Posted by ブクログ
2013年04月10日
ロマン主義の全盛期、十九世紀パリ。音楽家ショパンと画家のドラクロワとの友情を軸とし、女流作家でショパンの愛人でもあるジョルジュ・サンドを始めとする人物たちが織り成す豪華絢爛な芸術賛歌を描いております。
これは自分の中でずっと読むのを避けていた小説のひとつで、理由はというとなんといってもテーマの重...続きを読む厚さと原稿用紙2500枚分という膨大なボリュームからでした、しかし、今回この小説を読むきっかけとなり、また、僕の背中を押してしてくれたのは、誰あろう筆者である平野啓一郎氏その人でありました。
以前、平野氏のツイッター上で『葬送』の話題になっていたときに僕が
『僕も読もうと思っておりますが、あの重厚さに二の足を踏んでおります。』
と書き込んでみたところ、なんと平野氏本人から
『読み始めるのは大変ですが、ぼくの小説の中で一番好きだと言ってくれる人も多いです。最初が重たいとよく言われる小説ですので、第二部上のショパンのコンサートから読んで、この前後ってどうだったんだろうと、遡ってみるというのも、一つの方法かもしれません。』
というメッセージが返ってまいりました。
原作者からそこまで言われれば読まないわけにはいかないと。ある種の決意を持ってページを読み勧めてまいりました。物語の舞台になっているのは十九世紀パリ。芸術的な動向としてはロマン主義の真っ盛りだそうで、その辺の知識が欠如しているのは非常に残念です。物語の軸となるのは『天才音楽家』の称号を恣にしたフレデリック・ショパンと近代絵画を確立したウージェーヌ・ドラクロワとの友情とショパンの愛人であり、閨秀作家のジョルジュ・サンドとの関係を中心にして物語は進められていきます。ショパンやドラクロワにかかわらず、当時のサロンで語られている芸術論の情熱的な語り口や、彼らを取り巻く弟子、友人、そしてサンドの子供たちとショパンとの複雑な関係からにじみ出るような緊張感も非常にスリリングですし、特に、サンドの娘であるソランジュの結婚にまつわるひと騒動はとても印象に残っております。
当時の社会情勢や芸術界について、もっと自分に知識があれば物語世界に踏み込んでいけるんだけれどなぁと残念この上ないのですが、ショパンとドラクロワと取り巻く『人間ドラマ』としてこの小説を読んでも、深みのある物語ですし、当時の世相というか、芸術の動向を知る手がかりとしても面白く、何でこれを今まで読まなかったのかと、若干の後悔を持ちながら長い長い旅路をはじめたような気がいたします。
今後、彼らがどうなっていくかはまだわかりませんが、楽しみに読んで行こうと思っております。それにしても改めて知ったのですが、平野氏がこの作品を世に問うたのが25歳の頃。この事実を再確認するにつけ、本当の天才というのはやっぱりいるのだなと、筆者のような人間が『芸術の神』に愛された存在なんだなと、そういうことをとみに思うのでございました。