平野啓一郎のレビュー一覧
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購入済み
距離感が程良いです
人と人との程良い距離感が感じられる良い作品でした。仕事の同僚、親と子と孫、夫婦、そして男と女。ちょっとしたボタンの掛け違いから生じる人間関係が、最近の実際の社会的事件と相まって、実にリアルでした。
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この軽薄そうなタイトルに対してこのボリューム。
新書というのは‘掲げたテーマを簡潔に読者に語る’というのをそのスタイルとしたのだと思っていたのに…。だからこの本を手に取った時は『何考えてんだ?』と呟いてしまった。
著者の平野啓一郎氏も悪いと思ったのか「第10章にはまず目を通し、肝となる第3章、4章を読んでもらえれば…」と多方面の歴史をひもときながら解説するうちに、参考文献の量が多くなったことを詫びている。
でも、この本の厚さに負けて、第10章だけを読んだ人は、全く面白さがわからなかったことだろうし、その後に肝となる第3章、4章を読んでもやっぱり、平野氏の「カッコいい」に対する熱量は伝わらな -
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Posted by ブクログ
ネタバレこの「ドーン」という作品、結構な長編だし、場面の切り替わりに頭がついていけなくて最初は結構読み進めるのに苦労したのだけど、平野啓一郎さんが書く半分SF的な未来絵の結末がどうなるのかを知りたくて、少しずつ読み進めました。まず、面白いと思ったのは分人という考え方。本の中では、「日本語で〈分人〉って言ってるその dividual は、〈個人〉individualも、対人関係ごとに、あるいは、居場所ごとに、もっとこまかく『分けることができる』っていう発想なんだよ。(中略)相手とうまくやろうと思えば、どうしても変わってこざるを得ない。その現象を、個人 individual が、分人化 dividuali
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Posted by ブクログ
沢野家の長男、崇が中心となってはいますが、数多くいる登場人物のそれぞれの心の陰影が細かく描き分けられた群像劇風に仕立てられています。
難解というほどではないが、ほどよく読み応えのある文章で、読んでいて心地よかったです。
神戸連続児童殺傷事件や秋葉原通り魔事件を受けて、そのような犯罪を犯す人物の心理や、罪とは何かという問題にまで踏み込んでいます。
崇のセリフあたりはドストエフスキーを意識しているのかなと感じました。
この崇という人物がまた多面性があって一筋縄ではいかないのですね。主人公になるぐらいだからこういうタイプの人間は結構特殊なんでしょうか? -
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ネタバレ豊富な表現と筆力に引き込まれ、上下巻一気に読んでしまいました。読後は徒労感と悲しみが心を蝕ばみます。重くのしかかる小説です。
名も無い他人の底知れない悪意に恐怖しました。カフェで読み終えましたが、読後周りにいる他人を無性に怖く感じました。冷淡な社会に対して、信頼感をもてずにいる自分と、自分も他人から見ればその冷淡な社会そのものであるという事実に震えます。良介の最後の叫びには涙が止まりませんでした。
「空白を満たしなさい」「マチネの終わりに」に続いて読んだ平野啓一郎さんの作品でしたが、分人主義の鱗片がこの作品からも読み取れました。自分が知っていると思っている人が本当はどんな人間なのか、それは -
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『一日二四時間の中で、人間が考えられることって、三つしかないと思うんです。ー過去のことか、現在のことか、未来のことか。』
『人はなるほど、たまたまそんなふうに誰かを見ることなど出来ないのだろう。彼の中の何かが、そんなふうに彼女を見させていた。』
『私は、人間のへそ曲がりなんだと思いますね。完璧だって言われると、完璧じゃないところが気になるじゃないですか。』
『人が一緒の時には、相変わらずの他人行儀だったが、二人きりになると、もう敬語は使わなかった。お互いに、声のトーンが少し低くなり、ゆっくり話すようになって、ささやかな笑いの吐息が、電話をしていると、よく耳に触れた。大げさな相槌も、捻り出 -
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ネタバレ結核に冒されたショパンに遂に死が訪れる.ショパンの矜持と高潔さ,一方の画壇の異端者ドラクロワの生きるための処世術と密かな望みが対比され,二人の友情を軸に,スターリング嬢を代表とする周りの人々の視野の狭さや俗さ,あるいはショパンの死に際しての悲しみ,サンド夫人親子の確執などの多層構造を,ポトツカ伯爵夫人やフランショームの言葉を借りれば「不協和音」として描いた大河小説である.
細やかな心理描写が見事で,特にドラクロワの思考の流れに共感する場面が多々あった.また,本書の主人公は一見ショパンであるが,真の主人公はドラクロワであろう.ショパン死去,それにともなう葬儀の混乱,財産の処分などの喧噪から一歩身 -
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再読。
私が平野啓一郎先生の本に嵌る切っ掛けとなった本。
2011年12月、これまで痛快娯楽小説しか読んでこなかった私が、単なる推理小説だと思い購入。
読み終わると共に放心状態に陥った。
感想は特に記録していなかったのだが、今でも覚えているのが、「この作者、天才!?」ということだけ。
それから、「ドーン」「透明な迷宮」「本の読み方」「葬送」「顔のない裸体たち」「かたちだけの愛」「マチネの終わりに」「あなたが、いなかった、あなた」と読んでここに来て再読。
初めて読んだ時は、難しい小説だなというのが正直な感想だったのだが、再読だと随分変わる。
「葬送」に比べるとはるかに読み易い。
当時 -
Posted by ブクログ
すごい。こういうのが読みたかった。
今の10代が30代、40代として活躍しているような近未来。
大震災後、有人火星探査、可塑整形、散影(divisual/監視カメラのオープンなネットワーク)、AR(死んだ人間のその後の人生をプログラムし、立体映像化する)、分人主義(dividualism)、生物兵器(蚊)、ウィキノベル(Wikinovel)。
これでもかというほどアイディアが詰め込まれている。
全般的に希望的な未来としては描かれていない。
書かれたのが2009年。東日本大震災以前というのがすごい。
そして、現実はこの小説が持つ雰囲気に近い状態で進んでいるように感じる。