平野啓一郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『本心』という題名なのに、本心は分からないという感覚だった。
亡くなった母の言葉や過去をたどり、母を再現したVFと向き合っても、母の本心そのものへ到達できるわけではない。そもそも人の本心は、心の奥に完成した形で隠されているものではなく、本人にも分からないのかもしれない。
どうしても成長物語としては読めなかった。何かを理解して強くなったというより、他人も自分も完全には分からないまま、それでも人と関わって生きる位置を見つけていく話に感じた。
この小説には、家族、友情、恋愛といった言葉だけではうまく名付けられない、人と人とのつながりが描かれていたと思う。相手を本当に理解しているのか、自分の願望を見ているだけなのか分からない。それでも、分からない相手との間に何かが生まれる。その書きにくいものを、小説にしようとしているように感じた。
自由死については、まだ十分に理解できていない。ただ、作家の藤原が否定的に語る場面は強く残った。彼は作品内の世界では受けいられていないみたいだが、唯一の希望に見えた。
そして不思議だったのは、主人公が肯定されることが、読んでいる自分たちの肯定にもつながるように感じられたことだ。明確な本心や強い意志を持てなくても、他人を完全に理解できなくても、生きて人と関わっていていいよ。そのような肯定だったのかもしれない。
一番驚いたのは、これが新聞連載だったことだった。新聞小説には一回ごとの区切りや引きのリズムを感じ、そこで冷めることがある。しかし『本心』には、連載の区切りよりも作品全体を貫く何かが強く感じられ、書き下ろしを読んでいるようだった。
何を伝えたかったのか、説明できない。それはつまらなかったわけではない。これまで言葉にされてこなかった難しい何かを、どうにか表現しようとした小説だったように思う。素晴らしかった -
Posted by ブクログ
ネタバレ死刑制度がある日本に生まれて犯罪の程度で死刑になることがあるというのが当たり前だったので、恥ずかしながら死刑制度の是非について考えたことがなかったが、『ある男』で死刑制度についての記述があり詳しく知りたいと思い読んだ。
死刑制度存置派も廃止派もどちらも読みやすい内容だったと思う。
著者が、殺人事件の被害者に焦点を当てて遺族に共感しながら物語を書く中で、死刑制度に対する感情が変わったというのが興味深かった。
・自分の死が恐いということと、相手の死がどうだったのかということは、交換可能ではありません。
・根本的な問題が解決されていない以上、〜〜〜 これは行政や立法の不作為と言ってもよいでしょう。
『母という呪縛、娘という牢獄』を思い出した。社会福祉が機能していないという感想を持ったが、本書でも行政の問題として記述されている。
社会的な要因が影響するものに対して、自己責任論で個人のみの責任として死刑にするだけで問題が解決するのか、というのは死刑制度だけに言えることではなく社会に生きる人間として常に持っておきたい考えだ。
また、なぜ死刑が支持され続けるのかの章で「日本の人権教育が失敗している」という視点の記述があったが、この考えは他の本でも見たことのあるもので、人権に対する認識を感情に依るものにしてしまうことの危うさは深く共感できた。
ただやはり実際に人を殺した人間が出所すると近くに住んだり関わったりすることは恐ろしいし避けたいというのが個人の感情で、どのくらいの期間収監されるかなど刑罰の重さ・更生のための取り組みは重要になると思う。
日本において死刑制度を廃止することになれば、刑罰の見直しは必要不可欠だろう。
死刑制度が廃止されている他国の刑罰についての本も読んでみたい。
少ないページ数でも、とても学びのある1冊だった。 -
Posted by ブクログ
自分らしさとは何かと悩んでいる人にはぜひ一度読んでもらいたい!
こんな考え方があるのか、、と目から鱗。そして読み終えた時に世界が違って見える。
私自身、すぐに他人に影響されて染まりやすいことが嫌だったり
人によって全然自分のイメージが違かったりして
確固たる自分なんて存在しないのか?それは自分に限った話なのか?とモヤモヤ悩むことが多かったから。
常に自分を貫いて確立してる人って格好良く見えるけれど、そう言う人であっても他人の影響を受けながら自分というものが形成されていて、それは過去形ではなく、現在進行形であり、他人の影響を受け続けながら今後も自分らしさというものは変わっていくんだということ。
また、変わっていくことは自然なことで、変わりたくないのであれば自分なりにコントロールしていくことも可能だということ。
そのことがすごく自分を楽にしてくれたし、人間関係は意外とシンプルなんだなって思えた。
これからも繰り返し読んでいきたい1冊。 -
Posted by ブクログ
なんてドラマチックな大人のラブストーリー!今までで1番の恋愛小説だった。イラク戦争、PTSD、金融市場、音楽業界、広げ過ぎというくらい複雑な設定を丁寧に点と点を結んでいく、深くて緻密なプロットが凄まじい。平野さんからは世界がこんな風に見えてるのか。本物の教養ってこれか、、、。文章は抽象的な形容詞をわかりやすく使って描写されていて、読みやすいのに圧倒された。
一階の奥の席に座る洋子に幸福の硬貨を贈る場面、大泣き。これは泣くなと言われても無理!!!
心がぴったり合う、運命的な出会い憧れるなぁ。現実は違うにしても、物語で追体験できるならこれ程幸せなことはない。平野さんありがとう。 そして洋子が終始素敵すぎる。賢くて温かくて、内面から溢れ出るセンスを身に纏うようなこんな女性になりたい、、、。余韻に1ヶ月くらい浸った。最高の読書体験をありがとうございます。