平野啓一郎のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
若林さんは不思議な人だ。
めっちゃ自意識過剰で自己防衛本能が強くて、見栄っ張りでカッコつけ。本音は言わない。
だけどスッと人の懐に入ってくる可愛げもあるんだなぁ。
この本では、若林さんのそんな部分が遺憾無く発揮されていて、終始ほっこり見守る気持ちで読むことができる。
人が死ぬ本ばっかり読んでたアタマが癒される〜。
私が好きなのは、羽田圭介さん&藤沢周さんの回。
この回は、若林さんが話すボリュームも多くて、羽田さん、藤沢さんとの相性の良さを感じる。話してることもほどよくカタくて、良い意味で、男同士っぽい感じ。小気味よくてずっと読んでたい。一冊丸ごとコレでもいいなぁ。
あとは角田光代さん回。角田さんがおっしゃることがいちいち納得感がある。難しいことは一切言ってないのに。伝わる言葉でなるべく正しく考えを伝えようとされてるのが分かる。
そしてこの回でも、若林さんが良く話す。
ホストがノッてる方が対談は面白くなるよね。
西加奈子がやたら作中で〈セックス〉という言葉を使うのはそういうことか。説明したがりだと言う朝井リョウは実際どれくらい読者を縛り付けてくるんだろう。羽田圭介、やっぱり(人間として)好き。そのイメージを崩したくなくて彼の本はあんまり読んでないのは内緒だ。中村航の〈100回泣くこと〉再読したいなぁ。でも中村文則の〈教団X〉再読はしんどいなぁ⋯
エッセイを通じて作家さんのキャラクターを垣間見ることはあっても、話す言葉を聞く機会はなかなかないので、そういう意味でもなんか新鮮。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ未解決事件の遺族である入江杏さんが主宰する集まりの場「ミシュカの森」。
そこへ招かれた方々が「悲しみとともにどう生きるか」をテーマに様々に語ったことをまとめた一冊。
六人の方それぞれの悲しみに対する向き合い方に考えさせられたり理解が深まったように感じたり。
第4章東畑開人さんの「アジールとアサイラムとパノプティコン」という話が興味深かった。避難所と収容所。シェルターと管理所。
そしてその後の対談の中で「自分の物語を物語ることによる癒し」という話がなされます。河合隼雄先生が物語によって生きる力や癒しを得られるというようなことをいくつかの著作の中で語られていたことを思い出しました。
読みながら自分は、物語として書くのが難しければジャーナリング的(思いついたことをそのまま書き出すことでストレス軽減や心を整える効果をえる手法)にとにかく書いてみるというのが救いの一つになるかもしれないと思いました。
第5章平野啓一郎さんの話の中で「当事者でないからこそ書けることがある」ということが話されています。本書とは全く関係ありませんが看護や介護などでも、対象者が身内ではないから必要なケアを感情を込めることなく施せるという意味合いで、そういう側面があるのではないかと思いました。
誰かの辛い話を聞く時、共感することも大切だけれども理解ができない・共感できないからこそ受け止めてあげられるということもあるように思います。
当事者ではないということも状況によっては大事な時もあると思います。
同じ平野さんの話の中で加害者に対する処罰感情が強いあまりに、被害者遺族に対し「亡くなった人に対する思いが薄いのでは」というようなことを言ってしまう人がいるがあってはならないことである、ということが話されていました。
以前読んだ「家族が誰かを殺しても(阿部恭子)」の中に「遺族らしくない」とバッシングする人の話があったのを思い出しました。
平野さんの話の中には他にも、自身の提唱する「分人」の考え方や死刑制度についての意見(これらも本で出されています)、警察や司法に対する不信感など考えさせられる意見がたくさんありました。
入江さんがあとがきの中で、「被害者遺族らしく生きろ」という外圧について書かれているのを読んで辛くなりました。誰であっても勝手に世間から枠を当てはめられて生きさせられるような不条理さに甘んじることはないと思います。
