の上位に位置する存在が無ければ、世界で何かを決定したり、アクションを起こすには、非常に難義である。
また、水野和夫氏は、『長い16世紀』において、『陸』の中世封建システムから『海』の近代世界システムへの大転換が起きたと述べる。
シュミットの言うように、世界史は、陸の国と海の国の戦いであるという。
『海の国』アメリカの時代は、終わりつつあり、『陸の時代』への移行期に現代はあるという。
近代システムの一つである『より遠く』のフロンティアが、最早存在しない。
金融の話で解り難い部分があったが、後半は読みやすく、よく理解できた。
また、水野和夫氏は、一見マイナーでありながら興味深い著作を読んでおり、読書家の一人としても参考になる。
本書は、ウォーラーステインの世界システム論に開かれており、必然的に、『近代とは?』や今後の資本主義に考えねばならず、読み応えがあるのは確かだ。
他に、本格的に資本主義とは異なるシステムに持っていくには、現在の株式会社と投資家の関係を変えて行く必要があるように思えた。