平野啓一郎のレビュー一覧
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・ロボットと人間の最大の違いは、ロボットは–今のところ–分人化できない点である。もし、相手次第で性格まで変わるロボットが登場すれば、私たちはそれを、より人間に近いと感じるだろう。
2012年に発行された本書。時を経て現在、chatGPTの登場で(ロボットではなくAIではあるが)相手に合わせた返答ができるAIが当たり前になりつつある。筆者もある程度予想はしていたかもしれないが、ここまで早く浸透したことには驚きを感じているかもしれない。
特に若い世代のあいだでは、相談相手としてchatGPTが使われている。それは筆者も言うように「私たちは、尊敬する人の中に、自分のためだけの人格を認めると、嬉し -
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なんだか小難しそうで敬遠していた平野啓一郎に初挑戦。映画化されていたとは知らず、なんとなくこれは読みやすそうかな?と書店で手に取った。読んでみた結論は、平野さんのファンになりました!笑
物語は途中までなんとも不気味でうすら怖い。「ある男」の正体が誰なのか見当もつかないまま、戸籍売買や死刑制度、在日差別などの問題について、様々な人たちの様々な視点で語られていく。複雑な話ではあるが、文章が美しく読みやすいので、ストレスなく展開がスラスラと理解できた。登場人物もリアルに生き生きと描かれていて、まるで知り合いの話に首を突っ込んでいるような身近な感覚を覚える。最後は「ある男」に関わった人たちに感情移入し -
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善とか悪とか、そういう平面的な判断基準を超越したところにある、二人の関係。
会っている時間の長さや回数、結婚とか付き合うとか明確な言葉で定義された明確な関係でいること、そういう社会的な俗的な一般的な交わりを超えた先にある、二人の深い交わり、心の結び付き、魂の深いところの共有。
その様がありありと、没入できるほどに事細かに描かれていて、ずっとずっと引き込まれた。
現実を生きることで変えていけるのは未来だけではなく、過去までをも変えられるというのは個人的には新しい視点だった。
展開がどうとかではなくて、情念の共有ができた感じ。
これから先も心に残り続ける小説だと思う。
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人にはいくつかの分人が存在する。
家族や友達、同僚、上司と。
それぞれと接する時の自分はテンションや気の使い方も異なっていていろんな自分がそのにいる。
どれが本当の自分なのか。
幸せであっても疲労は溜まるし嫌いな自分は消したくなる。
この装丁はなぜゴッホなんだろうという謎も納得。
ゴッホのいろんな顔と自殺の真実が物語と結びついて後半はかなり面白くなってきました。
そして、終わり方に鳥肌、、。
りっくんを抱きしめる直前に消えちゃったってこと、、?
彼の悔いが残った空白が満たされたから消滅したのかな。
2回も大切な人がいなくなるなんて耐えられないけど、これを読みきって生の尊さが身に染みました。
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ネタバレよく言われる「本当の自分」とは何かみたいなものに感じていた感覚を言語化してくれた一冊。
近代に生まれた個人という概念=これ以上は分割できないという概念が、人間はひとつしかないのだから多面的な人間がいた場合、ひとつの面しかホンモノではなくそれ以外はニセモノであると捉えさせてしまうが、そうではなく、ありとあらゆる面を持っており、そのすべてが本物であり、その集合体で人は構成されている、そしてその構成比がそのときどきの性格、価値観みたいなものに表出しているというところは自分の感じていたところとしっくりくるものではある。その構成比が同じ感じでないと価値観の相違が生じる。
あるいはお互いの距離感にズレが -
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ネタバレ複雑に価値観も状況も思いも違う人生同士が絡み合う。その人生を生きること他人の人生とそれを絡み合わせること。多種多様に示唆される悲喜交々の人生が影響を与え合い恐ろしく難しい人生同士の交差模様を描いている。他人の人生を介することで自分の人生を見つめ直して愛せるか、自分の人生のままならなさをどう受け止めるか、あるいは自分の人生の可能性を見た上で今生きる人生を見るか、他者の人生の痕跡からその人の人生を見つめることができるということ、別の人生を我が物としてそれを全うしようとすること、人生のあり方によっては人はガラリと変わってしまうということ、相手の人生や過去という不確かなものをどうして愛せるのか、人生同
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「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。」
このパッセージがメインテーマだと思うが、蒔野と洋子の、未来だけでなく大切な過去を変えうる現在を繊細に扱うような生き方をすごく素敵に感じた。
また僕が一番心を惹かれたのは洋子の生き方だった。
世間では彼女のことを「冷たい」「選民思想的」と評する声もある。でも僕にはそうは映らなかった。
洋子はただ、自分に誇りを持って生きることを何よりも大事にしていた。それは他人を見下すためのものじゃない。人に真に優しくするためには、まず自分の自己愛を満たし、自分 -
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「大切な人へ贈る本」という帯が付いていました。
まさにその通りでした。
人を愛するということ…優しさと誇りと悲しみと切なさと、全てが詰まっていて、感動し涙が止まりませんでした。
読み終えた時、序盤の頃に出てきた「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」という言葉の真意に触れた気がしました。
今を生きる私やこれからの私(未来)の考え方捉え方が、過去の出来事に違った意味を持ちうるという。私自身も過去の悲しみを優しく包み込む事ができた気がしました。この本との出逢いに感謝しています。
実話に基づく小説と、冒頭で述べられています。
あまりに -
Posted by ブクログ
現代社会では、私たちの意志と関係なく膨大な情報に晒されている。だからこそ、自分が選び、情報を得たり、楽しむことができる「本」は、私にとって貴重なツールである。
これまで色々な本を読む中で、読みやすい本とそうでない本があり、それを理由に普段から複数の本を同時進行で読んでいた。積読を減らすために急いで本を読んだり、この読み方で本当に良いのだろうかと、どこかモヤモヤしていた。
そんな時にこの本を出会って衝撃を受けた。本を読むスピードが遅いことは、決して改善すべきことではない。筆者の伝えたいことをじっくりと読み解き、深く楽しむためには必要なことなのだと、考えを改めさせてくれた。
本書には、実際の書籍を -
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⭐︎私というのは孤独に存在しているわけではなく常に他者との相互作用の中にある
This book gave me a new perspective. Until now, I believed that changing my attitude depending on the person was a bad thing, and that being consistent in how I deal with people was almost a kind of virtue. But this idea—that the differences in our behavior ar -
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死刑制度については勉強不足で存置派とも廃止派とも言えない状態だったが、本書を読んでこれまでにない死刑制度に対する捉え方を知ることができた。テーマの割に薄いこの1冊で、世界の死刑制度の現状、事例、著者の考えが分かりやすくまとめられていること自体も凄い。
特に日本ではなぜ死刑が支持され続けるのかについて著者が考える要因が、どれも思いつかなかったもので印象的。
著者の実体験に基づく考えや、小説家としての発信について触れられていたのもよい。
本書ももう一度読み直しつつ死刑制度に関する他の書籍も読んで理解を深めたいし、著者の作品ももっと読みたい。