でもどんなに辛いだろうと思います。理解も共感も及ばないだろうけれども、自分にできることは忘れないということくらいでしょうか… -
Posted by ブクログ
他の作品と比べたら、すらすら読める。
分人主義を先に読んでおくと深く読めるかも。
ミステリー感は強めで下巻を読むのが楽しみ。
※ハイライト
人の死は悲しいものだと、みんな当たり前のように考えている。しかし、「死」というそのたった一音が耳に触れただけで、スイッチでも入れたように、人はそんなに簡単に悲しめるものだろうか? そういう知人は、他にもたくさんいたはずである。ずっと会ってなかった昔馴染みにとって、「どこかにまだいる」ことと、「どこにももういない」こととは、一体、どう違うのだろう? 二度と会うことも、連絡することもない人は、死ぬ遥か以前から、実は死んでいるも同然なのではないだろうか? ただその「死」という言葉を、聞くかどうかの違いだけで。…… -
Posted by ブクログ
美しい。とにかく美しい。
天才ギタリストの蒔野、有名映画監督の娘でジャーナリストの洋子。パリやニューヨークでのシーン。2人の出会い、理知的で品のある会話や言葉遣い何もかも美しい。フランスのアンティークな映画を1本見たかのような感覚。
自分にはロマンチックすぎるような気もしつつ、すべてが浮遊感に包まれているわけでもなく、どっしりと我々が生きてる現実を見据えているようにも感じられる。
ストーリー自体、斬新な何かがあるわけではなく、割と想像できるような起承転結型ではあるのだけど、2人の純愛をずっと追っていたくて引き込まれてしまう。そして、この作品全体を包み込む高い品性によって、うっとりとした読後感を味わえる。素敵な本でした。 -
Posted by ブクログ
死刑制度の存廃を筆者平野啓一郎の言葉から考える。この国の死生観や儀式、宗教、そしてムラ社会の因習などが背景となって、復讐心と人権の対峙は責任と優しさを天秤にかける。現状の看過は社会の荒廃へと連なっていく。そこに私たちは気付く、教育や情報リテラシーの大切さが問われている。謀(はかりごと)は便利アイテムやお得ポイント、そして怪しい "豊かさ" に包装されて見えにくくなっている。死刑制度も鵜呑みは危ない。被害者心情を名目とした "同情" や "憎悪" は "人間らしさ" と "尊厳の軽視" の表裏一体となり、その果てに戦争や紛争は起きる。国家や権力者の暴力はそこにあり死刑執行もその一形態に過ぎない。社会の中枢となる信頼を放棄して、瓦解する社会の苦痛が慢性化した日常は実に恐ろしい。
-
Posted by ブクログ
ネタバレパリ五輪中、読書ペースがガクッと落ちていたが、漸く平野啓一郎の長編(640頁)を読み終えた。
2036年のアメリカ大統領選挙と有人火星探査におけるスキャンダルがもつれ合う。
米大統領選挙では「中絶の是非」がよく争点となるが、国家プロジェクトである火星探査の最中に本当に女性宇宙飛行士に対して中絶手術が行われたのか、父親は誰か(女性本人が言う通りノノなのか佐野明日人なのか)、女性宇宙飛行士の父親である共和党副大統領候補は、公人としての立場(中絶反対)と父親としての立場のどちらを優先するのか、と、人それぞれの立場に応じて悩みは尽きず、組織の中で生き抜くうえで、また選挙で勝つために、(加えて自分を納得させるために)対外的にどう語るか・説明するか、と言う点で、非常に高度なスピーチが多用されていて、面白かった。本当に選挙参謀が本作の製作陣に入っているのではないか、と思う位だった。
2009年の作品なのに震災の記述があったり、米国民主党大統領の広島慰霊訪問の記述があったり、予言的だ。
Individual(個人)の語頭の否定語inを取ったdividual (分人)という概念は、平野さんの独創だと思うが、確立した学術用語に思えてしまうくらいにしっくり来た。
2024年の米大統領選挙の直前に本作を読めて良かった。両党の主義主張の主な違いを(対象は未来の課題ではあるが現在の課題と酷似)両大統領候補の演説から生々しく感じることが出来た。
P597
(イアン・ハリスの台詞)
宇宙空間で、バクテリア一匹見つけただけで大騒ぎする我々が、人間というこの複雑にして精妙な生き物が、ただ生きているという事実を、なぜもっと尊べない?